( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 94: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:04:54.20 ID:jKdbHlH10
- 第18話 後編
※
_
( ゚∀゚)「『アンノウン』が少なくなってきてる……?」
(*゚∀゚)「うん、どうも最近は仕事の数が減ったと思ったら、全国的に『アンノウン』が出なくなってるみたい」
(*゚ー゚)「原因はわかりませんが、私達の仕事が実ったんでしょうね」
『アンノウン』が減っている。
その調査結果は私達にとって喜ばしいことだった。
私達という狩人がいても、『アンノウン』の被害が全部防げるわけではない。自殺者はまだいる。
だが、こういう結果が出てきてくれれば、気持ちも少しは楽になるというもの。自分達の仕事が何らかの形で報われていると思えるのだから。
_
( ゚∀゚)「なら、普通の仕事も増えてきそうだな」
⌒*(・∀・)*⌒「普通の仕事ってなに? 兄さん」
_
( ゚∀゚)「まあ、『天国』の元々の仕事さ。コピーやら書類整理やらの雑用。時には荷物運びだとかな……」
(*゚∀゚)「私達は研究しなくちゃだから、そういうのはジョルジュに任せます〜」
_
( ゚∀゚)「ちょwww ひでえwww」
『天国』に『アンノウン』の対策がはじめられて、早1年。
私達は仕事に確かな手ごたえ感じつつ、日常を過ごしていた。
- 98: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:06:51.60 ID:jKdbHlH10
そんな時に、ひとつの仕事が舞い込んできた。
それは国会議員から国防長官、そして『天国』の上司というルートを通って命じられたという、『最重要任務』に位置するものだった。
「ある国会議員がどうやら『アンノウン』に憑かれたらしく、最近連絡がない。秘書に聞いても居場所がわからないという。
もしかしたら自宅で『アンノウン』に憑かれたまま苦しんでいるかもしれないので、急遽その家まで向かってほしい」
そう上司から告げられた時は、何の疑問も持たなかった。
有名人が『アンノウン』に憑かれたから助けてほしい、という仕事はこれまでも何度かあったからだ。
ただ、今回はかなり有名な国会議員が救出相手らしく、ナビゲーターと指令を出す役には直属の上司がついた。
この上司は、これまで『アンノウン』対策にはまったく力を入れず、
最近になって私達が有名になった途端、手の平を返したように『私がやりました』顔で仕事を手伝うようになった男だった。
気に食わない男だったが、一応上司なので命令には従った。
仕事の日時は、夜中の2時。
周りにこの仕事のことが知られてはならないので、あくまで秘密裏に議員を助けなくてはいけない。
私達は準備よく仕事に望んだ。
- 100: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:09:08.55 ID:jKdbHlH10
その日、その仕事についたのは私達全員だった。
_
( ゚∀゚)「俺たち全員が狩り出されるのも久しぶりだな」
(*゚∀゚)「最近は別々で仕事するのが多かったもんね。私は嬉しいよ」
(*゚ー゚)「もうすぐ議員さんの家ですね」
私達は車を飛ばし、都内某所にある議員宅へと急いだ。
議員は独身で、都内の一戸建て住宅で1人暮らししているとか。
独身で一戸建てとは、これまた贅沢な暮らしをしているものだ。
そうこうしているうちに車は目的地に到着。
黒い服やコートに身を包み、私達は車を降りて議員宅の前に出揃った。
ジョルジュが先駆けて、インターホンを押す。
ぴんぽーん、という間の抜けた音が鳴るが、中からの反応はなく人の気配がしない。
留守か?
_
( ゚∀゚)「うーん、寝てるのか? まあとにかく上がろう。鍵は受け取ってるしな」
ジョルジュが、秘書さんから受け取った鍵を穴に挿す。
だが、回すまでもなく、ドアノブに手をかけると扉は勝手に開いた。
- 101: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:11:12.57 ID:jKdbHlH10
⌒*(・∀・)*⌒「? 開いてたみたいだね」
_
( ゚∀゚)「そうだな……どうも様子がおかしい。中に入ろう」
ジョルジュを戦闘に、つー、しぃ、照美、私の順で中に入る。
それぞれ部屋の中を捜索し、議員さんはいるのかどうかを確認する。
と、「おい! こっち来てみろ!」というジョルジュの呼ぶ声が聞こえて、みんなが居間に集まった。
居間には1人の男――問題の国会議員の先生が、死体で寝転がっていた。
「どういうことだ?」
_
( ゚∀゚)「わからん。けど……これは『アンノウン』の仕業じゃないな。
と、照美は見るな。怖いぞ」
⌒*(・∀・)*⌒「う、うん」
(*゚ー゚)「ですね。頭を銃弾で打ち抜かれてます……明らかに人間がやったことです」
(*゚∀゚)「どういうこと? 『アンノウン』の気配なんてひとつもしないじゃない」
それぞれが動揺の色を浮かべ、居間に横たわっている死体を見つめていた。
確かに死体にはほとんど損傷がなく、眉間に銃弾一発を打ち込まれているだけだ。
『アンノウン』の気配などひとつもないし、どうにも嫌な予感がしてならない。
- 102: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:13:33.18 ID:jKdbHlH10
「早くここを出た方がいいかもしれん。どうにも嫌な感じだ」
_
( ゚∀゚)「……だな。よし、みんな車に戻ろ、」
ジョルジュが言いかけた瞬間、外で1発の銃声が響き渡った。
なんだ? どうしてこんな場所に銃声が?
その場にいた全員がそんな疑問を頭に浮かべていると、次の瞬間にガラスの割れる音が部屋中に鳴り響いた。
「伏せろ!」
私がそう声をかけると、それぞれが反射的にしゃがみこんだ。
私はみんなが無事なことを確認すると、いったい何が部屋の中に入ってきたのかを探し、見つけて驚いた。
床に丸っこい鉄の塊が落ちており、しばらくするとその中から白い煙のようなものが噴き出してきたのだ。
催涙弾?
- 103: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:15:49.96 ID:jKdbHlH10
- _
( ゚∀゚)「な、なんだあ?」
「催涙ガスだ! 逃げるぞ!」
そう叫び、みんなが走り出した所で、銃声が連続で鳴り響いた。
後ろを振り返ると、完全武装した特殊兵が乗り込んでくる姿が。
しかも、その後ろにはパトカーの赤い光も見える。
なんだ、これは?
どうしてパトカーが? どうしてこんな兵士が? どうしてこんな街中で銃を乱射しているんだ?
わけがわからずとも逃げる以外に選択肢はなく、ジョルジュを先頭にしてみんなは裏口から外に出る。
裏はまだパトカーで囲われていないらしく、人の気配はしない。
(*゚∀゚)「な、なんだっていうのよ!」
_
( ゚∀゚)「知るかよ! とにかく逃げるぞ! こっちだ!」
ジョルジュがひとつの方向を指差し、走り出す5人組。
この状況に多くの疑問符を浮かべるものの、後ろからの銃声に後を追いかけられている自分達は逃げる以外に道がない。
- 104: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:18:36.70 ID:jKdbHlH10
「いたぞ! こっちだ!」
「殺人者達を捕まえろ!」
殺人者? いったい何のことだ?
そう疑問の言葉を言い出す暇もなく、後ろから銃声が何発も聞こえる。
と、ひとつの銃声が響いた途端、前を走っていた照美が倒れた。
⌒*(・−・)*⌒「っいた……あ、ああ……」
銃弾は太ももをかすっており、怪我はそれほど深くはなかったものの、照美は銃に撃たれたということにショックを受けているようだった。
立ち上がれず、ただかすかな悲鳴をあげるだけで、立ち上がろうともしない。
ジョルジュは立ち止まり、後ろを追いかけてくる兵士達を一瞥し、そして今度は私達の顔を見渡す。
_
( ゚∀゚)「ちっ、このままじゃあ、追いつかれる……クー、銃は持ってきてるか?」
「ブローニングが一丁……それだけだ」
_
( ゚∀゚)「俺もマグナムが一丁……だが、時間稼ぎにはなるはずだ。
よし、しぃとつーは照美を連れて、先に逃げてくれ。落ち合うのは○○町の公園にしよう」
(*゚∀゚)「え、けど、ジョルジュ達は……」
_
( ゚∀゚)「大丈夫だよ。俺たちが一緒なら、どんな相手にも負けないさ。な、クー?」
「……そうだな」
- 105: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:21:20.60 ID:jKdbHlH10
「こっちだ!」という兵士の声が聞こえる。もう敵はすぐそこまで来ていた。
ジョルジュは「早くしろ」と声をあらげて、腰からマグナム銃を引き抜いた。
_
( ゚∀゚)「俺は死なないさ。つー、俺はきっとまた会いに行くからさ」
(*゚∀゚)「……わかった! 気をつけなさいよ!」
「しぃと照美も早く行け!」
(*゚ー゚)「う、うん!」
⌒*(;−;)*⌒「い、痛いよお……兄さん……」
_
( ゚∀゚)「泣くな! 今はとにかく逃げるんだ! お兄ちゃんがついてるだろ!」
⌒*(;−;)*⌒「う、うん……」
しぃとつーが照美の両肩を支え、走り出していく。その足取りはおぼつかなく、頼りない。
彼女達を守るために、ここは自分達が頑張らなくてはならない。
拳銃2丁で、特殊部隊にどこまで渡り合えるかわからないが……やるしかない。
生き残るためにも。生き残らせるためにも。
- 108: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:24:32.29 ID:jKdbHlH10
(♯゚∀゚)「この、この!」
「……ちぃ!」
物陰に身を隠しつつ、特殊部隊に拳銃で銃弾を浴びせて牽制をする。
そうすることでなんとか彼らの足を止めて、つー達の逃げる時間を稼ぐ。
そして、あわよくば自分達が逃げる機会も得る。
運任せの作戦だったが、1人でも死者を減らすにはこうするしかない。敵も味方も。
ブローニングから何発もの弾が発射されていく。ある弾は相手に当たり、ある弾は外れ、兵士のような奴らが近づないような状況を作ってやる。
だが、それでもこちらの装備など貧弱なものであり、どれだけの腕を持とうが相手のサブマシンガンに勝てるはずがない。
弾は残り少なくなっていき、じりじりと距離を詰められていってしまう私達。
_
(♯゚∀゚)「くそ! もうすぐ弾がなくなるぞ!」
「……む、これは」
その時、私は気付いた。気付いてしまった。
ジョルジュよりも先に。敵よりも先に。
つー達が逃げた先に……『アンノウン』の気配がすることを。
- 113 : ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:33:17.17 ID:jKdbHlH10
「……ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「なんだ!?」
「『アンノウン』が……つー達の逃げた先にいるかもしれない」
_
( ゚∀゚)「なにぃ! ほんとうかよ、それ!」
一瞬にして顔面が蒼白になるジョルジュ。こんな狼狽振りは始めてみる。
だが、それも当然なのだ。
つー達のうち、『アンノウン』と直接戦えるのはつーしかいない。しぃと照美はあくまでサポートなのだ。
つー1人で『アンノウン』を倒せるのか……しかも、感じた気配はひとつではなかった。
つー達が危ない。
それは分かりきった状況。
しかし、特殊兵たちを牽制している自分たちには、そちらに行く余裕がない。
物陰から姿を現せば、すぐさま銃弾の雨を身体に浴びることだろう。
守るはずの存在が危ないというのに……なんという体たらくだ。
- 117: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:36:25.13 ID:jKdbHlH10
- _
(♯゚∀゚)「ちくしょう! クー! 3つ数えたら走るぞ!」
「なに!? どうするつもりだ!」
_
(♯゚∀゚)「決まってんだろ! あいつらのところだよ!」
何? どうやって行くというのだ。今にも兵士達がこちらになだれ込んでくるような状況で、どうしろと?
_
( ゚∀゚)「いくぞ! 1!」
明らかにジョルジュは自分を見失っている。いつもの冷静な判断を下せていない。
このままつー達の所へ向かえば、全滅だ。『アンノウン』と兵士の挟み撃ちで、きっと全員が死ぬ。
_
( ゚∀゚)「2!」
けど……それでも行きたいと思ってしまう自分は何だ?
行っても行かなくても仲間が危ない。ならば、自分はどうする?
合理的には犠牲の少ない方を選ぶべきだろう。警察学校時代からずっとそう教えられてきた。父にもそう教えられてきた。
でも、感情では?
_
( ゚∀゚)「3! 行くぞ!」
ジョルジュが勢いよく走り出す。
仲間の所へと向かうために。自分の感情を優先させ、助けたいと思う人を助けるために。
それを見て、私は……
- 122 : ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 00:43:41.56 ID:jKdbHlH10
走れなかった。
足が、動かなかった。
私は……
- 127: 暴れん坊VIPPER :2006/11/25(土) 00:46:25.13 ID:jKdbHlH10
- _
( ゚∀゚)「クー! くっ!」
ジョルジュが立ち止まった瞬間、その身体に銃弾が浴びせられていく。
致命傷は避けたようだが、右腕から血が噴き出ている。彼の顔には脂汗がどっととにじみ出ていた。
_
( ゚∀゚)「クー! 早くしろ!」
そう言われても、動けない。感覚が麻痺している。頭の中がぼーっとしてきている。
明らかに自分の身体の中で相反する二つの感情が交じり合っており、動こうとしてくれない。
理性と感情。
ふたつのものがそれぞれ押し合い、殺し合って、私の身体を硬直させていた。
_
( ゚∀゚)「クー!」
ジョルジュが腕を引っ張ってきて、ようやく私はハッと意識を取り戻した。
すでに兵士達はこちらに向かう足を進めており、約10メートルの所まで近づいてきている。
これ以上残るのは危険。
合理でも感情でもそう判断した頭は、ようやく身体を動かしてくれた。
_
( ゚∀゚)「こっちだ! 裏道を通るぞ! で、あいつらと合流だ!」
ジョルジュに従い、全速力でつー達を追いかける私。
ただ走ることだけを考えていればいいのに、『アンノウン』の気配がまだ消えていないことに気付いてしまうのがとてつもなく嫌だった。
- 131: 暴れん坊VIPPER :2006/11/25(土) 00:49:10.11 ID:jKdbHlH10
それから先のことは、断片的にしか覚えていない。
私は無理やり腕を引っ張られて公園にたどりつき、
血を流して動かない照美と、
虚ろな目をして笑みだけを浮かべているつー、
その2人に必死で『気』を送り込み、「おねえちゃん、照美ちゃん!」と悲鳴に近い叫びをあげているしぃ、
そして、妹と想い人の横で、呆然とした表情で立っているジョルジュ。
現実とも思えないその光景。
けれども、確かにそれは現実にあったこと。
私の記憶の底に奥深く鎮座し、
今も私の心を蝕んでいるのが何よりの証拠なのだ。
※
- 133: 暴れん坊VIPPER :2006/11/25(土) 00:51:44.57 ID:jKdbHlH10
※
( ^ω^)「……」
('A`)「……」
(´・ω・`)「……」
狐「結局、彼らは捕まってしまった。日本の警察にね。
彼らは、国会議員殺害事件の実行犯として逮捕され、警察の留置場行きとなった。
ツイン照美は死に、つー君の精神は異常をきたしたまま、ね」
( ^ω^)「ど、どうしてクーさん達がそんな目に……」
狐「……それはね、大人の汚い取り引きがあったんだよ」
※
- 137: 暴れん坊VIPPER :2006/11/25(土) 00:54:15.60 ID:jKdbHlH10
※
ある国会議員がいた。
彼は、この国の権力を手中に収めようと画策し、なんとか現政権にとってスキャンダルとなるようなネタはないかと探していた。
そこで見つけたのが『アンノウン』対策と『天国』という組織の存在。
もともと『天国』は「役立たず共の巣」であり、税金の無駄遣いとして国会でも時々槍玉にあげられていた。
いつもは「掃き溜めの収納先も必要だ」という意見に落ち着いてしまうが、今回はそうはいかない。
『アンノウン』などという正体もわからないものに血税を注ぎ込み、しかも自衛隊でもないのに武器を持っている。
これはスキャンダルだ。これをタレこめば、きっと現政権は地に落ちる。
そう思い、彼はまず『天国』のメンバーを犯罪者に仕立て上げることで、この問題の火蓋を切って落とそうと考えた。
第1段階として、在日CIA――『赤坂』に情報を流し、協力を仰ぐ。
彼らの国もまた『アンノウン』の被害に悩まされているらしく、それまでの研究データを差し出すという条件で、すぐに協力を取り付けた。
第2段階として、自分にとって日ごろ邪魔だった国会議員の殺害計画を立てる。
この殺人の実行犯を『天国』のメンバーにして、世間に広めてやる。
そして第3段階として、『天国』や防衛庁のお偉方を金や脅しで協力させる。
これは1番楽で、自分と同じ権力志向の人間を絡め取ることほど簡単なことはなかった。
- 138: 暴れん坊VIPPER :2006/11/25(土) 00:57:51.71 ID:jKdbHlH10
そうして、計画は実行された。
まず、国会議員を『赤坂』の力を借りて殺害。
その国会議員宅に『天国』のメンバーをおびき寄せ、かつ警察に『凶悪犯罪集団』がそこにいるという情報を流す。
銃を持っているという付帯情報も流せば、SATが出動するのも必然。
しかも、『赤坂』の工作員が一発の銃弾をSATに向けて打てば、もう全ては完了だ。その場は戦争状態になる。
結果、見事に『天国』の中心人物は逮捕、または逃走中の『事故』で死亡した。
生き残った私達は「裏切り者」の汚名を被ることとなったのだ。
この話を聞いた時、私は防衛庁の秘密施設の牢屋に入れられていた。
仮にも防衛庁傘下の『天国』のメンバーが行った事件。
警察での取調べを受ける前に秘密裏にこの事件は処理され、世間にはあまり広まらなかった。
だが、防衛庁は私達のことを徹底的に調べようとしてきた。どうして裏切ったのか? どうして議員を殺害したのか?など。
それは過酷で、精神に異常をきたしそうな取調べだった。
恫喝や脅迫は当たり前。時には薬を使ってでも真実を聞き出そうとしてくる。
無駄に薬に耐性があるこの身体が、その時ほど恨めしかったことはない。
1日に何十回と行われる取調べに耐え、仲間の近況を聞くこともできないままに牢屋に放り込まれる日々。
あれが「はめられた」ことだといくら説明しても、誰も信じてくれない。
きっと、国会議員がすでに手を打っていたのだろう。
信じてくれそうな検査官に会っても、その上司がそれを否定し、部下の思考を停止させる。
- 141: VIP下手人 :2006/11/25(土) 01:00:55.59 ID:jKdbHlH10
その部下に以前までの自分を見ているように思えて、私は鳥肌を立てた。
上から下へと意志が染み渡るその体制。反論を許さず、ただのマシーンと化していく下部。
それは何も生み出さず、上の思うとおりに進んでしまうだけのもの。
こんな体制の中に自分もいたのかと思うと、震えがとまらなかった。
1度外に出てしまうと、中のものをじっくりと見ることができた。
そして、思った。
2度とこんな世界には戻らない、と。
そこから一ヶ月ほど(と言っても時間の感覚も狂っていたので定かではないが)、取調べ室と牢屋を往復する生活が続いた。
その間、私の頭の中にはあの日の光景がいつまでもフラッシュバックしていた。
私の腕を引っ張り、仲間を救うために走ろうとするジョルジュ。
腹部を『影』に切り裂かれ、苦悶の表情を浮かべながら大量の血を流している照美。
心を失くし、虚ろな目を宙に向けるつー。
涙を流し、懸命に治療を続けるしぃ。
あんなことになったのは、自分のせいだった。
仲間を助けることに、一瞬でもためらってしまった自分の罪。
それはいつまでも消えることはない。この記憶はいつまでも残り続け、死ぬまで贖罪の道を歩かなくてはならないのだ。
牢屋の中で、私は1人泣いた。
自分の背中に背負われた十字架の重さに耐え切れず、泣くことしかできなかった。
- 147: VIP下手人 :2006/11/25(土) 01:05:30.97 ID:jKdbHlH10
そんな日々が続く中、ある日の昼に転機が訪れた。
「出たまえ」
低く静かな男の声。
それが聞こえたと思った瞬間、長く閉ざされていた部屋の扉が開いた。
扉の前に立っていたのは1人の男。
微笑みを浮かべ、久しぶりとでも言いたげな目でこちらを見つめている。
「……誰だ」
「覚えていないのかい? バーベキューパーティを見逃してあげたのに」
見覚えがあった。
クリスマス、屋上でジョルジュ達とバーベキューパーティをやっていたのを見逃してくれた……あの時の男?
男は肩をすくめ、思い出したかい?とでも言いたげな顔でこちらを見てくる。
それはこの1カ月ほどの監禁生活で、久しぶりに見た人間らしい表情だった。
「あの時の男……」
「そう。さあ、出てきなさい。君はここにいる必要がなくなったからね」
男が、外へと私を導く。
外の世界は私にはまぶしすぎた。まだこの部屋の中で膝を抱えていたいと思ったが、そうも言ってられなかった。
私は歩き出さなければいけなかった。罪を背負って。
- 151: VIP下手人 :2006/11/25(土) 01:08:45.61 ID:jKdbHlH10
私を助けた男は防衛庁のキャリア組で、『狐』と名乗った。
彼は『天国』の不祥事や中心メンバーの裏切りを知ると、すぐに独自で調査を行った。
その結果、ある国会議員が他国に情報を流出していたことを突き止め、当の国会議員を糾弾、辞職に追い込んだ。
おかげで私達の汚名も晴れることとなり、無罪放免を勝ち得たのだという。
釈放されたのは私としぃと、つー。
ジョルジュはその場にいなかった。
狐曰く、彼は2週間ほど前に収容所から脱走し、そのまま行方不明なのだという。
彼のいた部屋には、こんな置手紙が残されていたとか。
『俺は俺の進む道を探す。今回のことを、このまま受け入れることなどできない』
ジョルジュが何を考えているのかはわからない。
妹を失くし、自分やつー、しぃ、これまでの生活などの全てを捨てて、彼が探そうとしているのはいったい何なのか?
復讐? 生き方? それとも安全な場所?
わからない。けれども、彼はおそらくそれを見つけるのだろう。
見つけた時にいったい何をやるのか? そして、自分達の前に姿を現すのか?
全てはわからない。けれども、これだけは言える。
私も探そう、と。
私が私であり続けられるような道を探そう。今回のことを受け入れるために。
罪を受け入れ、償うために。
- 155: VIP下手人 :2006/11/25(土) 01:11:48.82 ID:jKdbHlH10
それからしばらくの間、私としぃとつーは、一緒のマンションで暮らし始めた。
『天国』は今回の事件があったからなのか、解体された。やはり不祥事を起こしたという負のイメージが拭い去れなかったようだ。
私達は職を失い、今までの貯金やアルバイトで生活をしのいでいた。
政府の機関に戻る気にはなれなかった。
『アンノウン』はすでにまったく現れなくなっており、政府の方でも私達はお払い箱となっていた。
1日が長く感じられる。アルバイトと家との往復しかしない生活。
その間、私は私のできることを探そうと、いつまでも考え続けていた。
だが、そう簡単に見つかるわけもなく、ほとんどが無駄な時間を過ごしていたように思う。
精神がおかしくなってしまったつーは、完全に外界からの刺激に反応しなくなっており、人格が失われている状態だった。
しぃが言うには、『アンノウン』に囲まれていた際、つーはしぃと照美だけを逃がして、敵をひとりで引き受けたのだという。
そして、ふらふらの姿で合流場所にやってきたつーは、すでにこの状態になっていたとか。
なぜ、彼女の精神がおかしくなったのか、まったくわからない。医者でも突き止められなかった。
そもそも、彼女ひとりで大量の『アンノウン』を倒せたのか? 彼女は、言っては悪いがそれほど強くはなかった。
なのに、殺されずに精神に異常をきたしただけなのは何故なのか?
疑問をあげればきりがないが、とにかくも私達はつーの看病に専念し、静かな生活に浸っていた。
- 161: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:15:59.41 ID:jKdbHlH10
そうして1年が過ぎ去り、もうそろそろ貯金もつきようとしていた時のこと。
狐から1本の電話が入った。
狐「協力してほしいんだ。『影』が現れ始めた」
『アンノウン』改め『影』。
最近になってまた現れ始め、自殺者を急増させている、というのが狐の話だった。
『天国』で培った力を、ぜひとも貸してほしいのだという。
私達は迷った。
政府機関に戻って、またあんな事件に合うことにはならないのか?
私達はまた政府の道具にされてしまうのではないか?
また仲間が死んでしまうような事態になるではないか?
- 165: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:18:28.71 ID:jKdbHlH10
狐「それは心配しなくていい。今回の組織は……ほぼ独立した機関だからね」
狐が色々と手を回して、今回は防衛庁の傘下ではない独立した組織を作ることができたのだという。
『Vacant Innominate People』。通称『VIP』。
ここならば、他から干渉されずに、自分達の意志で仕事ができる。
狐はそう言った。
「なら、いくつか条件があります」
私はそれに対し、3つの条件をつけた。
ひとつは、つーの治療を行うための施設を『VIP』内で作ること。
ふたつ目が、辞めたい思った時はすぐに辞めさせてもらうこと。
そして最後が……『影』を殲滅するために、全力を注いでほしい、ということ。
狐はそれらを全て飲んだ。
『VIP』での生活がその時から始まった。
※
- 168: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:21:33.98 ID:jKdbHlH10
※
狐「あとはだいたい分かるよね?
彼女達は『VIP』で働き始め、そうして現在にいたる。
( ^ω^)「……そして、今回ジョルジュを見つけたということかお?」
狐「そう。かつての仲間を、ね。
彼女の気持ちは計り知れないよ。いったい何を思っているのか……」
狐がそう言い、顔を俯けた。
クー、ジョルジュ、『天国』、ツイン照美……
彼女が仲間思いなのも、
会議室であれほどの怒りをぶちまいたのも、
全てはこの出来事が起因となっているのだろう。
ブーンはこれまでのクーのことを順次思い出し、確かに彼女は自分をよく守ってくれていたな、と思った。
それはきっと、過ちを繰り返さないため。
そして、ツイン照美やつーに対する贖罪の意味も込められていたのだろう。
ならば、ジョルジュはいったい何をしようとしているのだろうか?
ラウンジ教に協力したり、自分を助けてくれたり、新たに仲間を集めたり、世界の革命派とコンタクトを取ったり。
彼はいったい、何を行い、何を成そうとしているのだろうか?
- 171: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:24:19.42 ID:jKdbHlH10
『絶対的な悪なんて存在しないよな』というジョルジュの言葉をブーンは唐突に思い出した。
そして何かが思い浮かびそうになったものの、それは言葉にならなかった。
狐「さてと……長かったけど、話はこれで終わりだよ。だいたい分かってくれたかな?」
( ^ω^)「……狐さん」
狐「なんだい?」
( ^ω^)「ジョルジュさんは何をやろうとしているんだと思いますかお?」
狐「……それはわからない。今回のラウンジ教の事件がなんらかの布石なのだとはわかるけど。
そこらへんはぃょぅ君に任せてあるし、彼の報告を待とう」
( ^ω^)「はい、ですお」
『良い目的のためならどんな残虐な方法をとってもいいのか否か』
そういえば、この問いに対してジョルジュ自身の答えを聞いていなかったように思う。
彼はいったい何と答えるだろうか?
手に持っていたコーヒーがすっかり冷めていることに気付き、ブーンはそれを一気に飲み干した。
止まらない思考に終止符を打つことはできなかったけど。
※
- 174: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:27:17.27 ID:jKdbHlH10
※
星空はあの時の数倍以上の輝きを放っている。
でも、それらが何か陰鬱なものを帯びていると思うのは気のせいなのだろうか?
川 ゚ -゚) 「……」
クーは屋上の手すりにつかまり、空を見上げ続けていた。
腰の刀は地面に置き、遠く離れた都会を目の端に入れながら、星の輝きをいつまでも見つめている。
風は冷たく、身体は寒い。けれども、中に戻る気にはなれなかった。
クーはずっと考えていた。ジョルジュはいったい何をしようとしているのだろう? と。
どうしてラウンジ教にいるのか? どうしてテロリストまがいの活動を行っているのか?
そして、どうして私達の目の前には現れないのか?
彼の考えていることを理解しようとするのが間違いなのかもしれない。
彼はいつも自分の先を行っていた。こちらの予想を裏切るような道を選び、予想外の速さで予想外の歩き方をする。
ただ言えるのは、彼は自分が信じる道を進むのであろうということだけ。
- 176: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:30:01.76 ID:jKdbHlH10
川 ゚ -゚) (だが……)
だが、それがたとえジョルジュにとって信じる道でも、こちらにとって信じられない道ならば、彼の行く手を阻止しなくてはならない。
それが今の自分の仕事であり……自分の望みなのだから。
川 ゚ -゚) 「……ふっ」
クーは空を見上げるのを止め、地面に置いていた刀を手に取ろうとしゃがみこんだ。
その時、刀を包む袋に一滴の水の後が付くのを見た。
それが自分の涙だと気付くのに数秒かかった。
頬に手を添えてみると、暖かい水の雫がそこに流れており、冬の風でだんだんと冷たくなっていくのを感じた。
この涙が流れる理由は何だろうか?
悲しみ? 懐かしさ? 後悔? 罪悪感?
わからない。
けれど、この涙がターニングポイントになり、自分は新しい一歩を踏み出すのだろうというのは理解できる。
川 ゚ -゚) 「……報い、か」
そう呟いたクーは、自分の頬を流れる涙を袖で拭き取り、顔をあげた。
その顔には迷いはなく、全てに立ち向かう意志が込められていた。
第18話 完
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