( ^ω^)とひぐらしのなく頃に。のようです

3: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:04:06.85 ID:3A3Z81I80

何かに追われ続けていた。

走っても、走っても逃げられない。
体は自分の物でないかのように重く、だけど浮いているかのように軽く。
地に足を踏めず、空を走ろうと足掻いている……そんな風に。



やがて後ろの何者かが、僕の肩を掴む。

その手は肉を、骨を焼くように熱くて、赤くて、黒くて。
引き離す事なんて出来やしない。
僕は助けてくれと、姿も見ないままのそれに必死に乞い続ける。



聞こえる静かな息の音。

ゆっくりとした、小さな吐息。
不自然に落ち着いた、小さな吐息。
当たり前のように僕の耳元に吹きつける小さな吐息。



5: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:06:55.49 ID:3A3Z81I80

ゆっくりと振り返ると、そこには……鬼がいた。

何者でも構わず、震えあがらせる形相。
何者でも構わず、引き裂けるような凶暴性のある爪。
何者でも構わず、喰らい尽くしてしまいそうな大口。


僕は悲鳴をあげる。

助けてくれと、
殺さないでと、
逃がしてくれと、

叶うはずも無いと、薄っすらと心の中で分かっていても、喉が潰れそうな大声で叫び続ける。


鬼はにたーと不気味な笑顔を見せる。

僕の怯えた顔がそんなに嬉しいのか。
僕を食べられる事がそんなに嬉しいのか。

恐怖の外堀に、怒りの感情が僕の心の中で渦巻いていく。



8: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:09:11.86 ID:3A3Z81I80

お前は、お前は一体誰なんだ!?

……分からない?


分かるはずがないだろう!!

……くすくす、何をそんなに怯えているのよ。


な、な、怯えてなんかいない!!

……震えた体、擦れた声、くすくす。


今は関係ないだろう!

……そうね。問題は私が誰かだったわね。


そうだ!お前は、何なんだ!?

……ほら、あなたもよく知っているじゃない。



11: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:12:09.04 ID:3A3Z81I80

よく知っている?お前のような鬼を?

……鬼?あらあら、くすくす。


な、何がおかしい!!

……私が鬼に見えるのが、あなたが怯えている証拠になるのよ。


ど、どういうことだ!?

……鬼に見えるのはあなたの幻想、あなたの怯えた心が見せる幻。


幻?

……そうよ、本当は貴方も気付いているんでしょう?私の正体を。


鬼の体が、顔が溶けていく。
……いや、これは鬼の表面にある膜が少しずつ消えていっている。



13: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:14:45.39 ID:3A3Z81I80


……そして、それは現れた。

艶やかな黒く、長い髪。
僕よりも、ずっと小さな体。
顔に浮かぶ不適な笑み。



梨花「ほら、ブーン、私と遊びましょうよ……くすくす。」



16: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:17:53.54 ID:3A3Z81I80

(;゚ω゚)「うわあああああああ!!」


目が覚めると同時に、自分でも驚くような悲鳴をあげる。
何かひどい夢を見ていた、そんな気がした。

気持ちを落ち着かせて辺りを見回すと、そこは僕の部屋。
心安らぐ、僕だけの憩いの場所。

恐れる物なんて、いない。
そう思うと、体の熱が少しずつ抜けていき、思考が正常に戻っていった。



( ^ω^)「まだ、5時かお……」

目覚まし時計も、今はただ時計の針をすすめるだけ。
両親も起きていない、学校の支度を始めるのも早すぎる時間だった。

でも、もう一度寝なおす気分にはなれなかった。

それは寝巻きが汗でぬれているせい。
……いや、この原因を作った悪夢のせいかもしれない。



17: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:21:29.91 ID:3A3Z81I80

とりあえず、着替えだけ済まして椅子に座る。
長時間座るには不都合な硬い座席だけど、今はそれで良い。
硬くて、温もりを感じさせないそれは、眠気を吹き飛ばしてくれそうだから。


( ´ω`)「……はぁ」

天井を見上げながら、深いため息をついた。
ため息を一度つくたびに、幸福が逃げていくなんて迷信があったっけ。
実際はそんな事で、人の運命が変わるはずなんてない。

人の運命は強固な意志で決まる……つまりは絶対的な力を持っているのだから。



カレンダーに目をやって、ため息。
何か物事を考えて、ため息。
時間が過ぎたかなと、期待して時計を見て、ため息。

そんな事を何度も何度も繰り返す。

……こんな憂鬱な朝を過ごすようになってから、もう3日か。



19: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:25:14.36 ID:3A3Z81I80

僕の心をどん底に落とした、あの日。
……梨花ちゃんと、会話をした日。


その日の僕は、強い希望に満ち溢れていた。

梨花ちゃんを、この昭和58年の袋小路から助け出してあげようと。
仲間を、世界を、僕達の未来を作り出そうと。
今までの幸せを壊されないために、心に誓いを立てた。


梨花ちゃんに、僕の気持ちを伝えれば、きっと協力してくれるだろうと思った。
僕が他の世界から来たと、そう言っても信じてくれるだろうと思った。

だって、僕達は仲間だから。
信じあい、助け合う関係だから。

でも、現実はそうはいかなかった。
それどころか、僕の想像の遥か遠くを突き進む展開をみせた。



25: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:28:13.54 ID:3A3Z81I80

彼女の言葉に、一度は耳を疑った。
いや、それは確かに僕に届いていた。

でも……心が、体が、受け入れることを拒絶していた。



彼女はこう言った。

「……ブーンは前の世界で私を殺しましたですか?
   そして、今回も私を殺そうとするつもりですか……?」

と。
普通の人なら、何を言っているんだと笑い飛ばす内容。
下手をしたら、むしろあなたが大丈夫かと問い返されるような質問。

でも、僕達は残念な事にそうはならない。

ここは雛見沢。
彼女は百年を生きる魔女。
そして、僕は真実を知る別の世界の住人。


……普通でなくなるには、充分過ぎるほどの要素を兼ね備えていた。



26: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:31:33.23 ID:3A3Z81I80
あまりに突拍子も無い内容の話だった。
心臓の音が大きくて、考える事に集中出来なかった。
僕より先に話をされてしまって、心の準備が出来ていなかった。

だから、それを理解するのには、いささか時間を要した。
こんな風に言い訳を付けて、そう思おうとした。



彼女の言葉を拒絶していた筈の頭。
……実はそんな事はなかった。

僕は高速で理解していた。
本当は、この世界に来た時から薄っすらと感づいていたのだ。

認めたくなかった。
そんな事実を信じたくなかった。

でも、僕は……完全に思い出してしまった。



30: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:35:33.95 ID:3A3Z81I80

僕の犯した過ち。
許されることの無い罪。

トリガーは他ならぬ彼女の言葉。
思い出したものは前の世界の記憶。


手に甦った、金属バットの重み。
耳に甦った、骨が砕ける鈍い音。
目に甦った、赤と黒で染まっていく世界。

体に甦った、全てを終えたときの疲労感。
心に甦った、やり遂げた気持ちと後悔が混じった、ドロドロの感情。

僕の全てに甦った、梨花ちゃんを殺したという記憶。



……全てを思い出した。

喉の痒み、レナがくれた温かさ、最期に聞いたひぐらしのなく声。
そして、とめどない後悔の念が、一気に押し寄せてきた。



31: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:39:33.66 ID:3A3Z81I80

……だからこそ、僕は何も出来なくなってしまった。
梨花ちゃんは、何度も何度も僕に問いを重ねる。

どこか違う世界で私と会ったような記憶はないか?と。
金属バットについて、なにか感じる事はないか?と。
大きな後悔を背負った記憶はないのか?と。


どれも傷口に塩を塗るかのように、僕の心を痛めつけるような質問だった。
これ以上ないほどに僕の心は混乱し、質問に答える事など出来るはずがない。



僕の口から漏れる言葉にならない声。

言い訳をしようと、必死になった。
梨花ちゃんにそんな事は無いと、言いたかったんだ。

でも、上手く喋れない。
う、あ、と息が口から通り過ぎるだけのように音が出るだけ。



33: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:43:01.94 ID:3A3Z81I80

それは僕が真実を認めようとしていたからかもしれない。
罪を誤魔化さずに受け入れようと、心の奥で思っていたからなのか。

質問は増えるばかり。
僕は結局、何も答えらなかった。
仕舞いには口を閉ざし、俯いて時が流れるのを感じるだけだった。



やがて、梨花ちゃんが質問をするのを止めた。
僕はようやく、この地獄から抜け出せるのかと、心の奥で歓喜した。

……でも、そんな気持ちもすぐに消え去った。


質問を諦めた彼女は、帰ろうとした。
その時の僕では、話をすることなんて出来ないから、それで良いと思った。
そこまでは良かった。



34: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:44:05.70 ID:3A3Z81I80

でも、梨花ちゃんが帰り際に見せた、あの顔、あの目が忘れられない。
まるで呪いのように、僕の脳裏から離れることなく訴え続ける。


あの悲しげな表情は僕に語る。

信じていたのに、
仲間だと思っていたのに、
今までの優しい言葉も全て嘘だったのか、

そう言いたかったように僕は感じた。


あの僕を睨む瞳が僕に語る。

お前が憎い、
お前は仲間じゃない、
お前の事を誰が信じるものか、

そう叫びたかったように僕は感じた。



35: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:45:47.70 ID:3A3Z81I80

彼女を助けようと思い、その為に設けた場であるはず。
まさか、こんな風になるなんて思いもしなかった。

梨花ちゃんとの溝は深まり、
僕は前の世界の罪に悩まされることになり、
世界を救うどころか、億劫な日々を過ごす事になった。

……こんな結末を用意するなんて、現実は残酷すぎる。



深い思考から現実に戻ると、トントンとノックの音が聞こえ、ドアノブが回り始める。

ゆっくりと流れていたはずの時の中、もう学校に行く時間が来たのかと少し驚く。
零れ落ちそうになる涙を抑えて、今日も1日頑張らないといけない、と自分自身に言い聞かせた。


('、`*川「ブーン、朝だよー!……って起きてたの」

( ^ω^)「まぁ、偶には早く起きる事もあるお」

('、`*川「そう?じゃあ、下に降りてらっしゃい。すぐに朝ごはんにするから」

( ^ω^)「わかったお!」



37: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:49:00.57 ID:3A3Z81I80
今の僕に出来る、精一杯の元気な素振りをみせて食卓についた。

かけこんで食べたくなるようなホカホカのご飯。
質素ながらも朝食には充分すぎる、焼き鮭やお味噌汁、漬物などのおかず。
日本という国の伝統を感じさせるような完璧な食事が並ぶ。

でも、やっぱり食欲は湧かなかった。



( ^ω^)「……ご馳走様だお。」

( ゚∀゚)「ん?どうした、全然食ってねーじゃねぇか」

( ^ω^)「食欲が湧かないんだお。」


( ゚∀゚)「それでも食っとけよ!胸が大きくなんねぇぞ!?」

('、`*川「ブーンは男って分かってて言ってるんだから、気持悪いわよね。」


(;゚∀゚)「ちょっとしたジョークじゃねぇか、その包丁はしまっとけよ。」



38: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:51:12.17 ID:3A3Z81I80

ジョルジュなりに僕を励ましてくれたんだろう。
その心遣いに、ほんの僅かだけど笑顔を取り戻せた気がした。


( ^ω^)「それじゃ、そろそろ行ってくるお。」

('、`*川「……ねぇ、ブーン。」

( ^ω^)「ん?なんだお?」


('、`*川「無理はしちゃダメよ?辛いなら一日ぐらい学校を休んでもいいんだから。」

( ^ω^)「うん……でも、僕にはあまり時間が無いから、それはダメなんだお……行ってきます。」

('、`*川「……?まぁ、気をつけて行ってらっしゃい。」


そう僕には時間が無い。
綿流しのお祭りまで、4日しか残されていないのだから。



40: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:53:33.05 ID:3A3Z81I80

あの日以来、学校へは一人で登校している。

輝かしい笑顔をみせる沙都子はいない。
僕と沙都子を楽しそうに見つめる梨花ちゃんもいない。
……登校の時すらも至福の時と感じる内藤ホライゾンはいない。


初めて来た時は、この道を歩くだけで幸せに思えた。
都会と違い、澄んだ空気に緑溢れる道。
贅沢と思える程、自然の素晴らしさを感じさせられた。


でも、今は違う。
彼女達と登校する時の楽しさを知ってしまったから。


もちろん、今もこの雛見沢の環境には満足している。
でも、どこか物足りなさを感じてしまうのも事実。

……背中を落として学校に向かう姿は、自分でも笑えるくらい滑稽だと思った。



42: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:55:33.27 ID:3A3Z81I80

教室のドアを開ける前に、自分の頬をパチンと叩く。
部活メンバーの皆に暗い顔を見せたくはなかったから。


( ^ω^)「皆、おはよーだお。」

レナ「ブーン君おはよー。」

圭一「おっ、ブーン今日は遅刻じゃねぇんだな!」

……余計なお世話だ。



魅音「梨花ちゃんと沙都子はまだみたいだね。とりあえず、おっはよー!」

梨花ちゃんはまだ来てないのか……。
思わず、胸をホッと撫で下ろす。



46: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 20:59:02.91 ID:3A3Z81I80

……?

何故、そんな風にする必要があるんだ?
僕はそこまで梨花ちゃんを避けていたのか?

彼女は僕の仲間で、信じるべき人だ。
少なくとも、僕はそう思っているはず。

……前の世界と同じ過ちを今回も犯そうというのか。



自己嫌悪に陥っていると、知恵先生が教室に入ってきた。
騒がしかった教室が一瞬で静まり、皆が自分自身の席に戻る。


魅音「……きりーつ!礼!」

一同「おはよーございます!」

魅音の号令で、クラス全員が一斉にお辞儀。
……こういう時だけ、魅音が真面目に見える。



48: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:01:46.19 ID:3A3Z81I80
知恵「はい、おはようございます!あら、北条さんと古手さんがいないですね。」

と、知恵先生が言ったところでドアが勢いよく開く。
見れば、沙都子が息を切らして、ゼーゼ−言いながら教室へ入ってきた。


沙都子「遅れて申し訳ありませんわ……おはようございます。」

知恵「おはようございます。遅刻はいけないことですよ。
           古手さんはどうしたんですか?」

沙都子「梨花はちょっと具合が悪いので、お休みするみたいですわ。」

知恵「そうですか……お大事にと伝えておいてください。」

沙都子「わかりましたわ!」


梨花ちゃんは今日お休みか……。
綿流し間近に、調子を崩すなんて梨花ちゃんらしくない気がする。
……ひょっとして…………。




知恵「それでは、授業を始めます。教科書を開いてください。」

授業の内容は耳に入らなかった。
……考えるべきことが多すぎたから。



50: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:05:14.65 ID:3A3Z81I80

休み時間、沙都子の周りには人が群がる。
もちろん、梨花ちゃんの事を聞くためである。
誰が休んでも、事情を知っている人がいればこうなるのが、雛見沢の仲間意識の強さだ。



圭一「なぁ、梨花ちゃんの具合が悪いって言ってたけど大丈夫なのかよ?」

沙都子「それが、よく分からないんですわ。……でも、何か悩んでいるようでしたけど。」

レナ「悩んでる……か。そういえば、ここ2、3日そんな感じだったね。」

胸がドキリと跳ね上がる。
梨花ちゃんが悩んでいる理由は恐らく僕だけが知っていた。
だって、僕と話した次の日から、そんな様子を見せはじめたのだから。

……つまり、僕と同じように梨花ちゃんもまた、あの話に何らかの不安があるのだ。


魅音「お見舞い……とかはどうなのかな?」

沙都子「出来れば、一人にして欲しいと言ってましたから……。」

レナ「もうすぐ、綿流しのお祭りなのにね……それまでに間に合うと良いんだけど。」



54: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:08:56.99 ID:3A3Z81I80

誰もが、暗い表情を見せる。

……それもそうだ。
綿流しのお祭り、その看板的存在の梨花ちゃんがこんな様子では気分も落ち込むというもの。



圭一「大丈夫、大丈夫!なんてったってあの梨花ちゃんだぜ!?
    すぐにケロッとした顔をみせて学校に来るに決まってるよ!
    そんで、綿流しのお祭りでも立派な演舞を見せてくれるって!!」

レナ「……だね!沙都子ちゃんもついてるしね!」

沙都子「わ、私が!?……まぁ、出来る限りの事はやりますけど……。」

魅音「へへ、ようやく元気が出てきたね!でも、そろそろ先生が来るから席に着いた方が良いかもね〜。」


流石は圭一。
暗かった教室を、あっという間に一変させた。
これがムードメーカー、口先の魔術師の力か。

……でも。

会話に加わろうとしなかった。
そんな僕の事を、レナが横目で睨みつけたような気がした。



57: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:12:44.52 ID:3A3Z81I80
流れるように時間は過ぎ去り、放課後。
僕の考えに答えはつかないままだった。

今日の部活は無し。

梨花ちゃんはいないし、圭一はお買い物。
おまけに、魅音もバイトだというので、必然的にそうなった。

それなら、学校に残っている理由など無い。
そう思い、帰りの支度をしていたところ……レナが僕に話しかけてきた。



レナ「ブーン君、ちょっといいかな、かな?」

( ^ω^)「ん、なんだお?」

レナ「あのね、宝探しに付き合って欲しいの。圭一君はお買い物だし……。」

話していることとは反対に、レナの目は真剣だった。
つまり、宝探しを口実に僕に何か話があるのだろう。


( ^ω^)「……別にいいお。」

レナ「わー、ありがとう!じゃあ、早速行こうか!!」



61: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:15:10.02 ID:3A3Z81I80

学校を出て、僕の家とは違う方向にあるダム建設現場に向かう。
そこにあるゴミ山が、レナの言う宝の山だから。

そこへ向かう途中、僕らの間に会話は無い。

レナの顔を気付かれないように見てみた。
遊びに行く雰囲気なんて、少しも感じ取れない。
さっき僕が感じた、レナが何か話があるという予想は正解だったのだろう。



相変わらず、太陽が容赦なく僕達を照りつける。
それでも汗一つかかないレナを見て、少し背筋がゾクッとする。
やはり、この竜宮レナという人物は、普通の人間が持てない力を持っていると思う。

反対に、僕は流れる汗を止める事が出来なかった。
……しかし、これは暑さのためだけではない。

緊張した時などにでる、ベタベタとした汗。
そんな気持ちの悪い冷たさを感じさせる汗が、僕の背中をツーと流れ落ちた。

……ひぐらしの鳴き声。
まるで、こんな僕を嘲笑っているように聞こえた。



67: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:19:18.67 ID:3A3Z81I80

たどり着いた、ダム建設現場。

いくつかのゴミ山を越えてレナが立ち止まる。
……奇しくも、前の世界で僕が死んでしまった場所だった。



レナ「やっと着いたよ。歩いているだけでも、暑くて嫌になるね。」

( ^ω^)「……まったくだお。」

短い返事で会話を終わらせる。
そんな僕を見てか、本題に入る為にレナの目に力が宿るのを感じた。



レナ「私が宝探しをしに、ここへブーン君を呼んだんじゃない事を分かってるみたいだね。」

( ^ω^)「うん、大体は予想がついてたお。」

レナ「へぇー。……もしかして私が話したいことの内容も見当がついてるのかな、かな?」

……このレナの瞳はどうしても好きになれない。
全てを見透かされてしまう、そんな気がするから。



70: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:21:34.43 ID:3A3Z81I80

( ^ω^)「……梨花ちゃんのことかお?」

レナ「うーん、半分は正解かな?」

( ^ω^)「それじゃあ、もう半分は何の事なんだお?」

レナ「……ブーン君自身のことだよ、だよ。
   でも、この二つの事は一つになるから、結局は正解だったのかも。」

レナの瞳が更に鋭くなる。
今の僕の状態を、蛇に睨まれた蛙というんだろうか。



レナ「単刀直入に聞くよ……梨花ちゃんと何があったの?」

(;^ω^)「……っつ!」


レナ「初めはね、ちょっとした喧嘩なのかなと思ってたんだ。
   でも、二人とも元々は仲良しだし、すぐに元に戻ると思ってた。」

レナ「でも、二人ともずっと元気が無いまま。
   月曜日くらいからだったよね、ひょっとしてお休みの日に何かあった?」



73: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:23:26.15 ID:3A3Z81I80

何も答えられなかった。

だって、梨花ちゃんに言われた言葉を人に話すなんて、とてもじゃないけど出来ない。
それに僕自身、答えを出し切っていない。

確かに、僕は……前の世界で梨花ちゃんを殺してしまった。
でも、それを本人に言われて、どうすれば良かったんだ?


認めるのが良かったのか?
彼女を不安に曝すようにして、僕だけが満足するのか?

嘘をつけば良かったのか?
自分が犯した罪を忘れて、のうのうと生きろというのか?


僕には答えが出せなかった。
だから、梨花ちゃんの前で僕は黙ることしか出来なかった。

いや、今もそのままだ。

直接ではないけど、レナにあの時の事を思い出すように言われ、動揺している。
答えのない質問に、答えを出せといわているようで何も出来ないでいる。



76: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:26:35.68 ID:3A3Z81I80

レナ「本当は黙っていた方が良いかなと思ったんだけどね。
   ……お祭りが近いのに、梨花ちゃんが休むなんて、本当に深刻な問題なんだと思ったんだ。」

レナは本気で心配してくれている。
……梨花ちゃんだけじゃなくて、僕のことも。



レナ「梨花ちゃんは苦しんでるんだろうと思う。
   私にはそれが何かは分からないから、手伝えない。
   ……それに、それが何かを聞くことすらも出来ないのが今の現状だから。」


( ^ω^)「うん……。一人にして欲しい人に、無理やり近付くのは、あまり良い事とは言えないお。」

レナ「そう、悩みが大きくなりすぎて、人にすら話せない状態になっちゃったんだね。
   今の梨花ちゃんには時間を置いてから、話す方が良いのかもしれない。」


だけど、とレナは続ける。



80: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:29:39.85 ID:3A3Z81I80

レナ「ブーン君も悩んでるんだよね?
   もしかしたら、梨花ちゃんと似たような事について。
   梨花ちゃんと同じように、自分が押しつぶされそうなほどの大きな悩み。」


レナ「でも、ブーン君は梨花ちゃんと違う選択を選んだ。
   悩んでも、悩んでも、答えを出せなくて不安でしょうがなかった。
   ……だから、ブーン君は誰かに助けてもらいたかった!違う?」


……誰かに助けて欲しいと僕が思った。


レナ「梨花ちゃんは、一人で悩みを抱える道を選んでしまった。
   もちろん、人に話したくないような内容なのかもしれないけど。
   それでも、そんな道を選んではダメだったんだ。」


レナ「本当に辛くなったとき、ダメになりそうになった時。
   そんな時だからこそ、誰かに悩みを打ち明けるのが大事なんだよ。
   ……それが出来る相手が『仲間』なんじゃないのかな?」



85: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:32:21.81 ID:3A3Z81I80

『仲間』

ちっぽけな言葉。
口に出してしまえば、3文字の言葉。

……そんな言葉の筈だが、聞いた瞬間に僕の瞳から涙が零れ落ちた。

レナは僕を仲間だと認めてくれている。
信じあい、助け合う関係だと認めてくれている。

それは、今の僕が最も欲しかった言葉だったのだと気付く。

梨花ちゃんに拒絶された。
仲間であると、認め合うことが出来無かった。
だから、絶望し、涙を流し、悩み、苦しんだ。

そんな僕をレナは仲間であると言った。
こんな僕に救いの手を差しのべてくれた。

……もう、一人で苦しまなくていいのか?



88: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:34:20.74 ID:3A3Z81I80

( ;ω;)「僕は……僕は……!!」

レナ「実はね、さっきの言葉は誰かに聞いた言葉とちょっと似てるんだ。
   不思議な事に、誰かは分かんないんだけど。
   でも、今も胸の奥にずーっと私の大事な記憶として残ってるんだ。」


……『罪滅ぼし編』の世界の記憶!?
そうか、やっぱりこの世界と前の世界は違う。
僕がもう一度、過ちを犯すことなんてないんだ。


レナ「私はあの時私を救ってくれた誰かと同じように、ブーン君を助けたい。
   仲間として、信じあい、助け合いたいと思うんだ……ダメかな、かな?」

( ;ω;)「……僕は罪を犯した人間だお。それでも、仲間と言ってくれるのかお?」

レナ「……さっきの言葉、私が罪を犯した後に言ってもらったんだ。
   だけど、誰かがそんな私でも仲間だって言ってくれた、助けてくれた。
   だからね。私は、その人と同じようにありたいと思うんだ。」


レナの瞳から鋭さが消えていた。
その顔、瞳からは温もりすら感じられるほどに。


( ;ω;)「……ぼくは、ボクハ、僕は!!」



93: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:38:06.37 ID:3A3Z81I80

……全てを話した。
彼女なら、信じてくれると思ったから。

別の世界から来た事。
前の世界で梨花ちゃんを殺してしまった事。
記憶が甦り、梨花ちゃんと距離が出来てしまった事。


彼女は黙って聞いてくれていた。
微笑を僕に与えてくれた。

嬉しかった。

信じてくれている。
一人で悩まなくてもいい。

そんな事実が僕に、久しぶりに心の安息をもたらす。


本当なら、今はまだ真実を話すべきではないのかもしれない。
それでも、僕は安らぎの気持ちが得られたことに満足していた。



97: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:39:35.59 ID:3A3Z81I80
レナ「そんな事があったんだ……。」

( ;ω;)「僕はどうすれば良かったんだお?
      梨花ちゃんを不安にしたくなかった。でも、罪を忘れる事なんて出来なかった!
      考えても、嫌な想像ばかり膨らんで何も出来なかったんだお……。」


レナ「罪を忘れずに梨花ちゃんと仲直り……あはは、それなら簡単だよ、だよ!」

( ;ω;)「……え?」

レナ「ごめんなさいって言えばいいんだよ!
   前の世界だとしても、謝りたい事があるなら、そう言えば良い。
   もしかしたら、許してくれないかもしれないなんて考えちゃダメだよ!!
   ……梨花ちゃんも大切な仲間なんだから。」


簡単に言ってくれるなぁ。
殺された相手にごめんなさいと言われて、良いですよと答えるなんて、どんなお人よしなんだ。

……それでも、僕はレナの言葉を信じたいと思った。

仲間という絆の強さ。
僕の心の強さ。

そんなものを信じてみたいんだ。



100: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:41:47.98 ID:3A3Z81I80
レナ「何があっても、仲間を信じる事を忘れちゃダメだよ?
   強い思いはきっと伝わるんだから。」

強い思いは伝わる。
そうだ、強固な意志は運命を変えるほどの力を持っているんだから!



( ^ω^)「ありがとうだお、レナ……目が覚めた気分だお。」

レナ「あはは、私も役に立てたんなら嬉しいよ!!
   ……じゃあ、宝探しをしようか!!」

(;^ω^)「……え。」



レナ「はぅ〜、これかぁいいよ〜お持ち帰り〜!!」

(;^ω^)「ちょっ、レナ待ってくれお!!」



102: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/09(木) 21:43:20.72 ID:3A3Z81I80

夕焼けをバックにレナは笑った。
そんな彼女に僕は希望を貰ったんだ。

運命はきっと変えられる。
そして、僕は罪を乗り越えられる。

梨花ちゃんともう一度、話し合おう。
今度はきっと、うまくいくはずだ。
強い誓いを秘かに胸に掲げた。



……かなかなかな。

……かなかなかな。

ひぐらしのなく声も前の世界とは違う。
いつまでも、いつまでも、途切れることなく鳴き続けていた。



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