('A`)ドクオと( ^ω^)ブーンが旅行をするようです

4: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 19:31:39.13 ID:xHbODY8G0
第26幕:真相


 空に浮かぶ月と云うものは、中々どうして風雅なものである。
 辺り一面に夜の帳が降りて居る中で満月が高く昇って玲瓏と輝いているのを見ると、嘆息せずには居られない。それは
数多の星にも言えることでもあるが、矢張り月は桁が違う。あれだけの光を、それも冷たい光を燦然と放てる存在は、夜間に
於いては月以外に見当たらない。全天で一番明るい恒星のシリウスであるとか、偶然に急接近した火星であっても、月の
圧倒的な存在感には太刀打ちできないだろう。
 夜において、意識せずには居られない存在。
 辺りが闇に染められているのに、その闇において一層その存在感を明らかにする月。
 
 だが、そんな月も、新月になればその存在を闇に紛れさせる。闇夜の烏とは善く云ったもので、普段なら圧倒的な存在感を
誇る月は、新月になると烏のように見えなくなるのだ。
 かと云って、昼間に月が昇っても見えない。昼間の人の目線と云うものは、概して水平か足許手許しか見ようとしないから、
態々目線を上げて月を愛でようという気にもなれないのだろう。
 矢張り、月と云うものは、辺りが深々と暗くなっている中で一段と光を放つ存在でなければ有り難味が薄れてしまう。丁度、
灯台のようなものだ。昔で云う灯台も、昼間であればひとたび障子を開ければ部屋は光で満たされるから用は無いし、岬の灯台も
太陽が昇って視界が良好な状況では、帰る港の手がかりとしては必要ない。



5: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 19:36:08.11 ID:xHbODY8G0
 地上でも、同じようなものである。
 初めて日本に瓦斯燈がお目見えしたときは、人々は珍奇の目でそれを見つめたそうである。電気も無い時代、日が落ちたら
辺りは軒から漏れてくる光ぐらいしか外を照らすものが無かったのだから、通りを明々と照らす瓦斯燈の存在と云うものは、
それはもう理科室でマグネシウムリボンを燃やすようなものだったであろう。
 少々残念なことに、今では街燈ひとつでは人は心を移ろわせない。雨後の筍のように生えたコンクリートのビル群や、都市高速
のナトリウム燈(・水銀燈)が、夜を煌々と照らしている。お陰で蝉は調子を狂わせるし、宇宙から夜の日本列島を俯瞰すると、
普通は寄る側の地球なんて見えないものであるが、明かりが列島の輪郭をぼんやり浮き上がらせている。

 あまり枕を長くするのも好くないから、この辺で切り上げて話をvip峡に戻す。

 子の刻、深夜零時前のことである。
 夜9時の時点で民家という民家の悉くが灯りを落としているものだから、その時間も当然、vip峡は真ッ暗である。懐中電灯を
片手に巡回する警官も居ないし、況してや車の一台も居ない走っていない。



7: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 19:39:43.89 ID:xHbODY8G0
 これでは、日本最後の秘境とも称されるvip峡においては、どこまで見渡しても常闇が続き、独り天高く冷たく輝く月以外に
灯りらしい灯りが無い――と、誰もが思っただろう。
 ――しかし。
 ――vip峡の一点に、ぽつんと、それでいて力強い光源があった。
 それは、轟と燃える篝火であった。
 もともと土地が狭いうえ真ッ暗になっているvip峡で篝火なんか挙げたら、ひとたびvip峡全体が橙色に染め上げられると思われる
やも知れないが、それとは正反対に、篝火の光は或る一点に留まっていた。
 ――篝火は、旅館の裏手の森、それも祠がある広場で上げられていたのである。

 篝火が上がっているにろばの周囲は、何度も述べたように鬱々と森が拡がっており、見る者の視界を遮っている。木立ばかりで
なく、木と云う木が葉を茂らせているものだから、これでは幾ら火の手が高く上がっても、川を挟んで向こう側にある集落の方に
まで光が届かない。屹度、周囲の山からvip峡を見下ろしたとしても、篝火を認めることは困難であっただろう。
 無論、この篝火は野火や鬼火の類ではない。
 篝火が上がっている広場には、その火を上げた者の影を認めることができた。影は2つあり、先ほどから篝火を囲うようにして
ぐるぐる動いている。
 奇異なことは、此れだけではない。
 この森、すなわち鎮守の森の存在意義とも言うべき祠の戸が開け放たれていた。
 そして――――篝火の直ぐ脇に、見慣れた男が仰向けになっていた。
 ――見紛う事もない。その男とは、ブーンその者であった。



9: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 19:40:47.15 ID:xHbODY8G0


    □


 刻を同じくして、旅館の一室である。

(-A-)「――――」

 幸か不幸か、ドクオはすっかり白河夜船で居る。

 (――)

 ふと。

 (――――さい)

(-A-) 「――――」

 闇の中で、幽かな声が発せられる。しかし、ドクオはその声に反応しない。



11: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 19:42:48.10 ID:xHbODY8G0
 (――――――ください)

(-A-) 「――――ううん」

ξ゚听)ξ「――起きて下さい、ドクオさん」

 ドクオの耳に、蚊の鳴くような、か細い声が這入った。

('A`)「――――ん?」

ξ゚听)ξ「ドクオさん。私です。高岡の妻の、ツンです」

 寝ぼけ眼のドクオは、半身を起こして目を擦る。だが、もともと暗い所為もあってか、目の前に居るらしい
ツンの姿は、ぼんやりとした影としてしか認めることができなかった。

('A`)「――ツンさんですか? こんな時分にどうしたんです?」



13: ◆spzKjTJd5o [25幕うp中……] :2007/09/15(土) 19:47:58.16 ID:xHbODY8G0
ξ゚听)ξ「――あまり、説明している暇は無いんです。ドクオさん、隣の布団を検めてみて下さい」

('A`)「隣の布団? そこにはブーンが――――」

 居なかった。
 伸ばしたドクオの左手は、すっかり体温を失っている布団を徒に擦るばかりであった。

('A`)「――どう言うことです?」

 布団から目を転じ、闇に少々慣れた目でツンを視る。

ξ゚听)ξ「ブーンさんは、主人の高岡によって連れて行かれました。拉致、と言っても差し支えないかも知れません」

('A`)「――状況がうまく飲み込めませんが」

ξ゚听)ξ「――vip峡には、5年ごとに起こる因習がありまして、その標的にブーンさんが選ばれたのです。私は主人を何度も
     諌め、予定を変更するように説得したのですが、あの男には取り付く島もありませんでした」



15: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 19:51:13.30 ID:xHbODY8G0
('A`)「――続けてください。何が起きようとしているんです?」

 静かに、ドクオは促す。

ξ゚听)ξ「――祠の存在はご存知でしょうか」

('A`)「ええ、知っていますよ。旅館の裏手にある森の中にあるヤツでしょう?」

ξ゚听)ξ「――主人が企てを実行しようと考えているのなら、そこの広場にブーンさんが居る筈です」

('A`)「ひとつ、訊いてもいいですか?」

ξ゚听)ξ「――何でしょう」

('A`)「ツンさん、あなたはかなりの事をご存知のようですが、高岡さんを止めることが出来なかったのですか? 例え実力を
   以ってしてでも」

 まるで言葉を発することを躊躇ってもいるかのようなツンに反して、ドクオは単刀直入に切り出す。



16: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 19:54:48.50 ID:xHbODY8G0
ξ゚听)ξ「――森の入り口に、注連縄が張られていましたよね?」

('A`)「ええ。それが何か?」

ξ゚听)ξ「あれは、昔修験者が張った結界の証なのです。言ってみれば、あの鎮守の森全体が女人禁制の森。過去にも、男たちの
     企てを阻止しようとして森に入った女たちは――――例外なく、森の入り口で頓死しているのです。また、森に入らず
     とも、直接儀式を妨害した女も――例外なく頓死しています」

('A`)「つまり、男の私がブーンを助けに行かなければならない――と?」

 すっかり頭が冴えてしまったドクオは、布団の上で片膝をついてツンに向き合っている。はっきりとは分からなかったが、随分と
ツンは焦燥しているようだった。何故と云うに、昼に見たような覇気が全く感じられないのである。

ξ゚听)ξ「――はい。夫がマスターキーでこの部屋に侵入し、搬入用の台車でブーンさんを連れ去ったのを見計らって、こうして
     私はこの部屋に入りました。何分気づかれてはならない為、このように暗闇の中でのご説明となってしまい――申し訳
     なさで一杯です」

('A`)「成る程――」



19: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 19:57:46.19 ID:xHbODY8G0
 大体の状況は掴めた。
 そして、ドクオが薄々感づいていた「5年前の出来事」が、今ここで再び繰り広げられているのであろうということも。

('A`)「分かりました。一刻の猶予も許されないようですから、ここでは仔細を問いません。私は、とにかく祠のある場所に
   駆けつければいいのですね?」

 既に足を部屋の出口の方へと進めながら、ドクオはツンの方を見遣ることも無いまま問う。

ξ゚听)ξ「ええ――。無事、ブーンさんを助けることが出来るかは分かりませんが――」

('A`)「結果はどうあれ、今の私には、友人の許に向かうことしか出来ることはないですよ――」

 ドクオは、部屋から出て行きざまにツンを一瞥する。

ξ゚听)ξ「どうか――、ご無事で――――」

('A`)「――はい」



21: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:00:32.09 ID:xHbODY8G0
 それを最後に、ドクオは駆け出した。
 ツンの方からドクオが見えなくなっても、伽藍の如く静まり返った旅館全体には、板張りの床を疾駆する音が響いた。
 程なくして、裏口の扉が開け放たれる音が旅館全体に響き、それがツンの耳にも這入り、音は果てた。

ξ゚听)ξ「――――」

 部屋に残された女は、暗闇の中で呆けている。
 畳の上で石のように正座し、微動だにしないことがまるで自分に課せられた使命であるかのように。

ξ:凵F)ξ「――――」

 悄然としている女の頬を、涙が伝う。涙は、止め処なく溢れてきた。

 ――やがて、女の口から、或る男の名が発せられる。
 その男の名は――――、

ξ:凵F)ξ「御免なさい、ショボ――――」

 涙を堪えること能わず、女は布団に突っ伏すと、独り閑かな部屋で嗚咽を漏らした。


     □



22: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:02:37.59 ID:xHbODY8G0
 普段は静謐を湛えている森だったが、この日は枝葉が揺れる音に混じって禽獣の鳴き声も多分に聞こえられた。それだけでなく、
5年と云う周期を待ち侘びていたかのように、森全体が威容を放っている。
 その中、炯炯と篝火が焚かれている広場は、真昼の如明るく染め上げられている。
 広場は、本来の暑さと篝火による熱さとが入り混じって、呼吸をするのにも体力を要するほどであった。

从 ゚∀从「――全く。こう熱いのに、この男はよく寝ていられるよな」

 高岡は、足許で呑気に寝ているブーンを見下ろして毒づく。
 旅館から森の入り口までに使われた搬入用の台車は凹凸のある地面で激しく揺れたが、ブーンはそれでも眠りから醒め
なかった。森の入り口からは、高岡と、その傍に居るもう一人の男とが救護用の担架で運んだのである。
 傍らの男は、先程からブーンの体を舐める様に視ている。

从 ゚∀从「おい。何時頃からこの男を喰ってしまうんだ?」

 高岡が男に水を向ける。ややあって男はブーンを視るのを止め、相貌を高岡の方に向けた。



25: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:04:36.69 ID:xHbODY8G0
(´・ω・`)「――もう、起こしても良い頃かな。大体、5年前もこの時間帯だった」

 口を開いた男――ショボは、蒼穹を見上げる。

(´・ω・`)「――5年前も、こんな星空だった」

从 ゚∀从「ふうん。正座の位置なんて、5年間も覚えているものかね」

(´・ω・`)「――僕にとっての5年前の夜は、忘れようとも忘れられない夜だったからね」

从 ゚∀从「――そして今夜、5年前から続く因縁ともオサラバってわけか」

(´・ω・`)「あまり、知れっとした口調で言うな。誰の所為で僕が此処に居ると思っているんだ」

 ショボの口調に、静かな怒気が込められる。

(´・ω・`)「そもそも、話をツンに持ちかけたのはハインだろう? それが無ければ今僕は――――」



27: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:05:51.17 ID:xHbODY8G0
从 ゚∀从「悪かったって。俺も、部外者を犠牲にしようとは思わなかったさ。だがな、地元の連中があまり五月蝿く騒ぎ立てるもの
    だったから――」

(´・ω・`)「責任を転嫁するな」

 言を次ぎかけた高岡を、静かに制する。

从 ゚∀从「――昔の話をした所で、何も始まらないじゃないか。いまヤれることをヤらないと、また5年後悔するぜ?」

(´・ω・`)「――まあいい。じゃあ、取り掛かるか」

 云って、ショボは仰向けに寝ているブーンへと歩み寄る。そして――――
 
 ――ブーンの股間にナマ足を当てがった。

 最初は小刻みに、そして、段々大きく、グラインドするように足を動かす。

(´・ω・`)「――流石、僕が見込んだ男だ。もともと大きいクセして、どんどん大きくなりやがりる」

 ショボの土踏まずを、屹立したブーンの陽物がノックする。その怒張は、ノンケの高岡がひと目で見ても判るほどであった。
 食事中の方、ごめんなさいね。



30: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:07:20.97 ID:xHbODY8G0
(-ω- ;)「うう――――」

 先程から、ショボに良いように摩羅を弄ばれているブーンの額には、露のような汗が噴き出していた。

(´・ω・`)「――寝ていながらも、感じるところは感じるということか」

 はたまた、篝火が熱い所為か――と言を次ぎながら、段々足の動きを速く、強くしていく。

(-ω- ;)「うっう――――、アッ――――!!」

 寝ながらも、ブーンは呻き声をあげる。

(´・ω・`)「そろそろだ――――」

 ショボは、大きく足を踏み込んだ。

(゚ω゚ )「アアッーーーー!!」



33: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:09:00.87 ID:xHbODY8G0
 ブーンが瞠目すると同時に、摩羅の先端から生温かい男汁が迸る。旅行中1回もヌいていなかったブーンの男汁は、まるでその時
を待っていたかのように飛び出し、浴衣にだらしない染みを為す。辺りには、イカ臭い匂いが漂ったが、ショボにはこの上ない
馥気のように感じられた。

(´・ω・`)「――これはいいモノだ」

从 ゚∀从「――お前、よくそんな事が平気でできるな」

(´・ω・`)「なぁに、どうせ、5年後はこの男がする番さ。宿命みたいなものだよ」

从 ゚∀从「さっさと済ましてくれ。俺にはそっち方面のケはない」

(´・ω・`)「わかった」

 言って、ショボは荒々しく肩で息をしているブーンの脇にしゃがみこむ。

(´・ω・`)「やあ、ブーンさん。気分はどうだい?」



36: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:10:33.15 ID:xHbODY8G0
(゚ω゚ ; )「あ――あなたは」

(´・ω・`)「また会ったね。いつぞやは本屋に来てくれて有り難う。お陰で、今夜は忘れられない良い夜になりそうだ」

 ――もっとも、君にとっては悪い意味で忘れられない夜になるかもしれないけどね。と、ショボは言を次ぐ。

(^ω^; )「――一体、何をするつもりなんだお!! いきなり人のモノを弄っておいて!!」

 少しばかり平静とを取り戻したブーンは、がばと立ち上がってショボを睨めつける。

(´・ω・`)「――ずっと、この夜を待っていた」

 応じるように、ショボも立ち上がる。面は火に照らされて明るかったが、表情までも窺い知ることは出来なかった。

(^ω^; )「ずっと?」

(´・ω・`)「ああ、ずっとさ。――5年前からね」



39: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:12:55.76 ID:xHbODY8G0
 5年前という言葉に、ブーンは妙なものを感じる。脳裡には、タクシー運転手の長岡の顔が浮かんでいた。

(^ω^; )「5年前――何があったんだお」

(´・ω・`)「――僕は此処で――――――――掘られたんだ」

(^ω^; )「掘られた――?」

 意外な返答に、ブーンは思えず尻の穴を窄めた。

(´・ω・`)「初めてだったんだ。僕は本当はノンケだった筈なのに無理矢理挿入されたものだから、この上なく痛かった」

(^ω^; )「それで何で、TDN――もとい、徒の本屋の客だった僕を襲おうとしているのかお?」

(´・ω・`)「御託を並べている暇は無い。今夜僕は君を――!!」



43: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:15:45.08 ID:xHbODY8G0
 ショボはブーンに詰め寄る。前門のガチホモ、後門の業火。ブーンには逃げる術が見つからない。

从 ゚∀从「――おい、ショボよ。幾らなんでも、有無を言わさずガチホモでもない奴を掘るのは可哀想じゃないか?」

 脇から、高岡の声が挟まれる。

(´・ω・`)「5年前以来、僕はノンケもホモも構わないで食ってしまう男になってしまったんだ。理由など必要ない」

从 ゚∀从「まぁそう言わず、何故こんな事になっているのかの説明だけでもしてやらないか? 俺に任せてくれれば手短に済ますぜ」

(´・ω・`)「――――」

 ショボは逡巡する。目の前の男を喰ってしまえば忌まわしい自分の性癖を晴らすことが出来るのだろうが、それでは5年前に
いきなり見知らぬ筋骨隆々の男に菊門を捧げてしまった自分と同じになってしまう。

(´・ω・`)「――――3分間待ってやる」



47: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:18:51.75 ID:xHbODY8G0
 言って、ショボは祠の脇に退いた。それを合図に、高岡はブーンに歩み寄る。

从 ゚∀从「すまねぇなブーンさん。こうするしか、もう方法は無かったんだ」

(^ω^; )「一体、ナニがどうなっているんだお!?」

从 ゚∀从「それは、この村について知ってもらうことが近道だ。コレを読んでくれ」

 高岡は、和服の胸倉から和装本を取り出す。分量はそれほどでもなく、10頁も無さそうだ。

从 ゚∀从「これは、この村の伝説的な怪事をツンが纏めたものだ。――――早く言えば、同人BL本と言うところか」

 差し出された本を、ブーンは手に取る。

(^ω^; )「もしかして、ツンさんは腐j――――」

从 ゚∀从「言うな!! さっさと読め!!」

 高岡の怒号に気圧され、ブーンは本を繰ることにした。



55: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:24:08.29 ID:xHbODY8G0


  □


 vip峡と云うのは、もともとは戦乱の室町の頃に他の集落から住民が流れてきて成立した開墾・農村集落であった。
峡と云うぐらいだから、周囲の山には多くの動物が棲み、樫に杉や檜など木材を供給する森があり、結果として革製品や
木工製品の手工業も発達し、特に周囲との交流も必要とすることがないまま、vip峡の人々は周囲と隔絶された日々を送った。
今日でもvip峡の存在を知らないものが多いことの要因として、そういった歴史的な事情がある。
 だが、vip峡の存在は、風の噂に乗って都市に住む一部の者にも伝わっていたようである。町に住む彼らは、殆んどの者が
その存在すら知らないvip峡を、身を隠すためには格好の場所であるとして考えるようになった。いつしか、vip峡は江戸や
尾張で狼藉を働いた者や、何らかの事情によって追手がかかった者、勘当されて行く当てが無くなった者たちが流れ着くように
なった。半ば、落人集落となったわけである。

 そして、時は元禄、vip峡を恐怖に陥れた男がこの地に流れ着いたのである。



58: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:26:02.67 ID:xHbODY8G0
 稲の青々とした穂が風にそよぎ、vip峡が蝉の鳴き声に包まれる頃、独り、その男はやって来た。
 その時男が着ていた物と言えば、元々は藍色の作務衣だったのだろうが、傍目には水色の襤褸にしか見えなかった。風雨に
晒されて所々が破れた青衣からは、女だけでなく、男も恍惚とさせるほど見事に鍛え上げられた強靭な筋肉が覘いていた。
 荷を何も持たずに徒襤褸だけを纏い、覚束ない足取りで畦道を歩くその男に、農作業をしていた誰もがその手を止め、
釘付けになった。鍬を持つ老若男女がその男に釘付けになる中、道下という若い男がいた。彼は許嫁も決まっており、後は祝言だけ
上げれば一人前の男になれる手はずであった。現に許嫁の腹には彼の子が宿っている。

 だが、道下は思えず男のすべてに心を奪われた。

 何も許嫁に不満だったわけではない。しかし、道下は初めて『男』というものに惹かれたのである。
 まさに、その時の彼の感情と云ったら、晴天の霹靂とでも云うべきだっただろう。その鮮烈さといったら、あまりに目が男に
釘付けになったので、心を忘れて全身の筋肉、特に括約筋が弛緩するようだった。
 覚えず、道下は男に歩み寄っていた。その時彼が何をしようとしたのか、彼にも分からなかったようだ。ただただ、
気づいたら足が動いていたというのである。



60: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:27:42.71 ID:xHbODY8G0
「もし――」

 物怖じしながら問い掛ける道下に、男は足を止め、精悍な瞳を道下に向けた。
 近附いて判ったが、襤褸からは筋骨ばかりでなく、乳首も夏の日に照らされて覘いていた。
 その相貌に、道下は、自分の動悸が早くなるのを感じた。

「ん?なんだい?」

「この地では見かけませんが、旅の者でしょうか?」

「――言いようによっては、旅とも言えるな。自分の身を隠す場所が欲しくてね」

 身を隠す、その言葉に道下は身構えた。

「――何をしたのかは問いませんが、ここは隔絶された土地、vip峡です。ここに流れ着くからにはそれ相応の覚悟をして
 お出ででしょうね?」



64: ◆spzKjTJd5o :2007/09/15(土) 20:30:12.24 ID:xHbODY8G0
「――何をしたのかは問いませんが、ここは隔絶された土地、vip峡です。ここに流れ着くからにはそれ相応の覚悟をして
 お出ででしょうね?」

「ああ、その積もりさ。白状してしまうと、俺は尾張の武家屋敷に仕えていたんだがね、ちょっとややを起こしてしまって、
 主人に暇を出されてしまった。俺が罪に問われるかは微妙な処だったんだが、このまま人の多い尾張に身を置くわけにも
 行かないものでね。新しい人生を営もうと、こうしてvip峡にやって来た、と言うわけさ」

 男は、なんでもないといった風に、ごく自然にさらりと語ってのけた。

「さて――。長い間歩き続けて疲労の度も越してきた。もし良ければ、この流れ者の俺に一宿一飯の面倒を見てくれないか?
 勿論、それ相応の報酬は体で払う積もりだ」

 男は、魅力的な笑顔で道下に問い掛けた。

「僕は良いですが――ひとつ、訊いてもいいですか?」

「どうぞ。何でも訊いてくれ」

「――貴方の名は、何と仰るのですか?」

「ああ、まだ名乗ってなかったね。俺の名は、阿部高和と言う。君の名は?」

「――道下正樹です」

「じゃあ、道下クン、君の家に案内してくれ。なに、ここでも狼藉を働く積もりはないよ」

 云って、安倍――――いや、阿部と名乗った男は、道下の尻を優しく叩く。周りの者は、それを妬ましくも遠目から眺めていた。


第26幕:真相              了



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