( ^ω^)ブーンが機械と戦うようです

194: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 17:15:12.44 ID:vafhPJWa0
  
――作戦開始時間五分前。

荒巻は自室でレトルトパックの食事を温めていた。
大坑道で発掘したとっておきで、ずっととっておいたものだ。
表面のプリントは変色して見えないが、手触りからシチューか何かを期待していた。
頃合いになったパックを湯からひきあげ、用意していた皿の上で封を切る。
と、同時に異臭が部屋に充満する。温められたそれは見る間に広がり、荒巻の鼻を容赦なく犯した。

/ ,' 3「うげっほ、げほげほっ!!」

あわてて有毒物投棄箱にそれを捨てる。
覚悟はしていたが、やはり中身はとうの昔に腐っていたようだ。

/ ,' 3「やれやれ。最後の晩餐にはありつけんかったか」

軽く肩を落として、新巻は異臭漂う自室を後にした。
鍋にはった湯が、白い湯気をあげていた。



196: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 17:23:46.88 ID:vafhPJWa0
  
――作戦開始時間四分前

ジョルジュは自室で一枚の写真を眺め苦悩していた。

( ゚∀゚)「我がおっぱい女神、ジェシカちゃんの生写真。持って行くべきか行かざるべきか」

いやがるジェシカを宥めてすかして頼み込んで、やっとの思いで撮らせて貰った一枚。
胸の大きく開いた服を着て、あからさまに嫌そうな顔をしているその写真はジョルジュの宝物だ。
散々迷った挙げ句、ジョルジュはその写真をその場に残すことに決めた。

( ゚∀゚)「例え写真でも、俺のジェシカちゃんに怖い目に遭わせるわけにはいかねぇもんな」

それが男ってもんだろ。そう言って、写真の中のジェシカに笑いかける。
その顔は普段おちゃらけてばかりの彼には珍しく、引き締まって精悍な顔つきをしていた。
もし他のメンバーが今の彼を見れば、いつもその表情でいるように進言したことだろう。

( ゚∀゚)「よし、じゃあ行ってくるぜ。ジェシカちゃんは俺が絶対に助けるからな!!」

高らかに宣言して、写真にビッとサムズアップ。
装備の入ったリュックを背に、ジョルジュは自室を後にした。



197: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 17:29:13.24 ID:vafhPJWa0
  
――作戦開始時間三分前

兄者と弟者は、二人で使用している自室で装備を点検していた。
彼らは二人で一つ。周囲の世界に対して、二人はそれだけで完結していた。

(´<_` )「兄者よ」
( ´_ゝ`)「なんだ弟者」
(´<_` )「もうすぐ戦闘だな」
( ´_ゝ`)「ああ。今までにない激しいものだな」
(´<_` )「もし、この戦闘で……」
( ´_ゝ`)「言うな弟者」

弟者の言葉の先を読んで、兄者が遮るように制止した。

( ´_ゝ`)「お前の言いたいことはわかる。だが、俺たちはなんだ?」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「俺たちは二人で一つ。万が一にもそれはありえない」
(´<_` )「ああ、そうだな」
( ´_ゝ`)「俺たちは二人で完璧に任務を遂行する」
(´<_` )「そして周囲の者達は我らをこう褒め称える」
( ´_ゝ`)(´<_` )「「流石だよな、と」」

二人の確認は終わった。後は任務を遂行するのみ。
大切な物はここにはない。大切な存在は己と己の半身のみ。
長く寝起きした自室を、二人は欠片ほども顧みずに後にした。



199: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 17:36:00.05 ID:vafhPJWa0
  
――作戦開始時間二分前

フサギコの部屋は広い。本来は二人で使用する部屋を、一人で使用しているためだ。
数日前までは、ここでもう一人が起居していた。だが、今はもういない。

ミ.,,゚Д゚彡「ギコ……」

写真立てに入れた写真を見つめ、フサギコは小さく呟いた。
現実世界で生まれ育った流石兄弟と違い、フサギコとギコは本当の兄弟ではない。
外見はよく似ているが、ただそれだけだ。血のつながりは存在しない。だが、フサギコとギコは紛れもなく兄弟だった。
時間の流れとは、時に血よりも濃いものを作ることがある。

ミ.,,゚Д゚彡「お前は納得して死んだのか。あの新入りをかばって、爆弾を抱えて」

ギコの最期は、内藤の報告を受けたミルナから伝え聞いている。
強く、自分の行動を信じてまっすぐだったギコらしい最期だったと言えた。

ミ.,,゚Д゚彡「もしお前がいたら、お前はなんと言うだろうな」

俺の分まで生きてくれ――違うな。あいつはこんなに女々しくない。
俺のことは忘れろ――これも違う。忘れて良いほど軽いつながりではなかった。

ミ.,,゚Д゚彡「やはりお前は、あいつを許してやれと言うのだろうな」

本当はわかっていることだった。ギコなら間違いなくそう言う。自分のとった行動は自分の責任。他人に転嫁するのは嫌いだ、と。

ミ.,,゚Д゚彡「だが、許すか許さないかの見極めは俺がする」

それぐらいのわがままは、兄として押し通させて貰うぞ。
写真の中のギコに向かって心の中で呟くと、フサギコもまた自室を後にした。



200: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 17:45:26.34 ID:vafhPJWa0
  
――作戦開始時間一分前

集合を命じられていた離発着場兼格納庫で、内藤は随分前からフサギコの宿題を考えていた。

ミ.,,゚Д゚彡『ツンでなければよかったのか。お前はツンさえ無事なら、満足なのか』
ミ.,,゚Д゚彡『俺が言いたいこと、聞きたいことはそれだけだ。作戦までに、答えを聞かせろ』

たった数分で答えを出すには、あまりにも重い命題。
ツンを取れば、その他大勢を切り捨てることになるかもしれない。
その他大勢を取れば、ツンを切り捨てることになるかもしれない。
どちらも助かるハッピーエンドは許さない。フサギコの問いかけは、それだけの威圧があった。

( -ω-)「ボクは……ボクは……」

自分の手を眺める。数日前に比べれば幾分か肉が付いた、それでも非力な手。

ミ.,,゚Д゚彡「答えを聞かせてもらうぞ」

背後からかけられた声に、はじかれたように内藤は後ろを振り向く。



202: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 17:54:52.16 ID:vafhPJWa0
  
ミ.,,゚Д゚彡「考える時間は与えた。答えを聞く時間だ」

そう言いながらも、フサギコは決して十分な時間だったとは思えなかった。
自分が許すかどうかを決めるにも。内藤が答えを出すにも。
内藤の答えに自分の意思も委ねようとする自分は、卑怯者かも知れない。
フサギコは心の中でそう考えながら、それでもそんな素振りは欠片ほども見せずに内藤を見据えた。

( -ω-)「ぼ、ボクは……」

呟くように目を伏せる内藤。やはり、時間が足りなかったか。
フサギコが溜息をついた時――内藤が顔を上げた。

( ゚ω゚)「ボクは手の届く範囲の人を助けるお!!」
ミ.,,゚Д゚彡「……なんだと?」

フサギコは思わず聞き返した。
なんだそれは。まるで癇癪を起こした子供の理論ではないか。

ミ.,,゚Д゚彡「ふざけて……いるのか?」
( ゚ω゚)「ふざけてなんかいないお。ボクは真剣だお」
ミ.,,゚Д゚彡「貴様……なら、ての届かない場所にいる者は切り捨てるんだな?」

(;゚ω゚)「そ、その時は……」

言いよどむ内藤。
フサギコは心の中で祈った。肯定しろ、それならまだ話はわかる。だが内藤は止まらなかった。

( ゚ω゚)「その時は、走ってその場に駆けつけるお!!」



204: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 18:03:23.78 ID:vafhPJWa0
  
何かがキレた。

ミ#,,゚Д゚彡「ば……っかじゃねぇのかゴルァ!!!!」
(#゚ω゚)「馬鹿なんかじゃないお!! ボクは真剣だお!!」
ミ#,,゚Д゚彡「なら真剣に馬鹿かテメーは!!」
(#゚ω゚)「馬鹿じゃないって言ってるお!! 手が届かなければ走ればいいお!!」
ミ#,,゚Д゚彡「あぁ!? なら走っても間に合わなかったらどーすんだゴルァ!!」
(#゚ω゚)「エア・スクーターを使えばいいお!! そんなことも気がつかないなんてそっちこそ馬鹿かお!!」
ミ#,,゚Д゚彡「そういうことを言ってんじゃねぇ!! なら地球の裏側ならどーすんだ!!」
(#゚ω゚)「瞬 間 移 動 すればいいお!!」

こ、こいつは。フサギコは熱くなった頭の片隅で理解した。
本物の馬鹿なのだ、こいつは。だから、自分が頑張ればなんとかなると信じている。
そんな筈はないのに。失敗したことがないから、こいつはそんなことが言えるのだ。
だけど、何故だろう。内藤の理屈が妙に魅力的に聞こえるのは。

ミ#,,゚Д゚彡「き・さ・まぁーっ!!」
(#゚ω゚)「ぶごおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

――パァーン!!

掴みかかるフサギコ。迎え撃つ内藤。
あわや乱闘と言うところに、一つの破裂音が響いた。



209: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 18:14:44.40 ID:vafhPJWa0
  
/ ,' 3「ほいほい。そのへんにしとけ、若いの」

この紋所が目に入らぬか。そう続きそうなセリフが似合う口調の荒巻が、場に割り込んだ。
片手で拳銃を持って、天井に向けている。

(;゚∀゚)「おいおい、艦内で銃なんぞぶっぱなすんじゃねーよマッドじじい」
/ ,' 3「重ね重ね失礼なやつじゃな。心配せんでも、ほれ、空砲じゃわい」

そう言って銃を向けていた天井の安全を指さし確認。
丁度、向けられた人差し指程の穴が、その延長線上にぽっかりと空いている。

( ゚∀゚)「……」
/ ,' 3「……まあそれはともかく」

なにか言いたげなジョルジュの視線から逃げながら、フサギコと内藤に目をやる。

/ ,' 3「フサギコ。お前の負けじゃ。素直に認めたらどうかね」
ミ.,,゚Д゚彡「……」
/ ,' 3「内藤の理屈は破綻しておる。それで全てがまるっとおさまるわけはない」
/ ,' 3「しかし、わしらちっぽけな人間に、がむしゃらに走り手を伸ばす以外何ができるね?」

元来、人間は非力なものだ。
走れば草食動物の子供以下、力は愛らしいチンパンジー以下、泳ぎも上手くはない。
そんな人間が他人を助けようとすれば、それはもうがむしゃらに走り、手を伸ばすしかあるまい。



212: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 18:24:23.65 ID:vafhPJWa0
  
/ ,' 3「どうせ一生かけても大した答えなんぞ得ることはできまい。なら、今はその答えで我慢せんかね」
ミ.,,゚Д゚彡「……」

やっと冷静になったフサギコは、掴んでいた内藤の襟から手を離し、乱れた着衣を整えた。

ミ.,,゚Д゚彡「見苦しい姿を見せて、すみません」
/ ,' 3「かまわんかまわん。若いもんはそうでないとな。しかし、相変わらず固いのー」

もっとさっきのような口調で話してもかまわんよ。そう言って、荒巻は自分のエア・スクーターに向かっていった。
ジョルジュも何事もなかったかのように傍を通り抜けて同じ方向へ。
流石兄弟はいつの間にか到着して、既に準備完了していた。



213: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 18:31:37.91 ID:vafhPJWa0
  
ミ.,,゚Д゚彡「準備。するぞ」
( ^ω^)「はい。ですお」

喧嘩の後に感じる独特の気まずさを感じながら、二人も所定のエア・スクーターに乗り込む。
二人乗りをするには、バイクの二人乗りのように操縦者と同乗者がくっつく必要がある。
ヘルメット代わりの防護マスクを被ると、運転席のフサギコから指向性通信が入った。

ミ.,,゚Д゚彡『お前の答え、受け取った』
( ^ω^)「……」
ミ.,,゚Д゚彡『お前の理屈では、助けられない人は必ず出てくる。それは覚悟のうえか』
( ^ω^)「そんな人は出さないお」
ミ.,,゚Д゚彡『……まあいい。だが、いつか必ずその手で、足で届かない人が出てくる』
ミ.,,゚Д゚彡『その時は……俺を呼べ。手が空いてれば、駆けつけてやる』
( ^ω^)「……!!」
ミ.,,゚Д゚彡『勘違いするな。誰かを助けたい気持ちは誰だって同じなんだ』

もっとも、お前の助けたい範囲は馬鹿みたいに広いみたいで、手が回らないことはっきりしているがな。
痛烈な皮肉を投げかけながらも、フサギコの声は悪意を含んでいない。

ミ.,,゚Д゚彡『だから、瞬間移動なんぞを練習する暇があるなら、俺を呼べ。誰かを呼べ』
ミ.,,゚Д゚彡『俺はお前が嫌いだが、とりあえずお前を信頼してやることはできる』

フサギコは前を向いたまま、ぶっきらぼうにそう告げた。

( ^ω^)「ありがとうだお、フサギコさん。やっぱりフサギコさんとギコは兄弟だお。そっくりだお」

思わずギコの事を口走ってから、内藤は慌てて口を押さえた。
しかし、フサギコからの返答はない。すでに無線は切れていたかとほっとしながら、内藤はフサギコの腰にしがみついた。
だから、フサギコがマスクの中で嬉しそうに笑っていたことを、内藤は知ることができなかった。



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