( ^ω^)ブーンたちの世界が、終息するようです

41: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 10:16:58.83 ID:6Uxt5Hfc0


どんなに幸福でいようが どんなに絶望していようが、朝と言う物は平等に訪れる。
それは太陽と月が巡るこの世に置いて、唯一絶対な不変の原理だ。


ブーンにとっても、世界中の人たちにとっても、それは一寸の狂いもなく訪れる。



無論、今日とても。



第二話 『 確認すべきだ、と誰かは言う 』



1/14 7:30 ブーン宅



もぞもぞ。もぞ。もぞもぞ。
でかいミノムシ、もとい布団が動いた。


目覚める瞬間とは、なんとも微妙な間であるなとブーンは思う。
無意識と意識の間。半覚醒の淵に身を投げる気分にはいつになっても慣れない。



42: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 10:18:52.81 ID:6Uxt5Hfc0
布団の中で丸まり、ブーンは重い瞼を擦った。
睫毛についた目やにを採取しながら、何時であるかを確認。


7時30分。ああ、イイ目覚めだ。



( ^ω^)「――ふぇ……お、ぉお……良く寝たお。……何か変な夢見たお」



うわ言のように呟きながら、噛み殺す事無く大きな欠伸を欠いた。


っせーの……


脚を頭の方へ上げ、腰を浮かせて、掛け声一発。


( ^ω^)「とぉぉぉぉおおう! ブォォォォオオン!」


そのまま一気に起き上がる。



43: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 10:21:51.31 ID:6Uxt5Hfc0


( ^ω^)「……ふっ。今日もいい調子だおwwwww満点だおwwww」


着地の際にちょっとよろける。



( ´ω`)「……勃ち上がり世界選手権の道は遠いお」



春先のひんやりとした気温が、露の湿気のように徘徊する廊下に出、下に降りた。


自分の存在を誇示するようにわざと大きい音で駆け下りる。


意味は無い。他意も無い。

けれど一刻も早く、どうしたの慌てて、と笑ってくれる母の姿を、
眉根をしかませながら新聞紙を捲る父の姿を確認したかった。



44: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 10:26:53.76 ID:6Uxt5Hfc0



( ^ω^)「……母ちゃん! 起きたお!! 朝飯くれおー!」



腹から声を出す。
いいから返事してくれお……!

日常に縋る。そして願う。理由は解からないが、縋り、願い、手を伸ばす。
心ばかりが焦っていた。どうしようもなく、狂おしいほどに。



( ^ω^)「かあちゃ…………お……?」



リビングや台所に眼を配らせるが、誰もいない。
どうしたの慌てて、と笑ってくれる母も眉根をしかませながら新聞紙を捲る父の姿もいない。


何なんだお。何なんだお、何なんだお何なんだお……!?



47: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 10:33:25.66 ID:6Uxt5Hfc0


( ^ω^)「だ、誰も、いないのかお。……とりあえず、コーシーでも飲むかお」



落ち着け、落ち着けばいい。大丈夫だ。
まだ寝てるか、偶然、外出してるんだ。


独り言を呟きながら、ブーンは台所を見回した。
何か一息つけるものが欲しい。




――しょうがないから親父が大切に保管してた直挽き飲むおwww




この内容でスレでも立てられるかな。なんて頭の隅っこで考えつつ、
珈琲カップを食器棚から出してそれの中に粉末のインスタントコーヒーの元を入れ、保温瓶から湯を出した。
湯気が立ち上り、瞬く間にコーヒーの芳しい香りが台所に広がる。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 10:44:49.23 ID:6Uxt5Hfc0


( ^ω^)「……ちょっと……ぬるいお……母ちゃん、親父。何してるんだお……早く帰ってこいお……」


いつもは舌火傷するほど熱い湯が入っているはずなのに。やはり今日はどこか何かおかしい。
……まあこれも今日に限ったことだろう、と仮定を切り捨てるブーン。



( ^ω^)「にしても直挽きコーシーうめぇwwwwww」



食欲ツヨスwwwwww
そうやってほくそえみながら、緩んできた緊張感に自分でも気がつかない程小さく、しかし確かにほっと一息漏れた。
コーシーの魔力に感謝しながら、ブーンはこの嫌な感覚にトドメをさす為、テレビの電源をつけた。



――――――――それが逆に、この日常への終止符を打つ事になるとも知らずに。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 10:50:22.85 ID:6Uxt5Hfc0

何の支障もなくテレビはついた。
親父の趣向で、リビングのチャンネルはいつだって2ちゃんねるだ。


( ^ω^)「……」



瞬間、リズムが崩れた。
"世界終ったな" ブーンの中の誰かが言った。




「――皇太子一族も今朝、地球を発った模様です。
また国内の各空港には、短い余生を国外過ごそうとする人がごったがえしている様子で、混乱に陥っております。
また警察庁ではくれぐれも単身で屋外に出ないようにと市民の皆様への呼びかけを強化しており――」




のりの貼った背広、キリっ、としめたネクタイ。
理性を醸し出す黒ぶち眼鏡と実績と経験をつんだが故に刻まれた額の皺。


全部、ありふれたものたちのはずなのに―――――――――――――――



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 10:52:45.13 ID:6Uxt5Hfc0


「えー、また無差別投票によって選ばれた10〜30歳までの5万2千人、
また推薦枠で予め決められていた有能な人材はすでに地球を発った模様です」


口から発せられる言葉が、紡がれる言霊が。
全て、全部、日常から、平穏から、繰り返しの日々からかけ離れていた。


「火星での最低限の生活機能をもった今、人類はどこまで生き延びれるのでしょうか」

( ^ω^)「な……何でだお……!! こう言うことって、こんな大変な事、
解ったら即報告があるはずだお!!! なんで今になって!!!!!!!!!」


ブーンの中にあった全ての憤慨や怒りや不満が爆発した。
握りこぶしを机に叩きつける。鈍い音がして、カップの中のコーヒーが揺れた。


そうだ。一体何を抜かしてるんだ。この男は――――!!


一つ、ブラウン管の表面でニュースキャスターは息をついた。
それらから、ブーンの浮かべた疑問と希望への、いや、日本中、世界中の人が思ったであろう言葉への回答を。
絶望への引導を、無表情のまま述べた。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 10:58:51.57 ID:6Uxt5Hfc0

「これは、世界の――国連の選択です。一国のメディアがどうしようも無いことでもありました。
確かに、すい星の衝突が判明したのは1週間前のことで御座いました。
しかしこれは、余計な混乱や暴動を招かない為にアメリカを中心とした常任理事国、
並びに非常任理事国が全会一致で採択した結論なのでございます。
全世界一斉報告だと決まったのは、日本時間の23時――――」


(#^ω^)「ふ……っ……ふざけるなぁぁぁッッ!!!!」


絶望からの叫び声が静かな世界に孤独に響いた。
これなら何も知らないほうが良かったじゃないか。なんなら衝突が決定した時に知らせて欲しかった!




たった8時間ぽっちのタイムリミットで――
 僕に、世界中の人間に、何を成せと言うんだ――!!??



「……報告は以上です。さて、これでわたしの仕事も終わりです」



ニュースキャスターの顔に、この時初めて笑顔が浮かんだ。
腹を決めた清々しい男の顔だ。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 11:02:43.01 ID:6Uxt5Hfc0
立ち上がったニュースキャスターの全身を見た時、
ブーンはこれ以上ないほどの吐気と頭痛に襲われるのを感じた。


胸から下、調度腹のあたりが血に染まっていたのだ。
座っていたから解からなかっただけなのだろう。
多分、ではあるが――ニュースキャスターの物ではない血と、黄色い胃液が目立つ吐射物。

胸に当てた手は、血に濡れていた。
その赤黒い肌だけが、明らかな間違いを組み込まれたパズルのピースのように異様に栄えて見える。



「日本のテレビ史上、最後の放送を担わせて頂いたことを幸福に思います」


何が担わせて頂いた、だ。――アンタ、自分でもぎ取ったんじゃないのかお。


「みなさま――お先に、失礼を」


アカペラの、なんともお粗末な君が代が流れた。
唄い終わってから、件のキャスターはどこからともなく拳銃を取り出して、迷いもなく口に含んだ。

そのまま引き金に手をかけ――――



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/02(水) 11:07:43.99 ID:6Uxt5Hfc0


( ^ω^)「…………ッ!!」


スピーカーから銃声が漏れる前にブーンはテレビの電源を、と言うよりコンセントをぶち抜いた。
ブツン、と音を立てて画面がすぐさま暗転。けれどそれと同時に、ブーンの中の何かも切れたようだった。



(#^ω^)「う……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉッッッッツ!!!!!」


叫びながら、テーブルの上に置いてあった物を全てなぎ倒す。
新聞紙も、タオルも。一輪挿しも、中身の入ったコーヒーカップも全て。
しばらく、ブーンの家のリビングには意味の無い破戒音が続いた。



(#^ω^)「…………っはぁ……ハッ、ハッ……くぉ」


――気がついた時には、全て終わっていた。
自分の手にはいつのまにか金属バット。眼下に広がったのは、敷き詰められた純粋な暴力と破壊の後。

リビングにあったもので原型を留めている物は殆どないな。

流れるように切れ目無い、どこか場違いな思考。



64: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:11:12.63 ID:6Uxt5Hfc0
しばらく肩で息をしていたブーンが、床に落とした新聞紙の上に
何かがあるのに気付いたのは、それから5分たった頃だった。


先刻よりは幾分か落ち着いてきた気分で、
ブーンは新聞紙の上にあったそれ、茶封筒を手にとり、中身を見た。



( ^ω^)「……これはなんだ、……お?」



かさり、と紙の触れ合う音が聞こえる。



中身を確認した。




……ああ、そういう事か、と諦めに似た感情を持つ。


それからブーンは、中に入っていた白い手紙を見た。
おおよその予測は付いている。これが全部現実なのだとしたら、多分ここに書かれているのは――



66: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:14:36.30 ID:6Uxt5Hfc0



――  状況は理解できたか? このお金は我が家の財産の一部だ。
最後の日くらい、自分の好きなように生きてみろ  ――



宛名も書き名もない。けれど一目でわかった。
達筆なこの字は、父のものだ。

たったの2行だけだけど、父の威厳や思いやりがひしひしと伝わってくる。

このそっけなさがいっそ彼らしいともブーンは思った。
最後の最後まで、親父は親父として在ったのだと思うと身内の事ながら少しだけ誇らしかった。



かさり。父の手紙に重なっていたもう一枚にも目を通し、やがて声に出して読み始めた。



( ^ω^)「……ブーンへ、状況は理解できたようですね。
残念ながら、これはもうどうしようもない事のようです。
お前の成人姿が見れなくて母さんは少しだけ寂しいです。
父さんの言う通り、私達のことは気にしなくていいから好きに生きてください。

伝えたいことは、沢山あるけれどただ、最後に……――」



67: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:18:00.96 ID:6Uxt5Hfc0
息をのみ、言いよどんだ。くしゃ、と強く手紙を握り締める。


――……なんで、どうして。


                 母ちゃん。




―― 最後に、一つだけ言っておきたい事があります。
私は、貴方を生んでよかったと思っています。
こんなことになるならいっそ、とは思っていません。そんな事、絶対に思うものですか。

貴方が笑ってくれた事。貴方が泣いてくれた事。
貴方が私を母さんと呼んでくれたこと。全部、幸せな思い出なのです。

ごめんね。母さん、身勝手だよね。最期の時に一緒にいられないのに、こんなの駄目だよね。
でも――ありがとう、ブーン。私の息子でいてくれて、ありがとう。生まれて来てくれて、ありがとう ――



父、母より、と言う部分が涙で滲む。
封筒の中身はこの手紙と、2つの札束。200万ペソの現金だった。



70: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:22:41.94 ID:6Uxt5Hfc0
( ;ω;)「……う……あぁ……あぁああ……」

押し殺した声は、やがて表に出ていた。


涙は枯れることを知らずただ流れつづける。


膝をついて、肘もついて。ブーンは誰にはばかる事無く大声で泣いた。
床に落ちた手紙の文面を何度もなぞる。父と母からの言葉を噛み締める。

嗚咽。呵責。そして渇望する。
暴力と破壊の後に残っていたのは、一欠けらの愛情だった。



( ;ω;)「生きよ…………生きよう」


確かな声量でブーンは言った。
涙浮かんだ顔を乱暴に拭き、前を見る。


生きよう。泥水を啜ってもいい。這いつくばってもいい。



71: 1 ◆ZvFvVWv36Y :2008/01/02(水) 11:25:54.91 ID:6Uxt5Hfc0





( ^ω^)「生きるお!」





それは宣言。決意の表明。
いい終わり、ブーンはおかしくなって少しだけ笑ってしまった。
いつだって正解は近くにあった。だけど僕は、いつだって遠回りしてしまうんだ。



( ^ω^)「……そろそろかお」



言うと同時か、位のタイミング。
インターホンの軽い音がブーンのいたリビングに響いた。


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