右手よりは気持ちいいよ
- 562: ◆sEiA3Q16Vo :04/08(日) 18:49 2lXN4uiwO
脈々たる血の刻印。
聖印か。
烙印か。
刻まれ、拭えぬ御印は。
望む、望まぬを問わずに背負わされ続ける。
祝福と歓喜か。
絶望と嫌悪か。
禊落として涙涙と。
流れ流れて流れ尽き。
右手に掴むは怒りか嘆きか。
涙は伝いて燃え上がる。
〜第十七話・往けども獸道、涙と遠吠えのギャラクティカファントム。お前の親父は歩く核弾頭〜
- 563: ◆sEiA3Q16Vo :04/08(日) 18:50 2lXN4uiwO
( ^ω^)「………お?」
ツンの言葉に、ブーンは首を傾げた。
公園での騒動の後二人はラブホに戻り、夜が明けた。
ラブホから出たその時に、ツンが言い出したのだ。
ξ゚听)ξ「うん……どうしても会いたい人がいるの……」
( ^ω^)「どうしてもかお?」
ξ゚听)ξ「無理に、とは言わないわ。ただ……会えるなら、会いたい」
ブーンは腕を組み、何度か首を捻りながら唸る。
( ^ω^)「分かったお。ツンの好きな様にするお」
眉間に皺を寄せ、固く閉じた瞼を開けるとブーンは頷いた。
ξ゚听)ξ「……ブーン、ありがとう」
( ^ω^)「おっおっお、構わないお。早速行くお」
ξ゚听)ξ「ええ、案内するわ」
ブーンが促すと、ツンは歩き出した。
軽い足取りで歩くツンの背中から、ブーンは視線を公園に向けた。
公園の入り口には何人もの警官が立ち、壊れた器物を調べているのが見えた。
痛ましい表情で、ブーンは自らの右手を押さえる。
僅かに、うずいた気がした。
頭を左右に振り、持ち上がってきた奇妙な感覚を振り払う。
そして、少し早足でツンの背中を追い掛けるのだった。
- 568: ◆sEiA3Q16Vo :04/10(火) 15:01 c9kwIaUVO
ξ゚听)ξ「ここよ」
ツンが案内したのは、普通の一軒家だった。
特に大きいというわけでもなく、かといって小さいわけでもない。
いたって普通の家。
( ^ω^)「結局、誰に会いに来たんだお?」
ξ゚听)ξ「……私の――ってちょっとこっちに来なさい!」
( ^ω^)「お?」
玄関が開いたのと同時にツンはブーンの腕を取り、電柱の影に飛込む。
|ω^)
|听)ξ「……………」
|⊂
( ^ω^)「何で隠れるんだお」
ξ゚听)ξ「ちょっと黙っ……出てきたわ」
ブーンの口を塞ぎ、ツンは玄関に目を向ける。
ζ・勍)ζ「行ってきま〜す」
そして、一人の少女が元気よく飛び出してきた。
( ^ω^)(……誰だお?)
ξ゚听)ξ「……おかあさん……」
( ^ω^)「……………」
|ω^)
|听)ξ「……………」
|⊂
(;゚ω゚)『な、なんだってえぇえぇぇぇぇぇぇっ!!!』
- 569: ◆sEiA3Q16Vo :04/10(火) 15:01 c9kwIaUVO
(;^ω^)「マジかお」
ξ゚听)ξ「……えぇ、あの人が私のお母さん」
学生服をヒラヒラとさせ、朝の日差しを浴びながら歩く姿をツンとブーンは静かに眺めていた。
ξ゚听)ξ「しかも現在、ご懐妊らしいわ」
――しばしの、沈黙。
(;゚ω゚)『な、なんだってえぇえぇぇぇぇぇぇっ!!!』
ξ#゚听)ξ「静かにしなさい!」
(;^ω^)「スルーできる話題じゃないお! 普通もっとオブラートに包むお!」
ξ゚听)ξ「何か行きずりの男とアレコレあったらしいわ」
( ^ω^)「話を聞けお」
ξ゚听)ξ「……で私が産まれたらしいわ」
( ^ω^)「……………」
ξ゚听)ξ「私が産まれて……色々苦労したみたいだけど……お父さん、そんなの全然気にしないでお母さんと結婚したわ」
遠ざかる母の背中から目を離さず、独り言の様に呟く。
ξ゚听)ξ「……幸せだって、言ってたわ……」
( ^ω^)「……ごめんだお」
ξ゚ー゚)ξ「馬鹿、何であんたが謝るのよ」
( ^ω^)「それでも、ごめんだお」
電柱に、額を押し付けながら謝罪の言葉を吐き出す。
ξ゚听)ξ「ブーン」
そんな彼の肩に、ツンの手が乗せられる。
ξ゚ー゚)ξ「頑張ろ?」
( ^ω^)「お……」
ξ゚ー゚)ξ「未来を、変えなくちゃ」
固い決意を載せた笑顔に。
( ^ω^)「……………」
ブーンは、頷いた。
- 571: ◆sEiA3Q16Vo :04/11(水) 02:31 qjHCVKqpO
暗い部屋。
暗い場所。
暗い空間。
(・W)「……カーチャン……」
その空間に横たわる女性を、内藤は覗き込んでいた。
/;3 「そんなに心配せんでも生きとるわい」
その様子に、内藤の後ろに控えていた荒巻はカラカラと笑う。
(・W)「……………」
内藤は視線を母親から右手に移す。
右手を覆う紋様が、僅かにうごめいた。
/;3 「必要な物は揃った。後は時が来るのを待つだけじゃ」
(・W)「あぁ……」
羽織ったコートを翻し、内藤は荒巻と向き合う。
二人の顔に歪んだ笑みが刻まれる。
/;3 「絶望と怒りに満ちた時、終焉の扉が開かれる……」
荒巻は腕を大きく広げ、天に向けて語りかける。
両目を閉じ胸の奥から沸き上がる感覚をゆっくりと吟味する。
/;3 「これで落ちた力も戻るじゃろうて……まったく、お前さんの友人もロクな事をせんのう」
(・W)「ドクオか……」
/;3 「……古来、人間の精液には強い力が宿ると信じられてきた……」
- 572: ◆sEiA3Q16Vo :04/11(水) 02:31 qjHCVKqpO
――力。
つまり、魔力の塊じゃ。
精液に宿る魔力。
それも世界最強の童貞の精液じゃ。
お前さんの性剣・エクス・カリ・バー。
そして、それに最も触れ続けたその右手に魔力が宿った。
――あの日を境にの。
母親の死が引き金となり、お前さんの右手に宿った魔力が発現した。
破壊。
全ての破壊。
お前さんが望んだ事。
儂は。
お前さんを肯定しよう。
のう、ホライゾン。
この世は狂っておる。
浄化が必要なんじゃよ。
お前さんが成すんじゃ。
その為なら、儂はどんな犠牲も払おう。
ホライゾン。
儂の息子よ。
願い、望み。
その先の終焉を。
全ての破壊を成し遂げるんじゃ。
全てを、破壊するんじゃ。
- 581: ◆sEiA3Q16Vo :04/12(木) 23:24 sJ73RS2LO
川 ゚ ー゚)「……………」
クーは、立ち尽くしていた。
天を仰ぎ。
身じろぎもせず。
その顔には、深い疲労と空虚が漂っていた。
( ><)「……………」
彼女の後ろでビロードも同様に立ち尽くしていた。
ただ、彼の顔は眉間に皺を寄せ困惑した表情を浮かべている。
川 ゚ ー゚)「なあ、ビロード」
( ><)「何ですか、隊長」
川 ゚ ー゚)「私は……何をしていたんだろうな」
疲れきった口調で、溜め息と共にその言葉を吐き出した。
諦め。
その言葉が、クーの胸中を支配していた。
( ><)「……わかんないです」
ポツリ、とビロードは呟く。
川 ゚ ー゚)「…………?」
(#><)「隊長が何を言ってるのか……わかんないです!」
ビロードは吠えた。
(#><)「クックルもミルナも死にました! 何のために? 未来を変える為なんです!」
大股でクーに歩み寄り、彼女の胸ぐらを掴み上げる。
(#><)「その為に二人は死にました! なのに貴方は何を言ってるんです!」
川 ゚ ー゚)「……………」
- 582: ◆sEiA3Q16Vo :04/12(木) 23:25 sJ73RS2LO
ビロードの怒声をクーは受け続けた。
空虚な表情のまま、視線をまともに合わせず。
(#><)「荒巻が裏切り、全てが狂い始めました。終焉が近付いています」
それでもビロードは続けた。
届くかどうか、分からない。
それでも続けるしかなかった。
( ><)「内藤ホライゾンの母親を人質にする……既に荒巻は準備していたんです」
川 ゚ ー゚)「……………」
( ><)「奴らを止めるんです、隊長。僕達がやらなければいけないんです!」
顔を紅潮させ、ビロードは肩で大きく息をする。
やがて気付いた様に掴んだ襟を離し、一歩下がる。
( ><)「……………」
伺う様にして、ビロードはクーの瞳を覗く。
虚ろな瞳に、やがて光が灯る。
川 ゚ ー゚)「すまない……ビロード……」
( ><)「……隊長、僕達はこの任務に全てを賭けました。ミルナもクックルもそれを後悔していません」
- 583: ◆sEiA3Q16Vo :04/12(木) 23:25 sJ73RS2LO
――だから。
( ><)「隊長、ご命令を」
ビロードは直立不動の体勢で言った。
毅然とした態度で、クーの言葉を待つ。
そんなビロードの姿に、クーは苦笑する。
川 ゚ ー゚)「……強いな……お前は……」
( ><)「馬鹿なだけなんです」
ビロードの即答に再び苦笑する。
川 ゚ ー゚)「死ぬだろうな」
( ><)「分かってます」
川 ゚ ー゚)「絶望的だな」
( ><)「分かってます」
川 ゚ ー゚)「不本意な命令を出すつもりだぞ」
( ><)「分かってます」
川 ゚ ー゚)「失敗が前提だぞ」
( ><)「それも」
( <●><●>)「わかってます」
- 587: ◆sEiA3Q16Vo :04/14(土) 15:00 wNlEgpf3O
ξ゚听)ξ「……これからどうするの?」
( ^ω^)「……………」
ツンが目的を果たし、二人は当てもなく歩いていた。
先を歩くツンの一歩後ろからブーンは黙して着いて行く。
ξ゚听)ξ「あなたのお母さんを探す? それともドクオ達を探す?」
( ^ω^)「……………」
ブーンは黙して着いて行く。
ξ゚听)ξ「……聞いてるの?」
それに焦れたツンは立ち止まり、振り返る。
自分の話を聞いていなかったのか、と僅かに苛立ちを含めた表情で腕を組む。
( ^ω^)「……………」
ブーンは黙して、その横を通り過ぎて行く。
- 588: ◆sEiA3Q16Vo :04/14(土) 15:02 wNlEgpf3O
ξ;゚听)ξ「ちょっと、聞いてるの!?」
そんなブーンの様子にツンは慌て、色めき立つ。
( ω )「……わからないんだお……」
ξ゚听)ξ「…………?」
数歩進んだ所で立ち止まり、ブーンは口を開いた。
その言葉の意図を汲めずツンは困惑し、眉を寄せる。
( ω )「わからないんだお」
再び同じ言葉を繰り返す。
どこか硬質な響きを含めた声が、ツンの眉を更に寄せる。
( ゚ω゚)「わからないんだよ」
振り返ったブーンの目は、淀んだ光を湛えていた。
- 589: ◆sEiA3Q16Vo :04/14(土) 15:02 wNlEgpf3O
( ^ω^)「“僕”は、引き籠りだった。それで良かった」
淀んだ光が鈍く輝く。
( ゚ω゚)「カーチャンと“俺”、それだけで十分だった」
暗く。
( ゚ω゚)「退屈と安寧に満ちた生活」
冷たく。
( ^ω^)「ただそれだけの日常」
黒く。
粘りを持った、纏わり付く光がツンを捕え、絡み付く。
ξ゚听)ξ「……ブーン?」
- 590: ◆sEiA3Q16Vo :04/14(土) 15:10 wNlEgpf3O
恐る恐る、ツンは呼び掛けた。
壊れかけた硝子細工を扱う様に、ゆっくりと呼び掛けた。
( ゚ω゚)「夢を見たんだ」
呼び掛けが聞こえたのか、聞こえなかったのか。
ブーンは答えず、唐突な事を言い始めた。
( ^ω^)「“僕”が、世界を破壊する夢だよ」
ブーンは語る。
破壊の悪夢を。
右手を振るう度に繰り広げられたあの光景を。
自らが指揮者となった殺戮のオーケストラを。
破壊。
大破壊の一夜を。
- 594: ◆sEiA3Q16Vo :04/14(土) 21:06 wNlEgpf3O
――何もかもが壊れた……いや、壊したのか。
子供が蟻の行列を潰す様に、“僕”は逃げる人々を壊した。焼いたり、切ったり、擦り潰したり。
容赦の無く。
徹底に。
カーチャンが死んで、“僕”が壊れて、憎んで、壊して。
壊れて、壊して、壊れて、壊して、壊れて、壊して、壊れて、壊して壊れて壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して。
『楽しかった』
- 595: ◆sEiA3Q16Vo :04/14(土) 21:07 wNlEgpf3O
( ゚ω゚)「……楽しかったんだよ、心底。逃げる人を潰すのがな」
ξ;゚听)ξ「……………」
ツンは、二の句を継げず口を開いていた。
何か言葉を発しようとするが、喉の奥が詰まり声が出せない。
( ゚ω゚)「射精にも似た快感が全身を走り、止められず、やめられず、“俺”は壊し続けた」
濁った瞳が、ツンを呑み込む。
( ゚ω゚)「子供も、大人も、老人も! 赤子も! 男も!! 女も!! 一切の区別なく叩き潰した!!!」
ξ;゚听)ξ「あ……か………」
呼吸ができない。
視界が揺らぐ。
足元が震える。
( ゚ω゚)「……アレは間違いなく、“俺”だ」
フッ、と全身を縛る感覚が解ける。
ξ;゚听)ξ「あ…………」
一瞬、たたらを踏むがツンはすぐに体を持ち直す。
肺に空気を溜め込み、かぶりを二、三度振り揺らぐ視界を戻す。
- 596: ◆sEiA3Q16Vo :04/14(土) 21:08 wNlEgpf3O
( ゚ω゚)「……お前達に殺されても仕方ないな」
ザリッ、と地面を踏み鳴らし一歩ツンに歩み寄る。
そして。
目を閉じる。
( ^ω^)「……僕は本当に生きていていいのか分からないお……」
淀みは無くなっていた。
ツンの目の前に居るのは、柔和な笑みを湛えた少年だった。
ξ゚听)ξ「……ブーン」
( ^ω^)「ツン達が僕を殺すのは……間違ってなかったお……」
ブーンはうつ向き、右手を押さえる。まるで自分の手が勝手に動き、ツンの首を絞めてしまうのではないか。
そんな不安に襲われていた。
ξ゚听)ξ「ブーン」
立ち尽くすブーンとは逆に、ツンが一歩進む。
( ^ω^)「……………」
ブーンは歯噛みし、苦悶の表情で立ち続ける。
ξ゚ー゚)ξ「……大丈夫だから」
(;゚ω゚)「――――ッ!!!」
そんなブーンを、ツンはそっと抱き締めた。
- 597: ◆sEiA3Q16Vo :04/14(土) 21:08 wNlEgpf3O
ξ゚ー゚)ξ「……今なら分かる……アンタは人殺しなんかじゃない」
慈しむ様に。
そっと、両腕で包む。
ξ゚ー゚)ξ「ショボンも言ってたじゃない……アンタはそんな人間じゃないって」
( ^ω^)「…………お」
ξ゚ー゚)ξ「だから、大丈夫」
ブーンの肩に、ツンの頭が置かれる。風になびく髪が、ブーンの頬をくすぐる。
ブーンの視界が滲んだ。
泣いている。
自分が涙を流していると気付く。
( ;ω;)「お…………」
触れた部分から、暖かさが伝わってくる。
身体中に温もりが染み渡り、心地好い。
ブーンは一度強く目を閉じ、涙を押し出す。
クリアになった視界の先には
(´・ω・`)ノ「やあ」
ブーンが良く知る顔があった。
- 603: ◆sEiA3Q16Vo :04/15(日) 11:57 lxQ/hQQlO
( ゚ω゚)「あ…………」
声が出なかった。
ξ゚听)ξ「どうしたn――」
ブーンの視線に気付き、振り返ったツンも同様に息を飲む。
(´・ω・`)
( ゚ω゚)「し……ショボン……」
(´・ω・`)「……ブーン……」
( ;ω;)「ジョブゥオェオオオオォォォォオオオンッ!!!」
(´;ω;`)「ヴゥウゥゥゥゥゥウウンンッ!!!」
二人は同時に駆け出した。
走った。
走った。
走った。
――唐突に、ブーンの視界からショボンの姿が掻き消える。
( ゚ω゚)「お?」
フッ、とブーンの耳元に息が掛る。
(;゚ω゚)「おぉ!?」
(´・ω・( ゚ω゚)
『や ら な い か』
ラ、ラメ――ビギビギビギッミチッズルブブブブメガッサアッー―――!!!
〜第十七話・完〜
( ^ω^)右手より気持ちいいお!
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