右手よりは気持ちいいよ

343: 了解した◆sEiA3Q16Vo :03/16(金) 22:36 r+CberTBO


――自分を責めないで。

貴方の罪ではないのだから。

――自分を嫌わないで。

貴方の咎ではないのだから。

――自分を傷付けないで。
貴方に傷付いてほしくない。

――自分を捨てないで。

私は貴方が……。





〜第十二話・名前〜



344: ◆sEiA3Q16Vo :03/16(金) 22:37 r+CberTBO


『来て……』

ベッドに体を横たえた少女が、こちらに手を伸ばす。

ゆっくりとベッドに登り、両手を着く。

腕の間にある少女の顔が、少し緊張した笑顔を見せる。

少女の、小さく柔らかな手が頬を撫でる。

儚く、掴まなければ壊れてしまいそうなとても小さな手。

甘い香りが鼻孔をくすぐる。

シャンプーの香りなのか、女の子特有のふわりとした甘い香り。

少女の頬に手をやり、ゆっくりと髪をすいていく。

少し湿り気を帯ているが、絹糸の様に艶やかだった。

頬を撫でていた少女の腕が、首に回される。

僅かに力を込められ、少女の顔が接近する。

瞳は濡れそぼり、頬は薔薇色に紅潮している。

少女とはいえ、その顔はとても魅力的だった。

たおやかな少女の髪を撫でていた手が、ゆっくりと下に動いていき……肩を過ぎ……未発達な起伏に届く。

その小さな起伏に触れた瞬間、少女の体がピクンッと跳ねる。

薔薇色の頬が、更に真っ赤になる。

自分の胸元と下腹部に手をやり、瞳はうつ向きがちになる。

その仕草に、クスリと笑うと少女が頬を膨らまし上目使いに睨んでくる。

まだ子供なんだな、と思いながらも恥ずかしげに秘所を隠す手を掴む。

一瞬、驚いた表情を浮かべるが抵抗はせず――
ホンワホンワホンワ◯
(*^ω^)。ο


ξ゚听)ξ「? どうしたの?」

入り口で僅かに陶酔する内藤に、受け取った鍵をクルクルと指で持て遊ぶツンは内藤を怪訝な目で見るのだった。



348: ◆sEiA3Q16Vo :03/17(土) 00:39 p2ebmWNhO


エレベーターを使い、上の階を目指す。

場所は八階。

( ^ω^)「……………」

ξ゚听)ξ「……………」

エレベーターの中では、二人の口は閉じられたままだった。

話題に出せる物が無く、重苦しい沈黙が狭い室内を支配する。

長いような、短い時間が経過し、エレベーターは停止した。

さっさと降りようとした所、エレベーターに乗り込んでくる者とぶつかりそうになる。

小太りのサラリーマン然とした中年と、水商売風の若い女だ。

沈んだ表情の二人に、怪訝な視線を送ってくる。

やがてエレベーターの扉が閉まり、視線から解放された二人は深く息を突く。

どちらとなく、視線を合わせ苦笑した。



801号室。



(;^ω^)



ξ゚听)ξ「どうしたの? さっさと入るわよ?」

何故かうすら寒い感覚に襲われた内藤は、ツンが開けたドアに慌てて飛込んだ。



349: ◆sEiA3Q16Vo :03/17(土) 00:40 p2ebmWNhO


ξ゚听)ξ「意外と中は綺麗ね……」

( ^ω^)「お〜………」

掃除が行き届いているのか、埃も無く清潔感が漂う部屋だった。

しかし、丸ベッドを始め汚れを知らぬ純粋な少年には何の為に使うのか分からないようなピンク色のアレや、ピンク色のコレが目につく。

ピンク。

ピンク。

ピンク一色。

枕元に置かれたピンクの風船。

棚に入っているピンクの液体。

引き出しに入ったピンクの棒。

その空間は、ピンク。

恋人が甘く囁き合う、夜の楽園。

魅惑的な音楽が流れ、自然に脳内皮質を刺激し鼓動を高める。

互いの存在が、いつもと違って感じる別世界。

世界はピンクで包まれている。





ξ゚听)ξ「……シャワー……浴びてくるね……」

それだけ言うと、ツンはシャワールームに消えていく。

( ^ω^)



――これ何てエロゲ?



残された内藤は、そう呟くしかなかった。



351: ◆sEiA3Q16Vo :03/17(土) 14:04 p2ebmWNhO




(*゚∀゚)「お〜な〜か〜す〜い〜た〜」

('A`)「ったく、ブーンの奴…どこに行っちまったんだよ…あいつの家に警察来てるしよぉ…」

(*゚∀゚)「お〜な〜か〜す〜い〜た〜」

('A`)「まさか捕まったって事はないよな…」

(*゚∀゚)「ご〜は〜ん〜」

('A`)「どうしたもんか…」

(*゚∀゚)「…………ていっ」

(;゚A゚)「ぶげらっ!」

歩きながら思案していたドクオの脇腹に、つーの手刀が突き刺さる。

(;゚A゚)「ぐぉあぁああっ!!!」

肋骨の隙間を縫って、衝撃は肺に達しドクオは地面をころげ回る。

(*゚∀゚)「ごはん」

(;'A`)「……………」




〜数分後〜




ミ ゚Д゚彡「へいらっしゃい!」

('A`)「店長?」

ミ ゚Д゚彡「何にするんだゴルァ!」

('A`)「何でラブホの前でおでん屋やってんの?」

ミ ゚Д゚彡「とりあえず大根でも食えやゴルァ!」

('A`)「話を聞け」

(*゚∀゚)「アヒャヒャ、いただきま〜す」

('A`)「お前も食うなよ」







『アッー――――――――!!!』







('A`)「? 何か聞こえたか?」

ミ ゚Д゚彡「多分気のせいだゴルァ!」

(*゚∀゚)「おっちゃん、ガンモ」

ミ ゚Д゚彡「あいよ!」

('A`)「餅巾ウメェ」



352: ◆sEiA3Q16Vo :03/17(土) 14:05 p2ebmWNhO


(;^ω^)「落ち着け……落ち着くんだお……」

内藤は、先程から部屋の中をグルグルと歩き続けていた。

(;^ω^)「くそぉっ! こんな事ならエロゲを中途半端にするんじゃなかったお! 思わずひぐらしに手が出てしまったのが間違いだお!」

ガシガシと頭を掻きむしり、更に歩く速度を上げる。


『〜〜〜〜〜♪』



シャワールームからはツンの上機嫌な鼻唄が聞こえてくる。

(;^ω^)「ゴムの使い方は大丈夫かお……ゴムオナヌーでしか使った事無いお……」

――落ち着け、落ち着くんだ内藤ホライゾン。

――冷静に、KOOLになるんだ。

( ^ω^)「とりあえず夜景でも見て落ち着くお」

内藤は、カーテンに歩み寄り、一気に開いた。




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( ^ω^) |  (>< )
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(^ω^)  |  (><)
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( ^ω^) |  (>< )
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( ゚ω゚) |  (<・><・> )
     |





『アッー――――――――!!!』



361: ◆sEiA3Q16Vo :03/17(土) 23:29 p2ebmWNhO


ξ;゚听)ξ「ちょっとどうしたの内と――」




(^ω^)><)




ξ゚听)ξ「あ」




(*^ω^*)*><*)『うはwwww裸体ktkrwwwww』




ゴベンナザイゴベンナザイア゙ア゙ア゙ア゙ゴベンナザイズビバゼアッー――――!!!



(#)ω(#)「……前が見えないですお……」

ξ#゚听)ξ「そ、なら丁度よかったわ」

( #)(#)「痛いんです! 乱暴は止めてほしいんです!」

窓の外から鎖でぶら下がり、様子を伺っていたビロードは、人中、水月、金的の三カ所に華麗な突きを受けた。

その後、室内に引きずり込まれ内藤共々、テーブルの上に置かれた灰皿で顔面を殴打される填めになるのだった。

ξ゚听)ξ「……で、ビロード。何の用?」

(#><)「せめて殴る前に聞いてほしいんです!」

服を着込み、髪をタオルで拭きながら問い詰めるツンに、ビロードのこめかみに青筋が立つ。

ξ )ξ「で、何の用」

( ><)「はいっっ! 今後のお二方に言っておきたい事がございますっっっ!」

ツンが再び灰皿に手をかけたのを見て、ビロードは淀みなく、ハッキリとした声でスラスラと口にする。

( ^ω^)「お? どういう事だお?」

( ><)「お二方も知っての通り内藤ホライゾン、つまり未来の貴方が現代に現れたんです!」

内藤が首を傾げながらした質問に、ビロードは何故か正座しながら答えた。



362: ヒジキ◆sEiA3Q16Vo :03/17(土) 23:30 p2ebmWNhO


( ><)「僕達の任務は貴方の抹殺なんです! だけど内藤ホライゾンの出現により事情が変わったんです!」

抹殺、という言葉に僅かに内藤の顔がこわばるが、隣に立つツンの視線に気付きすぐに顔の筋肉をほぐす。

( ><)「内藤ホライゾンを野放しにできない僕達は、奴と戦います。……その間、貴方が何をしようと自由なんです」

( ^ω^)「……………」

( ><)「報告は以上なんです! 僕はもう帰るんです!」

ξ゚听)ξ「ビロード」

踵を返そうとしたビロードに、ツンの声がかかる。

( ><)「どうしたんです?」

ξ゚听)ξ「これは貴方の独断? それとも隊長の命令?」

( ><)「…僕の判断なんです」

投げ掛けられた言葉に、一瞬たじろいだが、うつむきながらも答えを返す。

ξ゚听)ξ「そう……」

( ><)「また会おうなんです。内藤ホライゾン、貴方に言うのは不本意ですけどツンを頼んだんです」

( ^ω^)「お?」

言葉の意味を汲めず、内藤はまた首を傾げる。

今度こそ踵を返し、ビロードは窓枠に足を掛ける。

ξ゚ー゚)ξ「……ありがとう」

( ><)「……………」

最後に掛けられた言葉には応えず、ビロードは夜の闇に消えていった。



363: KOOLヒジキ◆sEiA3Q16Vo :03/17(土) 23:33 p2ebmWNhO


( ^ω^)「……一体どういう事なんだお?」

ξ゚听)ξ「ビロードは私達に時間をくれたのよ。隊長達が内藤ホライゾンに対応している間に選択しろってね」

ビロードが飛び出した窓を閉め、ツンはベッドに腰掛ける。

ξ゚听)ξ「……あなたはどうしたいの? 内藤……逃げてもいいのよ?」


――貴方に罪は無い。


――誰も貴方を責めたりしない。


( ^ω^)「……僕は……アイツを止めるお。アイツが僕なら僕が止めなくちゃならないんだお」

ξ゚听)ξ「……後悔しない?」

( ^ω^)「止めない方が後悔するお……それに……」

ツンの問いに内藤は僅かに間を置き、言った。











  『君を、守りたいんだ』











ξ゚听)ξ「――っ! それって……」

( ^ω^)「君の涙は見たくないお。君には笑っていてほしいんだお」

ξ゚听)ξ「……………」

( ^ω^)「後……僕は内藤じゃなくて、ブーンって呼んでほしいお。そっちの呼び方が気に入ってるお」

ξ )ξ「……ブーン?」

( ^ω^)「だお」

ξ゚听)ξ「……ありがとう」

(*^ω^)「おっおっおっ、照れるお」

ξ゚ー゚)ξ「じゃあ、私の事はツンって呼びなさいよね! 君って他人行儀の呼び方は止めなさいよね!」

( ^ω^)「おっおっおっ、把握したお」



他愛ない、平和なやりとりの中で二人は笑った。

心の底から、笑いあった。

いつしか夜は深まり、二人は眠りの世界に誘われる。

ブーンは床で、ツンはベッドに。

眠りに包まれる前に、ツンは幸せそうな寝顔の内藤に近付く。

少しの躊躇いの後、ツンはブーンの頬に口付けした。

ほんの一瞬の、微かなキス。

ξ゚ー゚)ξ「……おやすみ……ブーン……」

やがてツンもまた、夢の世界に誘われた。



370: ◆sEiA3Q16Vo :03/19(月) 19:50 RW9YAOPbO


まどろみの中で少年は夢を見た。

崩れたビル。

陥没した道路。

逃げ惑う人々。

少年の見る光景は地獄そのもの。

少年は右手を上げる。

その先には崩れかけた高層ビル。

閃光。

一条の光がビルに突き刺さり、次の瞬間爆音と共にビルは倒壊する。

倒れたビルは、崩壊する道路を走る人々の上に覆い被さる。

もうもうと立ち込める土煙の中で、人々は更に悲鳴を上げて逃げる。

少年は右手を上げる。

今後は、天に向けて高く高く持ち上げる。

その手を振り下ろし、閃光。

逃げる人々の一角に、天空から轟く稲妻が突き刺さる。

何本も、何本も突き刺さる。

黒焦げになった人々が体を丸めながら倒れていく。

少年は右手を上げる。

逃げる人々の一角に、扇ぐ様に腕を振る。

スルスルと、人々の回りの土煙が、人々を取り囲む様に回転する。

一陣の突風が吹き荒れ、そこには巨大な竜巻が現れる。

その竜巻はうねり、巻き付き、食い千切る。

猛獣と化した一本の柱の様であった。



371: ◆sEiA3Q16Vo :03/19(月) 19:51 RW9YAOPbO


少年は右手を上げる。

パチリ、と指を鳴らした。

それに応える様に、大地は歪み、叫ぶ。

大地に産まれた亀裂は、巨大な口を開き人々を飲み込む。

怒号、悲鳴、その他全ての叫び声を飲み込む。

満腹になった大地は、何事も無かった様に口を閉じていった。

少年は右手を上げる。

その先には、比較的大きな噴水があった。

クルクルと指揮者の様に指を動かすと、噴水の水がさざ波を立て始める。

小さな波はやがて大きさを増して噴水の縁からこぼれ出す。

歪んだ水が持ち上がる。

それは蛇の様な形をもって指の動きに合わせて揺らめいた。

蛇の顔が人々に向けられる。

蛇は反動をつけるように首を反らし。

吐き出した。

光線に見えるそれは、人々の列を薙ぐように右から左に動く。

人々と、その後ろに建つ建物がズレ、崩れていった。



373: ◆sEiA3Q16Vo :03/19(月) 19:52 RW9YAOPbO


少年が右手を上げれば人々は更なる悲鳴を上げ、そして掻き消される。

破壊を。

全ての破壊を。

己の目に写る万象一切全ての破壊を。

苦悶の叫びは蜜の様に。

怒りの叫びは薪の様に。

悲哀の叫びは氷の様に。

全ての叫びは少年を震わせた。

胸を打ち、背筋が思わず震えてしまう。

歓喜。

少年の胸は歓喜に包まれていた。

少年は気付く。

自分が笑っていると。

意思に反して口元がつり上がる。

喉の奥から込み上げる。

耐えきれず少年は笑った。

屈託の無い、心からの笑いを。

この世界の崩壊を。

自ら起こしたこの破壊に歓喜している。

少年は笑いながら、この場にふさわしい言葉を探した。

僅かな思考の後に、思い出す。

これ以上無い、ふさわしい言葉。

誰もが知る、あの言葉を。















 『見ろ……人がゴミの様だ』



その言葉の滑稽さに、再び少年は笑った。



〜第十二話・完〜



( ^ω^)右手より気持ちいいお!



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