( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 4: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:05:28.30 ID:IhSoGJD10
-
- 【あらすじ】
- リワリの滝で急展開。果たしてそう簡単に主人公=モララーが覚醒するのだろうか。
- 世の中はそんなに甘くないんだよ!(ソースは作者)
- 【主要登場人物紹介】
- ・人間
- ( ・∀・) モララー=ロードネス:主人公。人の心は読めない。
- ( "ゞ) デルタ=S=オルタナ:物知り。ヤのつく自由業ではない。
- ξ゚听)ξ ツン=D=パキッシュ:魔人。アルファベットは作れない。
- 从 ゚∀从 ハインリッヒ=H=クラシカ:科学者。DQNネームをつけようとはしない。
- ・悪魔
- ▼・ェ・▼ ビーグル:元・中級悪魔『ケルベロス』。今はか弱い子犬
- 7: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:10:54.16 ID:IhSoGJD10
-
- 不思議に感じたことはないか。
- 我ら人類に対する第一の友人、『悪魔』に関する疑問だ。
- 彼らは何故に『悪魔』などと不名誉極まりない名称に甘んじて妥協するのか。
- 確かに『天使』に敵対する者は『悪魔』で正しいのだろうが、それを不愉快に思わないのか。
- 彼らは自分達が『悪』であることをいとも簡単に容認してみせる。
- しかし、それは我々人間に対する『悪』ではない。彼らの敵は『天使』であり『神』だ。
- ということは、彼ら自身が、天使側が『正義』であることを認めていることに他ならない。
- これはありえない矛盾である。如何なる犯罪者も、自身を完全なる『悪』だと認めることはない。
- 私は考える。彼らは神に敵対する者でありながら、神を信仰しているのではないか。
- むろん本人らは否定するだろうし、私以外の誰も、それを信じたりはしないだろう。
- ただ単に、頭の片隅に留めておいてほしいのだ。私の戯言を。
- 悪魔が我々の味方であるということが、未来永劫に続くとは限らない。
- 人間が全ての世界を敵に回すという事態は充分に起こりえることだ。
- 気を緩めるな。人間が信用できるのは人間だけだ。否、人間さえも信じられない。
- ――――レグレリオ・アレルヤ『諸賢への質問』
- 11: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:14:43.12 ID:IhSoGJD10
-
- 君達が足掻く様は、本当に本当に笑えるね。
- ( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 第十三話:【バカとアクマと召喚術】
- 19: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:17:18.31 ID:IhSoGJD10
-
- 小鳥の囀りや獣の遠吠えが聞こえる、蒸し暑く深い森の奥部。
- 銀髪の派手な女が小道から現れ、滝の流れ落ちる音が響く辺りを見回した。
- 从 ゚∀从「お? 誰もいねェじゃねーか」
- 結界を張り終わり湖畔に戻ってきたハインリッヒは、額の汗を拭って、首を傾げた。
- ここにいるだろうと思っていたモララー達が、姿を消していたのだ。
- 从 ゚∀从「でも荷物は置いてあるなァ。木登りでもしてんのかねェ」
- 彼らも魔力を携えているのだから、ハインリッヒの作った結界に反応するはずである。
- しかし、何者かが通ったことを示す警戒音は、今のところ一度も鳴っていなかった。
- ということは結界の内側にいるはずだが、それはあまり広くない範囲なのだ。
- 从 ゚∀从「ま、いっか。荷物があるなら、いつか戻ってくんだろォ」
- 考えようによっては――三人の不在は、ハインリッヒにとって不都合なばかりではない。
- 彼女の背中に負わされた任務は、決して、誰かに知られてはいけないものだからだ。
- あの三人にも、教えるつもりはなかった。
- ハインリッヒは腰元のポーチを開いて、中から折りたたまれた数枚の紙を取り出す。
- それは何やら厳しい文字がびっしりと綴られた、権威の匂いを感じさせる紙だった。
- 22: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:19:45.67 ID:IhSoGJD10
-
- ゆっくりと広げ、ハインリッヒは目を細めてその紙を見る。
- 【『守り人』の討伐任務】
- 一枚目の紙にはそう記されていた。下部にはいくつかの署名と検印が押されている。
- その中にはウォルクシア国王・ジョーンズの名も含まれていた。
- ハインリッヒは現在ウォルクシア王国科学庁に所属している。少なくとも公的には、だが。
- しかし実際に科学庁の職員としては働いておらず、世界中を放浪している。
- それを許すのは強力なバックアップの存在――すなわち、ウォルクシア王家。
- 実質、ハインリッヒは国王直属の私設兵に近い存在となっている。
- 兵士と違うのは、たいてい常に国の外に出ている点と、供給される莫大な研究費である。
- 新分野に挑戦し続ける彼女の研究は、国庫でなければ賄いきれないほどに膨れ上がっているのだ。
- かつて資金の見返りに要求されたのは、国への絶対忠誠。そして非公式任務の遂行だった。
- その非凡な頭脳と、そこそこの戦闘技能。それをジョーンズが欲した。
- 束縛を嫌うハインリッヒだが、潤沢な資金源という誘惑には抗えなかった。
- 魔術士養成所と同時に科学庁に(形だけの)就職をし、そして自分の研究を始めた。
- 胸糞の悪くなるような任務も、渋々片付けてきた。
- 世界のためだと、自分に言い聞かせて。
- 从 ‐∀从(世の中、カネがなけりゃ何もできねェんだよ)
- だからこそ羨ましい。モララーやデルタやツンが、無邪気な学生達が。
- 無限の可能性を信じ、また実際に自身を如何にでも変えていくことのできる存在が。
- 26: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:23:09.97 ID:IhSoGJD10
-
- こういった思考の末路は諦念か後悔でしかない。
- それを知っていながらも、ハインリッヒは自分の明晰さ故に考えてしまう。
- 自分はいったい何をしているのか。
- いったい何をすれば、自分に与えられた運命を変えていけるのか。
- ――答え合わせができるのは、死ぬときだ。
- 从 ゚∀从「はァ……」
- 何はともあれ、今は『守り人』だ。
- あの巨人に近づく方法を探らなければならない。
- 从 ゚∀从「あんだけでけェんだからラクに近づけるだろうと思ったら、そうでもねーんだなこれが」
- 現在、インクレクの村人達が使っている道の中で、『守り人』に続くものはない。
- 『守り人』を尊敬し崇拝しているのだから、一つくらい道が拓かれてもおかしくないのだが、
- ハインリッヒが想像していた以上に村人達は敬虔な信者であるらしい。
- 結果として、獣道や樹木の隙間を縫って歩かなければならないことになる。
- それはまだいい。目標を視認できないことのほうが問題なのだ。
- 从 ゚∀从「鬱蒼としすぎだよなァ……」
- 生い茂る木の葉や枝、蔦。そして起伏に富んだ地形。
- それらのせいで、「近づけば近づくほど目標を見失う」というジレンマに陥っていた。
- 30: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:25:58.25 ID:IhSoGJD10
-
- せめて地形を記した地図でもあれば話は別なのだが、生憎とそうは上手くいかない。
- どうにかして『守り人』の位置を確認して、そこまで通じる道を探さなくてはならないだろう。
- 考えられる方法はいくつかある。
- @飛行能力を持つ悪魔を偵察に使う、もしくは乗る
- 从 ゚∀从「残念ながら俺の使い魔に飛べるやつァいねーな……」
- A森を焼き払いすっきりさせる
- 从 ゚∀从「出来なくはないが、ひでェ山火事になっちまうぜ」
- Bたどりつけない。現実は非情である。
- 从 ゚∀从「ぶっ殺すぞ」
- 湖の前をうろうろと歩き回りながら、ハインリッヒはうんうんと唸る。
- しばらくの後、幸いにして時間にはまだ余裕がある、と結論付けた。
- 果報は寝て待て。最善を尽くせば、結果は自然と向こうからやってくるだろう。
- 強行手段に出るのは万策が尽きてからでも遅くはないのだ。
- 从 ゚∀从「んじゃ、この湖の周りから地理を把握しようかねェ」
- 34: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:29:08.07 ID:IhSoGJD10
-
- 手でぱたぱたと顔を扇ぎながら、ハインリッヒは去っていった。
- ――彼女の背後、滝が注ぎ込む大きな湖。
- 青々と水を湛えるその湖の底には、人知れず眠っている巨大な地底空間がある。
- その内部では、洞穴に閉じ込められた魔物が眼を光らせ、侵入者を防いでいる。
- そして――広大な空洞から続く細い穴を、延々と潜っていくと、
- 最終的にその道は地上にまで達していく。
- 実は、この洞窟こそがハインリッヒの探し求めていた道なのである。
- すなわち『守り人』のお膝元。
- 現在モララー達がいる場所だ。
- 37: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:32:08.40 ID:IhSoGJD10
-
- ( ・∀・)「うおおおお……」
- モララーはまず、その桁違いのスケールに驚愕した。
- その身体を構成しているのは種類も様々な植物であった。
- 大樹や幼木の幹が捩れ合い絡まり合い、全体として巨大な一つの存在を形作っている。
- 遠くから暗緑色に見えたのは、その表面に生えた苔や地衣類のせいだった。
- 『守り人』。
- 眼前にして初めてその巨大さを実感できる――頭部など、かすんで見えやしない。
- 足の指さえ、優にモララーの身長を超えてしまうような太さだ。
- 首の痛さも忘れて真上に顔を向けていると、次第にその全貌が把握できてくる。
- 子供のように膝を抱えて座る、途方も無く膨大な存在。
- まるで自分が蟻か何かになったかのような錯覚を、モララーは味わった。
- ξ゚听)ξ「…………」
- ( "ゞ)「…………」
- 彼の横に佇む二人も、同じように『守り人』の迫力に打たれ、言葉を忘れていた。
- 荘厳で緊迫した時間が――爽やかな風の吹き抜ける草原を、しばし包み込んだ。
- 40: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:35:04.86 ID:IhSoGJD10
-
- 『そう驚くことはない。君達が見ているのはただの抜け殻だ』
- 朗々と響くその声は、あくまで優しげに、三人に語りかける。
- 声色は壮年の男性に似ていたが、性別や年齢といった些事を超越するような響きを持っていた。
- ( ・∀・)「ぬ……抜け殻?」
- 『そうだ。この大きな体は私ではない。顔を下に向けたまえ』
- 声に言われるがままに下を向く。
- すると、『守り人』の足下に、1メートルほどの小さな樹が生えていることに気付く。
- ξ゚听)ξ「え……まさかあれが?」
- 『二重の驚きかね。まあもう少し近くに寄って来たまえ、若人達よ』
- そよそよと葉が揺れる草原を歩く三人。ここは外界の喧騒から隔離されたかのように静かだ。
- 側に立つと、やはり若々しい青葉を身につけた幼木であった。
- 『ふむ、素直でよろしいことだ』
- ( "ゞ)「あなたが、『守り人』なんですね?」
- 『率直だな。実に素晴らしい。そして美しい響きだ。ヒトは私をそのように呼ぶのだったな』
- くつくつと抑えるような笑いと共に、声は答える。
- 44: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:38:08.64 ID:IhSoGJD10
-
- ( ・∀・)「あんたが『守り人』なら、後ろのデカいやつは何だ?」
- 『「守り人」だよ。……少なくとも、そう呼ばれているのはそっちのほうだ』
- ξ゚听)ξ「さっき、抜け殻って」
- 『そう。二十年以上前は私の本体だったが、我々は五百年ほどで生まれ変わるのだよ。
- 今はこの貧弱な身体が私自身であり、後ろの巨樹はただの抜け殻にすぎない』
- ( "ゞ)「あなたは……」
- いったん口をつぐみ、デルタはよく考えた上で言葉を紡ぐ。
- ( "ゞ)「あなたは、何なのですか」
- 『……ふむ。別に秘密にしているわけではない。知りたければ教えてやろう』
- 『私は、「神木ユグドラシル」だ』
- ――その単語には、三人が三人とも聞き覚えがあった。
- 『神木ユグドラシル』。その名の通り、神が遣わした木。
- 45: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:40:56.33 ID:IhSoGJD10
-
- かつて、神は世界を創り、そして洗い流した。
- ( ^ω^)『おいすーwwww久々に登場wwwwww』
- ( ^ω^)『さて、世界を洗濯したのはいいけど、どうするかお』
- 四日目『木』。
- 神は水に浸かった世界に数個の種を蒔いた。
- ( ^ω^)『行け! ユグドラシル! 君に決めた!!』
- その種こそが『神木ユグドラシル』。命を生み出す世界樹である。
- 海に沈んだ数個の種は水を吸い上げ、海面は低下し、やがて新しい陸地が現れた。
- かつてのゴンドワナランドのような――唯一の大陸。
- ( ^ω^)『じゃあ後は頼んだお。君達の獅子奮迅の活躍に期待するwwww』
- 『任せてください。神よ』
- 種より生まれた巨人達は天に向かって敬礼をした。
- 49: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:43:11.33 ID:IhSoGJD10
-
- 彼ら『ユグドラシル』は、地を草木で覆い、鳥や獣たちを生み出した。
- 人間がいないという一点を除けば、世界は、かつての姿を取り戻しつつあった。
- 神木たちは粉骨砕身して世界の復興に努めた。
- 広大な大地を歩き、海を渡り、山を越え、恵みを与え続けた。
- いくら神の創りたもうた神木と言えど、地の全てを命で満たすのは容易ではなかった。
- ある木は誤って流砂に足を踏み入れ、乾いた砂の下に飲み込まれた。
- ある木はその高さゆえに雷に打たれ、立ったまま数日間燃え続けた。
- ある木は絶海の孤島に歩き行く途中、海淵に呑まれ水の底に沈んだ。
- それでも彼らは孤独に戦い続けた。
- やがて神の予想していなかった事態が起こる――人間の復活である。
- 長い間魔界に隠れていた人間が、ついに現実界に帰還したのだ。
- 彼らは悪魔を引き連れていた。神に仇為す不吉な者を。
- 『ユグドラシル』には「人間と戦え」という命令は与えられていなかった。
- だから、その仕事は天使に任せ、神木達は気ままに歩き続けた。
- やがて恵みが隅々まで行き渡ると――役目を終えたユグドラシルは、地に倒れ伏した。
- 大地を造った神木は、自らが大地の一部となった。
- 52: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:46:28.89 ID:IhSoGJD10
-
- ( "ゞ)「――だけどあれは、伝説のはず……」
- 魔術士養成所で教えられる歴史では、『神木ユグドラシル』は伝承上の存在とされている。
- 「長年の研究により、神木の実在はほぼ否定されている」という一文と共に。
- 『では、君に問おう。神木でないというのなら、私は何だ』
- ( "ゞ)「それは……」
- デルタは答えることができない。伝説上の巨木、ユグドラシルを除いて、
- ここまでの大きさになる存在というものを思いつかなかったからだ。
- 『無論、ヒトが語り伝える言葉には誇張や誤謬も多い』
- しかし本当に大切な部分というのは変わらないものだ――と、若木は言う。
- 『この世界に生きる神木も、もはや私という個体だけだ。寂しいものだな』
- 『楽しみと言えば、君達のような若人と語らうことだけだ』
- ( ・∀・)「俺たち以外にも、ここに来たやつがいるのか?」
- 『村の子供を除けば、十年に一度くらいだがな』
- 53: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:49:12.94 ID:IhSoGJD10
-
- 『そうだ、君達はもしや小犬を探してはいないかね?』
- ( ・∀・)「ビーグル! あーそうだすっかり忘れてた!」
- 『私の抜け殻の後ろ側に回りたまえ。実によく眠っているよ』
- その言葉を聞き、モララーは走り出した。三角座りの巨人の足下を駆ける。
- 息が上がりそうになるほど時間がかかって、ようやく草原に眠る毛玉を発見した。
- ▼-ェ-▼スースー
- ( ・∀・)「おぉ……クソむかつくほど寝てやがる……」
- ( ・∀・)「蹴りてぇ」
- ( ・∀・)ウズウズ
- ( ・∀・)「ちょっとだけ……一回だけ……」
- ▼-ェ-▼モゾッ
- Σ(・∀・;)ビクゥ
- ( ・∀・)「……罪の無い動物を虐待することは許されないな、うん」
- ( ・∀・)「……罪が無いかどうか、微妙なラインだけども」
- 55: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:52:25.08 ID:IhSoGJD10
-
- 毛玉を肩に担いで、モララーは二人のところに戻ってきた。
- ξ゚听)ξ「無事なの? 良かったじゃない」
- ( ・∀・)「ああ。ついでに自分との戦いにも勝ったぜ」
- ξ゚听)ξ「一回り成長できたのね。えらいえらい。よしよし」
- (#・∀・)「頭を撫でるな! 何様だお前は!」
- ξ゚听)ξ「なんか前回の扱いが酷いって言うから、今回は優しくしてあげようと思って」
- ( ・∀・)「前回!? 意味不明な時間の単位を持ち出すな!」
- ( "ゞ)「うるさいよ君達!」
- くつくつとユグドラシルは笑う。
- 『やはり若人のエネルギーは良いものだ。こちらまで元気になる』
- 『差し支えなければ、君達の話をきかせてくれないか。世界は今どうなっているのか?
- インクレク村の子供は全くの世間知らずで、その点は期待できないのだ』
- ( ・∀・)「だってよ、デルタ」
- ξ゚听)ξ「期待してるわよ、デルタ」
- (;"ゞ)「また負担を僕だけにかける! 君達は仲がいいのか悪いのかどっちなんだ!」
- 59: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:55:15.47 ID:IhSoGJD10
- 『――ふむ。聞いた限りでは、戦争自体に進展は見られないようだな』
- ( "ゞ)「長い目で見れば、そういうことになるでしょうね」
- 休戦協定やそれの一方的な破棄など、様々な事件が起こってはいるが、それは歴史を変えるほどのものではない。
- ましてや、新暦を千年以上も生きるユグドラシルにとっては、些事でしかないのだ。
- 『私としては、人間が勝とうが神が勝とうがどうでもよいのだ。
- これ以上大地が傷つき、無辜の命が失われてしまうこと、それだけは避けたいがね』
- 一定の調子で淡々と、声は響き続ける。
- 『同志が地に還った時――私も倒れ、腐り落ち、生命の礎となるはずだった。
- だが、ちょっとした好奇心が湧いてきてね。「この世界はこの先どうなるのだろう?」と思った。
- 私達神木が懸命に作り上げた世界は、果たして美しいまま続いてくれるのだろうか、と。
- それだけが心配なのだよ。それだけのために、私は独り生きてきた。この広場を住み処として』
- ( ・∀・)「…………」
- ある種の切なさすら感じられるような言葉に、しかしモララーは何か寒いものを感じた。
- 一つの目的のためだけに千年を生きる巨樹。そのような存在が、目の前に、ある。
- 巨大すぎる。壮大すぎる。自分は、相対してよいほどの力を、持っているのか?
- 61: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 18:58:22.93 ID:IhSoGJD10
-
- ( ・∀・)「あんたは」
- モララーは、気になっていたことを訊くことにした。
- ( ・∀・)「リカーナ=ロードネスという男を、知っているか?」
- ( "ゞ)「!」
- モララーの伯父、反逆の徒、『天才』リカーナ=ロードネス。
- 彼もまたリワリの滝に来た可能性がある以上、ユグドラシルと接触した可能性はある。
- 『リカーナ=ロードネス? 悪いがヒトの名前は覚えられなくてね……』
- ( ・∀・)「二十年前かそこらに、ズーパルレに来たかもしんねーんだけど」
- 『二十年。ふむ――それは非常に魔力の強い若者だったか?』
- ( ・∀・)「そうだ」
- 『だとすれば彼のことか。彼は途方も無い魔力とそれを制御する才能を持ち合わせていた。
- このまま行けば神すら倒してしまうのではないかと思い至るほどにね。
- 彼はどうなったのかね。今頃は相当に強力な魔術士に成長しているのだろう?』
- ξ゚听)ξ「…………」
- ( ・∀・)「リカーナは死んだ」
- 『死んだ? そうか。ヒトは儚いな。……そうか。彼にはもう会えないのか』
- 64: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:01:34.26 ID:IhSoGJD10
-
- ( ・∀・)「ついでに言うなら、リカーナは俺の伯父だ」
- 『ほう。では君は偉大なる伯父の背中を追っているという事か? だからここに来たと?』
- ( ・∀・)「そうなるな。別に憧れてるわけじゃねえけどよ」
- 『大変立派なことだ。血族という繋がりは、私や天使達には馴染みが薄い。
- ヒトの良いところはそういうところなのだと思う。物質的なものより精神的なものを重視する』
- ざわざわと空が鳴き、涼やかな風が三人の頬を撫でていく。
- 『……もう少し君達と話していたいところだが、そろそろ帰りたまえ』
- ( "ゞ)「帰るって、どうやって?」
- 『来た道からだ。水を引いてやろう。今、湖の側に来ていたヒトが離れていった。戻るには好機だ』
- ( ・∀・)(ハインリッヒのことか?)
- ξ゚听)ξ「どうして人がいない時でなければならないの?」
- 『私の前に立ってよいのは穢れていない者だけだ。君達ももう五年も経てば、ここに来る資格は無い。
- その決まりは私自身を守る為でもある。理解してくれるな? さあ、水が引いていくぞ』
- 言われ、三人はユグドラシルに背を向けた。草原の片隅、ぽっかりと開いた黒穴を見る。
- 『私のことは誰にも言ってはいけない。それさえ約束できるなら、いつでも来るがいい。
- 千年の間に蓄えた知識を望むなら、許される範囲で君達に授けてあげることもできる』
- 65: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:02:20.50 ID:IhSoGJD10
-
- 歩きながら、デルタが振り向いた。神木はそれ以上何も言わなかった。
- 巨樹と幼木が、まるでそこにあるのが当然だと言わんばかりに、陽光を浴びているだけだった。
- 暗い湖底を歩きながら、三人はそれぞれ違うことを考えていた。
- この出会いの意味を彼らはまだ知らない。
- 66: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:03:35.44 ID:IhSoGJD10
-
- 三人が湖畔に戻り、しばらくして、再び湖に水が満ちた。
- 深い湖だ。あると知っていても、湖底の洞穴を視認することはできない。
- なんとなく深い沈黙に包まれていると、草むらが揺れ、ハインリッヒが現れた。
- 从 ゚∀从「あれ? お前ら、さっきはいなかったよな? どこ行ってたんだァ?」
- ( ・∀・)「……」
- ξ゚听)ξ「…………」
- ( "ゞ)「………………」
- 从;゚∀从「な、なんだよォこの空気は……」
- ぽりぽりと頬を掻くハインリッヒ。何か聞いてはいけないようが気がして、押し黙った。
- 从 ゚∀从「あァ……えっと……そうだ、お前らに手伝ってほしいことがあんだよ」
- 从 ゚∀从「オレは『守り人』を捜してんだけどよォ。ちと手を貸してくんねェか?」
- ( "ゞ)「……『守り人』を? 何故です?」
- 从 ゚∀从「ん? まァ詳しい事は言えねェんだけどな、仕事だよ仕事」
- 68: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:06:50.80 ID:IhSoGJD10
-
- ( "ゞ)(仕事……?)
- 曖昧な言葉を不審に思い、デルタはモララーの顔を見た。
- 一瞬だけその視線を捉えた後、モララーはいつもどおりの軽い調子で答える。
- ( ・∀・)「いいぜ。修行の片手間でいいってんならな」
- ξ゚听)ξ「ちょっ……」
- 从 ゚∀从「オーケーオーケー、それなりに褒美は用意しとくからよォー」
- ハインは満足そうに笑い、三人に背を向けて手をひらひらと振った。
- 从 ゚∀从「それと、そろそろ帰る準備をした方がいいぜェ。結界は張ったが、暗くなると危ねェからな」
- そして、インクレクの村へと続く道を歩いていった。
- ハインリッヒの背中が見えなくなった頃合を見計らって、ツンがモララーに詰め寄る。
- ξ゚听)ξ「ちょっと、あんな約束して大丈夫なの?」
- ( ・∀・)「断るほうが不自然だろ? 適当に捜すフリさえしときゃ大丈夫だって」
- ( "ゞ)「しかし、ハインさんはどうしてユグドラシルを捜しているんだろうね。
- 科学者としての仕事に何か関係があるとは思えないけどな……」
- ( ・∀・)「……それを考えるのが、お前の仕事だ」
- ( "ゞ)「やだよ面倒くさい」
- 70: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:10:38.93 ID:IhSoGJD10
-
- それぞれの荷物をまとめ、ビーグルをポケットに突っ込み、モララー達は帰路に就いた。
- いつの間にそれほどの時間が経っていたのだろうか、辺りはやや薄暗くなり始めていた。
- 彼らは昼食を食べていないはずだが、不思議なことに、それほどの空腹を感じていなかった。
- お世辞にも歩きやすいとは言えない道を、行きと同じ小一時間ほど歩いて行く。
- インクレクの村に到着する頃には、もう既に日は沈み、静かな闇が樹海を支配する時分になっていた。
- それぞれの樹を護るように建つ家々に団欒の火が灯り、夜空の星のように輝いている。
- 都市から遠く離れたインクレクの夜は、暗く、静かで、美しかった。
- 『林檎亭』に戻った三人は、ハインリッヒと共に夕食の座を囲んだ。
- 『守り人』の話はもう出なかった。
- ただハインリッヒは、明日からは同行できない、といった類の話をしていた。
- それは三人にとっては望ましい展開であった。ユグドラシルに会いに行くにあたって、
- ハインリッヒの存在は障害にしかならないのであり、出来る限り距離を置きたいと考えていた。
- 相変わらずの豪華な料理に舌鼓を打った後、昨夜と同じように、それぞれの部屋に戻った。
- ( "ゞ)「……さすがに今日はお風呂に入るよね」
- ( ・∀・)「そうだな、泳いだだけじゃやっぱダメだよなぁ」
- 74: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:14:13.81 ID:IhSoGJD10
-
- ( ・∀・)「時間的に、今はツンとハインが入ってんだろうな」
- ( "ゞ)「そうだね」
- ( ・∀・)「…………」
- ( "ゞ)「…………」
- ( "ゞ)「……何を考えているか手に取るようにわかるよ」
- ( ・∀・)「ほう。ならば言ってみろ。ん? なんだって?」
- ( "ゞ)「やだよ。本当に君は、低俗な人間だなあ」
- ( ・∀・)「俺は何も言ってないぞ。そういう発想ができるお前も同じく低俗だと思わないかね!」
- ( "ゞ)「言っておくけど、手伝わないからね」
- ( ・∀・)「なん……だと……? それでも貴様Y染色体の持ち主か……!?」
- ( "ゞ)「魔術はそういう悪事のためにあるものではないんだよ。愚かだねえ」
- ( ・∀・)「くそっ! こんなに自分の無力さを呪ったのは初めてだ、いつか見返してやるからな!」
- ( "ゞ)「まあその頃には君も一般的な公序良俗を身につけているだろう」
- ( ・∀・)「ちくしょう!」
- 76: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:16:45.19 ID:IhSoGJD10
-
- 【何処か】
- 闇に蠢く二つ、三つ、やがて小規模な集団を成す。
- 巨大な剣を背負った男が、それ以外の全員と向き合い、口を開いた。
- ( ФωФ)「全員揃っているな」
- 連合国軍大佐、ロマネスク=ガムラン、彼であった。
- 遥か南のアロウカに居たはずのロマネスク大佐は、今この時、インクレクにほど近い山中に潜んでいた。
- ( ФωФ)「では、報告を始めろ。クレイグ少佐?」
- 『目標の位置を概ね捕捉いたしました。上からの指示に間違いはありません』
- ( ФωФ)「うむ。順調であるな」
- その言葉とは裏腹に、大男の顔には隠しきれぬ疲労が滲んでいた。
- 『ただ、少し気になる事がございます』
- ( ФωФ)「何だ」
- 『目標の周辺を、ハインリッヒ=ハイヒルズ=クラシカがうろついています』
- ( ФωФ)「……何? あの『科学者』が、であるか? そんな話は聞いてないが……」
- 『ええ。軍の方からは何も聞いておりません。ですよね?』
- 81: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:20:25.29 ID:IhSoGJD10
-
- 『単なる偶然でしょうか? それならば何も問題はありません』
- ( ФωФ)「あの女が動く時には、多かれ少なかれ、ウォルクシアの意思が関与しているはずである。
- 本当に偶然に過ぎないのか、もしくは我々に知らされていない事実が隠れているのか……」
- 『我々のターゲットを護衛するために派遣されている、ということは?』
- ( ФωФ)「可能性はある」
- 悪い事に、とロマネスクは唇を歪めて嗤う。
- ( ФωФ)「『科学者』などと呼ばれ、世間には研究しかできない女だと思われているかもしれぬが、
- 戦闘能力の方も――我輩と比肩する程度には、あるという話である」
- 『まさか。本当ですか? 大佐と同程度?』
- ( ФωФ)「あるいは、それ以上」
- クレイグ中佐は肩をすくめた。上司の言葉を冗談だと受け取ったのかもしれない。
- ( ФωФ)「少し作戦の内容を変更する必要があるかもしれぬ」
- 『様子見ですか?』
- ( ФωФ)「下手に動くとウォルクシアの機嫌を損なう恐れもある。事は慎重を要するのである」
- 84: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:23:29.81 ID:IhSoGJD10
-
- ロマネスクは武人である。政治など繊細な問題は彼の範疇外である。
- とはいえ、大佐という地位にふさわしいだけの常識は持ち合わせているので、ウォルクシア王国と連合国軍の、
- 微妙でデリケートな関係のことはよく理解していた。
- 世界一の大国であるウォルクシアと、人間の総軍事力としての連合国軍。
- その巨大に過ぎる二勢力が、全くの摩擦なしに潤滑に組み合っていくことなど、決して望むべくもない。
- ( ФωФ)「クラシカがどう関わってくるか、それが問題である」
- 『もしも……万一ですが、彼女が我々の邪魔になるようなことがあれば?』
- ( ФωФ)「当然、我々は兵隊であり、軍に仕える剣であるからして――」
- 言葉にするまでもない、という意味なのだろうか。ロマネスクはその先を閉ざす。
- 心得たものである部下たちも、あえて問うたりはしない。
- 密林の夜に獣の遠吠えが響く。
- それは長く、遠く、冷たく澄み渡る音色であった。
- ( ФωФ)「焦る必要はない」
- 部下たちに、あるいは自分に言い聞かせるように、ロマネスクは言う。
- 目を掌の上に落とす。そこには、紫と紺の混じり合ったような宝石が、置かれていた。
- ( ФωФ)「焦る必要は、ない。これ以上失うものが、何かあるか?」
- 86: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:23:59.75 ID:IhSoGJD10
- くだらぬ期待など、全て投げ捨ててしまえ。
- 第十三話:【バカとアクマと召喚術】 了
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