( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
30: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:32:43.51 ID:FKCcxNOW0
  

第20話

目覚めた時、真っ先に見えるのが見慣れた部屋だというのは安心できる。

それは家にいた頃でもそうだし、この『VIP』のビルで目覚めた時も同じだ。
人間、繰り返し経験すれば絶対に慣れるものであり、たとえ一ヶ月前にやってきたばかりのこの部屋であっても、毎日寝泊りすれば自然と慣れてくる。

そうだ。慣れというものは絶対にやってくる。
今こうやって身体が金縛りにあっていたとしても、4回目の出来事なので意外と冷静に状況判断できている自分がそれを証明している。

そして、次に現れるであろう人物も、もう予測できるのだ。

(´・ω・`)「やあ」

今度はショボンの姿をした『従者』が、ベッドの横に立っていて、ブーンは目だけを動かしてその顔を見た。

(´・ω・`)

しょぼくれたショボンの顔。眉が下がり、目はくりくりとしている緊張感のないその表情。

もし身体を動かすことができれば、飛び上がって驚いていたに違いない。
この『従者』というのは、どうしてここまで顔を似せることができるのだろうか?



  
31: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:34:26.66 ID:FKCcxNOW0
  

( ^ω^)「今度はショボンなのかお?」

(´・ω・`)「まあね。僕ではご不満かい?」

似ている。気持ち悪いぐらいに似ている。というか、ショボンそのものだ。

(´・ω・`)「ん? 何か震えてるね。怖いのかい?」

(;^ω^)「そんなことはないお。ただ、ベッドの横にショボンがいると、どうも不安になってきて……」

(´・ω・`)「そうかい? ……うーん」



(´・ω・`)「や ら な い か ?」




( ^ω^)「だ、だが断る!」

ブーンは慌てて否定の言葉を叫ぶ。

(´・ω・`)「冗談だよ、冗談」

(;^ω^)(その顔で言われると冗談に聞こえないお)

まあ、ショボン本人も本気であの台詞を言っているとは思えないが、それでもなるべく危険は回避しなくてはならない。うん。そうだ。



  
34: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:36:47.89 ID:FKCcxNOW0
  

身体が動かないこの状況で、もし本当にショボンがいたら……いや、考えるのはやめておこう。想像することすらためらわれる。

そうこうしていると、ショボンの姿をした『従者』は椅子に座り、
相変わらずのしょぼくれた顔のままで「ねえ」と声をかけてきた。

(´・ω・`)「結局、守るために戦うってことでFA?」

( ^ω^)「FA」

ブーンは即答した。即答できた。
もう心は固まっていたから。

(´・ω・`)「そう。それはよかったよ」

『従者』は息を吐いて安堵の言葉を口にする。

しかし、それをブーンは不思議に思った。
守るために戦うってことを心に決めたからといって、彼(もしくは彼女?)に何かメリットがあるとでもいうのだろうか?

それを尋ねてみると、「まあ、君の心が安定したら、僕も安心できるからさ」という答えが返ってきた。よくわからない。

(´・ω・`)「何にしろ、心が定まってよかったよ。きっかけはなんだったんだい?」



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:39:35.23 ID:FKCcxNOW0
  

きっかけ。
そう問われて、それはなんだろうか?とブーンは考えた。

ツンの心が壊されたこと?
自分が強くなったこと?
クーの過去話を聞いたこと?

色々と思い浮かべ、色々と考える内に、ブーンはひとつの考えに思い至った。

全部だ、と。

ここ一ヶ月間の経験の全てが、「守るために戦う」という結論を導き出してくれたんだ、とブーンは思った。
『影』と戦ったり、ジョルジュと出会ったり、ツンの心を壊されたり、クーの過去を聞いたりといった、様々なことが自分の心を定めてくれた。

そして、「もうこれ以上誰も傷つけさせないために戦う」という、ありきたりだけれども自分にとっては大事な結論を出すことができた。

これまでの経験が、自分を成長させてくれたのだ。

(´・ω・`)「そうか……なら、あの兄弟が言っていたことについてはどう思うんだい?」

( ^ω^)「……戦えば、敵の守りたいものを壊してしまう、ということかお?」

(´・ω・`)「そう。どう思う?」



  
38: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:41:21.38 ID:FKCcxNOW0
  

流石兄弟が言っていた言葉。
『戦えば、相手の守りたいものを壊してしまう』ということ。

相手にだって守りたいものがあるから、戦う。
それは当たり前だ。こっちに守りたいものがあれば、あっちにもそれはある。
で、守りたい対象が違うから戦いは起きてしまう。

けど、それがわかったからといって何になる?
敵は敵でしかないのだ。敵のことを考えたからといって、こっちの守りたいものが守れるとでも?

自分はキリストじゃない。人類皆平等だなんて……理想はそうでも、現実は不可能なことなのだ。

( ^ω^)「仕方のないことだお。戦いって、そういうものだから……」

そう、だからそれは仕方のないことなのだ。
敵のことなんて考えることはできない。自分のことで精一杯なのだから……

どこか胸の奥が痛みつつも、ブーンは『従者』に対してそう答えた。

(´・ω・`)「そうか。君がそう思うなら、僕はそれでいいよ」

そう答えて、もう用事は済んだとばかりに『従者』は立ち上がった。

毎回思うのだが、この問答に何の意味があるのだろうか?
『従者』はいつも意味不明なこと言ってくるだけで、何一つ彼(彼女)の正体についてわかったことはない。
『ゲシュタルト』と以前言っていたが、それもまるで意味不明だ。



  
39: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:43:31.32 ID:FKCcxNOW0
  

(´・ω・`)「じゃあ、頑張って」

( ^ω^)「あ、あの……いったい、あなたは誰なんだお?」

(´・ω・`)「僕かい?」

『従者』は首をかしげて考え始める。どうしてそんな当たり前のことを聞くんだ? とでも言いたげに。

(´・ω・`)「僕は僕だよ。僕以外の何者でもない」

( ^ω^)「いや、だからその『僕』がわからないんだお」

(´・ω・`)「君が最も知っていて、最も知らない人。それでいて最も好きで、最も嫌いな人。君の中にいて、外にもいる人」

( ^ω^)「……意味不明だお」

(´・ω・`)「まあ、次に会う時には分かるんじゃない?」

「じゃ、僕は行くから」と言って、『従者』はいつものごとく、額に手の平を乗せてきた。
するとやっぱり眠気が襲ってきて、ブーンはそれに逆らうことなく目を閉じた。

(´・ω・`)「君と僕に人の祝福があらんこと……」

『従者』の声は異様にはっきり聞こえたけど、逆にとても遠くから聞こえたようにも感じた。





  
42: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:45:55.77 ID:FKCcxNOW0
  



『影』の殲滅戦を、明日決行する。

その言葉が狐の口から出されたのは、12月24日、クリスマスイブの朝だった。

その日は特に寒さが強烈になっていて、ビル内の暖房もいつも以上に強く設定されていた。

( ^ω^)「明日……」
川 ゚ -゚) 「ついに、か」

クリスマスの朝、樹海に赴いて『影』の殲滅を行う。

今日の朝、緊急の会議とかで呼び出されたブーンが耳にしたのは、そんな狐の言葉だった。

狐たちはここ2、3日、死に物狂いで働いていた。
狐が廊下を走り回ったり、四六時中電話をかけていたり、
クーが朝から晩まで剣道場で訓練をしていたり、
しぃが「開発室」という部屋から一歩も出てこず、つーの世話をする暇もなくなったり、
モナーが各部署に命令を出すために一日中作戦室にこもっていたり、
ぃょぅは情報収集を進めるためなのか1度もビルに帰ってこなかったり、

こっちから声をかけられないぐらいに、みんな忙しそうにしていた。



  
43: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:47:53.34 ID:FKCcxNOW0
  

一方の自分達は、いつもどおりのニート生活を送っていたのだが、気持ちの面では少し違っていた。
意識のないツンを世話したり、
以前より強くなったらしいドクオと一緒に訓練したり、
ショボンと一緒にリンゴを食べたり、

色々と無駄な日々を送っていたが、その裏で心は戦いに向けて準備万端だった。
冷静ながらも熱い心で。
流れる水のような心で。
決行の日を待っていた。

ブーンは握りこぶしを作って、狐達の話に聞き入る。
もう戦うことに迷いはなかった。

狐「うん、開発部の方でなんとか『あれ』が完成できたからね。彼らには感謝しないと」

( ´∀`)「ここ最近徹夜ばかりで死にそうだったらしいモナ」
(*゚ー゚)「私もアドバイザーとして長く働いてたから、もう肩こりがひどくって……」

狐「君達には感謝しているよ。よく頑張ってくれた」

「作戦はこうだ」と話を切り出し始めた狐。
同時に、プロジェクターから正面の白いシートに向かって光が放たれ、何かの地図らしきものが映し出される。
どうやら、樹海の地図のようだ。



  
44: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:50:05.48 ID:FKCcxNOW0
  

森を描いているその地図上に、赤い点が次々と表れてくる。おそらく、この赤い点は『影』を表しているのだろう。
その数はどんどん増えていき……ついには樹海全域を覆い尽くしてしまった。

狐「現在の『影』の数は推定5000体。おそらくこれからも増え続けると思われる。
  今は警察による封鎖を行い、観光客などが入らないように注意しているが、
  これだけの『影』が1度に外に出れば、パニックではすまないだろうね」

狐の重苦しい調子の言葉と共に、モナーが動き出した。立ち上がり、近くに置いていたダンボール箱を持ち上げ、テーブルに置く。

狐「『影』がいる範囲は樹海全域、つまり3000ヘクタールほど。わかりやすく言えば、東京ドーム750個分ぐらいかな。
  これだけの数の『影』を一気に殲滅させるために、今回新兵器を用意した」

「これだ」とダンボールの中からひとつの白い筒を取り出した。
だいたい長さ1メートル、半径10センチぐらいの円柱で、鉄製と見受けられる。
白色の表面には『H.L』という黒い文字が書かれていた。

狐「『Heaven’s Light』……対影用広域破壊兵器だ。
  これで破壊できる範囲がひとつで800ヘクタール。4個用意したので、 ぎりぎり樹海の面積内に収めることができる」

対影用の兵器……?
ブーンはそれを見て、あれ?と疑問を感じた。
確か、『影』には通常の兵器はまったく通じないのではなかったか?
だから『気』の使い手が必要だったんじゃないのか?



  
46: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:53:17.20 ID:FKCcxNOW0
  

その疑問を読み取ったかのように、狐が「この兵器について、しぃ君から説明をしてもらう」としぃに話を振った。

しぃが立ち上がり、プロジェクターの画面も同時に変わる。『H.L』の図解画面が現れた。

(*゚ー゚)「通常、『影』に対してはどんな兵器も無効となっています。
    『影』を倒すためには『気』をまとった武器で攻撃するしかない。そう思われていました」

うん、だから『天国』でクー達が必要だったんだし、今もぃょぅやモナーといった『気』の使い手がここにいるのだ。

(*゚ー゚)「しかし、ブーン君の光は違います。『気』と似ていながらもその性質はまるで違う。
    『影』の身体とも、世界の物質とも反発する作用を持つブーン君の光を、今回の『H.L』に応用しました」

しぃがひとつの小さな白い円筒を取り出した。「H.L」を一回り小さくしたようなものだ。

(*゚ー゚)「物質と反発するということは、つまり『気』と違って透過・浸透の作用を持たない。ひとつの器に閉じ込めることができる、ということです。
    ならば、圧縮することも可能となる。
    800ヘクタール分の光をこの『H.L』に圧縮し、火薬と共にそれを爆散させれば、急激な光の膨張を起こす――つまり『光の爆弾』となるのです」

「ブーン君、ちょっと来て」と頼まれ、ブーンは立ち上がってしぃの近くにいく。

(*゚ー゚)「この小さい筒に光を注いでください」

( ^ω^)「は、はあ……」



  
48 名前: ◆ILuHYVG0rg [>>45山の手線で囲まれた面積] 投稿日: 2006/12/02(土) 00:55:47.87 ID:FKCcxNOW0
  

言われるがままに、その小さい白い円筒に光を注いでみた。
さっきからしぃの言っていることはまったく理解できない。何やら自分の光を使ったすごい兵器のようだが……

手の平から出る淡い光を、しぃの指し示す場所へと注いでみる。
光を注入し終えると、しぃがその円筒を床に置く。
円筒のデジタル表示の部分が「OK」という表示を浮かべた。

(*゚ー゚)「今注いだのは、だいたい半径30センチほどの光です。注ぎ終えた後にスイッチを入れます。で、少し待つと……」

ボン!

しぃが口を閉じた瞬間、白い筒から光が漏れ出した。

その光は急速に丸いボール上の光が形成していく。
半径30センチほどの光の爆発が生じたのだった。

数秒後には、ボール状の白い光が床の上に転がっている。
ブーンはそれを見て、なんだか不思議な気分になっていくのを感じた。
自分の手以外から現れた光……懐かしいような、寂しいような、そんな感じ。

光はだんだんと収束していく。最後には白い円筒だけがその場に残った。



  
51: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:58:07.59 ID:FKCcxNOW0
  

(*゚ー゚)「今の光は『影』だけに作用するようになっているみたいです。なぜなのかはわかりませんが……」

( ^ω^)「たぶん、僕がそう望んでいるからだと思うお」

(*゚ー゚)「そうですか? ま、まあ人に影響を及ぼさない保障もないので、それに関してはまた対策を講じています。
    とりあえず言いたいことは、これを使えば、広範囲に『影』を殲滅させることが可能ということです」

しかし、としぃが言葉をつなげる。

(*゚ー゚)「もちろん、欠点もあります。ひとつは、光の圧縮に時間がかかること。
    800ヘクタール分の光をこの円筒に圧縮するためには15分ほどの時間がかかります。
    そしてもうひとつが……」

川 ゚ -゚) 「もうひとつが?」

(*゚ー゚)「……火薬の起爆から『光の爆発』へと移るまでの時間が、マチマチなんです。
    10秒で爆発することもあれば、5分もかかることがあって……
    しかも、圧縮中や爆発前に強い衝撃を与えると、それだけで壊れてしまうんです」

川 ゚ -゚) 「ということは……」

狐「空からの投下は不可能、ってことだ」

( ^ω^)「?? どうしてだお?」



  
52: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:00:21.40 ID:FKCcxNOW0
  

狐「つまりね」

狐が円筒の『H.L』を持ちながら、説明をし始める。

狐「爆弾っていうのは、使用者が爆発させたい時に爆発するから、兵器としての価値があるんだ。
  10分後に爆発させたいのに、30分後に爆発しちゃあ、作戦も何も成り立たないし、その前に敵に爆発を止められてしまうかもしれない。
  それと同じで、もし空からこの『H.L』を投下しても、爆発までの時間がわからないから、その前に『影』に壊されてしまうかもしれない。
  そもそも、衝撃に弱いから投下という手段をとること自体ができない」

( ^ω^)「は、はあ」

狐「だから、この『H.L』は人の手で運ばなくちゃいけないんだ」

(*゚ー゚)「すみません。もっと実用性のあるものにしたかったんですが……」

狐「いや、これで十分だよ。よく完成させてくれた。
  で、だ。この『H.L』を使って『影』を殲滅させるには、色々と工夫を凝らさなくちゃいけない。
  まずこの地図を見てくれ」

狐がスクリーンに映る樹海の地図を、棒で指し示す。
棒の先は、樹海の入り口を指し示していた。



  
54: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:02:32.67 ID:FKCcxNOW0
  

狐「まず、この場で4つの『H.L』にブーン君の光を注ぎ込み、圧縮が完了するのを待つ。
  もちろん、『影』には見つからないようにね。
  15分ほどで圧縮は完了だ。ブーン君には光を注ぎ込む作業をなるべく早くやってほしい」

( ^ω^)「は、はいですお」

狐「緊張しないでいいからね。問題はここからだ。
  圧縮が完了した『H.L』の起爆スイッチを押しても、起爆までの時間はほとんど不明と言っていい。
  もし入り口で起爆スイッチを押してすぐに爆発でもされたらたまったもんじゃない。
  だから、起爆スイッチを押すのは作戦における所定の位置にたどり着いてからにしてもらいたい」

その所定の位置とはここだ、という狐の声と共に、4つの青い点が樹海の地図上に浮かび上がる。
青い点はそれぞれ等間隔に離れており、線で結べば正方形ができるような位置を取っていた。

狐「この所定の場所で爆発させれば、樹海全域を覆うことができる。
  問題は、この場に着いてから後の話だ。スイッチを入れた後、起爆までには時間がかかる場合がある。
  『影』に気付かれて破壊でもされたら、その場で作戦は失敗だ。
  だから、『影』からこの『H.L』を守ってほしいんだ。ブーン君、クー君、モナー君、ぃょぅ君の4人で、ね」



  
56 名前: ◆ILuHYVG0rg [>53ジョルがすごいイメージ通り] 投稿日: 2006/12/02(土) 01:05:46.78 ID:FKCcxNOW0
  

川 ゚ -゚) 「『H.L』は全部で4つ。私達は4人……
      1人ひとつを受け持ち、この所定の位置で『H.L』を守るということですか?」

狐「その通り。起爆しても、この爆弾の光は『影』にしか影響を及ぼさないから、大丈夫だ。
  ブーン君が望めば、何を破壊するのか、破壊しないのかが自由だからね。
  そうだろう?」

( ^ω^)「た、たぶん」

狐「うん、もし影響を及ぼすにしても、しぃ君が言ったとおり、その場合の対策もちゃんと講じている。
  作戦としてはこんな感じだ。
  もちろんこれは簡単なことじゃない。5000体の『影』がうじゃうじゃといるんだ。いくら君達が強いと言っても、長くは持たないだろう。
  しかも、『影』に対抗できるのは君達しかいないから、援護はほとんどない。最初に『影』をひきつけるぐらいだね。
  だが、作戦としてはこれぐらいしか思いつかなかった。やってくれるかい?」

狐の早口の問いかけに、会議室の中がしんと静まり返った。

誰も彼もが顔を俯け、何も言おうとはしない。クーでさえ、苦渋の表情を顔に浮かべている。

それもそうだろう。こんな作戦、無謀としか言いようがない。
5000体の『影』の中を、爆弾ひとつ持って突撃し、爆発まで守る。
そんなことが、果たしてできるのか?



  
57: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:07:51.45 ID:FKCcxNOW0
  

( ^ω^)「……やるお」

ブーンは自分の言葉を確かめながら、決意に満ちた声で言った。

( ^ω^)「それでこの戦いが終わるなら……どんなことだってやってみせるお」

それが自分の仕事であり、自分のやりたいことであり、やるべきことだから。
思いを込めてそう言い切ったと同時に、横に座っていたクーが「ふっ」と微笑んだ。

川 ゚ -゚) 「……そうだな。命をかけるとまでは言わないが、賭ける価値のある作戦だ」

( ´∀`)「いつだってOKだモナ。絶対にやってみせるモナ」

(=゚ω゚)ノ「僕はそんなに強くはないけど……守るぐらいなら、やってみせるょぅ!」

(*゚ー゚)「私も、全力でサポートします!」

狐「みんな……」

みんなの決意に満ちた表情と言葉。
それを聞いた狐が感慨深げに呟き、「よし」と次の言葉を繰り出す。

ブーン達は彼の次の言葉を黙って待った。



  
60: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:09:23.20 ID:FKCcxNOW0
  

狐「ひとつだけ、お願いがある」

会議室が、また静まり返った。
狐の言葉が澄み渡り、これが最後の戦いなのだという実感を生んでくれている。

狐「……死なないでくれ」

( ^ω^)・川 ゚ -゚) ・( ´∀`)・(=゚ω゚)ノ「了解!」

決行は、明日の早朝。

『影』の活動が鈍りつつも、ちゃんと周りを見渡せるぐらいの明るさになる時間帯に、その作戦は始まる。





  
61: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:11:10.29 ID:FKCcxNOW0
  



――特別治療区域 ツンの病室

('A`)「そうか……行くんだな」
(´・ω・`)「今回はかなり厳しい作戦だって聞いてるけど……」

( ^ω^)「そんなことないお。みんなでやれば、きっと成功するお」

ブーンは今、ドクオとショボン、そしてツンに明日の作戦について説明をしていた。

もちろん、自分が理解できたのは大枠だけだったので、所々端折りながらだったが、
危険な作戦であるというのはドクオとショボンにも理解できたようだった。

会議が終わって数時間が経ち、VIPのビル内は騒がしくなってきていた。

(´・ω・`)「強くなったよね……ブーンは」

( ^ω^)「お? そうかお?」

('A`)「そうだな。だって、死ぬかもしれない作戦なんだぜ? 前まではいじめられて泣いてた奴が、まさかねえ……」

(´・ω・`)「人って成長するんだなあ、って改めて思い知らされたよ」

( ^ω^)「褒めてるのかからかってるのかわからないおww」



  
64: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:13:11.67 ID:FKCcxNOW0
  

自分は強くなった?

そんなことはない。前と同じで、まだまだ弱いままだ。
変わったことと言えば……守りたいものができたこと。そして、守りたいと心から願うようになったこと。

それらが、自分を突き動かしてくれる。どんなに怖い作戦でも、やってやろうと思える。

みんなのおかげなのだ。
みんながこうやって自分の周りにいて、自分を見ていてくれるから、頑張れるのだ。

ブーンが心の中でそんなことを考えていると、「ねえ」とショボンに声をかけられた。

(´・ω・`)「全部終わってさ、家に帰れるようになったら……まず、何をしようか?」

('A`)「カラオケとかいいんじゃね? 最近歌ってないからなあ」

(´・ω・`)「僕はみんなでくそみそテクニックを極めるのもいいかと思うんだけど」

('A`)( ^ω^)「コンビニのATM相手にやってろ」

(´・ω・`)「ショボーン」

帰ったら何をする? か。
これまで、家に帰りたい帰りたいと思ってばかりで、帰って何をするかなんて考えたこともなかった。
いったい、自分は何をしたいんだろうか? カラオケ? 遊びに行くこと? 勉強?



  
67 名前: ◆ILuHYVG0rg [>62それ書こうかとも思ってたw] 投稿日: 2006/12/02(土) 01:15:08.92 ID:FKCcxNOW0
  

( ^ω^)「……」

('A`)「ブーンはなんかあるか?」

( ^ω^)「え? あ……うーん……」

ブーンは考えてみる。
こんなことを考えるのは久しぶりのことのような気がしつつ、思い浮かんだことを口にしてみた。

( ^ω^)「……卒業できたらいいなあ、って思うお」

('A`)「卒業? 童貞か?」

( ^ω^)「違うおwww 僕は魔法使いまでいくつもりだおwww
      そうじゃなくて、学校だお。学校を卒業して……そこから、何をやりたいか探したいと思うお」

('A`)「そうか……まあ、俺たちが言っていたのは遊びのことなんだが……そうだな、卒業、したいよな」

(´・ω・`)「僕とブーンとドクオとツンで、卒業証書を持って、校門をくぐりたいよね」

しんみりとした空気が部屋の中を流れる。みんなが黙りこくってしまい、それぞれ学校に関して思いを馳せているようだった。
なんとなく居心地の悪さを感じたブーンは、行き場に困った視線をツンの方へと向けてみた。



  
69: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:17:21.87 ID:FKCcxNOW0
  

ツンは今日も眠っていた。最近は1日の半分を眠っているらしく、起きている時間が少ないと聞いた。
それは症状が重くなっていることの証であるらしく、これ以上病状が悪くなると、一生眠り続ける状態になってしまうというのだ。

ξ 凵@)ξ「……」

そんなこと、あるわけがないと思いながらも、そうなった時はどうしよう?

ツンが一生眠り続けるのなら、自分はどうする?
ずっと彼女の傍にいるのか?
それとも彼女を見捨てるのか?

……そんな時、ブーンは考える。彼女ならどうしてほしいと思うだろうか? と。
「あんたの世話になんかなんないわよ!」だろうか?
それとも、「お願い、一緒にいて」だろうか?

おそらく赤くなりながら前者の言葉を言うんだろうけど……
たぶん、ツンはみんなに一緒にいてほしいと思うだろう。そんな気がする。

だったら自分は……自分達はツンと一緒にいよう。彼女のためにも、自分達のためにも。



  
71: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:19:23.47 ID:FKCcxNOW0
  

ξ 凵@)ξ「……」

( ^ω^)(ツン……全部終わったら、1度みんなで海か山にでも行くお)

ブーンはポケットの中からひとつの小さな箱を取り出した。
それは、先日ドクオ達と話していたクリスマスプレゼント……ツンにあげるつもりだった、自分の気持ち。

箱からその気持ちを取り出し、ゆっくりとツンの細い右手の薬指につけていく。

シルバーの安物だったけど……きっと、これを見ればツンは驚く。
「な、なにこれ!?」と言って顔を赤くするだろう。
その時のツンの顔が見ものだ。きっと、笑いながら幸せな気分に浸れることだろう。

ブーンは満足げにツンの薬指を眺め、微笑んだ。
後ろのドクオとショボンが笑っている気配がするが、気にしない。笑いたければ笑え。もう何を言われても大丈夫だ。

その時、コンコンと扉がノックされる音。



  
72: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:20:08.20 ID:FKCcxNOW0
  

(´・ω・`)「はい?」

「私だ」

クーの声だった。
ショボンが扉を開くと、神妙な顔つきのクーが立っていた。

川 ゚ -゚) 「すまない。ちょっといいか? 君達に提案したいことがある」

('A`)「提案?」

川 ゚ -゚) 「ああ」





  
75: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:22:35.27 ID:FKCcxNOW0
  



クーに連れてこられたのは、ビル内の通信室だった。
ここでは、政府相手の通信から、周辺国の通信の傍受、協力組織との連絡、などなど、『VIP』における通信業務の全てを担っている。

そして、自分達に差し出されたのは電話3つ。
大事な人と連絡を取りたいだろうから、ひとつずつ受話器に耳を当てろとクーに言われ、
ブーン達はわけがわからず言うことだけを聞いた。

Pururururu

呼び出し音が鳴っている。いったいどこにかけているんだろうか。

『もしもし……ktkr孤児院じゃが』

( ^ω^)「あ、荒巻院長!?」

/ ,' 3『ん? その声はブーンかの? お〜、久しぶりじゃのう』

電話に出たのは、ktkr孤児院の院長であり、ブーンの育ての親でもある荒巻だった。
『影』に襲われてから、荒巻には1度も連絡していなかった。
狐が何やら手を打っていたらしいが、孤児院のみんなには心配をかけていないか不安に思っていたところだ。

提案とはこういうことなのだろう。
大事な人と連絡をとるということ……自分にとっては、育ての親である荒巻と。



  
76: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:24:50.38 ID:FKCcxNOW0
  

/ ,' 3『急に留学が決まったとかで驚いたぞい。どうじゃ? 元気か?』

( ^ω^)「は、はい。元気ですお」

どうやら、自分はどこかに留学していることになっているらしい。
けど、こんな時期に留学だなんて、常識的に考えておかしいのだが。
まあ、荒巻なら信じてもおかしくはない。それくらいにお人よしなのだ、彼は。

/ ,' 3『よかったのお。色々と学ぶことが多かったじゃろう?』

( ^ω^)「それは……はい。大事なことをいっぱい学んだお」

/ ,' 3『帰ってきたら話を聞かせてほしいものじゃのう。
    お前が帰ってきたら、おかえりパーティをやろうと計画中じゃ。
    ヒッキーももうすぐ退院じゃからの。って、お前は知らなかったか?』

知っている。ヒッキーは自分のせいで……

/ ,' 3『ヒッキーは急病とかで入院中なんじゃ。じゃが、前に見舞いに行った時はもう元気そうじゃったぞ。
    あと1週間もすれば退院じゃそうじゃ』

( ^ω^)「そうなのかお……ヒッキー、早く元気になってほしいお」



  
78: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:27:25.61 ID:FKCcxNOW0
  

/ ,' 3『お前も元気にやるんじゃぞ?』
( ^ω^)「はい……ですお」

ブーンは受話器を強く握り締めた。何もしらない荒巻に全てをぶちまけたい気分になったが、なんとかそれは抑えた。
話すのは、全てが終わってからでいい。

/ ,' 3『じゃあ、そろそろじゃなあ……
    お、そうだ、ブーンよ』

( ^ω^)「はい」

/ ,' 3『これから何か大事なことがあるんじゃろう?』

( ^ω^)「え…あ…」

/ ,' 3『言わなくてもわかる。お前の声なんて何十年と聞いてきたからの。声の調子が違う』

荒巻は少し笑いながら、静かに言った。
こちらの心を的確に捉えているその言葉は、まるで本当の親の口から言われているようだった。

/ ,' 3『気にするな。何も咎めはせんよ。お前はお前の信じたことを貫けばいい。どんなことでもな。
    わしはお前が選んだことなら、喜んで賛成する』

( ^ω^)「……」

/ ,' 3『だから、がんばるんじゃぞ』
( ^ω^)「……はい」
/ ,' 3『じゃあの。そろそろわしも仕事じゃ』



  
80: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:29:59.55 ID:FKCcxNOW0
  

電話を切る気配がして、ブーンは慌てて「院長」と荒巻に呼びかけた。

/ ,' 3『ん?』

( ^ω^)「……ありがとうだお」

/ ,' 3『何を水臭いことを。じゃあの。元気で帰って来いよ』

プツン、と電話が切れた。耳にはぷーぷーという音が鳴り続けている。

受話器をゆっくりと置いたブーンは、自然に流れ出そうになる涙を、目頭を押さえることでなんとか止めた。

荒巻院長――自分の育ての親。
捨て子だった自分を拾ってくれて、ここまで育ててくれた人。
そして、本当の親のように優しい人。

感謝してもしきれない。彼の優しさには。



  
84: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:32:09.96 ID:FKCcxNOW0
  

後ろを振り向くと、クーがいた。
心配そうな、それでいて悲しそうな顔をしている彼女は 「終わったか?」と静かに尋ねてきた。

ブーンは涙を拭いて、答えた。

( ^ω^)「はい」

川 ゚ -゚) 「……心残りは、もうないな?」

( ^ω^)「ないですお」

川 ゚ -゚) 「そうか」

短く答えるだけのクー。それが今はありがたく、ブーンは涙声を隠しながら、他の2人はどうだろうか? と視線を移す。

ドクオとショボンも、ちょうど今電話が終わった所だった。
2人共、少し目が赤かった。

('A`)「へへ……ちゃんと連絡しろって怒られたぜ」

(´・ω・`)「僕も怒られた……で、土産はペナントにしろって言われたよ。はは」

ふざけたように笑いながらも、その声は少し濁っている。
ドクオとショボンは、自らの顔を隠すように「ありがとうございました」とクーにお礼を言い、足早に部屋を出て行った。

ブーンもまた、「ありがとうだお」とクーにお礼を言った。
「いや、いい」という短い返事だけが返ってきて、彼女はそのまま受話器を手に取り、何やら番号を押し始める。
彼女もどこかに連絡する所があるのだろうか?



  
86: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:34:50.54 ID:FKCcxNOW0
  

受話器を耳に当てて、番号を押し始めるクーの後姿。
ブーンは「……クーさん」と呼びかけた。

川 ゚ -゚) 「ん?」

振り向かないまま、クーは答えた。

ブーンはその華奢の背中を見つめつつ、震えないように腹から声を出した。

( ^ω^)「……僕は、守るお。みんなを」

川 ゚ -゚) 「ああ」

( ^ω^)「だから、絶対に作戦を成功させましょうだお」

川 ゚ -゚) 「……もちろんだ」

それだけ会話をして、ブーンはクーに背中を向け、部屋を出た。
その直後に「私だ……父さん」という声が聞こえたけど、聞かなかったことにした。
彼女にだって彼女の時間があるのだ。

廊下に出るとまた涙があふれてきそうになり、ブーンは必死になってそれを止めた。
今は泣いている場合じゃない。武器を取り、戦う準備を行う時なのだ。

もう昼も過ぎて、夕方にさしかかろうとしている時間。
窓からはオレンジ色の夕焼けが見えた。
自分の身体や、ビルや、空や、地面をオレンジ色に染めているその光は、ブーンにとってこの上なく綺麗だと思えるものだった。





  
87: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:36:59.27 ID:FKCcxNOW0
  



同時刻、会議室内。

狐「明日、か……はてさて、どうなるものやら」

(*゚ー゚)「成功しますよ、きっと」

狐「そうかい? そう思いたいね……本当に」

狐としぃは、会議室内で作戦の最後の推敲を行っていた。
『H.L』を使った「特攻」とも言える今回の無謀な作戦。

大事な所を4人に任せ、自分達は作戦を立てるしかないというのは歯がゆいもので、
ならば完全な作戦にしようと彼らは最後の最後まで作戦を練っていた。

(*゚ー゚)「『影』、および『H.L』の爆発対策のためのブーン君の光を応用した装置も、ついさっき完成しました。
    『擬似障壁』……少しは彼らの手助けになるはずです」

狐「そうだね。君は本当に働き者で助かるよ」



  
89: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:38:50.88 ID:FKCcxNOW0
  

(*゚ー゚)「所長以上に働いている人なんていませんよ。
    今回の作戦、警察や政府、防衛庁の人たちがうるさく反対していたのを、
    所長が一喝して認めさせたって、みんなの噂になってますよ」

狐「あんなのは当たり前のことだよ……あれが私の仕事だからね。
  正直言って、この2、3日で『影』が樹海からいなくならないか、戦々恐々としてたんだよ」

(*゚ー゚)「それにしては立派に仕事をされてましたよ」

狐「そうかい? ありがとう」

狐はタバコをふかしながら、書類を再度見直す。

今回の作戦、何かひとつでも不備があれば成功しない。
彼らが無事に帰ってくるためにも、何一つ失敗は許されなかった。



  
90: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:41:03.43 ID:FKCcxNOW0
  

狐「……これで終わると良いんだけどね」

(*゚ー゚)「きっと終わります。なんだか、そんな予感がしますから」

狐「ふふ、マザーみたいなことを言うんだね。予言にでも目覚めたかい?」

(*゚ー゚)「まさか。私はただの治療役でしかありませんよ」

しぃはふふ、と笑い、『H.L』の調整を終えた手を灰皿に伸ばした。

それを狐の前に置き、落ちそうになっていた灰を受け止める。
「お、悪いね」と狐はすまなそうに言った。

狐「タバコ、すっかり禁煙前に戻っちゃったね……また、禁煙しないと」

(*゚ー゚)「私が協力してあげますよ。とりあえず、1日1本ぐらいにまで減らしましょう」

狐「うわー、それはきつい」

笑いながら、書類に目を通していく狐。
そして、また『H.L』の調整を始めるしぃ。

わきあいあいと喋りながらも、彼らの働く手は止まらない。
作戦が無事に終わるまで、彼らの仕事は続くのだ。





  
94 名前: ◆ILuHYVG0rg [訂正orz] 投稿日: 2006/12/02(土) 01:43:59.88 ID:FKCcxNOW0
  



そして、また同時刻。『VIP』のビル内、休憩室にて。

(=゚ω゚)ノ「明日はちゃんと寝坊しないように気をつけないといけないょぅ」

( ´∀`)「お前は朝に弱いから、目覚ましを100個ぐらいセットしておかないといけないモナ」

ぃょぅとモナーは、休憩室のソファで座ってコーヒーを飲みながら、雑談を交わしていた。
ぃょぅは情報収集で、モナーは管轄内での指示に走り回っていたが、今はつかの間の急速を味わっていた所だ。

(=゚ω゚)ノ「……モナー、『VIP』に入った時のことは覚えてるかょぅ?」

( ´∀`)「入った時? ああ、入って早々、お前と喧嘩した時のことかモナ?」

(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。あの時の喧嘩の理由、覚えてるかょぅ?」

( ´∀`)「もうほとんど忘れたモナ。確か……カップラーメンをお前が食べたかどうか、モナか?」

(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。僕がカップラーメンを食べたと思ったモナーが、いきなり殴りかかってきたんだょぅ」



  
96: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:45:44.40 ID:FKCcxNOW0
  

ぃょぅはコーヒーのカップを傾けながら、薄く笑みを浮かべた。

(=゚ω゚)ノ「結局はお前の勘違いで終わったょぅ。それから、なんだかんだで腐れ縁が続いて、ここまで来たんだょぅ」

( ´∀`)「そうだったモナね……」

モナーは不意に顔を俯け、何か考え込む仕草を取る。
長い間付き合ってきた中でも見たことのない種類の顔で、ぃょぅは「どうしたょぅ?」と彼に問いかけた。

( ´∀`)「なんでもないモナ。ちょっと昔を思い出しただけモナ」

(=゚ω゚)ノ「……そうかょぅ」

同じ時期に『VIP』に入った2人。
これまでずっと一緒に仕事をしてきて、互いの癖やら考え方を完全に熟知している仲。
柄にもなく緊張しているんだな、と思ったぃょぅは、なるべく明るい声で「モナー」と呼びかけた。

( ´∀`)「ん?」

(=゚ω゚)ノ「この国を守るために、死力を尽くすょぅ。それが僕達の仕事だし、僕達のやりたいことだょぅ!」

( ´∀`)「そうモナね」

休憩室には、いつの間にか夕焼けの光が差し込んでいる。カップコーヒーにそのオレンジ色の光が反射している。
それからのぃょぅとモナーは何も喋らず、ただコーヒーに口をつけるだけだった。



  
100: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:47:40.41 ID:FKCcxNOW0
  



夜。ツンの病室。

午後9時を回った『VIP』のビル内だったが、中はいつもと違って早めに消灯していた。
明日の作戦は午前3時にはこのビルを出発し、5時には樹海前にて準備を完了しておかなくてはならない。
そのため、今日は夜の7時に就寝するように狐に言われていたのだ。

だが、ブーンは眠れなかった。
「みんなで寝よう」というドクオの言葉に賛成し、ツンの病室に布団を持ってきて夜の7時半には寝床についたのだが、それから一睡もできていなかった。

明日には生死をかけた戦いが待っているという緊張感が、強制的に眠りからひきずりおろされているような状態だった。

( ^ω^)(ね、眠れないお。これはまずい)

うーん、とブーンは考える。こんな時にはどうしたらよかったっけ? 
小学生の遠足の前日に眠れなかった時に、荒巻から教えてもらったような気がする。

/ ,' 3『羊を数えるのは普通の人じゃ。逆に数字を羊で数えるんじゃ』

( ^ω^)(……小学生の時も意味不明だったけど、今もイミフだお)

荒巻流の睡眠導入方法を早々と放棄し、ブーンは布団から抜け出した。



  
102: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:49:56.05 ID:FKCcxNOW0
  

周りを見てみると、ベッドの上ではツンが眠っており、その周りの床で男2人が並んで布団に入っていた。

(´−ω−`)「zzzzz ハァハァ、ドクオ型ATMタン……zzzzz」

(−A−)「う、うーん……来るなあ……zzzzz」

2人共、同じ夢を見ているのだろうか?

少し笑いながら、ブーンは静かに部屋を出た。
ちょっとだけ外を歩けば、気分転換になるはず。そうしたら眠れるだろう。

廊下に出ると、やはりビル内は真っ暗で足元も見えないような状態だった。
唯一、窓からの月明かりが目の前を照らしてくれるが、それでも薄暗くて、何かにぶつかりそうで怖かった。

そろりそろりと注意しながら歩いていき、階段の前を通った時、不思議なものを見つけた。
赤い毛布が階段に落ちていたのだ。それも、足掛けに使うような。

( ^ω^)(これは確か……)

これと同じようなものを見たことがあるような気がして、ブーンは頭をこねくりまわして、なんとか思い出してみる。

そうだ。これはつーがひざ掛けにつかっていたものだ。



  
104: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:52:03.86 ID:FKCcxNOW0
  

( ^ω^)(……もしかして)

上に行く階段に落ちていたということは、彼女は上に行ったのか? しかも1人で?
拾われていないということは、消灯時間以後の人がいなくなった後に行ったということで……もしかしてまだ上にいるのだろうか?

車椅子なのにどうやって上に行ったのかが不思議だったが、ブーンは彼女のことが気になり始めて、階段を上りだした。

上を昇って各階を調べていっても彼女の気配はせず、結局屋上にたどりつく。

屋上への扉を開けると、彼女はいた。

(*゚∀゚)「……」

車椅子に乗ったまま、薄着で身動きもしないつー。

いったい何をしているのだろうか? と思っていると、不意につーがこちらに振り向いた。

(*゚∀゚)「……ぁ」

つーは少しだけ声を出すだけで、それは言葉になっていなかった。

彼女の病状はここ最近になってかなり悪化しているらしく、言葉はほとんど話せなくなっているとか。
表情の反応も薄く、ツンと同じ、心を失っている状態の直前にまで病状が進んでいると聞いた。



  
107: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:54:39.86 ID:FKCcxNOW0
  

(*゚∀゚)「……」

けど、この時の彼女は笑っていた。
唇の端を上げ、目を細めて、とても嬉しそうに笑っていた。

それは今まで見た中でも1番輝かしい笑顔だった。

( ^ω^)「何をしてるんだお?」

(*゚∀゚)「ぁ……月を、見て、たぁ」

たどたどしいながらも、つーは答えてくれた。

( ^ω^)「そうかお。今日は満月だから、さぞかし綺麗だお」

(*゚∀゚)「う、ん……」

ブーンはつーの横に立ち、月を眺める。
満月。黒い空にぽつりと浮かぶ、黄色がかった白い光。

その光は暗い闇を照らしてくれる唯一の自然光。
電球や蛍光灯にはない、優しさを感じさせてくれる光だった。

(*゚∀゚)「き、れい……」

( ^ω^)「そうだお。綺麗だお……」



  
108: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:56:51.84 ID:FKCcxNOW0
  

2人そろって満月を見る。
恋人と見れば、もっとロマンチックになるのだろうけど……今はつーと一緒に見るだけで満足だった。
彼女はなんだか、自分と似ているような似ていないような、そんな感じがしたから。

(*゚∀゚)「あ、した……行く、のぉ?」

( ^ω^)「明日かお? そうだお。明日は朝早くから戦いに行くんだお」

(*゚∀゚)「そ、っかぁ……き、きっ、と、いっぱい、光、が見れるん、だろう、ねぇ」

( ^ω^)「そうかお?」

(*゚∀゚)「見れ、るよぉ。私も、見たい、けど、見れない……私は、白い光を、出せ、ないからぁ」

( ^ω^)「帰ってきたら、いくらでも見せてあげるお」

(*゚∀゚)「う、ん……」

満月はずっと変わらずに光っている。
その光は太陽とは違った、優しくも暖かい光。けど、どこか寂しそうな光。

自分の出す光とはまた違った種類のもの。



  
110: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:58:27.27 ID:FKCcxNOW0
  

(*゚∀゚)「……」

( ^ω^)「……」

こんな風に満月を見上げられる時間を守りたい。
また次の満月も見上げることができるように、つーを守りたい。

そういった「守る」という言葉は重いものだけど、決して背負いきれないものではない。

そう、きっと自分ならできるはず。
心を強くもてば……きっと。

ブーンは黒い空と月光のコントラストを眺めながら、少しだけ手の平から白い光を出してみた。
淡く光るその光は手の平から離れ、空へと立ち昇り、地から天へと星屑のように流れていく。

尾を引きながら、次第に消えていく白い光。

それはまるで黒いキャンパスの上を滑る白い筆のように見えた。


第20話 「スペクトル」 完



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