( ^ω^)とひぐらしのなく頃に。のようです

2: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:21:04.25 ID:LdiFmqZV0
一歩一歩、しっかりと踏みしめながら前に進む。
強く感じながら歩かないと、地面が揺ら揺らと動き出す。
もちろん、それが唯の錯覚であることは頭では理解していた。


それでも、僕の心は落ち着かない。
これからの事を考えると心臓が高鳴る。


それはどうやら隣にいるドクオも同じようで。
視線が一点に集中せず、夏場の蚊の様に対象を探して飛び回っていた。



( ^ω^)「ドクオ、深呼吸した方がいいんじゃないかお?」


(;'A`)「ん、ああ……ひっひっふー、ひっひっふー」


(;^ω^)「本気、かお?」



3: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:22:19.29 ID:LdiFmqZV0
悪い気もするが、落ち着いていないドクオを見ると安心出来る。
というよりは、自分がなんとかしないといけないと本能が勝手に作動するのだろう。
人間であるとは面白いな、と意味の分からない笑いが僕をくすぐらせた。



僕とドクオは校内を歩いている。
いや、彷徨っているというのが適した表現だろう。


本来なら、教室にいるのが良いだろうが、ダメだった。
気を紛らわさないと、自分が押しつぶされそうな気分になる。
ドクオもきっと同じ思いだったのだろう。
校内散歩などという、つまらない戯言に付き合ってくれるのだから。


放課後は、あまり人気のない校舎。
僕たちの足音は、やけに廊下に木霊していた



4: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:23:36.85 ID:LdiFmqZV0
( ^ω^)「……今頃、ツンはどうしてるかお」


('A`)「さぁな……少しでも気を安らいでいてくれれば良いんだけど」


ツンと話をした日。
その後も、彼女が僕たちの誘いに乗る事は無かった。


ただ、ほんの少しだけなんだけど。
笑顔を見せてくれる様になった。
それだけでも、僕たちのやった事は間違いじゃないと思わせてくれた。


でも、寂しさは消えない。
それに彼女の傷も消えることは無い。
体も、心も。



5: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:25:02.45 ID:LdiFmqZV0
問題はまだ消えていない。


モナー先生という存在がいるから。
深い傷を負わせた人間がいるから。


僕は知っている。
ツンがあいつの顔を見るたびに震えている事を。
あいつの存在が、今もツンを縛り付けている事を。


負の感情が僕の中で巻き上がる。
悔しさや、悲しさ、そして燃えるような怒り。


……でも、その感情を逆に力に変える



('A`)「あー、雨降ってきたぜ」


( ^ω^)「すぐ止むお」



6: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:26:17.28 ID:LdiFmqZV0
そんな嘆きの思いを暴走させてはいけない。
逆に、昇華させて想いを強くする事に使う。


ツンを救いたいという、その気持ちを。



……あの世界でもこう思えたらなぁ。
なんて考えると、少し胸が痛むようだった。


脳裏に浮かぶ、少女達と少年の姿。


今、何してるかなぁ。
元気でやってるかなぁ。
今度会ったとしても、友達でいてくれるかなぁ。


不思議と、温かいものが胸に溢れるのを感じる。


そうだったな、疑問に思うまでも無かった。



7: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:27:16.29 ID:LdiFmqZV0
きっと、皆なら何事も無かったように言ってくれるだろう。


『仲間』だって。


確証も無いけど、そう思える。
信じているから、僕も。



だから、そんな皆の気持ちを受け止めよう。
信じてくれている人達に、僕がどんな風に生きているかを見せてやろう。


成長した僕なら、きっと人を救う事が出来る。
運命という名で立ちふさがる壁を打ち砕く事が出来る。


僕がツンを救うまでは、そっちの世界で待っていて欲しい。
いつか、きっと必ず、僕も君達の力になりに行くから。


……そんな、届くかも分からない言葉を、空に捧げた。



8: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:28:38.82 ID:LdiFmqZV0
空は曇り、ポツリポツリと雨が降る。
先ほどはすぐ止むと言ったが、恐らくはこの先酷さを増すだろう。
黒く分厚い雲の層から、そんな風に予想できた。


梅雨空らしさが、予定調和を乱さず僕の目に映る。
別に、気分が陰鬱となるとかそういう訳ではない。


唯、本当に世界は変わらないなぁと思った。
誰が生きても、死んだとしても変わらないままなんだろうなと思った。
それだけだ、意味なんて無い。


雨は、もう、嫌いじゃない。


いつまでも、囚われていても仕方ない。



9: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:30:06.58 ID:LdiFmqZV0
( ^ω^)「ドクオ、そろそろ行くお」


('A`)「ああ、行くとしますか」



行く当ての無かった歩みに、標をつける。
向かうは教室、僕たちが日常を過ごす為の場所。


でも、今日だけは違う。
非日常が僕たちの前に姿を現す。


最も、非日常に足を踏み込むのは僕等の意思。
誰に言われるわけでもなく、自分達で決めた事。
その覚悟は既に出来ている。


…そこでは、先生が待っているはずだ。



11: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:32:26.00 ID:LdiFmqZV0
決着をつけるために、呼び出しておいた。
ツンの運命の鎖を今日という日こそ、砕いてあげるために。


救うという言葉を飾りで終わらせる気は無い。
文字通り、彼女を暗闇から本当の意味で助け出す。
その為には、先生の脅威を取り除かなくてはならない。


もちろん、あの世界の様に破壊で終わらしてはいけない。
それでは結局、幸せになんてなれない。
これも、教えてもらったこと。


かと言って、全てを警察に任すのも腑に落ちない。


決着は、僕等の考えた結果で終わらす。
納得のいく終わり方を目指す。



12: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:33:09.16 ID:LdiFmqZV0
それを理想しか見えない馬鹿だと笑う人もいるだろう。


……それでもいい。
馬鹿と笑われてもいい。


理想も見れない奴こそ、本当の愚か者だと僕は思っているから。
それを目指してこそ、幸せが手に入ると思っているから。



( ^ω^)「ドクオ、絶対に信念を曲げてはいけないお」


('A`)「わかってるよ、あれだけお前に言われたら嫌でもね……」


この話をドクオは理解してくれた。
それでこそ仲間だ、というのは都合が良すぎるのだろうか。
緊張感も忘れ、少し頬が緩んだ。



13: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:34:51.69 ID:LdiFmqZV0
教室の入り口、扉の前に立つ。
目に見えない壁があるかのように、妙な圧迫感を感じた。


高鳴った心臓は鼓動を抑えることを忘れる。
呼吸を平常にしようとしても、なかなか戻らない。
良くないと分かっていても、緊張というのは体を蝕む。
同時に、自分の弱さを実感してしまう。


少しばかり頭が良くても、
人より、優れた運動神経があったとしても、


この情けない想いをすることには変わりないのだ。
天才などと言われる者も、所詮は人の子なのだから。


何をするかは、自分でしか決められない。



14: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:36:12.58 ID:LdiFmqZV0
取っ手に手をかけた所で、ドクオが一言漏らす。



('A`)「万が一があったら、校門までダッシュで逃げろ。」


( ^ω^)「万が一……ってなんだお?」


('A`)「俺達じゃどうしようもない問題が起きたら、かな。」


( ^ω^)「……忘れないでおくお。」



さぁ、決意は固まった。
震えそうな体を無理矢理に渇を入れ、意識を鮮明にする。


臆病な心がぶり返さぬうちに、


勢いよく扉を開いた。



16: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:37:49.79 ID:LdiFmqZV0
( ´∀`)「内藤とドクオ、遅いモナー。
       人の事呼んでおいて……プンプン。」



彼は僕たちを見るとそう言った。
冗談交じりの、笑いを誘おうとする言葉。


普段と変わらず砕けた口調。
朗らかな笑顔、優しげな雰囲気。
生徒との壁を感じさせない、人気者の先生。


そんな彼が目の前に居るのに、


僕の心に浮かぶ感情、


それは紛れも無く、怒りに満ち溢れる強い敵意だった。



18: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:38:55.66 ID:LdiFmqZV0
('A`)「…時間通りにはきてるだろ」


それはドクオも同じようだった。
敵意を前面に出した、苛立ちを見せるような口調。



( ´∀`)「おろろ、ドクオが怒っちゃったモナ。
       モナーの可愛さが分からないなんて、不憫なやつモナ。」


それを冗談と受け取ったのか、先生は尚もふざけた返事をする。
そして、先生の笑い声が教室内に木霊した。


だけど、僕たちは笑わない。


むしろ、より眼光を鋭くする。
目の前の敵に、今の状況を知らせるため。



19: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:39:49.20 ID:LdiFmqZV0
( ´∀`)「ははは!あははははは!!……はぁ。」


少しずつ笑い声が小さくなり、やがて止まる。
先生の視線と僕たちのそれがぶつかり、冷たい時が過ぎる
沈黙の中、雨が窓に吹き付け音はやけに耳障りに聞こえた。



( ´∀`)「どうしたモナ、二人とも今日は変だモナ」


( ´∀`)「あ、もしかして便秘モナ?
    それはいけない……良い薬を紹介するモナ?」



それでも、良い先生を演じようとする先生。
いや、ここからはモナーと呼ぼう。


こいつは敵だ。
その意志を、強く心にかざす為に。



22: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:41:57.38 ID:LdiFmqZV0
( ^ω^)「今日は大事なお話があって呼びましたお」


( ´∀`)「……ほうほう、それは興味深いことだモナ」


言葉と口調に出来るだけ、真摯な態度を表すようにする。
もう、気の抜けた会話をする気なんてこれっぽっちもなかった。
僕にあるのは、直向なまでの敵意、そしてツンを救いたいという純粋な気持ち。


この男に、思い切りそれをぶつけたかった。



( ´∀`)「内藤の話……受験とかのことモナ?
     大丈夫、お前の成績ならどこにだって羽ばたいていけるモナ!」


( ^ω^)「……僕たちの仲間について、だお」


モナーは僅かに眉をひそめる。
本当に微弱な反応だったが、僕はそれを見逃さなかった。



24: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:43:26.34 ID:LdiFmqZV0
( ´∀`)「へぇ…?なかなか友達想いじゃないかモナ。」


( ^ω^)「それはどうもだお。その友達の悩みを貴方に聞いてもたいたかったんだお。」



('A`)「どうにも最近様子がおかしくてな……。
   ちょっと無理矢理だけど問い詰めたら、悩みを教えてたんだ。」


( ´∀`)「そ、そうかモナ。友達の為にそこまでやる努力は素晴らしいと思うモナ」


うろたえる様子が少しずつ大きくなる。
息が少し荒くなり、目の焦点が少しずつずれていく。
そんなモナーの挙動を僕は不思議なまでに細かく把握していた。


異様な集中力が脳を支配する。
きっと、本能が僕に味方してくれているからだ。


こいつの化けの皮を剥いでやれと。



25: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:45:17.53 ID:LdiFmqZV0
降りしきる雨が激しさを増しているのが音でわかった。
風と共に、窓にぶつかる雨音が暴れるようだったから。
この教室内の空気と同様に、着実に嵐に近づいているとすら感じた。



( ^ω^)「でも、それも決して良いことではなかったんだお。
       苦しんで、悲しんで……壊れる寸前のとこまできて、ようやく僕たちに救いを求めてくれただお。」


('A`)「それも最後には僅かにだした手を俺達が無理矢理に引くような形で、だ。
   分かるか?それだけ傷が深かったから、簡単には助けてとは叫べなかったんだ。」


モナーも既に僕たちが何を言おうとしているのかが分かっている。
だからこそ何も言わない、語らない。
ただ、人形の様に動かず僕たちを見つめるだけ。


('A`)「俺達は仲間をそんな風にした人間を許さない。
    間違った運命を認めず、それを正す為にここにきた。」



26: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:45:54.89 ID:LdiFmqZV0
さぁ、今こそ高々とここに宣言しよう。


僕たちの正義。
僕たちの覚悟。
僕たちの未来。


全てを守り、信じ、手に入れるために。
託された想いと教えられた心を全て力に変えて。


( ^ω^)「モナー、ツンを傷つけたお前を僕達は絶対に許さないお。」



言い切った言葉はきっと、ずっと必要だった言葉。


この世界にもあった運命という鎖を破壊する鍵。
死という名の試練を乗り越え、ようやく言えた救いの言葉。


信じ続けてくれた仲間達に、恩返しが出来る初めての機会だった。



戻るTIPS次のページ