右手よりは気持ちいいよ

277: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/13(火) 22:36 Lsn6dYQDO


――小さな頃。

そう、物心つくよりもずっとずっと小さな頃。

僕はヒーローになりたかった。

助けを求める人の所へ颯爽と現れ、悪い奴らをやっつける。

いつもテレビの前で、食い入る様に見ていた。

僕はヒーローになりたかった。



――いつからだろう。



ヒーローなんていやしないって思うようになったのは。

苦しんでいる人の所に、ヒーローはやってこない。

ヒーローなんていやしない。

痛くても。

苦しくても。

辛くても。

悲しくても。

ヒーローは、助けに来ない。



――だけど。



僕はヒーローになりたかった。



――突然。



ヒーローなんていやしない。



――二つの欠片が繋がる。



――僕が、ヒーローになる――



〜第十一話・少年と少女〜



278: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/13(火) 22:41 Lsn6dYQDO


――轟音。

そして衝撃。

内藤が砕いた物は。

リビングの床。

( ゚ω゚)「……何処に行きやがった……」

立ち上がった内藤は、周囲を見渡す。

荒れ果てたリビングと、呆然とするツン以外には視界に入らない。

内藤がミルナの顔を砕く瞬間、ミルナの姿が歪み、掻き消えたのだ。

ξ;゚听)ξ「……内藤?」

おずおずと、ツンが内藤に声を掛ける。

( ゚ω゚)「何だ」

振り返りもせず、内藤は依然周囲を見渡している。

ξ;゚听)ξ「内藤……なんでしょ?」

( ゚ω゚)「だから何だと言っている」

内藤は、振り返らない。

ξ;゚听)ξ「あ、相手と話す時ぐらいこっちを見なさいよ!」

そう言ってツンは、内藤が振り返った瞬間、後悔した。

彼の目には怒りが渦巻いていた。

刃と表現するには可愛い過ぎる、それこそ電動鋸の様に荒々しい、凶器の鋭さを持った目だ。

ξ;゚听)ξ「あ…あ……」

全身の皮膚が粟立つのが分かった。

殺される。

その時、ツンはそう確信した。

( ゚ω゚)「……今の“俺”に近付くな」

内藤が視線を外したのと同時に、ツンはその場にペタリとしゃがみ込んでしまった。

カチカチと歯の根が噛み合わず、両手で自分の肩を抱き締める。



279: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/13(火) 22:43 Lsn6dYQDO


怖い。

人間の、最も根源的な感情。

内藤の瞳は、ツンのそれを十二分に刺激した。

( ゚ω゚)「……………」

依然、内藤は周囲を警戒している。

――居る。

理由は分からないが、内藤はそう確信している。

今もこの室内で息を潜めながらこちらの出方を窺っている。




――………ロォ。




( ゚ω゚)「……?」

何かが聞こえた気がする。

チラリとツンの方を振り返るが、今も自らを抱き締めたまま動かない。




――……ィロォ。




まただ。

首筋をチリチリとひりつく様な感覚が襲う。

前か、後ろか、右か、左か、上か、それとも下か。

全体を確認し、内藤が一度呼吸を整えようと深く息を吐き出した。









『コッチヲォヲミィイロオオオオォオォォォォォォッッッ!!!』



その一瞬を狙い、突如として内藤の眼前に現れたミルナが、腕を振り下ろした。



284: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/14(水) 21:14 FTfQYbnNO


( ゚д゚)「ハアァアアァァ……」

ミルナが舌を伸ばし、腕から滴る鮮血を舐めとる。

彼の手には、巨大な爪が填められていた。

( ゚ω゚)「チッ……ふざけた真似しやがって……」

とっさに後ろに飛び、爪をかわそうとしたが、内藤の衣服はバッサリと裂かれ血が滲んでいる。

( ゚д゚)「オレノ宝具、バラム…スガタケス、オマエミエナイ」

再びミルナの姿が歪み、空間に溶け込んでいく。

( ゚ω゚)「チッ……」

再度、内藤が舌打ちし、周囲を警戒する。

見えない相手を捉えるには、どうすれば良いか。

ξ;゚听)ξ「内藤……」

ミルナの宝具の使用を確認し、ツンが立ち上がる。

銃を構え、内藤と同様に周りに目を向ける。

( ゚ω゚)「ヤツを見付ける方法は無いのか?」

背中を向けたまま、内藤はツンに問掛ける。

ξ;゚听)ξ「難しいわね……基本的にお互いの宝具については聞かないのがルールだったから」

1メートル程の微妙な空間を開けて、二人は背中合わせの状態になる。

その空間に、ツンの胸にチクリと僅かな痛みが走る。

しかし、今更近付く訳にも行かずそのまま距離を置いた。

ξ゚听)ξ「仮に私達が敵に捕まった場合、味方の情報を相手に渡さない為にね」

( ゚ω゚)「敵ってのは俺の事か」

ξ゚听)ξ「……………」

( ゚ω゚)「……………」

内藤の言葉に、ツンは失言だったと後悔した。



285: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/14(水) 21:16 FTfQYbnNO





( ゚д゚)「コッチヲミロオォッ!」

ミルナが現れ、爪の一撃を繰り出し、また消える。

その行為が何度か繰り返され、内藤の全身に裂傷が走る。

( ゚д゚)「オマエ、キズダラケ…オレ…オマエコロス」

ξ゚听)ξ「ミルナァッ!」

ツンの銃が火を吹く。

しかしその銃弾はミルナの爪に弾かれる。

( ゚д゚)「内藤ノツギ、ツン、オマエコロス」

( ゚ω゚)「この程度じゃ死なねえな」

ボロボロの衣服を掴み、内藤は一気に引っ張る。

布地か悲鳴を上げて、引き裂かれていく。

( ゚д゚)「ナンダ…ト……?」

ミルナの目が見開かれ、その視線が内藤の体に注がれる。

厳密に言えば、内藤の全身に走る赤い線に向けて。

ミルナの爪は決して鈍くは無く、現に内藤が爪を避けた時に、壊れたテーブルの足を切り裂き、綺麗な断面を見せている。

避けたとはいえ、えぐられた傷は浅くはない筈だった。

しかし、内藤の体には切傷らしき物は見当たらない。

流れた血の後さえ無ければ先程まで怪我をしたことすら疑わしくなる程だ。

ξ;゚听)ξ(やっぱり…見間違いじゃなかったんだ…)

ツンの脳裏に、先程の内藤の様子がよぎる。

自分をかばった内藤は、確かにつーの短剣で切られた。

だが内藤が受けた傷は既に塞がり始めていた。



286: ヒジキ業者◆sEiA3Q16Vo :03/14(水) 21:18 FTfQYbnNO


――有り得ない。

そう言ってしまうのは簡単だ。

しかし、現実に彼の傷は塞がっている。

先程よりも、驚異的な早さで。

( ゚ω゚)∂「殺したければ、俺の首を落とすしかない“お”」

ξ゚听)ξ(………お?)

自らの首を指差しながら、内藤は不遜に言い放つ。

(;゚д゚)「グゥウゥ……」

喉を鳴らす様なうめき声を上げ、ミルナは消える。

( ゚ω゚)「さて、と」

ミルナが消えたのを確認し、内藤はツカツカと部屋の角に歩いていく。

( ゚ω゚)「お前もこっちに来い」

ξ;゚听)ξ「………?」

何をするつもりなんだ、とツンの顔にハッキリと書かれていた。

( ゚ω゚)「とりあえず、適当に何発か撃ってみろ」

おもむろに内藤は、近くに倒れていたイスを持ち上げながら言った。

ξ;゚听)ξ「はぁ? 何でまた……」

( ゚ω゚)「いいから撃て」

突然の言葉に当然の反応を返すツンに、内藤は重ねて命令する。

質問している場合ではないので、仕方なくツンは方向、高さを考えずに引金を引く。



一発。



二発。



三発。



――瞬間。

内藤は何も無い空間目がけて手に持つイスを投げつける。

凶悪なスピードと回転を加えられたイスは。







『ヒジキッ!』







鈍い打撃音と一緒に聞こえた悲鳴を背に、砕け散った。



290: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/15(木) 00:45 /s8zA2ofO


(;゚д゚)「ゴ…ガ……アァアアアァァッ!!!」

姿を現したミルナが床をのたうちまわる。

イスが粉砕される程の衝撃が背中に突き刺さり、堪えきれぬ痛みが何度も全身を駆け回る。

ξ;゚听)ξ「ど、どうしてミルナの位置が?」

( ゚ω゚)「アレだ」

ツンの問掛けに、内藤は床を指差す。

そこには、ツンが破壊したソファーの緩衝材や、ソファーに置かれたクッションの羽毛などが散乱していた。

( ゚ω゚)「ヤツがお前の弾を避けようとした時に、アレが目印になった」

淡々とした口調で語りながら、内藤はミルナに近付く。

ミルナが激痛から解放される前に、内藤はミルナの腹を踏みつける。

(゚д゚)「内藤…ホライゾン…!」

踏まれながらもミルナは、内藤を憎悪を込めた瞳で睨み付ける。

( ゚ω゚)「悪いがお前に恨まれる筋合いはねえな」

(゚д゚)「内藤ホライゾン! チチコロシタ、ハハコロシタ、オトウトコロシタ! オトウトマダオサナカッタ! ナノニオマエコロシタ!」

内藤は、彼の視線を受け止める。

内藤への憎しみ以上に、そこは悲哀に満ちていた。

己が引き裂かれそうな、狂いそうな程の叫びが渦巻いていた。



291: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/15(木) 00:46 /s8zA2ofO


父よ、強き父よ。

家族を守る、大きな背中。

正義とは何か、強さとは何かを教えてくれた。


母よ、優しき母よ。

暖かい、小さな母の手。

いつも変わらぬ笑顔で見守ってくれた。


弟よ、幼き弟よ。

母よりも、弱く小さな体。

教えるべき事はたくさんあった。

守るべき弟だった。



天から降る光の槍。

全てを焼き尽す、神の鉄槌。

何も残らなかった。

父も、母も、弟も。

全てが黒く。

黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く黒く








(#;д;)「ナゼコロシタ! ナゼ! ナゼ! ナゼェッ!」

いつしか、ミルナの目から涙があふれていた。

止まらない。

枯れる事を知らず、涙は流れる。

コンコンと静かに、ミルナの嗚咽をのせて。

( ゚ω゚)「…………お」

グラリと、内藤の頭が揺らぎ、彼の目から先程からの怒りの色が消え去る。

( ^ω^)「……お……」

唐突に生まれた混乱、狼狽、そして。

( ;ω;)「おぉおおおぉぉぉぉっ!!! ごめんだおぉっ、ごめんだおぉっ! ぼ、僕は…僕はあぁっ!」

後悔と謝罪。

フラフラと後ろに、倒れる様に下がり、内藤が叫ぶ。

両手で頭を抱え、グシャグシャと掻きむしり、ミルナと共に泣き叫ぶ。

( ;д;)「オォオオオオォォォォォォッ!!!」

( ;ω;)「ごめんだおぉっ! ごめんなさいだおぉっ!」

二人の叫びが途切れる事は、無かった。



298: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/15(木) 14:38 /s8zA2ofO






川;゚‐゚)「……何だというのだ、アレは……」

内藤の家から幾らか離れた道に着き、一気に息を吐き出す。

あの瞬間、覗き込んでしまった内藤の瞳を思い出し、背筋に冷たい物が伝う。

走っている間に、何度か轟音と銃声が内藤の家から聞こえた。

そして、遠くからパトカーのサイレンがこちらに近付いているのが分かる。

予想外だった。

まさかこの様な事態になるとは予想だにしなかった。

川;゚‐゚)「…ロクでもない作戦だな…荒巻…」

近くの塀に寄りかかり、この場に居ない人物に対して悪態を付く。

額から垂れる汗を上着の袖口で拭い去り、クーは塀から体を放す。

そして、何の前触れも無く彼女は振り向いた。

先程自分が曲がってきた十字路がそこには在る。

十字路の角に消えていく影と、その影の持ち主の衣服が僅かに確認できた。

そう、ただ確認しただけ。

それにも関わらず、彼女の全身に冷たい汗が流れ始める。

内藤から与えられた悪寒、それ以上の不快感。

それが彼女の全身に、足元からまんべん無く絡み付く。

川;゚‐゚)「そんな…馬鹿な…」

体が動かない。

クーに出来る事は、一言呟くだけだった。



299: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/15(木) 14:39 /s8zA2ofO


( ;ω;)「ブフッ、オブゥッオブゥッオゥエェェッ」

涙と鼻水にまみれた内藤が、嘔吐に似た声でむせる。

しゃくり上げ過ぎて、胃が引っ張り上げられる感覚に襲われていた。

ξ゚听)ξ「あ〜あ〜…仕方ないわね」

銃をホルスターにしまい込んだツンが、ポケットから取り出したハンカチを内藤に手渡す。

( ;ω;)「オゥッ、あ、ありがどう、だぉオウェッ」

ハンカチを受け取り、目元と鼻元を拭き取り。



ビィイイイイビュルルルブチュチュチュ―――



ξ )ξ

鼻をかんだ。

(*^ω^)「お〜、楽になったお」

糸を引き、ニチニチのカピカピになったハンカチを摘みながら、内藤は満足気な表情を浮かべる。

ξ )ξ「……………」

( ^ω^)「…………お?」





アッー――――――――!!!






( ゚д゚)



(゚д゚)



( ゚д゚)



(゚д゚)



( #)ω^)「……ごめんなさいだお……」

ひとしきりのやりとりの後、内藤はポツリと呟いた。

遠くからサイレンの音が聞こえる。

( #)ω^)「僕にとっては未来でも、君達にとっては過去だお。……今の僕には謝る事しか出来ないお」

( ゚д゚)「……………」

( #)ω;)「だから、ごめんなさいだお……」



300: 300の業者◆sEiA3Q16Vo :03/15(木) 14:41 /s8zA2ofO


拭いたはずの涙が、また溢れてしまう。

流れる涙は拭けばいい。

溢れた砂は戻せばいい。

だが、壊れた物は直せない。

( ;ω;)「ごめんなさいだお…」

それでも内藤は、謝り続けた。

( ゚д゚)「…オレ、カゾク…モドラナイ…」

ξ゚听)ξ「ミルナ……」

( ゚д゚)「カゾク…カタキ、ニクイ…デモオレ、オマエ……………ユルス」

重々しい口調でゆっくりと話し、大きな間を置いてミルナは吐き出した。

『許す』、と。

( ゚д゚)「タシカニ、オマエカゾクノカタキ……デモ、オマエ…チガウ、オレ、オマエコロセナイ」

諦めにも似た感情を乗せて、ミルナは言う。

一言、一言。

憎悪の塊が解きほぐれる様に、穏やかな口調で。

( ゚д゚)「内藤ホライゾン」

ミルナが真正面からこちらを見ている。

( ^ω^)「お?」

内藤もミルナをしっかりと見返す。





(゚д゚)「イキロ」













   『じゃあ、死ねよ』





閃光が走り、ミルナの上半身は消し飛んだ。



308: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/15(木) 17:28 /s8zA2ofO


ミルナは、内藤の前に居た。

つい、数秒前まで。

閃光に飲まれたミルナの体は、何処にも見当たらない。

ただ、ブスブスと煙を上げる下半身が残っているだけだ。





( ・W)「よぉ、“俺”」

クーが破壊した窓を越え、男が入ってくる。

左目の上に大きな傷が走り、年齢を重ねていたが。

それは紛れもなく。

ξ;゚听)ξ「内藤…ホライゾン…」

( ゚ω゚)「……………」

内藤ホライゾンその人だ。

( ・W)「ったく、昔の俺は甘いな。敵なら殺す、それで十分だろうが」

忌々しげに、内藤の顔を睨み付ける。

ξ#゚听)ξ「内藤ホライゾン! お前が父さんと母さんを!」

ツンが銃を抜き放ち、撃つ。

引き金は何度も引かれた。

ガチンと弾切れの悲鳴を上げるまで。

何度も、何度も。

男は、それを避けようともせず、無造作にコートのポケットに入れていた右手を取り出し、前に突き出す。

( ・W)「んな武器じゃ死なねえな」

男の右手は、ほぼ全体が黒い刺青の様な物で覆われていた。

その右手の、数センチ前でツンが撃ち出した銃弾は停止していた。

空中で。

全ての銃弾が。

ξ;゚听)ξ「そんな……」

( ・W)「避ける必要はねえんだが、服に穴は開けたくないんでな」



309: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/15(木) 17:29 /s8zA2ofO


あっさりと男は言い、一度指を鳴らす。

その音を合図に、止まっていた銃弾は床に落下した。

( ・W)「……お前は変わらないな、ツン……」

やれやれといった様子で、男は首を横に振った。

ξ#゚听)ξ「――ッ! お前が私の名前を呼ぶな! お前なんかに……お前なんかに呼ばれたくない!」

空になったマガジンを外し、新しい物を装填する

再び銃を構えた時。

( ・W)「無駄だ」

男が突き出したままの右手。

そこに彫り込まれた刺青が鈍く輝き、脈動する。

それと同時にツンが引き金を引く指に、力を込める。

ξ;゚听)ξ「嘘……」

銃声は、聞こえなかった。

ツンは呆然としながら、自分の手元を見ている。

彼女の銃は、グリップから上――銃身の部分が忽然と消失していた。

( ・W)「話ぐらいさせてくれ……何しろ十数年振りなんだからな」

ξ;゚听)ξ「あんた…何を言ってるのよ…私は…」

( ・W)「知ってるだろ。そこに居るじゃないか、“俺”が」

男はツンから目を放し、彼女と同様に呆然としている内藤を指差す。

(;^ω^)「お…………」

( ・W)「こいつは俺で、俺はこいつだ。こいつは俺の過去自身だ。今、現在こいつが体験している事が新たな俺の記憶として上書きされている」

内藤を差していた指を、今度は自分の頭を差し、コンコンとつつく。

( ・W)「つまり、俺にとっては懐かしのご対面って事だ」

男はそう言って、口の端を歪め、笑った。



310: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/15(木) 17:30 /s8zA2ofO


( ・W)「……馬鹿共が過去の“俺”を殺そうなんて計画を立ててるもんだからな。面倒だが潰しに来てやったんだよ」

事も無げに言い放ち、男は哄笑した。

ξ;゚听)ξ「……………」
銃を破壊され、狂った様に笑い続ける男に、ツンは狼狽し後ずさる。

( ・W)「おいおい、そんなに怖がるなよ……壊しちまいたくなるじゃねえか」

ひとしきり笑い終わった男は、ニヤニヤとした笑みを張り付けたまま右手をツンへと伸ばす。



――血の味。

――燃える街。

――動かない両親。



ξ;゚听)ξ「嫌……嫌ぁっ!」

ツンの脳内で、様々な光景が何度も写し出され、弾ける。

ξ;;)ξ「来ないで……近付かないで! 父さん…母さん…!」

ツンは両手で耳を塞ぎ、何度も首を振る。

男の右手がなおも近付き。

( ゚ω゚)「彼女に触るな」

内藤が、男の前に立ち塞がる。

( ・W)「よぉ、俺。元気そうじゃねえか」

( ゚ω゚)「そんな事はどうでもいい。彼女に触るな」

( ・W)「おいおい、お互い同じ自分同士だ……仲良くやろうぜ?」

( ゚ω゚)「同じ?」

ピクリ、と内藤のこめかみが動いた。

両手は、軋むほどの力を込めて握られている。

全身を震わせながら、内藤は“己”に言い放つ。










   『お前は人殺しだ』



325: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/16(金) 09:43 r+CberTBO


僅かに、男の顔がこわばる。

( ゚ω゚)「お前は俺じゃない……ただの人殺しだ!」

再び内藤の目に、怒りの炎が燃え上がる。

射るように視線が、男に投げつけられる。

( ゚ω゚)「彼女の両親だけじゃない……お前はどれだけの人を殺したのか分かってるのか!」

( ・W)「……覚えてないな」

( ゚ω゚)「……何だと?」

( ・W)「三千世界、ありとあらゆる場所を破壊した……今更一人や二人死んだ所で心は痛まねえな」

( ゚ω゚)「お前はぁっ!」

拳を振り上げ、殴りかかる内藤。

男は打ち込まれる拳を軽く受け止める。

鼻を突き合わせる様に、二人は睨み合った。

( ・W)「……馬鹿な俺に教えてやるよ。俺がこうなった理由をな……」

鍔競り合いの形で互いの拳を押し付け合い、男は口を開いた。








『今から十数年後の俺の誕生日』



  『カーチャンが死んだんだ』






( ・W)「事故死だってよ」

男は、淡々とした表情で語り始める。

( ・W)「俺も知ってるだろ? カーチャンは俺の為に身を粉にして働き、養ってくれた。最高のカーチャンだ」



326: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/16(金) 09:44 r+CberTBO


――少しでも楽になるように、俺も働き出した。

流石に彼女は出来なかったよ。

だけどな、それでも毎日が充実して……幸せだった。

俺の誕生日に、カーチャンにプレゼントを渡そうと思ったんだ。

……誕生日なら祝われるのが普通だけど、いい年して誕生日ってのも恥ずかしかった。

だから、カーチャンにプレゼントを用意した。








――だけど死んだ。

あの電話が来なけりゃ良かった。

俺は電話を取ってしまった。

『お母さんが、事故に遇われました』ってな。

俺は走った。

走って、走って、走り続けた。

転びそうになっても走り続けた。

俺が病院に着いた時。

カーチャンはミイラみたいに全身が包帯で覆われていたよ。

何故?

何故カーチャンが?

あんな良いカーチャンが何故?

カーチャンを撥ねた相手は、飲酒運転だった。

そんな事はどうでも良かった。

カーチャンが助かるなら、俺は何をしてもいい。

血が足りないなら俺の血を全部使っていい。

内蔵が足りないなら俺の内蔵を全部使っていい。

そう叫んだ俺に、医者は首を横に振った。



――撥ねられた時に、脳に大きな傷を負われました――



――もう、長くはありません――



死刑宣告だった。



327: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/16(金) 09:46 r+CberTBO


『あぁああああぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』

俺は叫んだ。

喉が裂けるぐらい叫んだ。

喉が裂けて死んでしまえば良いと思った。





――結局。

その日の深夜、カーチャンは息を引き取った。

働き続けて、すっかり痩せてしまったカーチャンは……とても軽かった。








ここまではまだ良かった。

後日、スーツを着た何人かの男が家にやってきた。

カーチャンを撥ねた男は来なかった。

スーツの男達が、山積みの札束を俺に渡した。

一瞬、どういう意味か分からなかったが、男達は構わず説明した。

曰く、カーチャンを撥ねたのは政府の高官――しかも大臣クラスの息子だったらしい。

息子のスキャンダルが影響しては困る。

つまり、口封じだ。

呆然とした俺に、男達は札束を押し付けると逃げる様に帰っていった。




その日、俺は狂った様に笑った。

――いや、既に狂っていたのかもしれない。



後日、俺は警察に行った。

結果は『NO』。

出版社にも行った。

結果は『NO』。

どこに行っても『NO』『NO』『NO』。

根回しは、十分だった。

誰も助けてくれない。

知人、友人、親戚。

皆、同じだ『諦めろ』、と。

ふざけるな。










――俺は願った。

このふざけた世界を壊してくれ。



――皮肉にも、カーチャンは助けなかったくせに、俺の馬鹿げた願いは成就されたみたいだ。

神か悪魔か。

――そして俺は世界を破壊した。



336: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/16(金) 18:54 r+CberTBO


( ・W)「俺なら分かる筈だ。俺が何を感じ、何を思ったか」

( ゚ω゚)「……………」

( ・W)「腐った考えの高官、腐った考えが慢延、腐った社会の確立」

男は天を仰ぎ、目を閉じる。

再び男が目を開いた時には、内藤と同じ炎が宿っている。

しかしその炎は黒く、絡み付き、全てを巻き込む腐毒の様な炎だった。

( ・W)「馬鹿げた世界を壊す。単純な事だ」

( ゚ω゚)「お前は狂ってる……自分のエゴを押し付けてるだけだ!」

( ・W)「狂ってる? 何を今更……」

( ゚ω゚)「カーチャンが死んだからって、他の人を殺していい理由になんかならない!」

内藤は、男に掴まれた腕を振りほどき、声を張り上げた。

刃の様な互いの視線がぶつかり合い、火花を散らす。

( ・W)「……餓鬼みてえな事を言ってられるのも今の内だな。カーチャンが死ねば、お前も俺と同じ考えに至るだろうな」

( ゚ω゚)「カーチャンが死ぬ…考えたくもない…だけどな、お前のエゴのせいで涙を流した人間がどれだけ居るか分かってるのか!」

内藤のその言葉に、彼の後ろでしゃがみ込んでいたツンが、顔を上げる。

ξ;;)ξ「内藤……」

( ゚ω゚)「他人の痛みも分からない人間が偉そうな口を効くな!」



337: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/16(金) 18:55 r+CberTBO


男に内藤は怒りの声をぶつける。

しかし、男はその言葉を一笑に伏した。

( ・W)「餓鬼の俺には分からないだろうな。人間なんて汚いモンだ……いずれ分かる」

( ゚ω゚)「ふざけるな!」

( ・W)「……分かるさ。お前は俺、俺はお前だからな……」

男はそう言うと踵を返し、窓に向かう。

その時になり初めて内藤達の耳に、こちらに近付くパトカーのサイレンに気付く。

( ・W)「邪魔が入った……いずれ会おう、俺よ。……それにツン」

一度振り返った男は、そう言い残し窓の外に足を踏み出す。

一歩外に出た瞬間、男の姿は忽然と消えたのだった。

(;^ω^)「お……………」

男が消えたのを確認すると、内藤はその場に崩れ落ちる。

全身から汗が吹き出し、肩が激しく上下する。

ξ;゚听)ξ「内藤……大丈夫?」

(;^ω^)「お……君こそ、無事で良かったお……」

川 ゚‐゚)「果たしてそう言っていられる状況か?」

ξ;゚听)ξ「た、隊長!」

( ^ω^)「もう誰が来ても驚かないお……」

川 ゚‐゚)「……今はお前達の相手よりも、ミルナの回収が先だ」

クックル、とクーが外に向かって呼び掛けると、巨漢がノッソリと入ってくる。

川 ゚‐゚)「ミルナの遺体を運べ」

( ゚∋゚)「……………」

大男は無言で頷き、下半身だけのミルナを抱える。

川 ゚‐゚)「内藤ホライゾン、いずれ殺すからな」

吐き捨てる様に言い残し、クーは先程と同様に窓から姿を消した。



338: 業者◆sEiA3Q16Vo :03/16(金) 18:56 r+CberTBO


ξ゚听)ξ「……とにかく、早くここを離れましょ」

( ^ω^)「お……でもカーチャンが……」

ξ#゚听)ξ「警察に捕まればややこしい話になるでしょうが!」

(;^ω^)「分かりましたお」

ツンの一喝に、慌てて内藤は立ち上がる。

破れた衣服の代わり等を掴み、二人は夜の戸張に覆われつつある外に飛び出した。

雨は既に上がっていたが、空は分厚い雲で覆われていた。

ξ゚听)ξ「とりあえず…何処か身を隠せる場所…」




ξ゚听)ξ ^ω^)







『愛の営みHOTEL2ちゃんえる』







ξ゚听)ξ ^ω^)








ξ゚听)ξ「入るわよ」



( ^ω^)



(^ω^)



( ^ω^)



( ゚ω゚)



( ゚ω゚)「mjd!?」

ξ///)ξ「み、身を隠す為なんだからね! 変な期待はしないでよね!」

呆然とする内藤の襟首を掴み、ツンは中へ入って行くのだった。




〜第十一話・完〜



( ^ω^)右手より気持ちいいお!



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