右手よりは気持ちいいよ

432: ◆sEiA3Q16Vo :03/24(土) 23:17 4t1Rm7sSO


――独り。

俺は独りだ。

悲しい。

とても悲しい。

俺は悲しまなくてはならない。

独りはとても悲しい事なんだ。



笑ってはいけない。

喜んではいけない。

あいつの代わりに、幸せになっちゃいけない。



――独り。

そう、俺は独り。

喜びも、嬉しさも知らず、ただ独り。

いつか、あいつが笑ってくれるまで。

幸せを、否定しよう。

俺は、独りだ。



〜第十四話・こころおなににたとえよう〜



433: ◆sEiA3Q16Vo :03/24(土) 23:18 4t1Rm7sSO


('A`)「んあ? 何処に行ってたんだ?」

つーが屋台に戻って来ると、ドクオは席を立っていた。

('A`)「んじゃ店長、また来ますわ」

ミ ゚Д゚彡「おぅ、また来いよゴルァ!」

店主が手を振っている。思わず振り返し、視線を戻した時にはドクオは既に歩き出していた。

(*゚∀゚)「待ってよ〜」

('A`)「何で着いてくるんだよ」

(*゚∀゚)「行く所が無いもん」

つーの言葉に、ドクオは深い溜め息を突く。

('A`)「分かった、好きにしろ」

なかば諦め切った顔で、ドクオは歩き続ける。

その歩みが。

(*゚∀゚)「………ねえ」

つーの一言で。

(*゚∀゚)「……妹が居るの?」

止まる。

('A`)「……何で知ってる」

振り返ったドクオは、探る様な目でつーを見る。無表情で目を細め、つーの瞳を覗き込む。

その視線から逃れる様に、つーはうつ向きながら頬を掻く。

――さっきと同じだ。

公園で、ドクオの妹と名乗る少女と対峙した時と、同じだった。

相手の視線から逃れ、誤魔化そうとする。

('A`)「もう一度言うぞ……何で知ってるんだ?」

声の調子は平坦だが、目だけは違う。

ハッキリとした拒絶の色が浮かんでいた。



434: ◆sEiA3Q16Vo :03/24(土) 23:20 4t1Rm7sSO


(*゚∀゚)「……アヒャ……」

拒絶。

相手と自分を隔てる否定の感情。

戦った時。

自分を運んでくれた時。

友達を殺す為にやってきた自分に向ける視線に、その感情は含まれていなかった。

不機嫌そうな顔に、変な性癖。

それでも、その目は優しかった。

だが、今は違う。

その目は、口を開かなくともこう語っている。



――チカヅクナ



そう、言っていた。

('A`)「……………」

ドクオは、一歩踏み出す。

無言で、つーを見据えたまま。

(*゚∀゚)「―――っ!!!」

その瞬間、全身が痙攣した様に跳ね、つーは駆け出していた。

とにかく駆け出した。

何処でもいい。

一刻も早くここから走り去りたかった。

真っ直ぐ。

ただただ、真っ直ぐ。

振り返らない。

拒絶の目から逃れたかった。

自分を拒絶する、あの目から。

('A`)「……………」

ドクオは立ち尽くしている。

ただ、無言で。

そして少し、冷たい風が彼の頬を叩いた時。

ドクオは駆け出していた。
気付いた時には、自分の意思とは無関係に。

夜の闇へ駆け出していた。



450: ◆sEiA3Q16Vo :03/25(日) 14:33 esNTqTOrO


学校。

小春日和のうららかな日差しが暖かい。時々吹く風が肌を冷やすが、すぐに太陽の光が温めてくれる。

校庭に植えられた桜の木が、流れる風に身を任せて花びらを散らせている。

桜色の絨毯が校庭を包み、その上を何人もの生徒が駆け回り平和な昼休みを楽しんでいる。

ほどよくお腹も膨れ、日光に包まれると自然に瞼が下りてくる。

談笑している友人を尻目に、ゆっくりと眠りの世界に誘われていく。



そして、世界が震えた。

体が持ち上げられる感覚に襲われ、上下左右に揺さぶられる。

突然の震動に目を覚まし、辺りを見回す。

談笑していた友人は悲鳴を上げ、床に倒れる。

教室の正面に掛けられた時計が落下し、砕けたガラスが飛び散る。

立つこともままならず、床に両手両足を付き体を伏せる。



――ギッ



何かが軋む音が聞こえる。

音が聞こえる場所、天井に目をやる。そこには幾つもの亀裂が走っていた。

『―――――!!!』

危ない。

そう叫ぼうとしたのと同時に、自分の足場を含め、ありとあらゆる場所が崩壊した。

自分と、友人。

悲鳴も、体も、瓦礫は全てを呑み込んでいった。



452: ◆sEiA3Q16Vo :03/25(日) 14:34 esNTqTOrO


気が付けば、目の前の光景は何もかもが変わっていた。砕けたコンクリートやひしゃげた机の残骸がしか無かった。

体を動かそうとしても、動かない。ただ、激痛が走るだけだった。

唯一動く首を巡らし、辺りを見渡す。

『……………』

助けを呼ぼうと声を出すが、体を圧迫されかすれた声しか出てこない。

涙で滲みそうになる視界の隅に、よく知る友人の姿が見えた。

顔を見なくても、すぐに分かる友人の後ろ姿。

『……………』

何とか声を絞り出し、友人の名前を呼ぶ。

声が小さいのか友人は動かない。

『……………』

もう一度、友人の名前を呼ぶ。

今度は動きがあった。

ゆっくりと、頭がこちらを振り返り。













ゴロリ、とこちらに転がってきた。



『―――――ッ!!!』



悲鳴さえ、まともに出すことができない。

赤く染まった友人の頭部が、驚愕の表情のままこちらを見ている。

淀み、光を無くした瞳。

頭の中を、逆流した血液が駆け回る。目の前の光景を否定しようと、必死に。

しかし、変わらない。

『――ヒャ――』

自分の世界は壊れた。



『アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッッッ!!!』



救助されるまでの数時間、つーは笑い続けた。

そして彼女は全てを無くした。

孤独が彼女を支配した。



456: ◆sEiA3Q16Vo :03/25(日) 20:28 esNTqTOrO


独りは怖い、独りは嫌だ。

独りは恐い、独りは嫌だ。

生き残ったのは自分だけだ。だからこそ、嫌だ。

共に語る者は居ない。

共に笑う者も居ない。

誰も。




(*;∀;)「う……嫌だよ……恐いよぉ……」

走り続け、やがて彼女は立ち止まる。

人通りも少ない住宅地、街灯の薄明かりの中で、つーは泣いた。

(つ∀;)「もう……独りは嫌だよ……」

何度も何度も、腕で涙を拭う。しかし、次から次へと押し出され拭いきれない。

(つ∀;)「ドクオのアホ〜…」









    『誰がアホだ』









(*;∀;)「アヒャ?」

(;'A`)「……探…したぞ…馬鹿野郎……」

つーが振り返ると、そこには肩を上下させながら息を突くドクオが居た。

幾筋もの汗が顔を伝い、地面に落ちていく。

(*;∀;)「……何で着いて来たのさ〜……」

(;'A`)「お前が逃げるからだろうが!」

そう叫ぶと、ドクオはまた何度も深呼吸を繰り返す。不機嫌そうな顔を更に歪ませ、近くの電柱に手をつく。

(*;∀;)「だって〜……」

(;'A`)「あぁっ! もう泣くんじゃねえ!」

我慢の限界と言わんばかりに、何度も頭を掻きむしると、ドクオはつーの襟首を掴み、引きずっていく。

(つ∀;)「……う〜……」

抵抗できず、うめき声を上げながら、そのままズルズルと引きずられる。

しかし、彼女の涙は、少しばかり収まっていた。



457: ◆sEiA3Q16Vo :03/25(日) 20:30 esNTqTOrO


('A`)「……さて、話して貰おうか……」

先程、つーがしぃと遭遇した公園に、二人は戻っていた。

ドクオは近くの自販機からコーヒーを二本買い、一つをつーに手渡す。

しかし、つーはベンチに腰掛け、渡されたコーヒーには口を付けず両手で包んでいる。

(*゚∀゚)「……さっき、アンタの妹に会ったの……すぐそこでね」

うつ向きながら、つーは一本の街灯を指し示す。

(*゚∀゚)「……しぃ、って名前。間違いない?」

上目使いでドクオの顔を覗き込むと、彼は頷き肯定する。ひとまず安堵の息をつき、つーは話を続けた。

(*゚∀゚)「アタシに、アンタを頼む、って言われた」

('A`)「……何で教えてくれなかったんだ」

(*゚∀゚)「……気付いたら居なくなってたし……言おうと思ったらアンタ怒ったじゃん」

('A`)「……スマン」

口を尖らせるつーに、ドクオは素直に謝った。

('A`)「……俺を頼む、か……」



『どうして私を助けてくれなかったの』

『仕方無かった? どうしようも無かった? 後悔してる? そう言えるのは兄さんが生きてるからだよね』

『兄さん、何で生きてるの?』

『生きたいから? だったら私の方が生きたいよ。
だって、私は死んじゃったんだもの』



少女の言葉が、蘇る。

('A`)「しぃ……俺は生きていていいのか……?」

ドクオの口から、溜め息と共に言葉が溢れていった。



462: ◆sEiA3Q16Vo :03/25(日) 23:31 esNTqTOrO


(*゚∀゚)「ドクオ」

('A`)「…………?」

(*゚∀゚)b「イーンダヨー」



親指を立てながら、満面の笑みを浮かべるつー。

その姿に、ドクオは何度か瞬きした後。

('∀`)「プッ……ははははは…」

顔を緩め、笑った。

(*゚∀゚)「お? やっと笑ったじゃん」

それに釣られる様に、つーも笑った。

暖かさが、胸の奥をくすぐる。

――今だけは。

――この少しの時間だけは。

('A`)(俺も笑っていいよな……しぃ……)

二人の、僅かな繋がりは。



(・W)「楽しそうだな」



無情にも断ち切られた。

('A`)「……お前か……」

(・W)「お? 俺とお前とは初対面の筈だぞ? ドクオ」

('A`)「知ってるさ……お前の事は、何でもな」

(*゚∀゚)「……内藤ホライゾン」

唇を噛み締め、今にも飛び掛ろうとするつーを、ドクオは手で制する。

('A`)(俺が合図をしたら……逃げろ)

(*゚∀゚)(馬鹿言うな! アタシも戦う! アイツを殺すんだ!)

(・W)「悪いが、逃がすつもりは無いぞ……ドクオ、邪魔するならお前もな」

('A`)「ブーン……やめてくれ……」

(・W)「無理だ」

内藤の右手が、コートのポケットから引き抜かれる。

そして、その手が二人に向けられ――



(#゚∋゚)「……………」



突如として現れた大男の拳が、内藤の体を吹き飛ばす。



463: ◆sEiA3Q16Vo :03/25(日) 23:32 esNTqTOrO


(・W;)「ガハッ……」

衝撃が内藤の体を突き抜け、そのまま街灯にぶつかる。金属製の街灯は、その威力で歪み、明かりが明滅する。

(*゚∀゚)「……く、クックル!」

( ゚∋゚)「……………」

大男は無言で、公園の入り口を指差す。

('A`)「……逃げるぞ」

そのジェスチャーを読み取り、ドクオはつーの手を掴み、駆け出そうとする。

(*゚∀゚)「でもクックル(#'A`)「いいから走れ!」

戸惑い、立ち止まるつーを怒鳴り、ドクオは無理矢理引きずっていく。

つーは何度も振り返り、公園の入り口から消えていった。

それを見届けたクックルは、内藤へと目を向ける。

手に持った買い物袋を放し、その手を前に突き出す。

淡い燐光が生まれ、収束し、棒状の物を形作る。

岩を削り出した様な、武骨な片刃の大剣。クックルはそれを小枝の様に振り回し、内藤に向ける。

(・W)「……あ〜あ……」

内藤は、何事も無かった様に立ち上がり、コートの汚れを払い落とす。

そして、首を押さえながら左右に傾け、バキバキと骨を鳴らす。

(・W)「なぁ、悪いがそこを退いてくれねえか」

( ゚∋゚)「……………」

内藤の言葉に、クックルは無言で返す。

それを否定と受け取った内藤は。



(・W)「じゃあ、死ねよ」



右手を振り上げながら、クックルとの空間を疾走した。



471: ◆sEiA3Q16Vo :03/26(月) 19:20 aHR0/FJcO




ロッキングチェアに深く腰掛けていた老人は呟いた。

/;3 「……ホッホッホ、どうやらクックルが内藤と交戦しとる様じゃ」

川 ゚‐゚)「そうか。……荒巻、ビロード、行くぞ」

(;><)「わ、わか、わか……」














( <●><●>)「わかってます」

/;3 「キメェ」



473: ◆sEiA3Q16Vo :03/26(月) 19:28 aHR0/FJcO


――轟音が響き渡る。

クックルが振り下ろした大剣が地面を割り、内藤の拳が遊具を砕く。

(・W)「デカイ図体の割には、やるじゃねえか」

飛び退き、距離を取りながら内藤は右腕を回す。肩に手を沿え、筋肉をほぐし、再び構える。

( ゚∋゚)「……………」

クックルは、無言で内藤へと突き進む。大剣を大きく持ち上げ、横薙に払う。

(・W)「おっと」

轟、と空気を砕きながら迫る一撃を、内藤は上に飛び上がり回避する。

(・W)「……弾けろ」

( ゚∋゚)「―――――」

(・W)「な―――」

空中で内藤が右手をクックルに向けた時、クックルの口が何かを呟いた様に見えた。しかし、真横から迫り来る何かが内藤の体を打つ。

瞬間。

内藤の右半身全体を包むように強烈な圧力がかかり、体を軋ませる。

二転。三転。

地面に叩き付けられ内藤の体は何度もバウンドした。

(・W;)「お…ごぁあ……てめえぇ……」

( ゚∋゚)「……………」

地面に手を着き、クックルを睨み付ける内藤は見た。

尋常では無いほどに巨大化した、クックルの左腕を。



474: ◆sEiA3Q16Vo :03/27(火) 00:17 WifmvSRAO


大型重機のショベル。
その巨大なアームがそのまま肩から生えていると言うのが丁度いいか。

とにかく、クックルの左腕は規格外の大きさで内藤を威圧していた。

(・W;)「……それが、てめえの宝具か……」

口内に溜った血を吐き捨て内藤は立ち上がる。体をのけ反らせ二、三歩たたらを踏むが、両足で大地を踏みしめる。

( ゚∋゚)「……………」

(・W)「……こんな時にもだんまりかよ」

内藤はなかば呆れた口調で言うと、ダラリと下げていた右手をクックルに向ける。

(・W)「まぁ、当たらなければ意味はねえな」

口の端を歪める内藤。

右手の紋様が鈍く輝き脈動する。

( ゚∋゚)「……………」

ゴキリ、と不快な音を立ててクックルの腕が歪み縮んでいく。

それに合わせて、クックルは握る大剣を振りかぶる。

(・W)「死ね」

紋様の光が増したのと同時に。

( ゚∋゚)「……………」

大剣が振り抜かれた。





(・W)「………あ?」

内藤は、自分の視界が傾いていくのが分かった。

傾いていく視界の中で目にしたのは、先程の腕と同様に、規格外のサイズに巨大化したクックルの大剣。

その大剣は、街灯、遊具、樹木を問わず叩き斬り、振り抜かれていた。

当然、通過点にある内藤の肉体も同じく、巨大な刃は両断した。



480: ◆sEiA3Q16Vo :03/27(火) 21:48 WifmvSRAO


( ゚∋゚)「……………」

ゴキリ、と音を立て大剣が縮んでいく。
縮んだと言っても、常人が扱うには巨大過ぎる剣を携えクックルは内藤に歩み寄る。

体を上下で分断され、切断面からはおびただしい量の血液が吹き出している。
うつ伏せに倒れた上半身を赤い泉に浸し、溢れた臓腑が散らばっていた。

大地は、夜の闇に紛れたその赤い雫を広げ、吸い込んでいく。

その様子を確認し、クックルは歩みを止めた。

片時も内藤から視線を外さず、全身に緊張の糸を張り巡らし続ける。

( ゚∋゚)「……………」

クックルは、大剣を天高く掲げ。

( ゚∋゚)「…グガ・ラナ…」

自らが所有する宝具の力を解放し、大剣を更なる大きさに変貌させる。



そびえ建つ摩天楼の如く、天に座す満月を貫く程の剣。

その柄を、両手で握り締め。

ピクリとも動かず地に伏す内藤に向け、微塵も残さんと言わぬばかりに。



振り、下ろした。



481: ◆sEiA3Q16Vo :03/27(火) 21:50 WifmvSRAO


――赤い。


――朱い。


――緋い。


――紅い。


きられた、切られた、斬られた、伐られた、キラレタ。


力が抜ける。

治りが遅い。



まだだ。

まだ壊し足りない。

破壊。

破壊。

破壊だ。

壊せ、目の前の男を。

引き裂き、殴打し、踏み砕き、千切り、くびり、潰し、壊してしまえ。

壊して足りない。

目の前の男を壊せ。

壊される前に壊せ。












――壊セ。

――破壊ノ限リヲ尽セ。

――ソレガ己ノ存在意義ダ。



483: ◆sEiA3Q16Vo :03/27(火) 23:32 WifmvSRAO


膨大な質量を持つ物体が空気の壁を引き裂き、落下する。

大地を揺るがす衝撃が駆け巡り、弾け飛ぶ。
大量の土砂が巻き上がり、土煙が立ち込める。

( ゚∋゚)「……………」

確かな手応え。

内藤ホライゾンの抹殺は完了した筈だった。



だが。

彼は確信した。
この周囲に立ち込める、威圧感。
景色が歪む程の錯覚を生み、全身の皮膚が粟立ち、冷や汗が背中を伝う。

( ゚∋゚)「―――っ!」

握る大剣から伝わる感触が変わった。まるで、下から持ち上げられる様に。



『は』



『はは』



『ははは』





――一瞬の、静寂。





『あ――――っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁああぁぁっっっっ!!!』



舞い上がる砂塵は吹き飛び、クックルの眼下には、小型のクレーターが広がっている。

そして、そのクレーターの中心に立つ人物。

(・W)「残念だったなぁ」

彼はクックルを見上げていた。
右手の甲で、大剣の刃を受け止めながら。



〜第十四話・完〜



( ^ω^)右手より気持ちいいお!



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