川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです
- 53: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:11:08
川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです
2、穿ちの雨 そして雷光
- 54: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:11:57
川 ぅ -゚)「ん……」
ふと目覚めると、部屋の中も外も真っ暗で、何も見えないほどの暗さだった。
今いる旅館も外から見ると美しかったが、やはりこうやって真っ暗な
中を歩こうとすると不気味で、ちょっとだけ震えた。
その時、私は丁度トイレに行きたかったのだが、
ほんの少し怖くなったので、ショボを叩き起こして連れて行くことにした。
(´ぅω-`)「う〜〜ん、なんだよぅ……。寝かしてよ……」
川 ゚ -゚)「頼む、ドクオには言わないでくれ。
そして何も言わずにトイレについてきてくれ」
(´・ω-`)「もう、クーちゃんったら怖がりなんだから」
のっそりと起き上がったショボにいらついたが、
私が起こしている身なので自重して、とりあえず部屋を出た。
- 55: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:13:10
ドクオはぐっすりと眠っていたので、そのまま寝かせておいて、
私とショボは暗い夜の廊下をそっと歩き出した。
昼間は気がつかなかったのだが、建物は意外と老朽化しているみたいで、
木の床は私たちが歩くたびに、少しだけきいきいと軋んでいた。
(;´・ω・`)「不気味だなあ。お化けとか出なきゃいいけど」
川;゚ -゚)「めったな事を言うんじゃないよ。心臓に悪いなあ」
小さな旅館であるから、階段の上から見えるロビーも、やっぱり電気は消えていた。
オーナーのフサさんも、もうみんな就寝しているのだろう。
物静かな中に響き渡るのは私とショボの足音、それから雨の音だけで、
不気味を通り越して恐怖を抱いた。
(´・ω・`)「しかし、トイレなんて寝る前に済ませときなよ。
あんなにお酒たくさん飲むからだよ」
川 ゚ -゚)「……面目ない」
横にショボがいて、本当に心強かった。
- 56: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:14:18
(´・ω・`)「トイレは確かこの階段を下りてすぐのところにあったよね」
黒い石の階段は、闇に溶け込んでいて、その足元は本当に見えなかった。
だから私たちは互いに手をつなぎあい、もう片方の手は、手すりをしっかりとつかんで階段を降り始めた。
その階段を降りたところにトイレはあるのだが、その反対側には、従業員用の部屋がある。
そこはつーさんの部屋で、オーナーのフサさんとモララーさんの部屋は、露天風呂があるほうの建物にあるはずだった。
川 ゚ -゚)「つーさんを起こさないように、静かに行かねばな」
(´・ω・`)「ねえ、クー」
川;゚ -゚)「なんだよ、うるさいな。トイレの中まではついてこないでいいぞ」
(´・ω・`)「いや……何か、聞こえない?」
川 ゚ -゚)「は? 気味悪いことを言うなよ……私を怖がらせて、トイレの中まで入ってこようとしているんだな」
(´・ω・`)「いや、ガチで」
ショボの表情があまりにも真剣なので、
耳をすませて、私たちは無言になった。
- 57: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:14:57
最初は、ショボのいたずらだと思っていた。
だから適当に聞くふりをしていたのだが、そのうち、低い何かのうなり声のようなものが聞こえてきた。
それは、しきりにうー、うー、と小さく聞こえ、人の声のようにも聞こえた。
そして音の方向をたどると、それは間違いなく、つーさんの部屋から聞こえてきたのだった。
扉に耳をあてがって、よくその音を聞いてみる。
と、私が耳を当てた瞬間、その音はピタリと鳴り止んでしまった。
川 ゚ -゚)「……つーさんが、うなされてるだけじゃないのか?」
(´・ω・`)「うーん、どうもそうみたいだね。
ちょっと心臓に悪かったねえ。ははは」
2人で苦笑して、さあ、今度こそトイレに向かおうと扉に背を向けたとき。
扉の向こうで、ドサっと、何かを倒すような、少し大きな音がした。
- 58: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:15:29
(;´・ω・`)「……寝相が悪くて、ベッドからでも落ちたのかな」
川;゚ -゚)「さ、さあな」
背を向けたまま、私たちは固まった。
扉の向こうでは、もしかしたら、本当につーさんが寝相が悪くてベッドから落ちただけかもしれない。
しかし、奇妙なうめき声、そして不気味な音を聞いた私たちは、背筋にぞくりと嫌な感じをもっていた。
そして、そんな私たちに止めを刺すように。
「ギャッ!!」
と、短く、間違いなく扉の向こうから、短い悲鳴が聞こえてきた。
- 59: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:16:37
数刻、私たちは静止した。
その悲鳴、間違いなくつーさんの声だった。
動揺、不安、様々な感情が私たちを、その場に縛り付けていた。
(;´・ω・`)「……くそ! 頼む、この嫌な予感が外れてくれ!」
そしてしばらくして、ショボが踵を返し、扉に向かい、勢いよく取っ手をつかんで開いた。
瞬間に扉が開き、部屋の中の様子があらわになる。
川;゚ -゚)「……」
(;´・ω・`)「……」
薄暗い部屋の中、私達の目にまず飛び込んできたのは、
こちらに目を向けるようにして、床に体を横たわらせているつーさんの姿であった。
しかし、その姿は普通ではない。
彼女の胸にブスリと突き刺さっている、ものがある。
それは短い柄に似合わず、太く鉛色に鈍く光る刀身を持った短剣だった。
突き刺さった刃の先端からは真っ赤な血液が出ていて、彼女の赤い服をさらに赤く染めていた。
更に、彼女は吐血していた。
- 60: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:17:34
川;゚ -゚)「……くっ」
眼前の状況を完全に理解した瞬間に、全身から血の気がサーッとひいて、
頬を伝う冷や汗の感覚と共に、それはもう私の体はぶるぶると震えていた。
死体を目の当たりにするということは、生きていれば数回あるだろうが、
それが他殺体、なおかつ先ほどまで自分と話していた人間ともなると、平静を装うのはもう無理であった。
川;゚ -゚)「うっ……うぇっ!! ゲホッ!」
胃からこみ上げるものが喉まで出かかったが、無理やりにそれを飲み込んだ。
思わず出したセキには、自分の胃液のすっぱさを少し感じた。
失禁もしそうになるが、これも耐えた。
- 61: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:18:53
(;´・ω・`)「くそ、こんなことが……」
一方でショボは、冷や汗をだらだら垂らしながら遺体の前に立つと、
その鋭い眼光をぎょろぎょろとさせて、遺体をくまなく見つめていた。
その視線は瞳孔の完全に開いた瞳をたどり、首元で止まる。
ショボはかがみ、視線をやったそこには、赤黒く変色した一本の筋のようなものが通っていた。
それはそう、まるで何かで首を絞めたかのような跡だった。
(;´・ω・`)「こんなに跡が残るって、そうとう強い力で首を絞められてるよね。
しかもこれは、手とかじゃなくてロープで締められたような跡だよ。
うめき声の正体は、もしかしてこれだったのかな。
つまるとこ、これは計画的な犯行で、なおかつナイフまで刺すんだから、相当な恨みを持つやつの反抗かな」
川;゚ -゚)「相当な恨み、か……。
しかし……おや……?」
ふと、その首元を見て違和感に気がつく。
この孤島で初めてつーさんと話したときに見せてもらった、ロケット付きのペンダント。
それが首から外れているのだ。
- 62: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:19:56
つまるところで、つーさんを殺めた人間は、その首を絞めてからナイフを胸に突き立てた。
もしくはその逆であると考えることができたが、それでは、いったい何のためにそんなことをしたのだろうか。
果たして、そこまでこの笑顔の似合う女性に恨みを持つ人間がいただろうか?
そして、首にかかっていたあのロケットはいったいどこへ行ってしまったのだろうか。
(´・ω・`)「……」
ショボが腕を伸ばし、今度はナイフの刺さった胸元の血液に自分の指を触れさせる。
ショボの指の先端には、どろっとした真紅の血液がしっかりと付着していた。
(´・ω・`)「血液が凝固もしていないし、血がまだ温かくてじわじわでてる。
脈もないし息もしてないみたいだけど、つーさんが殺されたのは、ついさっきみたいだね」
川;゚ -゚)「ついさっき……」
私たちがこの部屋に駆け込んだのは、他でもなくつーさんの悲鳴を聞いたからだ。
あの時は無我夢中でいたものの、今になってよくよく考えると、
そこに犯人がいるのかもしれないのだから、恐ろしいことだった。
- 63: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:20:34
川;゚ -゚)「そうだ、犯人は一体どこに……!」
つーさんの悲鳴が聞こえてからこの部屋に入るまでには、確かに間があった。
しかし、1つしかないこの出入り口から犯人は出ていないし、窓にはしっかりと鍵だってかかっている。
(;´・ω・`)「僕らに気づいて、どこかに隠れている可能性がある。
だけど、ここまで無防備な僕らに奇襲を仕掛けてこないんだ……もしかしたら、いないのかも」
川;゚ -゚)「いないって……ミステリー小説じゃあるまいし!」
(;´・ω・`)「……とりあえず、背後をとられないように、
そしていつでも逃げられるように、扉を背にしよう」
今更だが、私とショボは静かに遺体から離れ、扉を背にして部屋の様子を見る。
辺りを見回すと、犯人が隠れられそうなクローゼットなどもいくつか見つかった。
もしも、この部屋にまだ犯人がいたとしたら。
そう考えると、とても怖くなった。
- 64: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:21:19
(´・ω・`)「こんな小さな孤島だけど、警察はあるはずだよね。クー、携帯電話はある?」
ショボの言葉を聞き、あわてて服のポケットから携帯電話を取り出し、開く。
ディスプレイの画面が暗闇でぼうっと不気味に光り、目が少しくらんだ。
現在の時間、2時31分をデジタル時計が示し、その上方には昨日の昼に流れていたニュースの記事。
電池残量はマックス。しかし、その横には小さく『圏外』の文字が書かれていた。
川;゚ -゚)「圏外で、自動的に受信されるニュースが昨日で止まってる……。
今まで携帯電話を特にいじらなかったから気づかなかったが、ここは電波がとにかく悪いようだな」
(;´・ω・`)「…………そりゃ、まずいな」
ショボの表情は、やけに神妙だった。
昼間の馬鹿な行動の素振りをまったく見せないほどにショボは冷静でいて、
だけど、焦ったときにショボがする、親指をかむ癖がしっかりと現れていた。
- 65: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:22:30
川;゚ -゚)「まずいって、何がだ?」
(;´・ω・`)「昼間にドクオと外を出るときに気づいたんだけど、この旅館のある山に入るためには
あるトンネルを通らなきゃいけないんだよ。
おそらく、犯人はここが携帯電話の電波の届かない場所であることを把握しているだろうし、
旅館の電話線なんて当たり前に切っているだろうけど……。
そのトンネルをもしも何らかの形で塞がれていたりしたら、ここは孤島から隔離された、さらなる孤島となるんだ」
ショボは落ち着いたように、しかし早口で言った。
だが、私はすぐにその言葉を理解できていた。
つまり、犯人はとても頭の切れる人物であり、外界への連絡も取らせるつもりはないし、
当事者である私たちをここから逃がすつもりもないということなのであろう。
それはつまり、犯人が未だにこちら側に潜んでいては、私たちのような宿泊客からも、
第二の被害者が出るかもしれないということである。
- 66: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:24:05
私の目前に、死という名の恐怖が近づいてきて、思わず倒れこみそうになる。
その私の肩をショボがしっかりと握り、私の目を見つめてきた。
(;´・ω・`)「もし僕が言った仮説が正しかったとしたら、犯人はまだこちら側にいる。
いや、その場合は、犯人は僕らがこの島に上陸してから会った人間……つまり、
この旅館の中にいて不思議でない人間である可能性が非常に高い。
クー、よく聞くんだ。この大雨もたぶん犯人の想定内……。
土砂崩れの多い山の中を出て行くようなことはしないだろう。
だから多分、犯人はこの旅館内にいる可能性が高い。
それを考慮すると、僕らがここから動くのは得策とはいえない」
川;゚ -゚)「だがもし、犯人がこの部屋に隠れていたらどうするんだ!?」
(;´・ω・`)「大丈夫、扉を背にしている限り、不振な物音が聞こえた瞬間に逃げ出せば何とかなる。
しかし、つーさんの遺体をこのまま放置すれば、犯人が証拠を持ち去る可能性もある。
例えばそう、この胸に刺さったナイフとか、ね。かといって、ナイフを取りに行けば、
犯人に奇襲されるかもしれない。もっとも、僕は死体からナイフなんか抜きたくないけどね」
私も、ショボの言うことには全面的に肯定だった。
- 67: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:26:18
(;´・ω・`)「それに、どこかに抜け出しているなら、犯人がここに戻ってくる可能性も否定はできない。
そうなった場合、目撃者の僕らに危険が及ぶのは確実だ。
だからつまり……くそ、どうしたらいいんだ!!」
いつも冷静沈着なショボが、狼狽していた。
( ・∀・)「ちょ……ちょっと、お待ちくだせえ!」
しかし、そのショボの言葉をさえぎる、ひとつの声。
その主は、昼間に私があったモララーさんに相違なかった。
食事のときのエプロン姿ではなく、薄いシャツにハーフパンツといかにも身軽そうな格好で、
廊下と部屋を結ぶドアの前に、不気味に立っていた。
私は突然の外来者に声も出ずに震えるばかりで、
そんな私の前に、すっとショボが立ちはだかり、モララーさんと対峙した。
月明かりに照らされて後ろからでも良く分かったのだが、ショボは頬に大量の冷や汗を流していた。
対するモララーさんは、たまに小刻みにぶるぶると震えているものの、
こちらを見る表情はしっかりとしていて、私とは大違いであった。
- 68: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:27:09
(;´・ω・`)「ま、待ってください。あなたが妙に冷静ところを見てお願いがあります。
そこからこれ以上、僕たちに近づかないでいてください!」
失礼な言葉ではあったが、モララーさんは特に何を言うでもなく、
ただ一回つーさんの遺体のほうに目をやると、ぴたりと足を止めた。
ショボは呼吸を落ち着けて、モララーさんのほうへと向き直る。
(;´・ω・`)「いつからそこに?」
( ・∀・)「ん……んだ、ついさっき便所にいこう思いましたら、つ……つーちゃんの部屋のドアが開いてるのが見えましてねん。
ひょっこり中さ見ましたら……つーちゃんが血を流して倒れてて、その横にあんたらがいはるじゃないですか……!
私、しばらく……こ、腰抜かしちゃいましてね。声も出ないで、失禁してまいましたよ……はは」
どもりながら言うモララーさんが、自分で指差した彼の股間の部分は、黒いハーフパンツがより黒い色になっていた。
どうやら本当に失禁してしまっていたらしい。部屋の外で腰を抜かしていたのかは、定かではないが。
私たちも私たちで、すぐ真後ろにモララーさんがいたのに気づかないほど、焦っていたようだ。
- 69: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:28:04
(;´・ω・`)「それで、今は落ち着きを取り戻したと?」
( ・∀・)「さいでやす。もしかしたら、あんたらがつーちゃんを殺した……そう思ってはりました。
だども、どうもそんな様子じゃなか。話を聞けば、あんたらはただの目撃者のようだ。
で、ですからんね。私に出来ることがあれば、なんなりと……」
そのモララーさんの言葉の後、静寂が続いた。
ショボは動かず、じっとモララーさんを見つけ、何かを考えるようにして目を泳がせている。
その静寂が、私には何分にも、何時間にも感じられたものだった。
(´・ω・`)「……あなたは、つーさんと20年もの間、生活を共にしたはずだ。
失礼なことをお聞きします。よく、彼女の遺体を前にして大きく取り乱しませんね」
やがて静寂を打ち破るようにショボが静かに発した声に、モララーさんは
息を大きく吸い込み、吐き出し、窓の外を眺めながら口を開いた。
( ・∀・)「と……取り乱しても仕方ねーでしょう。私ぁ、あんたの2倍は生きとります。
そらね、大切な人が死ぬところなんざ、何回も見てきましたよ。
ですから、つーちゃんが殺されたのは……すごく悔しいんですよね」
そう言った彼の右手は、握りこぶしを作ってわなわなと震えていた。
- 70: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:29:00
(´・ω・`)「……失礼しました。どうぞ。
しかし、部屋の中に犯人がいるかもしれませんよ?」
ショボが一礼して、私たちが悲鳴を聞いて駆けつけたこと、犯人の姿がないことをモララーさんに伝える。
モララーさんはそれを聞くと静かにうなずき、部屋の中に入っていった。
モララーさんはゆっくりとつーさんの遺体の前に立ち、かがむと、
その様子をじっくりと眺め始めた。
彼の視線はまず遺体の胸元をたどり、それから首先、最後に顔で止まった。
( ・∀・)「…………つーちゃん。綺麗な顔してまんな」
私は、その言葉に語弊があるようにも感じられた。
確かにつーさんは、たおやかで、笑顔の似合う女性であった。
しかし、今その顔ときたら、瞳孔が完全に開き、口からはおびただしい量の血を吐き出している。
昨日出会った時に、つーさんを美しいと思った私でさえ、目の前の遺体には畏怖の感情を持っている。
それを美しいと言うのだから、モララーさんがどれほどつーさんを愛しているのかを感じられた。
- 71: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:29:39
結局、モララーさんはそれからしばらく、ずっとつーさんの顔を眺めていた。
最後に1階その輪郭をなでると、モララーさんは立ち上がり、再び私たちと向き直った。
( ・∀・)「迂闊に部屋を出るのも危険でしょう。私がね、非常用の緊急ベルさ鳴らしてきます。
旅館中にサイレンの音がなって、私の放送でこの部屋に誘導できますんね」
(´・ω・`)「しかし、この状況を旅館のお客全員が見たら、動揺をまねくのでは……」
( ・∀・)「そうも言ってられんでしょ。
ここを離れるわけにも行かないでしゃろ。なに、すぐ戻ります」
(´・ω・`)「あ、ちょ……!」
ショボの言葉を途中でさえぎって、モララーさんは勢いよく階段を上り、
確か2階にあった、管理室のほうへと走っていった。
足音はやがて聞こえなくなり、薄暗い部屋の中、
モララーさんがいなくなったことで、不気味な静寂がまた戻った。
- 72: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:30:33
しばらくの間、私とショボが2人で部屋に残されて。
不気味な緊張感をはらんだその部屋から、私はとにかく早く離れたかった。
そして2分ほどした時だろうか、旅館中に大きなサイレンの音が鳴り響いた。
耳を劈くようなその音はとてもうるさく、鼓膜が破れるのではないかと思ったほどであった。
それと同時に、モララーさんの声で、アナウンスが入る。
『緊急事態が発生しやした! 1階の101の部屋に集まって下さい!
緊急事態が発生しやした! 1階の101の部屋に集まって下さい!』
それだけを言うと、放送はブツリという電子音と共に途切れ、
次に気がつけば、物凄い勢いでこちらに駆けてくる誰かの足音が聞こえた。
「はっ、はっ、は!」
ずうっと向こうからかけてきたその姿は、直後についた明かりによってすぐにわかった。
物凄い形相でこちらを見つめる、フサさんだった。
- 73: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:31:24
ミ;,,゚Д゚彡「どけ!!」
フサさんは扉の前まで来ると、そこに立っていたショボを勢いよく跳ね飛ばし、
部屋の中に入って、絶叫した。
そしてすぐに私のほうに向き直り、私の胸倉をつかんで
体を持ち上げると、それはもう鬼のような形相でこちらを見つめてきた。
ミ#,,゚Д゚彡「おまえが……おまえがやったのか!?」
川;´-゚)「ぐ……ち、違います! 私はただ」
(;・∀・)「こ、こら! フサ、やめんかいね!
クーさん達は、つーちゃんの悲鳴さ聞いて、かけつけただけですわ!」
ミ#,,゚Д゚彡「くそ!!」
私を乱暴に払いのけるようにすると、フサさんはつーさんの遺体に寄り添い、
静かに涙を流し始めた。
その背中がとても痛ましく思えて、私は先ほどあんなに乱暴にされたのに、同情してしまった。
- 74: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:32:21
(;^ω^)「ツン。ツンは部屋の中を見るんじゃないお」
ξ゚听)ξ「え?」
手をつなぎながら仲良くやってきたブーンさんとツンさんの姿も、いつしか部屋の外にあった。
しっかりしているブーンさんは部屋の中の様子にいち早く気づいたようで、ツンさんに
部屋の中の光景を見せないように、体を使って視界を精一杯ふさいでいた。
ショボがそんなブーンさんとツンさんに事情を説明すると、
ツンさんは一気に顔が青ざめてしまって、トイレのほうへ駆け込んでいった。
ブーンさんは困り果てた顔で、ショボと一緒に私のそばへやってきた。
- 75: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:33:32
(;^ω^)「つーさんが、殺された……のかお?」
部屋の中を一回見て、遺体に寄り添いながら泣くフサさんと、それをなだめるようにして横に立つ
モララーさんを見ながら、ブーンさんは信じられないと言った様子で私たちに語りかけてきた。
(´・ω・`)「僕たちがトイレに行こうとしたら、悲鳴が。
慌てて部屋に入ると、もぬけの殻でした。
犯人が近くにいるかもしれません」
( ^ω^)「お……部屋がもぬけの殻……かお?」
川 ゚ -゚)「ええ、奇妙な話です」
ブーンさんは、考え込むようにして下を向いてしまった。
やはり、この密室殺人のトリックは全然わからないし、犯人が今もどこかにいるのではないかと言う恐怖があった。
それから結局10分ほどして、ツンさんがトイレから出てきて、
ブーンさんとツンさんはロビーの椅子の上に体を横たわらせていた。
- 76: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:34:57
川 ゚ -゚)「……そういえば、ドクオが来ないな」
時計を見ると、警報機がなってから数分が経っているというのに、
ドクオの姿が見えなかった。
私は一瞬だけ最悪の事態を考えたが、すぐに首を振り、
まだ寝ているのだろうと思うことにした。
(´・ω・`)「僕が見てくるよ。大方、寝てんだろうね」
川 ゚ -゚)「わかった。気をつけてな」
ショボが階段を上り、2階の通路に入っていく。
通路の奥に部屋があるので私の位置からは見えないのだが、扉の閉まる音が静かな空間に響いた。
そしてそれから、また10分がすぎた。
- 77: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:35:31
川;゚ -゚)「??」
ブーンさんとツンさんは相変わらず椅子の上でぐったりとしているし、
モララーさんとフサさんは遺体の横でずっと固まっている。
そして私も同じように、このロビーのど真ん中で立ち尽くしているだけだった。
どういうわけか、ドクオを起こしに行ったショボまでもが戻ってこない。
ひどい胸騒ぎを感じ、私はいてもたってもいられなくなり、ブーンさんにそのことを告げると、
駆け足で部屋に戻ることにした。
薄暗い廊下の中、私たちの部屋からは光が漏れていた。
だから私は何も恐れることなく、勢いよくその扉を開いた。
- 78: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:36:37
川;゚ -゚)「え……?」
静けさは本当にどこまでも続いていて、
私が扉を勢いよく開けた音だけが、一瞬こだました。
私は、すぐにでもドクオ達が私に気づいて反応するだろうと。
そう信じて、その扉を開けたというのに。
扉の向こうに広がっていた景色は、どうしてか、
私が今朝、モララーさんと会ってから戻ったときの景色と同じだった。
ただ違うことと言えば、窓から見える景色は真っ暗で、雨音がザーザーとうるさいだけ。
部屋の中には、私一人しかいなかった。
- 79: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:37:18
馬鹿馬鹿しい。そう思うしかなかった。
なぜ、部屋の中に私しかいないのだろうか。
私がショボと部屋を出るとき、確かにドクオはいたはずなのだ。
ドクオは、窓に近いベッドの上で静かに寝息を立てて眠りこけていたはずなのだ。
なぜ、その姿が消えてしまっている?
そして、なぜにそのドクオを起こしに行ったショボの姿までもが消えてしまっている?
そもそも、ひとりでに消えてしまうという可能性など、微塵にもない。
ならば、ドクオとショボと連れ添って、またこの島に来たときみたいにトイレにでも行っているのか?
そうも考えたが、ショボもドクオも本当は冷静沈着で、行動力のある人間だ。
まさかこんな事態にそんな場所に行き、私を混乱させるようなことはしないはずである。
ならば、どうしてドクオとショボはここにいない?
- 80: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:38:13
うるさい雨音に混じって、私の握り締めた量の拳に、水滴が落ちる。
それが私の涙だと気づくのには、時間はそう要らなかった。
川 ;-;)「ドクオ……? ショボ……!?」
大きく彼らの名前を叫んでみる。
その瞬間、視界が一瞬くらみ、続いて激しい稲光が耳を劈いた。
もちろん、私が名前を読んだ彼らからの返事は、ない。
川 ;-;)「どうして……」
体中から力が抜け落ちて、私はへろへろとその場に座り込んでしまった。
立つ気力さえ起きない。物事を考える気力すら起きない。
目の前で人が死んでいたと思ったら、今度は私の大切な友人が消えてしまった。
それがもたらした孤独は、私にとってはあまりにも大きすぎて、
小さな私は、もう耐えることなんか出来なかった。
- 81: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:39:00
部屋の中は、相変わらず雨の音だけがザーザーとうるさかった。
もう、私は嗚咽も漏らさずに、ただ呆然と涙を流して、部屋の真ん中で力なく座っていた。
その時、私は背筋にぞくりと視線を感じた。
それは就寝する前に感じた、あの誰かに見られているような視線。
冷たく、思わず身震いしてしまいそうな、そんな不気味な感覚。
身の毛がよだつほどに寒気を感じ、私は頭をがっくりと垂れ下げて、うつぶせになった。
その瞬間、大きな光が部屋を包んで、激しい雷光の音がした。
また、部屋は雨の音がうるさくなった。
2、穿ちの雨 そして雷光 終
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