川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

108: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:04:11




川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

4、光の中へと踏み出す足



109: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:05:08

川 ゚ -゚)「ショ…ボ…? それに、ドクオ……?」

(´・ω・`)「クー! よかった……無事だったのか」

('A`)「心配したんだぜ……」

川 つ -゚)「わ、私だって……心配した」


間違いなく、そこに立っていたのはドクオとショボだった。

あふれそうになる涙をぐっとこらえ、躊躇いも無く2人と抱き合った。
その温かみが、この冷たいラビリンスで、初めて感じた暖かさだった。


( ^ω^)「うんうん、よかったよかったお」

ξ゚听)ξ「泣かせるわねぇ……ホロリ」

( ・∀・)「さいですなぁ」

川 ゚ -゚)「!?」


次に聞こえたその声は、私たちの背後から聞こえてきた。

あわててそちらを振り向けば、そこには見知った顔が、あった。



110: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:06:06

川 ゚ -゚)「モ、モララーさん?」

間違いなく、その人はモララーさんであった。
彼は確か、外に助けを呼びに言ったはずであったのだが、何故こんなところにいるのだろうか。


(´・ω・`)「っ!! クー、その男に近づくんじゃない!」

川;゚ -゚)「え?」

思わずモララーさんのほうへ歩み寄ろうとした私に、ショボがそう言い放つ。
だが、そのショボの物の言い方には、引っかかる点がいくつかあった。


まず、モララーさんのことを、その男などという卑しい呼び方をしたことだ。
つーさんが殺されたとき、ショボは彼のことをモララーさんと呼んでいたはずだった。


それで近づくなと言っているのだから、私の頭には、悪い予感しかよぎらなかった。

私は踏み出した足を一歩、また一歩と下げ、後ろにいるブーンさんたちの下へ戻る。

やがてその横にはドクオとショボも合流し、5人がモララーさんと対峙する形となった。



111: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:06:50

( ・∀・)「ショボさん。あんたぁ」

(´・ω・`)「みなまで言わなくていいです。
      あれは、あなたの手記で間違いないでしょうか? 読ませていただきましたよ。
      それから……このロケットもね、見つけました」

ショボがそう言ってポケットから取り出したのは、銀色のロケットだった。

首飾りだったチェーンは無残にも引きちぎられていたが、そのロケットの中には
間違いなく、あの夕食のときにつーさんに見せてもらった、しぃさんとギコさんの姿があった。


それをショボが持っている。
そして、モララーさんがそれを気に食わない様子で見つめている。


考えられる理由はひとつ。

モララーさんがそのロケットを、持ち出した。


それはつまり、彼がつーさんを殺害したということ。



112: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:08:01

( ・∀・)「……なら、あんたらまとめて死んでもらうだけでさ」

次の瞬間、モララーさんが懐に手を突っ込んで引っ張り出した何かは、
松明の光に照らされて、鈍く暗く輝いていた。

そう、それは見紛うことなく、あの時つーさんの胸に突き刺さっていたナイフであった。
柄の形、色合い、全てが私の記憶にある、あのナイフと合致していた。


つーさんの遺体は現在、部屋に放置したままだ。
だから、遺体をいじろうと思えば、いじることなどたやすい。


朝早くに外に出て助けを呼ぶと言ったモララーさんは、助けなど呼ぶ気は最初からなかったのだろう。
そうやって時間を稼いで、私たちの目を盗んでつーさんのナイフを抜いて、
監禁したドクオたちでも今から殺害するところだったのだろうか。


ところが、この事態。
ドクオたちは脱出していて、私たちはどこにもいない。
それで慌ててこのラビリンスを探し始めた。

そんなところではなかろうか。



113: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:08:45

( ^ω^)「くっ……!」

ツンさんの前に仁王立ちしながら、ブーンさんは彼女の手をしっかりと握り締め、
威嚇するようにモララーさんの目を見つめながら、一歩だけ後ずさりした。

( ・∀・)「無駄ですよ。このラビリンスはちょっと複雑に入り組んでやす。
      あんたらぁ、出口までの道を覚えてるかもしれませんが、私は近道しってんです。
      それにねぇ、足腰には自身があるんですわ。追いついて必ずあんたら、殺します。
      ま、第一、ここを出ても逃げ場はないですから、同じことですさね」

だがしかし、私が出会ったときの彼からは想像もつかないような、
いてつく冷たさを持った言葉が彼の口から飛び出した。


必ず殺す。
これはもう、脅し文句でも何でもありはしない。

モララーさんは、つーさんの命を奪ったあのナイフで、
本気で私たちのことを殺めようとしているのだ。

このラビリンスを抜けたところで、旅館に戻っても確かに逃げ場があるわけではない。

かといって、この事態を抜けだすことができる程の事……。

それは、何もなかった。



114: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:09:24

('A`)「冥土の土産に聞きたいことがある。いいか?」

うなだれる私たちの中、ドクオのハッキリとした声。

冥土の土産。そんな言葉を使ってこそいるが、ドクオの目は死んでなどいなかった。
要するにこれは時間稼ぎであって、勿論モララーさんもそれを理解しているのであっただろう。

( ・∀・)「んあ、いいですよ。あんたらどうせ、これから死ぬんですからね」

一方のモララーさんは、余裕の笑みといった感じであった。
ケタケタと笑いながら、ナイフをしっかりと握り締め、こちらを炯々とした両目で見ていた。


('A`)「まず1つ、つーさんを殺したのはあんただ。間違いないか?」

( ・∀・)「ああ、つーちゃんね。
       さいですわ、私が殺しましたんね」

ξ゚听)ξ「……!!」

ツンさんは、相変わらずブーンさんの後ろでぶるぶると震えていた。
私たちはと言うと、驚きを隠せなかったものである。

本当に、つーさんを殺したのが、この目の前の男だったのだから。

否定するわけでもなく、あっさりとそれを認めたのだから。



115: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:10:59

('A`)「ぐっ……! ……2つ目だ!
    それには、この旅館の以前のオーナーである、しぃさんが関係している。違うか?」

この言葉には、驚かされた。
ドクオもショボも、しぃさんとギコさんの事を知っているはずがない。

(´・ω・`)「……」

だのに、ショボの目も、いたって真剣であった。

( ・∀・)「もう質問せんでもいいですわ。
      あの手記、読んだんではりますね。なら、全て知ってはるでしょ。
      いやはやまったく、しかしま、あんたらがあそこから脱出していはるとは、心外でしたわ!」


ケタケタと笑うその声は、悪魔の声にしか聞こえなかった。
目の前の殺人鬼は、ナイフを片手にどうしてこの状況で笑っていられるのであろうか。

私は表情だけ冷静で、心臓が胸を張り裂けそうなほどにバクバクと緊張していた。

そして気になる言葉。
しぃさんが、つーさん殺害事件に関与している。

今まで入手した情報の欠片を、全て紐解いて並べていく。
しかし、私にはまったく想像がつかなかった。



116: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:11:53

おそらく、ショボとドクオが見たというモララーさんの手記が、その事件と大きく関係していて、
その中で、しぃさんがつーさん殺害の発端となる出来事が書かれていたのだろう。

その手記を見ていない私とブーンさんとツンさんは、あたふたしながらその場に立ち尽くすしか出来ず、
ドクオとショボの背中がとても大きく見えた。


(´・ω・`)「ギコさんとしぃさんの結婚に納得できなかったからといって……。
       それが、娘であるつーさんを殺すことに、何の因果があるというんだ」

( ・∀・)「あんたにゃわからんでしょうよ。わかる間もなく殺してやります」

('A`)「昨日が2人の結婚記念日で、つーさんの誕生日だったから……ですか?」

( ・∀・)「…………ダラズが」


私の知らない事実が、次々と明らかになっていく。

モララーさんは、ギコさんとしぃさんの結婚に納得がいかなかった?
昨日が2人の結婚記念日だった? それが、つーさん殺害と何の関係がある?


新たな情報を得た私の頭が回転し、やがて1つの線を作っていく。



117: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:12:57

( ・∀・)「お喋りは、もういいでやす」

そんな考えをよそに、モララーさんが私たちをキッとにらみつけ、ナイフを構えた。
その目には、明らかな殺意。

(;'A`)「くそ……」

(;´・ω・`)「ま……まて、まだ聞きたいことが」

( ・∀・)「お喋りはもういい、そういったんです」


何も、打開策は無い。

ドクオもショボも必死で時間を稼ごうと粘ったが、徒労に終わってしまった。


ξ;凵G)ξ「ブーン……」

(;^ω^)「大丈夫だお、ツンは僕が守るお……!」

川;゚ -゚)「死ぬ……のか……?」

( ・∀・)「さいですわ!! さよならでやす!!」



118: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:13:27


モララーさんが、ナイフをしっかりと握り、こちらに走りこんでくる姿が見えた。


考えても、どうしようもなかった。

死を覚悟するしか、なかった。



119: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:14:09


だから、その時、私たちはその事態に驚き戸惑った。


( ・∀・)「!?」

突然、ラビリンスが多きく揺れはじめ、
それに足をもつれさせられたモララーさんが、ナイフを手から滑らせ、盛大に仰向けに転んだのだ。


そしてその瞬間、鈍く大きな音がし、モララーさんの下半身の全てを、崩壊した天井の壁から
落ちてきた瓦礫の山が埋め尽くし、その行動を封じ込めてしまったではないか。


更に、彼に止めを刺すように。


モララーさんの手から滑ったナイフは彼の頭上を待っており、
それは滑稽なことに、彼の胸に勢いよく突き刺さった。


そう、その姿はまるで、あの時のつーさんのような。



120: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:14:52

(  ∀ )「か……は……」

モララーさんの顔から血の気がうせ、その両腕は力なく垂れ下がる。

彼からは遠く、しかしまた近くでそれを見ていた私たちは、
今ある生にまず疑問と感謝を感じ、それから荒い息を必死に落ち着かせた。


('A`)「た……たすかった……のか?」

(´・ω・`)「因果応報、ってやつだね」

身動きできなくなったモララーさんを見下ろすように言う2人。
ブーンさんとツンさんも、へなへなとその場に座り込んで、涙を流していた。


しかし、のんびりもしていられなかった。
天井が地震によって崩れたり、たかがアイスピックで壁を壊せると言うことは、
それほどまでにこのラビリンスが老朽化しているということでもある。

だから、いつ私たちの頭上にある天井が崩れてきても、おかしくは無いのだ。



121: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:15:52

それは勿論、私より頭のいいショボはいち早く気づいていたようだ。

(´・ω・`)「……そうだ、みんな! 早くここを脱出しよう!
       ここは山奥だ。土砂崩れなどの影響で、これからラビリンスが崩れるほどの衝撃を受けてもおかしくはない!」


だがしかし。
私は彼に聞かなければならないことがあった。


先ほどまでバラバラだった言葉のピースが一本の線を引き、私の中で蠢いていた。


もう、モララーさんの命は助かることはない。
だからこそ、今、ここで。


(´・ω・`)「クー、どうしたんだ?
       早く行かないと、崩れて僕らも死んでしまうよ?」


必死にそう催促するショボの後ろでは、ブーンさんとツンさも同じように、早くしろとでもいわんばかりの顔をしてこちらをみていた。

だが、ドクオだけは唯一私の目をじっと見ていて、
何かを理解したように静かにうなずくと、ショボと私との間に割って入って出た。



122: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:16:25

('A`)「クー、お前はすぐには脱出できない。そうか?」


そしてあろうことか、ドクオは私の考えていることをぴたりと当てて見せたのだ。

これにはさすがの私も驚いたのだが、すぐに言葉を返す。


川 ゚ -゚)「ああ。私はモララーさんにどうしても聞いておかねばならないことがあるんだ」

(;^ω^)「で、でも……!」

ξ゚听)ξ「そんなことしたら、あなたまで!」


困り果てた顔をしたブーンさんとツンさんを、
まるで全てを察したかのような表情で、ショボが鎮撫させて、私のほうに向き直った。



123: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:17:16

(´・ω・`)「君は、おそらくあの手記を読んだ僕よりも、この旅館のことを知っているんだろう?
       なんだか、そんな気がするんだ。だから、僕は少しの間ここに留まることが君の願いなら、それを聞き入れるよ」

ショボも、ドクオも。
付き合いの年数で言えば、まだ少ないというはずなのに。

だけど、本当に私のことを理解してくれていて、いつでも私の味方でいてくれた。

だから、素直に、心のそこから私はこの二人に感謝をしている。


川 ゚ -゚)「……すぐに戻る。
     待っていてくれるか?」

('A`)「当たり前だ」

ドクオのその顔が、本当に頼もしく見えた。


ツンさんだけは最後まで心配そうに私のほうを見ていたのだが、
ブーンさんは覚悟を決めたようで、ドクオとショボを出口まで案内するため、
最後に私のほうに一回微笑んで見せると、駆け足でラビリンスの出口を目指して走り出した。


後に残ったのは私と、瓦礫に埋まりながらも、
その目の焦点はしっかりと私を見ているモララーさんだけであった。



124: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:18:17


(  ∀ )「なんですかいね。私に話したいことって」

覇気のない声。
昨日、中庭であったときよりも、彼の声はさらにしわがれていた。

川 ゚ -゚)「このナイフ……。
     あなたがしぃさんの髪を切ったものだ……違いますか?」

( ・∀・)「!!!」


一瞬、モララーさんは驚いた表情をした。
すぐにその表情を戻したが、私は見逃さなかった。

つまり、私の考えが当たっていたと言うこと、だろう。


(  ∀ )「はは、あんたがそのこと知ってるちゅーことは、
      もう全てに検討がついてるってことでないですか?」

川 ゚ -゚)「……おそらく」

(  ∀ )「さいですか。んでは、冥土の土産です。お話しましょうか」

と、私に吐き捨てて、語りだした。



125: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:19:10

(  ∀ )「私としぃはね、恋仲にあったんでやすよ。
      18の時にね。だからね、私はしぃと結婚して旅館を継ぐつもりで、料理を勉強した。
      20の時には、私がしぃの髪さ切りました。それくらいの仲だったんです」


(  ∀ )「ある日、長く続く嵐で、しぃの家が育てていた野菜や魚が全滅しやしてね。
      旅館を続けることが難しくなりやした。
      そんな時、島1番の漁師の息子で金持ちのギコさんがぁ、しぃを助けたんです。
      ギコさんもね、ずっとしぃの事が好きだった。
      んでね、これからしぃが旅館を続けていくためにはね、ギコさんと結婚するしかなくなったんです。
      勿論、しぃは私にそのことを相談しましたが、私はしぃに結婚するように言いました。
      そら、しぃの幸せさ願ったからですね」


(  ∀ )「でも、しぃは段々と、本当にギコさんに惹かれていきやした。
      そいで、2人さ子供作っちまった。フサですよ。
      その時、私はしぃを殺したいくらい憎みました。
      私たちは、髪切ったほどの仲でやしたのに。子供作っちまった。
      でもね、私ぁこらえてこらてえ、そいで、もう1人子供が出来たときは……憤怒でおかしくなりそうでしたよ」



126: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:20:15

川 ゚ -゚)「それが、つーさん?」


(  ∀ )「さいですわ。
       私はそれでも料理長として旅館に勤め、しぃを見守ることにしました。
       勿論、表向きは普通に接していましたがね、しぃが時折私に見せる悲しい表情を見ると、どうしてもしぃを信じたかった。
       でも、しぃはギコさんと海に呑まれて帰ってこなくなっちまった。
       それからはもう、前に話したとおりですわ。
       フサはギコさんに、つーちゃんはしぃによう似て来ましてね。複雑な気持ちでした」


(  ∀ )「私ぁ、何年も何年も耐えました。
       あの2人に罪が無いことはわかっとりますし、
       何よりも私のことを本当に慕ってくれている。
       そんな、息子と娘みたいな2人を、手にかけることが出来るだろうか?
       答えはね、ずっと否だと思ってたんですがねえ……。
       殺っちまったときは、もうスッキリしましたよ、驚くくらいにね。
       そいで、憎い思い出さ詰まったあのロケット引きちぎって……海に捨ててやろうとおもっとりました」


私はその言葉を聞いて、身震いした。



127: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:21:08

(  ∀ )「ま、運命たぁ、皮肉なもんですよ。
       ええ、わかっとるんですわ。全て私が悪いって事はね。
       私なんかよりも何倍もいい男ではりましたギコさん恨んで、
       私のこと捨てたしぃも恨むだけでは物足りず、よく似たつーちゃん殺してはりましたよ」


白状するように。懺悔するように。
口早に語っていくモララーさんの姿は、何故だか酷く滑稽に見えた。


(  ∀ )「……ま、つーちゃんには何の罪もありませんさね。
       私はね。アンタと昨日の昼に話したときにねえ、運命だと思ったんですよ。
       まさかね、お客さんのくせに、この旅館の過去……ギコさんやしぃ、そいから私のことに首突っ込んで
       きはる人がいるんですからね。そのおかげで、わたしゃ思い出しちまいましてね。
       急にはらわたが煮えくりかえっちまいましたんね。
       しぃがギコさんと結婚したのも、つーちゃんが生まれなすったのも、何年も前の昨日のことなんですから」


そんな予感はしていた。

ショボとドクオとモララーさんの話を聞いて、結婚記念日が昨日であったと聞き、
そしてモララーさんが、ギコさんとしぃさんの結婚を認めていないと聞いたとき、私は
この殺人事件の発端が、そもそも私にあったのではないかと勘付いていた。

だから、みんなの前でこのことを聞きたくなかった。
ずるい、卑怯だとは思っている。しかし、それを誰にも知られたくはなかった。



128: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:21:54

川 ゚ -゚)「発端は……私ですか?」

力なく尋ねる私に、モララーさんは残酷にも、首を縦に振って見せた。


(  ∀ )「私ぁ、つーちゃんに対する殺意って言うのは、ずーーっと持っていました。
       そらね、フサだって殺してやりたかったんだ。あの二人の子供なんてね、私にゃ憎いだけなんですよ。
       フサはギコさんによく似とる。つーちゃんはしぃによおおく似とる。
       二人が大きくなってこの旅館を受け継いだときね、私はその二人に、ギコさんとしぃさんの面影を見ましたよ。
       そしたらねえ。急に仕返しがしたくなってきちゃったんですよ。
       でもね、そんなことはしてはダメな事なんて、私はわかってはりますよ。
       だからもう、何年もずっとその衝動を我慢してきましたよ。ずっと我慢してたんですよ」


だが、と一呼吸おいて。

それから、嗚咽が聞こえた。

まごうことなく、瓦礫の下のモララーさんが、
仰向けで、天井に視線をやって、何かをつかむ様に腕を伸ばしながら、静かに泣いていた。



129: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:22:42

( ;∀;)「でもねぇ、私はもう我慢なんか出来ないんですよ。
       あんたは知らないだろうがぁ、つーちゃんは本当にしぃにそっくりなんだ。
       だから、何回私はつーちゃんを抱きたい衝動に駆られたことか! だのに、それすらできない!
       私は悔しくて悔しくて。だからもう、どうにか我慢して我慢して……彼女の笑顔を見るのがつらい日々を送ってはりました。
       だけどもねえ、アンタが私に全て思い出させてくれたんですよ。
       あの二人の結婚記念日、その憎き日が、昨日であったとねえ」


怒鳴るようにして叫ぶ彼の目の焦点は、もう定まっていなかった。
私も泣きたい気持ちでいっぱいだった。自分の無神経な質問が、行動が、この殺人事件のトリガーとなっていたのだから。


それは変えようのない事実で、目の前が本当にぐるぐるとしていた。
涙を流さないように歯を食いしばることで、私はもう精一杯だった。


( ;∀;)「だから私は、もう何十年も見ることのなかったあのナイフを。
       初めてしぃの髪を切ったあのナイフをねえ、金庫から取り出したんですよ。
       ナイフは、綺麗でしたよ。刀身もびっかびかで、不思議なことにちっとも錆び付いてないんだ。
       そのナイフを見たときねえ、私の中で眠っていた何かがパーンと弾けてね、それからもう後のことは
       あんまり覚えてはりませんよ。気がつくと私は、つーちゃんさ殺すための用意をしっかりして、
       つーちゃんと一緒に夕食さ作ってはりました。その時の私にはね、もう何にもためらいなんかなかったんですわ。
       その笑顔をね、しぃによく似たその笑顔を、早くこの世から消し去ってやりたいおもっとったんですよ!!」



130: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:23:53

ケタケタと狂ったように笑い出すモララーさんの横で、
ついに私は耐え切れなくなって涙を流して、ひざから崩れ落ちた。

私のせいだ。私のせいなのだ。私が散策しなければ、この事件は起きなかったのだ。
私があの時、過去のことを知っていたら。私があの時、モララーさんに話しかけなければ。

もし、こうだったら。もし、ああしていれば。

と、そんな後悔の言葉ばかりが、ぽつりぽつりと心の中で浮かんでは消えていく。
涙はいつの間にか滝のようにとめどなく流れ出ていて、止まる気配がなかった。


モララーさんに何かを語りかけようとしていた私だったが、
もう言葉を発することも出来ないくらいに泣きじゃくってしまっていた。


おい、しっかりしろ、クー。
私はいつも表情を崩さない、クールなポーカーフェイスの人間じゃなかったのか?
ドクオとショボの気遣いでここに留まらせてもらったと言うのに、一体このざまは何だと言うんだ?

心の中で、自分に自分で言い聞かせてみる。
だけど、私の体は心より正直で、涙は本当にいつまでも止まらず、私も嗚咽を漏らすしかなかった。



131: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:24:25

(  ∀ )「……いんや。アンタのせいだなんて責任転嫁しちまいましたね。
       私ぁ、アンタがいなくたって、いずれこの事件を起こしていたのは間違いありゃしやせん。
       私は、そこまで我慢の出来る人間じゃありませんからね」

そんな私を賺すようにして言ったモララーさんの言葉は、私にとっての皮肉にしか思えなかった。

彼の涙は、もう止まっていた。


川 ;-;)「でも……! 結局今起こってしまった事件に起因しているのは私の言葉だ!
      それはもう、何の変えようもない事実でしかないんだ! 私は……私は……」

(  ∀ )「黙ってくだせえ!!」


ラビリンスの中に響き渡る、彼の怒号。

やがて消えていくそのこだまの中、やっと私は冷静さを取り戻しつつあった。



132: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:25:10

( ・∀・)「もう、いいんでやす。この事件は、私が起こしましたんね。
      あんたに責任なんかありません」

そいで、と彼は続けて。

( ・∀・)「身勝手なんだけどね、クーさん。頼みがあるんだけど、いいかねえ」

静かに、つぶやくように発せられたその声は、しっかりと私の耳に届いた。

川 つ -゚)「…………なんだ」

あふれる涙をぬぐいつつ、嗚咽をおさえつつ、冷静なふりをして、返事をした。


( ・∀・)「私ゃ、ここでラビリンスと死にます。
      でもんね、思い出を死なせたくないんでやす。
      ですからね、このナイフを……」


ナイフ。
モララーさんの胸に刺さっているナイフ。
しぃさんの髪を切ったナイフ。
つーさんの命を奪ったナイフ。

ひ弱な彼の手は、そのナイフに伸びて……しかし、瓦礫の下に埋もれたその腕は、力なくうなだれるほかなかった。
彼はもう、乾いた笑い声を上げていた。



133: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:25:45

( ・∀・)「このナイフさ、引っこ抜いてくだせえ。
       自分勝手だってのはわかってはりますけどんね。
       そいでさ、このナイフさ、海に沈めてほしいんでやす。
       ギコさんとしぃさんを奪ったこの海にね。そいつを放り投げてやってほしいんですわ」


医学的な知識がない私だが、彼の胸からナイフを引き抜けば、
それと同時に彼の出血量も多大なものになるであろうと言う憶測はついた。

勿論、それに伴ってモララーさんには激痛がはしるだろうし、
何よりも私自身がそんなことをしたくないと言う気持ちは十分にあった。

しかし、その時の私はなぜだか、ためらいを持たなかった。
ためらいを持つと言う思考さえ忘れて、無意識のうちに私はモララーさんのそばにより、その胸に突き刺さるナイフの柄に手をかける。


その柄かからは、なぜだか温かみのようなものが伝わってきた。
果たして彼の体温のせいなのか。

それとも、それは思い出のこめられたナイフの、想いであったのだろうか。



134: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:26:36

柄にかけた手を、すっと引き上げる。
それと同時に、ナイフはいとも簡単にするりと抜けた。
拍子抜けしてしまいそうなくらいに、本当にあっけなかった。


( ・∀・)「……ははは」

でも、それと同時に、モララーさんの胸からおびただしい量の血が流れ始める。

彼は助からない。
出血し、瓦礫の下敷きとなっているのだから、それは十分に承知している。


だから、ここで彼を見捨てる。

それが私に出来るのか。


私の心の中には、激しい葛藤があった。


だが、その葛藤も、あっさりと終わりを告げることになるのだった。



135: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:27:12

川 ゚ -゚)「あ……」


本当に、一瞬の出来事だった。




私がナイフをモララーさんの胸から引き抜いて、少し距離をとったその瞬間に。


まるで意思を持ったかのように、ラビリンスの天井にはしっていた亀裂が音を立て、
その瞬間にモララーさんの頭上一帯の壁が音を立てて崩れ落ちたのだった。

その新しい瓦礫の山は、丁度私とモララーさんを分け隔てるかのように、
モララーさんの体の全てを埋め尽くし、私には傷を何一つ負わせることは無かった。



瓦礫に埋まる瞬間のモララーさんの顔を見た。


不気味な、しかし優しい笑顔であった。

その笑顔は、私の記憶から離れることは無いのだろうと。
そう、思った。



136: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:27:59

音の無いラビリンス。


そこに残ったのは、ただ呆然と立ち尽くす私と、目の前の瓦礫の山。


壁の松明に照らされて、私の手の中で、ナイフは美しく輝いていた。

刀身の先から滴り落ちるモララーさんの血液さえも、なぜだか神秘を感じさせるほどに思えたものであった。


しぃさんの髪を切った、この神聖なナイフは。
僅か数刻の間に2人の血を吸って、そして今、この島と何も関係の無い私の手にある。


もしも、このナイフに記憶や感情があるのなら。



今、このナイフは私の手の中で何を思っているのだろうか。



137: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:28:33

目の前の瓦礫の山から、赤い液体が滲んできた。
その赤は、いつだか最近みた赤よりも鮮明に赤くて、どろどろとしていた。


目の前の神秘さが、途端に気持ち悪くなった。


そしてその光景は、先ほどまで私が話していた人物が力尽きた証拠でもあり、
急激に私は自分の中から何かが抜け落ちていく感覚を感じた。


血の滴るナイフをしっかりと右手に持ち、踵を返す。


果てなく続くラビリンスの壁の中を、私はただひたすらに歩き始めた。


コツコツと、自分の足音だけが、嫌なほどにラビリンスの中をこだまする。




それ以外に、本当にもう、何も音はしなかった。



138: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:29:04




いつの間にか、雨は止んでいたらしい。



4、光の中へと踏み出す足   終



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