('A`)と怪異のようです

126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 21:50:18.05 ID:1GA02/DQ0
2.やめて


('A`)「やめて」

( ^ω^)「そう、それはある暑い夏の日…」

('A`)「やめて」

( ^ω^)「日差しを避けて森の中へ入った二人の男女は、川の畔を歩いていました」

('A`)「やめてってば」

( ^ω^)「川の水があまりにも綺麗だったので、二人は足だけでも浸かる事にしました」

('A`)「読めた、川に引きずり込まれるんだろ」

( ^ω^)「黙ってろチビ」

('A`)「ずんどこべろんちょ」

( ^ω^)「あー…(やべー先越された)」

( ^ω^)「二人は沢蟹を見つけたり、鳥が魚を獲る瞬間を見たりして楽しんでいました」

( ^ω^)「時間を忘れて、楽しんでいました」

( ^ω^)「すると、いつの間にか日が暮れかけていました」



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 21:53:20.36 ID:1GA02/DQ0

川の畔でいくらか上が空けているとは言え、山奥の日暮れ。
歩いて来た道は、誘い込むように森の中に暗い穴を空けています。
開けている川の畔を歩こうにも、人が歩ける道ではない。
それに、さっきまでは綺麗に見えた川面も、おどろおどろしい色に変わっている。

何処を通っても、こわいこわい。
だからと言って、帰らないわけにはいかない。

男は怯えて震える女の手をしっかりと掴みます。
女は、そんな男の手をぎゅっと握り返しました。
そうして、二人で少しだけ開けた森の中を歩きだしました。

山の中は暗く、まるで夜中のようです。
懐中電灯を持って来ていない二人は、携帯電話の灯りを頼りにしました。
携帯を開いてみると、表示されていた時間は八時半。
二人とも、もうそんな時間だったのかと驚き、焦りました。
山が、時間の感覚を狂わせてしまったのでしょうか。

携帯の充電が心配だったので、まずは男の携帯を使う事にしました。
女は、自分の携帯の電源を切りました。消費を抑える為にです。
男は、明度を最大にする代わり、消費を抑える為に電波を切ります。

頭上からほぅと梟の鳴き声が聞こえて、男女はびくりと肩を震わせました。
英語圏では、梟の声は恐れられるもののようです。
何故なら、鳴き声のほぅがWho?(誰?)に聞こえるから。

「誰? 誰?」

そんないらない雑学を思い出した男の足は、自然と震えてきました。



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 21:55:48.86 ID:1GA02/DQ0

「誰? 誰?」

羽音は聞こえず、問い掛けだけが頭上に木霊します。

彼を正気に戻したのは、手を繋いだ恋人の手の暖かさです。
もう、格好をつけるとかそういった事ではありません。
一人の男として、彼女を守らなければ。
彼は使命感にも似たものを胸に抱きました。

「誰? 誰?」

二人の手は、焦りや恐怖から汗で湿っていきます。
それでも、二人とも絶対に手を離そうとしませんでした。

森林独特の、夏の熱気と湿気を孕んだ空気が二人を撫でます。
その度に二人は互いの手を握りました。

茂みががさっと音を立てるのは風だと思い込み。
木々の枝がざわつくのも風だと思い込み。
後ろから来る何かは追い風だと思い込む。

辺りはどんどん暗くなり、月の光も差さない。
追う物から逃げるように、自然と早足になる。

遭難しているのではないか、という思考に押し潰されないように。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 22:00:54.13 ID:1GA02/DQ0

彼女が何かに足を取られ、体勢を崩す。
それを支える為に踏み出した一歩が、思ったよりも固かった。

二人で確かめるように地面を踏みしめ、下を見る。
土よりも固い地面は、アスファルトで舗装された道路だった。

ピーという甲高い充電切れの音に、同時に顔をあげて頭をぶつける。
繋いだ手を離して、自分の額をさする。
それが少しだけおかしくなって、男女は笑った。

道路には羽虫が集る街灯が頼りなく道路を照らしていたが、何もないよりはいい。
この道を真っ直ぐ下って行くと、麓の村に着く筈。

二人はまた手を繋いで、その道を歩き出した。

民家の明かりは相変わらず見えない。

民家の明かりが見えない。

おかしい。

今は何時だろうと心配した彼女が、携帯で時刻を確認しようとする。
しかし、何度電源のボタンを押しても起動しない。
腕時計もしていない若者二人には、携帯以外で時間を確認する事ができない。

また新たな不安に駆られた男は早く歩こうとするが、女の足が限界だった。



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 22:03:08.42 ID:1GA02/DQ0

おぶる体力も気力もなかった男は、ただしっかりと手を握る。
女が頑張って早く歩こうとするが、息が切れている。
男は女に無理をするなと言って、彼女の歩く速さに合わせた。

それでも、彼女は息を切らしている。
やはりここはおぶってやったほうがいいかと彼女のほうを見た。
だが、彼女は息を切らしている様子はない。

どうしたのと言いたげな目で見て来るその視線が、ふと恐怖に染まった。
少し遅れて、男もそれを理解する。







荒く息を吐く音は、後ろからしている。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 22:06:25.72 ID:1GA02/DQ0

男と女は恐ろしくなって、前を向いた。
後ろに何かいる。複数なのか単体なのかはわからない。

逃げ出したくなったが、頭の中で走り出すのは危険だと警告が響く。
棒のような足に力を入れて、歩き出す。

後ろにいるのは、一定の速度でついてくる。

生臭い匂い。獣の臭い。

息切れではない、犬のあの呼吸のような。

山犬はこの辺りにはいない。

まさか狼か?

だとすると、何故飛びかかって来ないんだ。


男は恐怖から逃げようと、頭を高速回転させる。


麓は少しずつ近付いてきている。
後ろの何かが遠退く気配はない。

変質者の類か何かなら、家まで来させるのは不味い。
だが、そうであってほしいと願う自分がいる。



135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 22:07:38.32 ID:1GA02/DQ0

彼女の足取りに合わせていた筈が、早足になってしまったようだった。
彼氏の速さに追い付くように駆け足気味になっていた彼女が転んでしまう。

すると、その瞬間後ろにいたものの気配が膨れ上がった。
彼女を起き上がらせる為に、視線を後ろに向けてしまう。

男が見たものは、狼とも、犬とも言えない。
彼が知る動物の中にはない、名も知らぬモノの姿だった。


口からは腐臭と汚濁を吐き、濁り曇る目は二人へ注がれ…












(  ω )「…さて、」



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 22:12:06.57 ID:1GA02/DQ0

部屋の電気はいつの間にか消えている。
顔を上げた内藤の顔は見えない。

動いていい雰囲気じゃなかったので、俺はその場で黙って内藤の話を聞く。

 「送り狼と言う話があるお」

遠くで、狼の遠吠えが聞こえた気がした。

 「夜中に山道を歩くと、後ろからぴたりとついてくる狼が送り狼と呼ばれ
  地方によっては犬とされたり、単に山犬や狼と呼ばれるものもある
  呼び方も地方によって異なれば、送り狼の行動も地方によって違う」

窓の外に、何かがいる。

 「ただ、どの地方にも少し共通している送り狼の行動がある」


『何かの拍子で転んでしまうと食い殺されてしまうが、「どっこいしょ」と座ったように見せたり
 溜め息交じりに座り転んだのではなく、少し休憩をとる振りをすれば襲いかかってこない』


 「…ある地域によっては、送り狼が旅人を突き飛ばしたり、体当たりをしてくるとか
  そして、旅人が転ぶよう仕向ける事もあり、襲いかかって来るのが群れだと言うのもある」

俺は、ゆっくりと肺に溜まった空気を押し出した。



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 22:13:31.79 ID:1GA02/DQ0

 「振り返って姿を見た者を食ってしまうとあれば、家に帰るまで守ってくれるともある」

 「家まで着いて来た時は、一言お礼を行ったり、何か食べ物をやると帰るともある」

 「それか、草履の片方とやると満足していなくなるともある」

 「これに似たモノで、送りいイタチは草履の片方をやると咥えて帰って行くそうだ」

 「送り狼の小便が目に入ると、失明してしまうと言う話もある」



( ^ω^)「…さあて」

内藤の顔が、月明かりに照らされて露わになる。
いつも浮かべているその柔和な笑みに、俺は心底安堵した。

( ^ω^)「送り狼は、振り返った男を襲ったのかね?
      それとも、転んだ女を食ったのかねえ?」

('A`)「さあ…」

あまり、考えたくない自分がいる。
内藤はその柔和な微笑みを嘲笑に変え、長岡のほうを向いた。

( ^ω^)「ねえ、どっちだお?」



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/08(木) 22:15:55.24 ID:1GA02/DQ0

____________________________

藁が敷かれた地面に、一人の人がガソリンを被って座っていました。
それを見た通りすがりは、まさか命を捨てる気なのか、と思いました。

引き留めようと声をかけます。
それに人は応えました。

「俺ってばメタセコイア」

そう言って、人は藁に火を着けました。
通りすがりは、人を引き留める事が出来ませんでした。

____________________________


5” 『送る狼はしょうがない』
                     おしまい



他の選択肢

戻る