( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 2: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:15:40.97 ID:IBS2W5mv0
- 第18話
今から6年前。
ノストラダムスの大予言やら、2000年問題やらで盛り上がりを見せていた世紀末から、1年ほど経過したあの頃。
世の中の犯罪はさほど凶悪化しておらず、少年犯罪や議員の汚職がまだトップニュースになっていたあの頃。
多くの人が「6年前に何があった?」と問われれば、ぼんやりと自分の6年前について語るだけで、世間での大事件など覚えてもいないだろう。
「忘れる」。それが人という生き物の大きな特徴であり、大きな強みであり、大きな弱さでもある。
しかし、一部の人にとっては忘れらない出来事が確かにあった。その時に。
『影』――現在ではそう呼ばれ、当時は『アンノウン』と呼ばれていた存在が、初めて現れたのはその6年前だった。
事の始まりは、ある不可解な事件だった。
一見、ある男性がビルの屋上から飛び降り自殺しただけのように見える事件。
けれども、その男性は幸せな家庭を持ち、仕事に精を出し、近く子供が生まれる予定だった。つまり、実に幸せな人生を送っていたのである。
しかも遺書等の自殺をほのめかすようなものは一切見つからず、警察でもどうしてこの男性が自殺をしたのか解明できず、頭を抱えていたのだ。
- 3: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:17:40.48 ID:IBS2W5mv0
しかし、それが自殺だというのは決定的だと思われていた。
監視カメラには夜のビルに1人で忍び込む男性の姿が録画されていたし、男性の遺体には争った形跡がない。
そうした疑問を抱えながらも、その男性が死んでから1週間後、結局は「理由不明の自殺」という結論で事件に幕は下りた。
その男性は、現在のこの国に多く見られる自殺者の1人として数えられるに留まった。
問題はそれ以降だった。
その男性の自殺があって以来、全国各地で「理由のわからない自殺」がちらほらと現れ始めたのだ。
もちろん、これまでもそういった事件がなかったわけではないが、数が多くなってきたのは確かだった。
なにせ、昨年の3倍のペースで「理由のわからない自殺」が増えていたのだ。
一般の人たちから見れば、ただの自殺にしか見えないので世間を騒がせるまでには至らなかったが。
だが、警察の内部では深刻な事態が起きていた。
『自殺者が自殺する直前、その横にはなにやら黒い物体が寄り添っていた』
自殺の目撃者の1人が言った証言内容が本当の始まりだった。
これを聞いた警察は、もしかしたらその黒い物体が自殺と何かの関係があるのではないか? と推測していた。
だが、捜査をしても他に何の物的証拠を見つけることができない。
一方で、自殺者の横に黒い物体を見たという目撃証言がそれからも報告され続け、警察内部ではひとつの噂が広まることとなった。
『幽霊が自殺をほのめかしている』と。
- 4 名前: ◆ILuHYVG0rg [なんか地の文ばかりで申し訳ない] 投稿日: 2006/11/24(金) 00:19:39.84 ID:IBS2W5mv0
次の段階に進んだのは、初めの不可解な自殺者が現れてから2ヶ月後のこと。
都内のビルの屋上から飛び降りようとしていた老人を、常駐していた警備員に止められるという出来事があった。
老人はそのまま警察に引き渡され、なぜ自殺しようとしたのか? と事情を聞かれた際、こう答えた。
『わしの中のもう1人のわしが、死ねと命じてくる』
わけがわからなかった警察官は、何かの精神病にでもかかっているのか?と疑いをかけるだけで、老人の話には取り合おうとはしなかった。
しかし、事件はその夜に起こった。
自殺しようとしたその老人は、翌日病院に移送されることが決まり、そのまま警察署で一夜を過ごすこととなった。
警察署内の仮眠室を借りて、老人は就寝。
だが、1人の若い警察官が、老人の寝ている部屋から不審な物音が聞こえるのに気付いた。
もしかしたら部屋で自殺でもしようとしているのか?と思った警察官は、慌てて扉を開いて中を覗いた。
そして、見てしまったのだ。
老人の身体の上に黒い影のような物体が乗りかかり、老人の首を切っているのを。
恐怖で叫び声をあげた警察官は、思わずその場から逃げ出してしまい、助けを呼びに行った。
数十分後、上司を引き連れて戻ってきた警察官は、2重の驚きを経験することとなった。
黒い物体は跡形もなく消え去り、後には首の頚動脈を切られた老人だけが残されていたのだ。
※
- 5: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:21:34.97 ID:IBS2W5mv0
※
狐「それ以降、事態を重く見た警察庁は、極秘裏に調査を敢行した。いくつかの人員を割いてね。
調査は順調に進んだんだ。以降も黒い物体が横に憑いた人が自殺をしたり、交通事故にあったりする事件が頻発したから」
(´・ω・`)「……まったく知らないね、そんなこと。そもそも、6年前のことなんて覚えてないし」
狐「まあ、そんなもんだよ、普通は。
で、警察は研究所やら有識者やらの意見を聞きつつ調査を進めていった。そしてある結論に達した。
その黒い物体は、見えるけれどもあらゆるセンサーに引っかからない存在だ、と」
('A`)「あらゆるセンサーにかからないけど見える。そりゃあ怖いわなあ」
狐「当時の調査員達も恐怖で凍りついたらしいよ。見えるのに『いない』。
それは噂されていた幽霊のようなものだからね」
( ^ω^)「それが『影』……」
狐「そういうこと」
※
- 8: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:23:45.99 ID:IBS2W5mv0
※
見えるけれども、存在しない。
その黒い物体を、警察は『アンノウン』と名づけ、以降の対策を内閣を中心とした対策委員会に委ねることにした。
そして対策委員会がまず決定したのは、『アンノウン』の存在を世間に公表しないことだった
その理由は、更なる調査を行ってその存在を確かめなければならない、というのがひとつ。
対策も何も立っていないのに公表しても、いたずらに世間の不安をかきたてるだけだから、というのがもうひとつ。
そして最も大きな理由が、委員達がその存在を信じていなかったからだった。
そのため対策委員達はろくな協議を行わず、結局『アンノウン』の調査と対策は防衛庁の傘下にあった、あるひとつの組織に丸投げされた。
- 10: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:25:51.91 ID:IBS2W5mv0
『天国』。
正式名称は『独立天海国防・情報収集及び工作部隊』。
『天海』というのは、その部隊の創始者の名前らしく、その長ったらしい名前の中から2文字とって『天国』と呼ばれていた。
国防の砦にしてはあまりにも不釣合いな名前。
そんな力の抜けるような名前が反映されているのか、当時の『天国』は、名があるだけでほとんど活動していないような部隊だった。
人員構成としては、窓際族、汚職事件で飛ばされたかつてのキャリア組などなど、防衛庁が厄介者扱いしている、いわば『掃き溜め』のような人たちばかり。
ろくな能力もなければ、仕事もしない。
そんな部隊に調査と対策を任せたのは、もちろん『アンノウン』などという厄介なものを早々に話題から消し去りたいという委員の思惑があったからだ。
ただ、さすがに元からいた隊員だけでは『アンノウン』の調査ができるわけがないし、外面だけでもきちんと整えなければならない。
そう考えた対策委員会は、『アンノウン』に関わる調査と研究を行っていた人材を3名派遣した。
それが、私としぃとつーだった。
※
- 11: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:28:01.03 ID:IBS2W5mv0
※
(´・ω・`)「どうして彼女たちが?」
狐「クー君は何のことはない。『アンノウン』の調査を行っていた警察署の一員だったからだよ。新人だったけどね。
しぃ君とつー君は、『アンノウン』の研究を行っていた研究所の新人研究員だったんだ。
対策委員会から派遣員を出すように言われた警察署と研究所は、渋々その3人を差し出した。
厄介事は新人に押し付けて、自分達の捜査や研究を優先させたかったんだろうね」
( ^ω^)「大人の人の考えることはよくわからないお……」
狐「それは私もよくわかるよ。子供の心で考えれば、よっぽど世界は単純に見えるだろうね。
それができないのが大人なんだけど」
※
- 12: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:29:47.07 ID:IBS2W5mv0
※
最初は疑問に思ったものだ。「どうして私が?」と。
確かに『アンノウン』の存在は脅威だ。
これから増えるのか減るのかもわからないけれども、放っておけば社会に害をなすことは間違いない。
調査と対策を一刻も早く進めなければならない。
けれども、どうして私だったのか? どうしてただの新人の警察官だった私なのか?
もっと『アンノウン』に関して詳しい警察官はいたはずなのに。
けれども、私は何の文句も言わなかった。
たとえ何かに疑問を持ったとしても、それを口には出さず、ただ上からの命令を遂行することだけを念頭に置かなければならない。
それが警察官として、この社会の秩序を守る存在として父親から叩き込まれてきたことであり、私はその考え方を忠実に守っていた。
だから、新米だろうと何だろうと、与えられた仕事はきちんとこなしていこうと考えていた。
今になって思えば、日頃から浮いている存在だった私を厄介払いしたかった警察署が、ちょうど良いゴミ箱を見つけただけなのだろうけど、
- 13: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:31:52.09 ID:IBS2W5mv0
『天国』は掃き溜めと呼ぶにふさわしい場所だった。
とにかくやる気がない。何かに打ち込もうとする気力がまったく感じられない。
例えば、訓練と呼ぶ時間はあっても、上官も部下もやる気がないので、だらだらとグラウンドを走ったりするだけで、
軍隊にありがちの厳しい筋トレがあるわけがなかった。
仕事もほとんどないので、ある者は一日中喫煙室でタバコを吸いながら将棋を指していたり、
ある者は彼女とデートがあると言って勤務時間にも関わらず外出したり。
税金の無駄遣い、という言葉がここほどふさわしい場所はなかっただろう。
そんな中に私としぃとつーが送られてきて、果たしてまともに仕事ができるのか?
答えはNOでもあり、YESでもある。
やろうと思えばできた。
そこで初めて出会ったしぃとつーは、新米ながらも優秀な研究員で、『アンノウン』についてのデータがあればすぐさま解析を進めてくれる。
大人し目で頑張り屋である妹のしぃ。
明るく、はちゃめちゃとも言える性格の持ち主の、姉のつー。
この姉妹がいてくれれば、「研究」に関しては不足はなかった。
- 15: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:33:56.18 ID:IBS2W5mv0
(*゚ー゚)「『アンノウン』には物理的な攻撃は効きません。これは確かです」
(*゚∀゚)「というより、『物質』という概念が当てはまらない存在なのかもね。
そんな相手に物理的な攻撃をしたって意味ないでしょ」
「ならば、物理的なものではない攻撃をしろ、ということか? 例えばなんだ?」
(*゚∀゚)「さあ? なんだろね」
(*゚ー゚)「それを調べるにはデータがあまりにも足りなさ過ぎます。『アンノウン』自体を捕まえることができればいいんですが……」
「そうか……」
『研究』に関しては確かにそうだった。
だが、いかんせんデータがあまりにも足りなさ過ぎた。
当たり前だろう。『アンノウン』に関する調査はすでに『天国』に丸投げされており、他のどんな機関も調査はしていない。
しかも『天国』の中で『アンノウン』に関する仕事を行っているのは、実質私としぃとつーだけだったのだ。
私達の直属の上司ですら、手伝ってはくれなかった。
そんな状況でデータを集めろというのに無理があるのだ。
もう仕事を続けることはできないのかもしれない、と思い始めていた。
- 18: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:36:23.35 ID:IBS2W5mv0
そんなある日だ。
私は『天国』の敷地内における、憩いの場――公園のような場所を歩いていた。
連日の徹夜と仕事詰めのせいで気力体力共に付きかけており、私は『アンノウン』に関する書類を手に持ちながら、ふらふらと歩いていた。
天気は日本晴れ。夏も近くなってきていた7月頃。
太陽はさんさんと照りつけ、地面をじりじりと焼いていた。
そんな空の下、汗をじんわりとかきながら、私は公園の道をゆっくりと歩いていた。
歩きながら色々なことを考えていた。
『アンノウン』に関する調査と対策について。『天国』の連中が手伝ってくれない等の恨み言。まだ7月なのにもう暑くなってきている気候に対する文句。
色々考えすぎて、「それ」が聞こえてきたとき、一瞬天からの歌声のように錯覚してしまったほどだ。
「ほら、手をつないで生きる喜び〜♪」
かつて聞いたことのあるような、単調なメロディライン。
なのに深い所をついている歌詞。
子供の頃に何度も聞いた歌。
アンパンマンの歌?
「たとえ、胸の傷が痛んでも〜♪」
それが聞こえてきたのは、ちょうど自分が立っている場所の真上。
見上げれば、木の枝がさんさんと生い茂っている。
そう。それは大きな木の枝の上から聞こえていた。
- 20 名前: ◆ILuHYVG0rg [>>16 流石兄弟に惚れたww] 投稿日: 2006/11/24(金) 00:38:42.09 ID:IBS2W5mv0
「あん、あん、アンパンマン〜、やーさしいきーみはー♪」
目を凝らしてみると、かすかに木の枝に誰かが乗っているのが見えた。
誰だ?
「きーて、みんなのゆーめ、まーもるたーめー♪って、おわ、おわわわわ!」
木の枝が激しく揺れている。それと共に、その声が慌てた調子に変わる。
その一瞬後に、何か大きなものが目の前に落ちてきた。
コンクリートの道の上に盛大に倒れているそれは、一見人間のように見える……いや、確かに人間の男だった。間違いない。しかも『天国』の制服を着ている。
「おーいて。さすがに枝の上で寝るのは無理があったか。いたたた」
腰をさすりながら立ち上がるその男。
その顔は、「こりゃしまった」という心の中が一瞬で読み取れそうなほど、素直な笑みを浮かべていた。
なんだこいつは……
「ん? おわ! いつからそこにいたんだ!? ってあんたは確か……」
男は、誰かが後ろにいる気配に気付き、
実際に人が立っていて驚き、
そして今度はこちらの顔を見て考える仕草をとる。
表情の七変化とはこういうものを言うんだろう。
- 21: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:40:50.10 ID:IBS2W5mv0
「ああ、そうだ。確か『幽霊』の調査をやってる奴だったっけ?
朝の集会で紹介されてたな。名前は確か……カー? スー?」
「……クーだ」
「そうそう! クーだったな、うん。思い出した。最近物忘れが激しくてな〜」
「……」
「で、ここに散らばってる紙はあんたの持ち物じゃないのか?」
「む」
そう言われて、初めて書類を地面に落としていることに気がついた。
きっと男が落ちてきた時に驚いて落としてしまったのだろう。
いきなり空から人間が降ってきたんだ。驚くなという方が無理がある。しかもどういうわけかアンパンマンの歌を歌っている男、なのだ。
私はすぐに書類を拾い始めた。一応重要な書類なのだ(自分としぃとつー以外は誰も読まないが)。
と、男も拾い始めているのに気付いて、私は慌てて「別に拾わなくていい」と言っておいた。
別に深い意味はない。自分で落としたものは自分で拾うのが筋だ。
「ん、まあ、気にするな。しっかし、これは……ふ〜ん、面白いな」
男が何やら書類を読み始める。
そのページは、確か『アンノウンは犯罪に手を染めた者を襲う確率が高い』という統計データだったはず。
- 22: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:43:02.00 ID:IBS2W5mv0
「ふむふむ、犯罪者を襲う幽霊ねえ」
「……何が面白いんだ、早く返せ」
「うん、いや、よく頑張ってるなあ、って」
「興味本位ならお断り願う。これは仕事だ」
「いや、だけど一応俺も『天国』に所属してるんだしさ。見せてもらってもいいじゃん」
『天国』に所属している?
この男が? いや確かに服装はそうだが……にしてはかなり若い。元キャリア組か?
「こっちの方が面白そうだなあ」
「何がだ」
「いやさ、俺が今やってる仕事がつまんなくて仕方ないんだよな。だから……いいねえ、これ」
仕事が面白いかつまらないかで判断しているのか、この男は。
私は呆れて物も言えなかった。
軽薄な男。
ジョルジュ長岡という男の第一印象は、そんなものでしかなかった。
- 25: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:45:24.32 ID:IBS2W5mv0
その印象は最後まで消えなかった。
軽薄で、かつ役人でも兵士でもないなにやら奇妙な男。それがジョルジュ長岡だった。
そもそも『天国』にやってきた理由自体、奇妙としか言いようがなかった。
もともとは国家公務員の試験を合格し、自衛隊のキャリア組として道を進むべき人間だったらしい。
将来は防衛庁長官になるかもしれない、とも言われていたが、しかしあるひとつの事件でジョルジュは『天国』に飛ばされてしまった。
それがまたくだらない事件だった
なんでも飲み会で上司と色々話をしていたのだが、話題がこの国の防衛問題に発展するとだんだんと話がヒートアップしてきて売り言葉買い言葉の言い合いに。
そして最後にはジョルジュが上司をぶん殴って、失神させてしまったのだ。
まあ、それぐらいなら土下座のひとつでもして、「酒の席での出来事」として済ませれば事なきを得るはずだったのだが、ジョルジュはそうはしなかった。
あくまで「自分が正しい」「上司の言い分が正しいとは思えない」「俺が謝るのなら、それなりに納得してから」と言うだけ。
結局上司との溝は埋まらず、『天国』に飛ばされてしまった、というのだ。
馬鹿としか言いようがない。
自分の考えが正しいと思うのは勝手だが、それ以前にこの社会のルールというものが欠落している。
上の命令は絶対で、下はそれに従うだけ。他はどうでも、軍隊としてはそれが当たり前なのだ。
そんな男が私達の仕事に絡むようになったのは、初めて出会ってからわずか2日後のことだった。
- 26: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:47:39.03 ID:IBS2W5mv0
- しぃ、つーと話し合いを行っているところに、急にこの男が割り込んできたのだ。
_
( ゚∀゚)「おいっす〜、ちょっとお邪魔していいかな?」
(*゚ー゚)「え? え?」
(*゚∀゚)「誰よ、あんた。部外者は入っちゃいけないのよ」
「お前は確か……」
_
( ゚∀゚)「おー、覚えててくれたかい? あんたみたいな美人に覚えてもらえるなんて光栄だねえ」
私は最近、『天国』の連中からこの男の噂を聞いており、その経歴の不思議さに多少なりとも興味を持っていた。
どうして上司の命令を逆らってまで、自分の意見を通したのか?
そこまでして貫き通したいことは何だったのか?
だからなのだろうか。
この男が「会議に参加したい」と言うのを、思わず承諾してしまったのは。
今でも気の迷いだったとしか思えない。
- 28: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:49:51.92 ID:IBS2W5mv0
- _
( ゚∀゚)「ほうほう、『アンノウン』には物理的な攻撃は効かず、しかも神出鬼没。いきなり現れて消えることもしばしば。
しかも、『アンノウン』はどういうわけか物理的な攻撃を行うことができる、と」
(*゚ー゚)「は、はい。その身体がどのような物質で出来ているのかは不明ですが、もしかしたら地球上の元素が構成物質ではないのかもしれません」
_
( ゚∀゚)「面白いねえ。うん。窓際で書類の点検やってるよりははるかに面白い」
面白い面白いと連呼するジョルジュ。
これまではいったいどんな仕事をしてたんだ? と尋ねてみると、
_
( ゚∀゚)「書類の点検やら部屋の掃除やら……とにかく雑用ばっかりやってたなあ。面白くない仕事ばっかりだった」
という答えが返ってきた。まあ『天国』の職員の仕事なんてこんなものだ。
_
( ゚∀゚)「にしても、あんた達面白い姉妹だよなあ。なんかしぃちゃんの方が姉に見えるぜww」
(*゚∀゚)「ひどいわねえ。私の方が2歳も年上なのよ! というか、あんたと同い年だし!」
_
( ゚∀゚)「ははww まあ、おっぱいはつーの方がでけえわな。俺はおっぱいが大きいほうが好きだぜwww」
(*゚∀゚)「うっわ、何それ、セクハラよセクハラ!」
(*゚ー゚)「ふふふ」
- 30: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:51:46.03 ID:IBS2W5mv0
天性の明るさと巧みな話術もあってか、ジョルジュが私達の間に溶け込むのにそう時間はかからなかった。
ジョルジュは元々スパイやら諜報活動やらが得意で、特に敵に化けて潜入する腕は天下一品らしい。
つまりは詐欺師のようなものであり、そう考えればジョルジュの口の巧さに納得いく部分もある。
そんなうそつきジョルジュだが、私達は彼という人間をよく分かっていたように思う。
彼は私達の前では「猫をかぶる」ということをせず、ありままの姿を見せてくれた。
だから、私達も素の自分を出せていたのだろう。私達は分かり合えた。きちんと。心の奥底で。
※
- 31: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:53:31.45 ID:IBS2W5mv0
※
狐「彼がやってきてから、『アンノウン』の調査は順調に進み始めた。
彼は様々なところに顔が利いたんだ。だから、他の組織や機関に協力を願うこともできたし、必要なデータも揃わせることができた」
それでも、『アンノウン』に対する対策はなかなか進まなかったらしい。
『アンノウン』に対して物理的な攻撃は一切効かない。銃も剣もミサイルも効かないのだ。
狐「けど、ある日の出来事で『アンノウン』に対して非常に有効な物が見つかった」
('A`)「それは……なんです?」
狐「刀――いや、正確に言えば『クー君が使う』刀、だよ」
- 35: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:55:44.93 ID:IBS2W5mv0
※
そもそも『気』というのはそれほど珍しいものではない。
人間の身体は多かれ少なかれ、『気』がその表面を覆っている。自然界にある様々な『気』から自分の身を守るために。
私と他人との違いは、その『気』を自在にコントロールできるかできないか、にあるのだ。
コントロールできる人間は非常に稀だ。
例えば中国では気功の達人なんて人がたまにいるが、彼ら全員が『気』の使い手というわけではない。
時にはただの催眠術師だったりする。テレビで紹介されているのはだいたいがこういう偽者だ。
見分け方は簡単だ。『気』は密度が増すと光を帯びる性質を持っている。
だから、使い手が『気』を出したとされる場所が光っていれば、本物というわけだ。
ただ、これは使い手にしか見えないもので、そうではない人には見分けなんてつかない。
これが『気』の存在の証明の難しさであり、一般的に広まっていない理由でもある。
また、人間同士では何の作用もしないという性質もその理由のひとつだ。
『気』が見える人は、大抵は精神病だとか頭が変になった人と見られることが多い。
かくいう私も『気』の使い手だが、そのことを公言したことはなかった。
そんなことをすれば、周りから変な目で見られるだけだし、大体『気』が使えるからといって何のメリットもないのだ。
ようは「耳を自分の意志で動かせる」からと言って、何の役にも立たないと一緒。
時々『気』を他人に注ぐことでその人の『気』を充填し、疲労回復などの治療が出来る人(かなり特殊な例であり、『気』が使える人の中でも特に珍しい)もいるが、自分はそんなことはできない。
何の役にも立たないことを自慢気に言って、何の役に立つ?
- 37: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:58:17.32 ID:IBS2W5mv0
しかし、その『気』が『アンノウン』に対して有効だと判明してから、状況は一変した。
きっかけは偶然の出来事だった。
ある日、『アンノウン』に取り憑かれた男性を保護し、『天国』の一部屋で保護観察を行っていた。
しかし、突然『アンノウン』が暴れ出し、鍵がかかっていた鉄の扉を破壊、脱走しようとした。
それを制圧するために、私は近くにあった鉄の棒で対抗した。物理的攻撃が効かないと分かっていながらも。
『アンノウン』が男性に襲い掛かり、今にも殺そうとしていた時。
必死になっていた私は、無意識に剣道でやっている調子で打ち込みを入れた。
すると、どういうわけかそれが当たり、『アンノウン』を消滅させたのだ。
私は呆然とその場に立ち、『アンノウン』に攻撃を与えた鉄の棒を見た。
見ると、鉄の棒全体に淡い光が漂っている。
その時の私は、無意識に『気』を鉄の棒に張り巡らせていたらしい。幸運なことだ。
ただ、驚いたのはそれだけじゃない。
『アンノウン』に倒した時に現場にいたのは、私を含めて4人。
残りの3人が、なんと私の『気』の光を見ることができたのだ。
_
(;゚∀゚)「……」
(*;゚ー゚)「……」
(*;゚∀゚)「……」
その3人が、ジョルジュ、しぃ、つーだった。
※
- 39: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:00:35.02 ID:IBS2W5mv0
※
狐「『気』が『アンノウン』に対して有効だと分かり、クー君たちは早急に『気』の使い手を捜し始めた。
その頃になると、ジョルジュのおかげで様々な機関に協力を仰げたから、探すのは難しくなかった。
けど、先にあげた4人以外に見つかった使い手は、たったの1人だった」
( ^ω^)「……ぃょぅさんや、モナーさんかお?」
狐「いや、その頃の2人はまだこの世界には入ってなくてね。あくまで調査範囲は自衛隊やその親族などしか広げられなかった」
(´・ω・`)「だけど、僕達が知っている人ではもう使い手はいないはずですけど」
狐「それは当たり前だよ」
狐がひとつ息を吐いた。これから重大なことを告げることを予期させる間だった。
狐「その人の名前は『ツイン照美』。ジョルジュの妹で、18歳の女の子だった……今も彼女の時は18歳で止まったままなんだから」
※
- 41: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:02:39.38 ID:IBS2W5mv0
※
その子はとても素直で明るく、まっすぐな生き方をしている女の子だった。
⌒*(・∀・)*⌒「あ、クーさん、こんにちは。お元気ですか?」
「ああ、元気だ」
⌒*(・∀・)*⌒「よかった。クーさん、なんだかうれしそうですね」
「そうか?」
⌒*(・∀・)*⌒「ええ。だって私と喋ってくれるんですもん」
私のような人当たりの悪い相手に対してでも、その瞳をまっすぐに向け、決して逸らそうとはしない。
世の中の綺麗汚いも知らず、ただ漫然と時を過ごしている高校生――でもなく、世の中を必死で見つめていこうとする姿勢をもった、綺麗な心の持ち主だった。
彼女が『気』の使い手だと分かった時、私達の間で――この頃になると『アンノウン』対策に加わっている者はかなり増えていた――、彼女に協力を仰ぐべきかどうか話し合われた。
- 42: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:04:42.69 ID:IBS2W5mv0
普通の女子高生をこんな場に連れてきていいのか?
けど、人員は圧倒的に足りない
何かあった時の責任は誰が取るのか?
そんなことより『アンノウン』に国を滅ぼされる心配をしろ
賛否両論が入り混じった。
無論、妹をそんな危険な場に連れてきたくはない、と考えるジョルジュは最後まで反対していた。妹思いなのだ。
そうして何日間も話し合われた末、結論は「本人の意志に任せる」という所で落ち着いた。
彼女に事情を話し、『気』を実際に見せて、1週間ほど返答を待った結果。
ツイン照美という名前は、『非常勤公務員』として『天国』に登録されることとなり、私の仲間は5人となった。
それから、私達は『アンノウン』の討伐のために全力を注いだ。
『気』と武器は相性があり、私は特に刀との相性がよかったので、『アンノウン』と戦う時は刀を使用した。
他の4人も、色々な武器を試していき訓練を重ねた結果、相性の良い武器が決定した。
ジョルジュが拳銃。
つーが棒。
照美が盾。
そして、しぃが『気』による治療という、非常に珍しい使い手となった。
- 44: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:06:58.59 ID:IBS2W5mv0
普段の討伐は、それほど難しくはなかった。
『気』の使い手が5人もいる上に、『アンノウン』自体それほど強くはなかったのだ。
攻撃が当たれば、一撃で消滅させられるような相手。ジョルジュの拳銃なら1秒とかからない。
私が『アンノウン』の気配を掴み(私が1番気配察知能力に長けていた)、その場所に急行して『アンノウン』に憑かれた人を発見し、5人で力を合わせて討伐する。
そんな日々が毎日続いた。
嫌な日々ではなかった。
忙しかったけれども、5人一緒に戦えば何も不安なことはなかった。
私達は仲間だった。絆で強く結ばれていた。
それを示すかのように、私達は公私共に一緒にいた。
それぞれの誕生日が近くなれば、ささやかながらも派手な誕生日パーティを開いたり、
ジョルジュの進めで『カラオケ』というものに初めて行き、自分が音痴なのだと思い知らされたり、
照美の高校での成績が芳しくないので、みんなで協力して照美に勉強を教えたり(ジョルジュはあまり成績がいいとはいえなかった)、
楽しい日々だったと思う。仕事上の付き合いというには深すぎるほどの関係を私達は築き上げた。
ジョルジュが色々と考え出しては突っ走り、
つーがそれに賛同して一緒に走り、
しぃが後ろからそれを見て微笑み、
照美が慌てながらそれを追いかけ、
私がため息をつきながらツッコミ役に回る。
まるで、小学校時代からの旧友のような、そんな関係。
- 46: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:09:41.58 ID:IBS2W5mv0
中でもジョルジュは色々とハチャメチャなことを考え出したものだ。
クリスマスの時なんかは特にそうだった。
_
( ゚∀゚)「『天国』の建物で、こっそりパーティでもやらないか?」
その言葉聞いた瞬間、私は柄にもなく「はぁ?」と大きな声で聞き返してしまったものだ。
_
( ゚∀゚)「いやさ、ここってけっこう高いビルだろ? なら、星とか見えそうだし……面白いと思うんだけどなあ」
(*゚∀゚)「いい、いい! 私は大賛成!」
(*゚ー゚)「うーん、どうしようかなあ」
⌒*(・∀・)*⌒「私もいいなあ。ちょっとやりたいかも」
「いや、待て……さすがにばれたら減俸処分だけじゃすまないぞ? ここは色々と重要な書類もあるわけでな」
_
( ゚∀゚)「固いこと言うなってwww そんなだから、おっぱいもちょっと固くなるんだぞwww」
「貴様……殴るぞ」
_
( ゚∀゚)「冗談冗談www けどさ、たまにはこういうのも良いだろ? 息抜きだって、息抜き」
「どれだけ息抜きをすれば気が済むんだ。この前は会議をサボってカラオケに行ったくせに」
他にも競馬や競輪場に行ったりしている。この男は。
- 47: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:11:59.79 ID:IBS2W5mv0
- _
( ゚∀゚)「まあまあ。で、どうだい?」
「……ふぅ、私は知らないからな。責任はお前が被るんだぞ」
_
( ゚∀゚)「おkwww 把握www」
そうして、私達はジョルジュ発案の秘密クリスマスパーティは敢行された。
『天国』のビルは、都内とは少し離れた郊外に立てられている。都会というには十分な場所だが。
10階立てのビルは、周りに比べればまだ低い方だが、屋上に出れば少しは空に近くなる。
私達は屋上でバーベキューセットを広げ、そこで天体観測もしてしまおうと計画を立て、決行の日を待った。
そして、クリスマス当日。12月25日。
仕事が終わり、私達は一端家に帰るフリをして集合場所で集まり、『天国』のビルへともう一度向かった。
『天国』のビルには警備員が数人いるだけで、中はかなり暗かった。
あらかじめ拝借しておいた鍵を使って中に入り、屋上へと続く階段を上り続ける5人組。
_
( ゚∀゚)「いやあ、夜のビルってのも怖いもんだな」
(*゚∀゚)「なんか学校に行ってた時のこと思い出すなあ、ねえ、しぃ?」
(*゚ー゚)「そうだね」
⌒*(・∀・)*⌒「私も高校でこんなことやりたいなあ」
やめておけ、照美。きっと怒られるから。
純粋な少女にこんなことを吹き込んでおいていいのだろうか? と私は思いながら、階段を上り続けた。
- 49: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:15:24.40 ID:IBS2W5mv0
- と、不意に後ろに人の気配がして、振り向いた。
すると、1人の男が階段と廊下をつなぐ扉の前に立ち、こちらを凝視していた。
「……何してるんだい?」
小さな微笑を浮かべる中年と見られるその男。
5人組とその手に持つものを交互に見つめ、「ああ、そういうことね」と納得したように手を叩いた。
_
( ゚∀゚)「やべ、逃げろwww」
(*゚∀゚)「やっほーwww」
(*゚ー゚)「え? ちょ、ちょっと待ってよお姉ちゃん!」
⌒*(・∀・)*⌒「いけいけ〜」
先を歩いていた4人が逃げる。
逃げてもどうにかなるものでもあるまい? もう顔は見られているし、報告されれば自分達はきっと軍事法廷にでもかけられるだろう。いや、普通の裁判所か?
私は、なんとかこの場を切り抜けるための言い訳を探す。
しかし、どう言い訳をすれば、肉と野菜を持ってビルに忍び込む人間に免罪符が与えられるというのだ?
「気にしなくていいよ」
悩む私を前に、スーツ姿で微笑む男が言った。
「楽しそうで何よりだ。私も混ぜてほしいぐらいだよ」
「え、あの……」
「大丈夫。ここは見逃してあげるから、友達のところへ言っておいで」
「は、はあ……ありがとうございます」
私は訳のわからないまま、再び階段を上りだした。
男は微笑を残したまま、私を見送る目を逸らそうとしない。どうにも奇妙な人だ、この人。
- 51: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:17:34.06 ID:IBS2W5mv0
私が階段を上りきり、屋上にたどりつくと、ジョルジュ達はすでに屋上でバーベキューの用意を終えていた所だった。
見つかりそうだったというのに、この気楽さ……苦労するのは私ということか。
_
( ゚∀゚)「よ、遅かったな。なんとかなったみたいだな、その様子だと」
「ああ、見逃してもらえた。どうにも奇妙な男だったがな」
(*゚ー゚)「あの人は見たことがありますよ。確か防衛庁のキャリアの人だったはずですけど」
(*゚∀゚)「そんなことはどうでもいいじゃん。とりあえずクー、肉出して肉〜!」
「あ〜、わかったわかった。だからそう叫ぶな」
私達はさっそくバーベキューパーティを始めた。
楽しかったといえば楽しかった。
ジョルジュが焼肉のタレを飛ばしながら喋ったり、
つーがジョルジュと漫才を繰り広げたり、
しぃが酒に酔って倒れてしまったり、
照美が馬鹿みたいに笑って、ビルの警備員に気付かれないか冷や冷やしたり、
まあ、とにかく騒いだ。騒ぎすぎたというぐらいに騒いだ。
そうしてバーベキューパーティが終わると、今度は天体観測の時間だ。
とは言っても、望遠鏡を持ってきているわけでもなく、ただ屋上に寝転んで、都会の真っ暗な空を見上げるだけ。
星なんてほとんど見えなかった。5人一緒に寝転ぶとなんだか安心感のようなものが湧いてきて、私達は長い間ずっとそうしていた。
- 52: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:20:33.60 ID:IBS2W5mv0
⌒*(・∀・)*⌒「クーさん」
「なんだ?」
横で寝転んでいた照美が話しかけてきた。小声で。
⌒*(・∀・)*⌒「兄さんとつーさん、どう思います?」
「どう思う、とは?」
⌒*(・∀・)*⌒「なんだか良い雰囲気だと思いませんか? ほら」
照美に言われて、私は少し顔をあげてジョルジュとつーの様子を伺う。
2人はなんだかぼそぼそと言葉を交わしながら、少し近い距離で空を見上げていた。
⌒*(・∀・)*⌒「兄さんはつーさんのことが好きなんだと思うんだけどなあ」
「……そうなのか?」
⌒*(・∀・)*⌒「気付きませんでしたか? 普段からモーションかけてるみたいですけど……
つーさんもまんざらじゃなさそうだし、うまくいくと良いんだけどなあ」
私は照美のうっとりとした表情には何も返さず、ただ2人の様子だけを眺めていた。
言われれば、確かにジョルジュはつーと一緒にいることが多いような気がする。
仕事の中でも、2人はコンビネーションを組むことが多い。つーが突っ込んで、ジョルジュが後ろからサポート。そんな攻撃を何度も見てきた。
- 53: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:22:54.13 ID:IBS2W5mv0
……まあ仕事に支障がでないなら、かまわないか。
私はそう思うだけで、その場は何も考えずにいた。
別に2人が付き合おうが何をしようが、それは2人の勝手だ。私が割り込む必要なんかない。
ただ、この関係が続くことを願うのみだ。
天体観測はほどなくして終わり、私達は帰る用意をし始めた。
_
( ゚∀゚)「まあ、こんなもんだろ。なんだか地面が焼け焦げてる気がするが……気にしない気にしないwww」
「ばれたら即減給だな」
まあ、『屋上でバーベキューをしてはいけません』なんてルールはないが。
_
( ゚∀゚)「気にすんなって。ルールだとかお偉いさんの意見ばっかりに従ってたら、何も見えてこないぜ」
その言葉を聞いた途端、ジョルジュが『天国』に送られてきた理由を思い出した。
確か、上司と酒の席で言い合いになったから、だったな。
私はふと、「……そういえば、なぜ『天国』に送られてまで、自分の意見を通そうとしたんだ?」と尋ねた。
_
( ゚∀゚)「ん? 何がだ?」
「上司と国防について言い争いを起こして、『天国』に送られたと聞いている。なぜ、そこまでして自分の意見を?」
他の3人はすでに階段のところで自分達を待っていた。きっと彼らには聞こえていない。
ジョルジュは、うーんと唸り始めた。
- 55: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:24:57.71 ID:IBS2W5mv0
- _
( ゚∀゚)「そう言われてもなあ。だってさあ、俺には俺の意志があるわけで……上司には上司の意志があるわけでさ。
どっちが正しいのかはわかんないけど、とにかく俺は俺の考え方を信じてたわけでさ」
「意味がわからん」
_
( ゚∀゚)「俺もわかんねえよwww とにかく、そうだな……
上司の意見に納得できれば、俺だって自分の意見を変えるさ。けど、あの時は俺の方が正しいと思ってた。そう信じてた。
俺は自分の信じたものを大切にしたい。色々な考え方を色々な方向から見つめて、そこから自分が正しいと思ったものを信じたい。
だから、俺はあそこで譲らなかったのさ」
「……そうか」
_
( ゚∀゚)「え? それだけ? 俺、けっこういい事言ったと思うんだけど?
『ジョルジュさん素敵〜、キスして〜、おっぱい揉んで〜』とか言ってくれないの?」
「あほか」
と大阪人のようなツッコミを返しつつ、私はジョルジュの言葉を反芻していた。
『自分の考え方を信じる』ということ。様々な考えを様々な方向から見るという生き方。
それはとても自由で魅力的な生き方だけれども、
逆にとても辛い生き方ではないだろうか? と私は思った。
※
- 56: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 01:27:42.09 ID:IBS2W5mv0
- ※
狐「彼らの活躍はめざましかった。
かつては『アンノウン』問題を『いるのかもわからないし、どうでもいい問題』としか思っていなかった内閣や国会議員、防衛庁のお偉方も、
実際に『アンノウン』を目にして、それを倒すクー君達を見て、考え方を改めた。人員が派遣され、『アンノウン』の研究を促進。
『天国』の中でも協力しようとする人が増えたし、彼らの仕事は成功していたと言ってもいいだろうね」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「なんだか似てるね」
('A`)「ん? 何に?」
(´・ω・`)「僕達に。仲間とかくだらないことをやったりとかさ。まあ、彼らと違って、僕やドクオは戦えないけど」
( ^ω^)「……でも、大事な友達だお」
(´・ω・`)「そうだね、ありがとう」
一息ついて、コーヒーを飲む。
苦い。ミルクの味が薄くなったように感じて、ブーンはひとつ咳払いをした。
狐「うん、確かに君達に似ているかもね。信頼関係とも言うべきものが、彼らの間にはあったんだ。
そのおかげで仕事も順調。全てが良い方向に向かっていると……そう思われていた。
けど、その中で事件は起こった」
( ^ω^)「事件……」
狐「始まりは、『アンノウン』の数が少なくなっているという調査結果が出たことだった」
※
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