右手よりは気持ちいいよ

534: ◆sEiA3Q16Vo :04/01(日) 23:48 TLSS1Eo9O


私は猫になりたかった

猫は自由だから

私は猫になりたかった

毎日が楽しそうだから



だけど



猫は孤独だ

私は孤独が嫌いだ

だから私は、猫になりたかった



〜第十六話・乾燥機の前の微妙な空気〜



535: ◆sEiA3Q16Vo :04/01(日) 23:49 TLSS1Eo9O


(*゚∀゚)「ここ何処よ」

('A`)「知らね」

(*゚∀゚)「何で?」

(δA`)「知らね」

公園から走り続けた二人は橋の下に座り込んでいた。
三角座りで問掛けるつーに、ドクオは鼻をほじりながら適当に答える。

(*゚∀゚)「これからどーすんのさ?」

'⌒η('A`)「知らね」

(*゚∀゚)「……殴っていい?」

('A`)「駄目に決まってるだろ、常識的に考えて」

ジト目で睨むつーに、ドクオは大真面目な顔で言い放った。
軽い眩暈に襲われたつーは、こめかみを抑えてうなだれる。

(*゚∀゚)「……アタシ達、どーなるんだろうね」

組んだ腕に顎を乗せながら、つーが深い溜め息をつく。

('A`)「……知らね」

流石にそう何度も同じ答えで返されるのも限界だと言わんばかりに顔を上げたつーは、戸惑った。

見上げたドクオの顔が、苦悩に満ちた表情だったからだ。

('A`)「先の事なんて、誰にも分かんねえよ」

(*゚∀゚)「……………」

('A`)「未来が分かれば誰も苦労しねえ。分かんねえから頑張れるんだよ」

(*゚∀゚)「アヒャヒャ、未来から来といて良く言うよ」

('A`)「……確かにな」

つーの言葉に、ドクオは苦笑するのだった。



536: ◆sEiA3Q16Vo :04/01(日) 23:50 TLSS1Eo9O


(*゚∀゚)「………アヒャ」

突然、つーが自分の肩を抱き身震いする。

('A`)「……寒いか?」

(*゚∀゚)「ん」

短く答え、二の腕を擦りながら頷く。
ドクオは少し考え込んだ後、おもむろに上着を脱ぎ始める。

('A`)「無いよりマシだろ」

それだけ言うと、つーの頭から上着を被せる。

(*゚∀゚)「アヒャ……」

断ろうかと思ったが、流れてきた夜風に冷やされるとおとなしく上着を肩に掛け直す。

(*゚∀゚)「ドクオ」

('A`)「んあ?」

(*゚∀゚)「……あんがと」

('A`)「……気にすんな」

互いに短い言葉を交し、どちらとなく口を閉じる。

(*゚∀゚)「ドクオ」

('A`)「何だよ」

ドクオがつーに目を向けると、彼女は自分の隣にある石をタスタスと叩きながら手招きしていた。

座れ、との意思表示を受け取りドクオは石に腰掛ける。

(*゚∀゚)「話してよ」

('A`)「何を?」

(*゚∀゚)「妹さんの事」

('A`)「あぁ……」

ドクオは一度、首を後ろに傾けると深く息を吐き出す。

('A`)「つまらない話だぞ?」

(*゚∀゚)「聞きたい」

即答され、もう一度溜め息をつく。

('A`)「……俺の妹……しぃはな……」

長く長く吐き出し、やがてドクオは口を開いた。



540: ◆sEiA3Q16Vo :04/02(月) 23:49 iyBXPgRUO


――スゲェお節介でな、いつも何かと俺の世話を焼きたがる奴だったよ。

――良い妹さんじゃん。

――出来の良い妹だったよ。







――だけど死んだ。

――俺の目の前で。

――……………。

――助けられた。

――救える命だった。

――大切な妹だった。



――だけど死んだ。



('A`)「あっけなかったよ」

(*゚∀゚)「……………」

('A`)「……あいつ、最後に笑ってたよ……」

うなだれるドクオ。

(*゚∀゚)「……あのさ」

地面に縫い付けられたドクオの視界に、つーの顔が割り込んでくる。

(*゚∀゚)「幸せだったんじゃないのかな」

('A`)「…………?」

(*゚∀゚)「アンタの世話焼いてさ、毎日楽しかったと思うよ」

怪訝なドクオの目を覗きながらつーは続けた。

(*゚∀゚)「楽しかったから、最後に笑えたんだよ、きっと」

('A`)「……あぁ、そうかもな」

つーの言葉にドクオは苦笑し、空を見上げる。
つーもそれに習い、視線を持ち上げる。

橋の下から見える空は、どこか遠く、狭かった。



(*゚∀゚)「……でもさ」








   『生きてる、よね』






('A`)「………あぁ」



542: ◆sEiA3Q16Vo :04/04(水) 12:43 nDs/BpugO




――願うか。

――取り戻したいか。

――ならば、契約せよ。



('A`)「あいつなら……何か知ってるかもしれないな……」

(*゚∀゚)「あいつ?」

('A`)「俺をサイボーグにしてこの世界に送り込んだ奴だよ」

ドクオは、つと自分の頬を撫でる。
何度も張り直した皮膚の下にある、金属の硬さが指から伝わる。

(*゚∀゚)「……誰なのさ」

('A`)「知らね」

(*゚∀゚)「オイ」

ジト目で睨まれ、ドクオはバツの悪そうに頬を掻く。

('A`)「覚えてないんだよ、そいつに関して何一つな」

(*゚∀゚)「ふ〜ん」

('A`)「他の事は大体インプットされてるな。お前達の事とか、ブーンの未来の姿とかな」

(*゚∀゚)「へ〜え」

('A`)「……サイボーグになってブーンを守り、大破壊を回避する。その為に、俺は契約したんだよ」

(*゚∀゚)「ほ〜お」

相も変わらず、つーは睨んだまま平坦な返事をする。
('A`)「……何だよ」

(*゚∀゚)「べっつにぃ〜」

そのまま、頬を膨らませそっぽを向く。

ドクオはそれを横目で見ながら、深く溜め息をついた。

('A`)「……ワケワカンネ」

ポツリ、と呟いた言葉は、夜の闇に溶けていく。



544: ◆sEiA3Q16Vo :04/05(木) 03:14 0o1ZoxdaO


(*゚∀゚)「……………」

('A`)「……………」

二人の間に、うすら寒い風が吹き抜ける。

('A`)「なあ」

(*゚∀゚)「何さ」

('A`)「……俺、何かしたか?」

(*゚∀゚)「別に……」

('A`)「……………」

(*゚∀゚)「……………」

再び、沈黙が訪れる。

耳が痛くなる様な静寂が、辺りを支配していた。

('A`)「そういえばさ」

沈黙に耐え切れなくなったドクオが、思い出した様に口を開く。

('A`)「……しぃに会った時、あいつに言われたんだ。何で生きてるんだ、ってな」

沈んだ口調で、陰鬱な表情で、ドクオは吐き出す。

突然の言葉につーは、始めは驚いた表情を浮かべるがやがてドクオの話に耳を傾けていく。

('A`)「正直……何も言い返せなかったな……あいつは死んで、俺は呑気に生き長らえてるんだか――」

それ以上、ドクオは続ける事が出来なかった。



彼の唇に、覆い被さる様にして。



強く。



そして熱く。







つーの拳が、突き刺さっていたからだ。



(#)A`)(………何で?)



549: ◆sEiA3Q16Vo :04/05(木) 23:56 0o1ZoxdaO




馬鹿。

馬鹿だ。

大馬鹿野郎だ。

アタシの目の前にいるコイツは大馬鹿野郎だ。

だから殴ってやった。

殴られなきゃ、コイツは多分理解しない。

顔を抑えて転がり回ってるけど、いい気味だ。

こっちも痛かったんだから。

(*゚∀゚)「ば〜か」

口に出して言ってやった。

……自分でも何をしてるのか分からないや。

……だけど、言わなきゃいけない。殴らなきゃいけない。

(*゚∀゚)「生きてるじゃん」

機械の体になっても。

妹が死んじゃっても。

……生きてるじゃん。

(*゚∀゚)「そんなに生きるのが嫌なら死んじゃいなよ。なんなら、アタシが殺してあげようか?」

鼻血を出しながら唖然とした顔でアタシを見上げている。

(*゚∀゚)「死人の言う事を一々真に受けて…アヒャヒャヒャヒャ、おめでたいね〜」

自分でも嫌になる言い方だ。
当然、ドクオはアタシを睨み付けてくる。

……少し、胸の奥が痛んだ。

だけど、言わなきゃ。

さっきからイライラしてたし、アタシのストレス発散も兼ねて。

(*゚∀゚)「アンタは、この時代に何をしに来たのさ」

ドクオは、少し困惑した表情で……やがて気付いた様だ。



550: ◆sEiA3Q16Vo :04/05(木) 23:57 0o1ZoxdaO


(*゚∀゚)「……あの大破壊を…防ぐんだろ?」

だから。

(*゚∀゚)「生きなきゃ」

('A`)「……スマン……」
正直な話、ドクオの妹に……嫉妬してたよ。

羨ましかった。

それに、コイツがサイボーグだろうと何だろうと関係無い。

もっと、コイツの事を知りたい。

だから、コイツがサイボーグだの何だのと言い始めてから、少し悲しかったんだ。

('A`)「俺……馬鹿だな」

(*゚∀゚)「……大馬鹿野郎だよ」

コイツの辛さはアタシにも良く分かる。
だからこそ、そんな悲しい顔をしないでくれよ。

笑ってよ。

ドクオ。



('A`)「つー」



アタシは、多分凄く驚いた顔をしていたと思う。
実際、それぐらい驚いた。


('A`)「……ありがとう……」



初めて、名前で呼んでくれた。

たったそれだけの事なのに、当たり前の事なのに、嬉しかった。

……あぁ。

……駄目だ。

止められない。

アタシは、思わず駆け出して。



ドクオの胸に飛込んでいた。



554: ◆sEiA3Q16Vo :04/07(土) 06:22 FVTncI7QO


(*゚∀゚)「もぉアタシはお前が大好きだコノヤロー!」

体当たりに近い勢いでぶつかり、つーはドクオの腰に腕を回す。
金属の硬質な感触が伝わるが、それが何だと言わんばかりに腕に力を込める。

('A`)「…………はい?」

(*゚∀゚)「うああぁっ! 自分でも分かんないよ! アンタに惚れちまったんだよおぉっ!」

耳まで真っ赤にしながらつーは叫んだ。
唖然とした顔で、ドクオは立ち尽くしている。

(*゚∀゚)「だから生きてくれよ! もっとアンタと一緒に居たいんだよぉ!」

堰を切った様に、つーは吐き出した。
内情を晒け出し、何度も叫んだ。

(*;∀;)「ドクオ……」

濡れそぼった瞳が、上目使いで覗き込んでくる。

凍てついた鼓動を刻むドクオの心臓が、高鳴る。

('A`)「……大丈夫だ……俺は、迷わない。生きて、生き抜いて、大破壊を防いでみせる」

強く、決意を秘めた瞳が、つーのそれと混ざり合う。

そして、ドクオはつーの瞳から正面に視線を動かす。

その視線は、そこに佇む人物を捉えていた。



555: ◆sEiA3Q16Vo :04/07(土) 06:23 FVTncI7QO






『やっと気付けたね……兄さん』





凛、とした声。

('A`)「……しぃ……」

ドクオ達と僅かに距離を置いた場所に少女は佇んでいた。
儚げな微笑を浮かべ、月明かりを受けて。

(*゚ー゚)『……兄さん……ごめんね、酷い事言って……』

そう言って、少女は微笑みを崩し哀しげな表情でうつ向く。

('A`)「……謝らないでくれ……俺は……」

(*゚ー゚)『うん、分かってる……兄さんは悪くないよ……』

(*゚∀゚)「……………」

二人の姿を交互に眺め、つーはドクオの体から腕をほどく。

('A`)「……………」

解放されたドクオは、少女に向かって歩み寄る。
フラフラと夢遊病者の様に頼りない足取りで、しぃの目の前で立ち止まる。

両手を広げ、胸の高さまで持ち上げると少女の体を包む様に腕を閉じ――





――空を切った。





何の抵抗も無く、ドクオの腕はしぃの体をすり抜けた。

(*゚ー゚)『……だから言ったでしょ……』

諦めにも似た、寂しげな顔でしぃは言った。

認めたくない。

しかし、確固たる事実を。




  『私は死んでるんだから』



557: ◆sEiA3Q16Vo :04/07(土) 17:21 FVTncI7QO


(*゚ー゚)『気付いたらこんな体になって、気付いたらこの時代に来てた』

すり抜けた手を眺めるドクオに、しぃは自虐的に呟いた。

(*゚ー゚)『話せる、見える、だけど触れない……便利な様で、役に立たない』

ドクオと同じ様に自分の手を眺め、胸に当てる。

(*゚ー゚)『鼓動も刻まず、ただ冷たい時間を過ごしていくだけ』

('A`)「しぃ……」

(*;ー;)『何故? どうして? こんな空気みたいな姿は望んでないよ?』

込み上げる涙と嗚咽。

触れる事も出来ず、ドクオは唇を噛み潰す。

('A`)「しぃ……」

今度こそ。
失敗は繰り返さない。

('A`)「約束する、俺が……今度こそ俺がお前を助けてやる! だから泣くな!」

強く、強く。

腕を大きく広げ、少女に向けて叫んだ。

(*;ー;)『……約束だよ? 絶対だよ?』

すがる様に繰り返すしぃに、ドクオは強く頷く。

('A`)「あぁ、約束だ」

(*;ー;)『……待ってるからね』

ドクオの言葉に満足そうに笑うと、少女の姿が滲んだ。

ぼんやりと、曖昧に。

周りの景色と混ざる様に。

(;A;)「……………」

言葉を発せず、ドクオはただ涙を流した。

涙で歪んだ視界の中で、少女の姿が更に滲む。



558: ◆sEiA3Q16Vo :04/07(土) 17:22 FVTncI7QO




   『待ってるからね』


少女は最後に微笑み、消えた。

一時のまほろばの様に。

儚く。

霞み。

微笑み、消えた。

残されたドクオはその場に膝を着け、泣いた。

地面に爪を立て。

自らに怨嗟の言葉を叩き付けながら泣いた。

つーはそっと、ドクオの肩に手を置いた。
彼女も同様に泣いていた。

枯れるまで。

渇れるまで。

二人は泣き続けた。



夜はもう、明け始めていた。



〜第十六話・完〜



( ^ω^)右手より気持ちいいお!



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