( ^ω^)とひぐらしのなく頃に。のようです

74: ◆9d9cVF02x2 :2007/07/07(土) 21:27:09.12 ID:FULGBmCM0
【最期の願い】

妻と二人で少し遠出をして、映画を見に来ていた。
40歳にもなって、デートだなんて少し恥ずかしい気もした。
現に、息子にもおちょくられた始末である。

でも、隣に座る妻の無邪気な笑顔を見て、偶にはこういうのも良いものだなと思う。
年甲斐もなく、愛しているなんていう言葉が口から零れ落ちたのも良いことなのだろう。

見終わった後は、喫茶店でお茶をしながら映画の内容について、語りあう。
ここまでくると、気恥ずかしい気持ちなんて吹き飛んでいた。
今はただ、学生時代の頃のように、二人の時間を楽しみたかった。


日が暮れ始めたので、息子へのお土産を買って、帰路につく。
駅までは少し歩くので今日の事を思い返す。
家に帰ったら、デート楽しかったぞと息子に開き直ろうかな、なんてことを考えていた。

特別な事はないけれど、幸せな一日。


になる筈だった。



76: ◆9d9cVF02x2 :2007/07/07(土) 21:28:24.17 ID:FULGBmCM0

息子もきっと、お腹をすかせて待っているなどと、妻と当たり障り無い話をしながら歩いていた。
駅まで、あと歩いて5分といった場所で横断歩道に捕まる。

信号機の赤色には妙に不安を覚えさせられた。
だれしもが、一度は感じるのではないかと思う。
それは、赤という色に少なからずの嫌なイメージがあるから。


ようやく青になった信号、歩き始める二人。
丁度、真ん中辺りで立ち止まる。

バッグに付けた交通安全のお守り。
それの紐が切れ、道路の真ん中に落ちてしまった。

この時点で不吉に気付くべきだった。



78: ◆9d9cVF02x2 :2007/07/07(土) 21:29:31.80 ID:FULGBmCM0

慌てて落ちたお守りを拾い、握り締める。
突如、右方向から目が眩むほどの強烈な光。
それが、信号無視をしたトラックだと気付いた時にはもう遅かった。

巨大な鉄の塊は易々と私の体を浮かび上がらせた。

60キロを超える人間が軽々と吹き飛ばされる。
それは、普通の日常ではあり得ない事。

でも、今この場で起きている事は間違いなく現実で。
でも、現実とは思えないほどゆっくりと時は流れて。

信じたくなかった。
この走馬灯ともいえるような時間が終わったとき、私は間違いなく人生を終える。

隣にいた彼女も同じように、生を止めようとしていた。
せめて、妻だけでも。
そんな、願いすらも今となっては無駄だった。



80: ◆9d9cVF02x2 :2007/07/07(土) 21:30:22.91 ID:FULGBmCM0

私達がここで死んでしまったら、残された息子はどうなる?
自分でいうのもなんだが、よく出来た子だと思う。
しかし、中学生である事に変わりは無く、一人で生きていくにはまだ幼い。

そう考えると、もう一度あの子に会いたい気持ちが心の中で渦巻いた。
そして、妻と一緒に愛を注いであげたかった。
まだまだ、あの子にするべき事はたくさんあったのに。


どうして、私達はここで死んだしまうんだ。

どうして、私達は息子に何も残してやれない。

どうして、神様は私達を救ってくれないんだ。


握り締めていたお守り。
交通安全の神様が原因で死ぬだんて、あまりにも世界は無慈悲だ。

でも、今の私に出来る事は祈る事だけ。
自分を殺した神様に、今度は救いを求める。



82: ◆9d9cVF02x2 :2007/07/07(土) 21:31:40.36 ID:FULGBmCM0

お願いです。
あの子を守ってあげてください。

お願いです。
あの子を救ってあげてください。

お願いです。
・・・あの子に愛を与えてください。


それだけが私が残せる最期の願い。



ゆっくりと流れていた時が戻る直前、聞こえる声。
誰かが私に「ごめんなさい」と・・・。



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