( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 184 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:33:37.21 ID:t0QnZp7a0
- 第22話
静かな森の中、その男は2メートルほどの大きな石の上に立っていた。
黒いコートに身を包み、ポケットに手を入れたまま笑みを浮かべている。
かつて話をし、助けられ、過去における行動も聞いたその男――ジョルジュ長岡。
どうして彼がここに?
そんな単純な疑問ばかりが頭の中を飛び交い、ブーンは何一つ言葉を漏らすことができなかった。
そして、それに拍車をかけるのは彼の横にいる面々。
( ,,゚Д゚) 「……」
ギコがいた。
从 ゚−从「……」
ハインリッヒもいた。
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「……」
流石兄弟もいた。
そして
( ´∀`)「……」
モナーもまた、彼らの傍に立っていたのだ。
- 188 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:36:16.01 ID:t0QnZp7a0
川 ゚ -゚) 「どういうことだこれは……なぜモナーがそちらにいる!?」
_
( ゚∀゚)「簡単なことさ。こいつは俺たちの仲間。ただそれだけだ」
川 ゚ -゚) 「なに!?」
( ´∀`)「……」
モナーはグローブを握り締めたまま動かない。
彼の足下には白い円筒の物体があった。
おそらく『H.L』なのだろうが、それは完全に分解されており、原型をとどめていなかった。
どうやって、そしてどうしてそんなことをするのかがわからず、ブーンは混乱する頭をなんとか整理しようと努力する。
だが、その前にクーが「……モナー、そうなのか?」と彼に問いかける声が聞こえた。
川 ゚ -゚) 「もともと、ジョルジュに内通していたのか?」
( ´∀`)「……そうだモナ」
川 ゚ -゚) 「いつからだ」
( ´∀`)「2,3年前……だモナ」
川 ゚ -゚) 「情報を横流ししていたのもお前か?」
( ´∀`)「それは……」
- 193 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:38:49.77 ID:t0QnZp7a0
_
( ゚∀゚)「おっと、いじめるのはそれぐらいにしろよ、クー」
ジョルジュが横槍を入れ、からかいの表情を浮かべる。
ブーンはそれを見て、確信した。これは本当にジョルジュだと。
いつでも楽しそうに喋るその顔は、まさしく彼だった。
_
( ゚∀゚)「後輩いじめは後々しっぺ返しをくうぞ?」
川 ゚ -゚) 「黙れ、そもそもお前はどうしてここにいる。それに『H.L』がどうして分解されているんだ。答えろ」
_
( ゚∀゚)「お〜、こわ。怒ったクーは怖いねえ」
クーの怒気をやすやすと受け流すジョルジュは、半笑いの表情を崩さない。
まるでこの状況を楽しんでいるようだった。いや、これから起こることを楽しみに思っているという感じ。
_
( ゚∀゚)「まあ、ひとつひとつ疑問に答えていきましょうかね。
俺がここにいるのは、俺の目的のため。この兵器を分解したのも、俺の目的のため。
ちなみに、お前達がここにいるのも俺たちの目的のため、だ」
川 ゚ -゚) 「目的、だと?」
_
( ゚∀゚)「悪いが、話す時間は少ないんでな。まずは……ギコさん、頼みます」
( ,,゚Д゚) 「ああ」
ギコが動いた。
懐から弓矢を取り出し、唐突に3本を構えて放つ。
- 194 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:40:57.34 ID:t0QnZp7a0
ブーンは慌てて『光障壁』を出してそれをガード。クーとぃょぅも身体を逸らして避ける。
川 ゚ -゚) 「ちっ!」
( ^ω^)「やる気かお!」
ブーンは手に『剣状光』を出して、『光弾』をジョルジュ達に向かって放つ。
3、4個の光の弾が彼らに向かって飛んでいく。これは当たる!
( ´_ゝ`)「遅い」
しかし、流石兄弟の兄が動いた。
ジャンプした兄者は、長いロープを一振り、二振りと振り回す。
それらは確実に『光弾』を捉え、軌道を修正してあらぬ方向へと弾き飛ばしていく。
ついには全ての『光弾』が彼により弾き落とされた。
( ^ω^)(なっ……)
まさか全て叩き落されるとは思わず、踏み込もうとしていた足を止めざるを得なかった。
川 ゚ -゚) 「ジョルジュ! お前は!」
クーがすばやい動作で懐からブローニングを取り出し、ジョルジュに向かって構える。
彼女の銃の腕前はかなりのもの。そのまま撃てば、確実に当たる。
- 198 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:43:19.77 ID:t0QnZp7a0
从 ゚―从「させない」
しかし、ハインリッヒが動く方が早かった。
彼女は手に持っていたマシンガンらしき短機関銃をすばやく構え、ブローニングめがけて2,3発銃弾を放つ。
恐るべき命中率で、弾丸はクーの拳銃に当たり、弾き飛ばされる。
川 ゚ -゚) 「ちっ」
( ^ω^)「クーさん!」
从 ゚―从「近づくな」
ハインリッヒは、照準をすばやく変えて、ブーン、ぃょぅの地面の前にも銃弾を放ってくる。
そのため、クーを援護しようとしたこちらの動きも封じられた。
( ^ω^)「お!?」
(=゚ω゚)ノ「ょぅ!?」
( ,,゚Д゚) 「よそ見してる暇はないぜ」
ギコのそんな声が聞こえたと思った瞬間、3本の矢が自分達の方へ向かってくるのに気付いた。
だが、完全にハインリッヒの方へと注意を逸らされていたため、『光障壁』を張る暇も避ける時間もなく、矢は自分達の方へと確実に向かってくる。
- 199 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:45:42.22 ID:t0QnZp7a0
( ^ω^)「くっ!」
ブーンは目をつむり、襲い来る衝撃に耐えようと身を硬くする。
だが、矢は自分の身体には当たらなかった。
それは腰にあった「疑似障壁」の発生装置へと当たっていたのだ。
ガッ、という音と共に、装置は粉々に砕け散る。完全に。
クーとぃょぅも同じだった。
『疑似障壁』を易々と貫いたギコの矢は、彼らの腰の装置へと命中し、障壁を消滅させる。
川 ゚ -゚) 「……っ、何をする!」
_
( ゚∀゚)「それがあると邪魔なんでな。ほら、後ろに『影』がいるぜ?」
ブーンは驚いて後ろに振り返った。
すると確かに『影』が1体、その場に立っていた。
気配も何も感じなかった。どうして? いつの間に?
そう思う暇もなく、それはこちらへと向かってくる。ゆっくりとしたスピードで歩きながら。
前にはジョルジュ達、後ろには『影』。
前門の虎、後門の狼、といったところか。
- 202 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:48:00.83 ID:t0QnZp7a0
ブーンは『飛槍光』のイメージを密かに始めた。『影』は倒し、ジョルジュ達は戦闘不能にする。
この場を切り抜けるにはそうするしかない。
隣のクーもジョルジュ達を気にしながらも刀を引き抜いた。ぃょぅも小太刀を抜いている。
10メートルほどの距離まで近寄ってきた『影』。
イメージが完了し、今まさに『飛槍光』を出そうと身を構えたブーン。
しかしその前に変化が起こった。
( ^ω^)「な、なんだお!」
『影』がいきなり霧状に変化したのだ。
身体を構成していた結合がいきなり解かれ、細かい粒子になったかのように。
霧散した『影』の細かい粒子が、上空へと向かい、また方向転換して、ある一方向へと向かって飛んでいく。
その先にはジョルジュがいた。
_
( ゚∀゚)「……!!」
霧状の『影』は彼の身体を包み込んだかと思うと、急速に彼の身体の内部に染みこんでいく。
いったい何をしているのか、見当もつかない。
徐々に黒い物体が彼の中へと入り込み、最後には完全に跡形もなく消え去った。
これは……まさか、『影』を吸収したのか?
- 204 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:50:22.93 ID:t0QnZp7a0
(=゚ω゚)ノ「『影』を……取り込んだ?」
_
( ゚∀゚)「ふぅ……いや、同化って言った方が正確だな。『気』で『影』を包んで取り込んでるしな。
これを行った俺たちは、もう人間ではないのとも言える」
川 ゚ -゚) 「お前……」
目を見開き、刀を手にしたまま動かないクー。
それは、これまで理解していたものが急に理解できなくなった時のような困惑さを表しているかのように、ブーンは思った。
(=゚ω゚)ノ「くっ、手をあげるょぅ! お前達は危険だょぅ!」
ハインリッヒが機関銃を下ろしているのに気付いていたのだろう、ぃょぅが拳銃を抜き、彼らに向ける。
しかし、銃口を向けられたジョルジュは笑うだけだった。
_
( ゚∀゚)「はは、撃ってみろよ」
(=゚ω゚)ノ「なに……!」
_
( ゚∀゚)「撃たないなら……俺が撃つぜ!」
ジョルジュが懐に手を伸ばして、何かを取り出そうとする。
しかしその前にぃょぅが引き金を絞り、パンという軽い音が響き渡った。
- 205 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:53:15.92 ID:t0QnZp7a0
(=゚ω゚)ノ「な……に?」
_
( ゚∀゚)「ふふ……はははは!」
ジョルジュは倒れなかった。
それどころか、弾丸が当たった様子すらない。
彼の後ろにあった木の幹からは火花が立っていたのに、彼自身には何の傷もない。
もしかして、すり抜けた……?
『影』と同化したから、『影』と同じ身体を持ったというのか?
(=゚ω゚)ノ「そんな……」
从 ゚―从「銃を下ろして」
ぃょぅが呆然と拳銃を掲げていると、再びハインリッヒがマシンガンを構える。
右には、いつの間にか移動していたギコが矢を弦にかけて思いっきり引き、
左には兄者がロープを構え、弟者が手裏剣を手に持っている。
三方から狙われた自分達は、完全に動けなくなってしまった。
- 206 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:55:22.28 ID:t0QnZp7a0
_
( ゚∀゚)「ったく、手間をかけさせるなよな。俺はお前達と話をしにきただけなんだ」
川 ゚ -゚) 「話だと? ジョルジュ……お前はいったい」
_
( ゚∀゚)「まあ、聞けよ。
クー。『影』はどうして犯罪者を襲っているんだと思う?
『天国』時代から、このことはずっと謎だったよな?」
黒いコートを翻しながら、ジョルジュは薄ら笑いをやめずにそう問いかける。
しかし彼女は何も答えない。呆然と彼を見つめたまま動かない。
返事がないのも構わず、ジョルジュは話を続けた。
_
( ゚∀゚)「わからないか? まあそうだろうな。
確か『天国』では『人間を滅ぼそうとしているのかも』なんてことを話し合ってたよな」
川 ゚ -゚) 「……」
_
( ゚∀゚)「だがな、今の俺ならその理由がわかる。同化した今なら。
『影』は別に人間を滅ぼそうとはしていない。その逆だ。
奴らは、この世界をより良いものにするために犯罪者を殺しているんだ。
人間社会における悪人が裁かれ、善人が救われる世界にするための存在……
いわば、地球の白血球のようなものだ」
( ^ω^)「はっけきゅう……?」
- 207 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 22:58:14.92 ID:t0QnZp7a0
_
( ゚∀゚)「なぜ、こいつらが発生したかは俺にはわからない。
もしかしたら、ブーンと関連があるかもしれないが、今はそんなことどうでもいい」
ジョルジュの笑みが、消えた。
無表情に近い厳しい顔。
何かに達観しつつも、目的のためならどんな冷酷なことでもやってしまうであろう兵士の目。
これがジョルジュなのか? とブーンは思った。
_
( ゚∀゚)「世界を浄化するための『影』という存在。
俺はこいつらを使って、少々この世界に変化を与えたいと思ってる」
川 ゚ -゚) 「変化……だと?」
_
( ゚∀゚)「もうひとつ質問をしようか……クー、どうして俺の妹は死んだんだと思う?」
川 ゚ -゚) 「……」
ジョルジュの妹、ツイン照美。
『天国』時代、ある国会議員の陰謀により、クーとジョルジュ達は罠にはめられた。
国会議員殺しの汚名を着せられ、警官隊においかけられ、そして『影』にも襲われた彼ら。
そんな中、ジョルジュの妹であるツイン照美は死に、つーは精神を患った。
クーの中にある、鬱屈とした過去。
そして、妹と想い人を同時に失ったジョルジュにとっては、許されがたい事実。
- 209 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:00:30.02 ID:t0QnZp7a0
_
( ゚∀゚)「『影』のせいか? 直接的にはそうだが、根本的には違う。
俺たちを追いかけてきた警官達のせい? 違うな。
嘘の任務を告げてきた上司か? それとも、あの腐った国会議員?
もしくはお前か?」
川 ゚ -゚) 「……私は」
_
( ゚∀゚)「全て違う!」
ジョルジュがコートのポケットから手を出した。
その手は、人間の肌の色ではなかった。『影』のように漆黒で、深い絶望を蓄えた色。
おそらく、彼の身体は顔以外、全てがそうなっているのだろう、よくよく見れば、彼の身体に肌色が見当たらない。
顔だけが、不自然に人の肌をもっている。
ジョルジュはまた冷徹な表情を浮かべて、喋り続ける。
_
( ゚∀゚)「妹を殺したのは、この国に、この世界に蔓延しているシステムそのものだ!
恐怖で人を律し、恐怖で心を支配するという世界のシステム。
そして、他人のことなど考えもせず、自分が守りたいものだけを守るために戦うという人間のシステム。
分かるか? 人は生きたいという『生存本能』と、守りたいという『防衛本能』は持っているにも関わらず、
他人と分かり合うための『統合本能』は持たないんだ」
言葉の波が頭の中へと押し寄せてくる。
ジョルジュの口から放たれるそれらの言葉は、この世界の矛盾と真実を照らしているかのような……はっきりしとした言葉。
今まで自分が持っていたもやもや感をはっきりと示すもの。
しかし、にわかには受け入れがたい事柄。
- 210 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:02:45.40 ID:t0QnZp7a0
_
( ゚∀゚)「だから、守りたい対象が違うだけで、人は争ってしまう。
それはこれまでの歴史を振り返れば、いや今現在の世界の状況を見ても明らかだろう?
自分の国が攻撃されるという根拠のない恐怖から、どれだけの戦争が生まれたと思う?
世界平和をうたっている国が、今も武器を捨てずに使い続けているのは何故だ?
自分の人権だけを考えるあまりに、他人の人権を考えない人間。
生存本能だけが先立ち、理性という言い訳を使い、動物に本来備わっているはずの『統合本能』を失った人間。
他人を信じず、自分しか信じるものはないという思想。世界を見れば、嫌でも感じる」
ジョルジュはそこでひとつ息をつき、黒い腕をポケットに戻した。
ちゃんと意識を集中すれば、ジョルジュからは『影』の気配がすることに気がついた。
_
( ゚∀゚)「俺はそれら全てを変える。恐怖で縛られて混乱する世界を、もう一段階上の恐怖で安定させる」
- 212 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:04:42.41 ID:t0QnZp7a0
川 ゚ -゚) 「恐怖で人を安定させるだと……そんなこと」
_
( ゚∀゚)「不可能、か? そうでもないぜ?
例えば、だ。ナショナリズムって言葉は知ってるか? 自分の民族の国をうちたて、それを守ろうとする思想、ってな感じだな。
これがあるのは、もちろんその民族自身の存在が不可欠だが、もうひとつ、それに敵対する集団の存在も必要なんだ。
わかるか? 外の集団への恐怖が、その民族をナショナリズムへと掻き立てる。
第2次世界大戦、欧米の国の人々を『鬼』としたこの国のように。
そして今、新たな外の恐怖を感じ始めたこの国がとるであろう方向も、それを示している」
たった一つの些細な恐怖から、人々は発狂し、自分の身を守るために躍起になる。
「警察力の強化」「軍備増強」「核武装論」、身近なところなら「護身術」。
ニュースや世論でこれらが話題になる時、必ずと言っていいほど自分達以外への恐怖――外への恐怖がある。
ブーンはジョルジュの言葉からそんなことを連想した。
- 214 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:06:39.60 ID:t0QnZp7a0
「つまりだ。人は自分達だけを守るためなら、団結しやすい。統合本能を少しながらでも思い出す」とジョルジュは言葉を続けた。
_
( ゚∀゚)「外への恐怖に抗うために、人の心はひとつになる。
ならば俺は、人類全体の『敵』となり、人々の心の奥底に純粋恐怖を植えつける。
そうした時、人はどうする? 簡単なことだろう?
恐怖が人をひとつにするのさ……」
川 ゚ -゚) 「そんなこと……間違っている」
_
( ゚∀゚)「なぜだ? なぜそう言える? 俺が間違っていて、お前が正しい。本当にそうなのか?
もしかしたら俺が正しくて、お前が間違っているかもしれない。
もしくはどちらも間違っていて、正解は別にあるのかもしれない。
まあ、現時点でこれを判断する術なんてない。それをするのは後世の歴史家だけだ。
俺たちにできることは、自分の信じる道を、自分の信じる歩き方で歩くだけ。
だから、俺はどうやってでも俺の目的を達成してみせる。
たとえ、どれだけの人を犠牲にしようとも……」
- 217 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:09:40.04 ID:t0QnZp7a0
ピクリ、とブーンは彼の言葉の一つに反応した。
『たとえ、どれだけの人を犠牲にしようとも』?
それはつまり、人の死を構わないということ?
人の犠牲の上に、自分の目的の達成を置く?
そんな……そんなやり方は……
_
( ゚∀゚)「この世界は、そうやって妹の死に報いなければいけない」
( ゜ω ゜)「間違ってるお!」
ブーンは心の奥底からの叫びを放った。
それは本心の言葉。絶対にそれだけは正しいと思える言葉。
これ以上、どんな人の犠牲も払ってはいけない。
たとえどんな高尚な目的があったとしても、だからと言ってどんな方法を取ってもいいわけではないのだ。
方法を考え、その中で最善のものを選ぶ。
それが、1番重要なこと。
- 218 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:11:43.78 ID:t0QnZp7a0
_
( ゚∀゚)「『人の子』……いや、ブーン。どうやらお前はそちらにつくようだな」
( ゜ω ゜)「そうだお。僕は、守りたい人ならどんな人も死なせないって誓ったんだお。
もし無差別に人を殺すような方法を取るなら……全力で止めるお」
_
( ゚∀゚)「そうか……お前が導く世界がどの方向に向かうのかは分からないが、とにかく俺は俺の信じる道を進む。
止められるなら、止めてみろ! もう祭りは始まってるぜ!」
ジョルジュがそう叫んだ瞬間、上空に爆音が響いた。
鼓膜をつんざく巨大な音に、ブーンは思わず耳を塞ぐ。激しい風も急に自分の身体を打ち付けてきた。
それはヘリコプターの音と風だった。
いつの間にか上空を飛んでいた1機のヘリコプターが、森に接触するスレスレまで降下し、ホバリング体勢に入っていたのだ。
爆音と爆風に戸惑っていると、ヘリの扉が開き、プラスチックの梯子がジョルジュたちのいる地点に下ろされていく。
_
( ゚∀゚)(来れるもんなら、来てみるんだな!)
やかましいヘリの音の間からそんな声が聞こえ、ブーンは風に負けずにヘリの方を見る。
すると、ジョルジュが梯子に手をかけて上っている姿が見られた。
- 219 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:13:20.95 ID:t0QnZp7a0
( ,,゚Д゚) (また、な。必ず来いよ)
爆音の中でも聞こえるその声。
いや、違う。これは、もしかしたら心の声なのだろうか?
きっとそうだ。こんなローターの音が響き渡っている状況で、ギコの呟きが聞こえるはずがない。
なぜだ? 完全にクリアーに人の心の声が聞こえる。
从 ゚―从(……彼のために)
なぜ、聞こえる?
人の感情を掴むことは得意だったけど、いつからこんな風に心の声が聞こえるようになった?
( ´_ゝ`)(『影』との同化)
(´<_` )(進めないとな)
自分にはこんな力もあるというのか?
しかし、こんな力があっていったい何の役に立つというんだ。
人の心を読むだなんて、そんなわずらわしい能力……!
( ´∀`)(すまないモナ……みんな)
モナーの声が聞こえ、ブーンはハッと顔をあげた。
- 221 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:15:28.82 ID:t0QnZp7a0
すでにジョルジュを含めた6人全員がヘリコプターに乗っていた。
ヘリはある程度体勢を立て直すと、急激に高度を上げ、ゆっくりと前進して行く。
その窓からジョルジュ達の顔を見ようとしたけれども、叶わず、ヘリはそのまま彼方へと去っていってしまった。
徐々に馬鹿になっていた耳も元に戻ってくる。すると、また森の静けさだけがあたりに残っていた。
『影』の気配はおろか、生物の気配もしない静寂の森。
ジョルジュとの邂逅のショックからか、その静けさが逆に苦痛だった。
川 ゚ -゚) 「ジョルジュ、お前がやろうとしていることは……」
クーのそんな呟きが宙に浮き、霧散する。
彼女は刀の柄を握ったまま、何かを考え込むように立ち尽くしている。
彼女の心も読めるのだろうか? と思ったブーンは、意識的にやってみたが、しかしもう心の声は聞こえなくなっていた。
いったい自分の身体には何があるのだろう? と思いながら、ブーンはクーの顔を見つめる。
彼女は唇を噛み、何かを決意したように空を見上げた。
川 ゚ -゚) 「私は……!」
- 222 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:17:23.29 ID:t0QnZp7a0
ピー ピー ピー
突然、無線機から電波受信の音が鳴り出した。ジョルジュ達が去ったからなのか、ジャミングは切られたようだった。
無線機に手を伸ばしたクー。ブーンもまた、自分の無線機を操作する。
川 ゚ -゚) 「はい、所長……今、こちらでは――」
狐 『大変なんだ!!』
通信機を壊す勢いで大声を出してきたのは狐だった。
切羽詰った口調で、クーが何事か問いかける前に早口でまくし立てていく。
狐 『今、この国中で【影】が大量に出現してる! 樹海にいたものが一斉に外に飛び出したらしい!
周辺国でも【影】の出現が報告されているし、何より主要な国家で革命軍による大規模なテロも起こってるんだ!』
川 ゚ -゚) 「なっ……」
狐 『革命軍と【影】が協力体制を取っているところもあるらしく、世界中が混乱している!
とにかく今からヘリを寄こすから、早くこっちに、」
狐が話し終える前に、通信機から爆発音が轟いた。
ラウンジ教の施設で同じものを聞いたことがある。これは爆弾が爆発した音……?
- 224 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:19:32.68 ID:t0QnZp7a0
狐 『何が起こった!』
(*゚ー゚)『地下の施設にて爆破現象を確認! 隔壁を閉鎖しました!』
狐 『爆発……?』
狐としぃの声が遠くなってくる。
そして、また連続で爆発音。
明らかに、ビルが爆破されている音。
狐 『くっ……退避だ! 特別治療区域の患者から順にビルから脱出だ!』
(*゚ー゚)『3、4階が爆破されました! エレベーターも停止! 間に合いません!』
狐 『間に合わせるんだ! 早く!』
(*゚ー゚)『はい!』
遠くに聞こえていた彼らの声が、また近くなる。
『クー君!』というはっきりとした声が通信機から流れてくる。
狐 『君達はヘリに乗って、指示を待ってくれ! とにかくこちらは大丈夫だから安心s』
プツン、という音と共に通信が切れた。
おそらく通信設備が爆破されたのだろう。いくらこちらからコールを送っても、何も返してこない。
- 227 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:21:33.88 ID:t0QnZp7a0
(=゚ω゚)ノ「これは……」
川 ゚ -゚) 「襲撃を受けている、と見るのが妥当だな……まずいぞ。今あちらには戦力がない」
ぃょぅとクーがそう話しているのを聞きながら、ブーンはジョルジュの言葉を思い出した。
『目的のためならどんな犠牲でも払う』
彼の言葉は本気だった。きっと、どれだけの人の命を犠牲にしてでも自分の目的を達成しようとするに違いない。
ならば、『VIP』を襲撃したのは彼らの仲間であると考えるのが妥当。
と、急にドクオやショボン、そしてツンの事を思い出す。
彼らもまた『VIP』にいる。なら、今彼らも危機に陥っている?
自分の心に暗い闇が落ちてくるのを、ブーンははっきりと感じた。
これは、友達が殺されかけて、初めて『光弾』を出した時のものと同じ。
韓国人のエージェントがツンを撃とうとしていた時のものと同じ。
ツンがラウンジ教に捕らわれ、心を失くした時に感じたものと同じ。
失う恐怖。
守りたいものがなくなる恐怖。
自分が無力だと思い知らされる恐怖。
それは自分の心をしっかりとつかみ、放さない。
どうやっても逃れることのできない負の感情。誓ったものが大きければ大きいほど、暗さを増す絶望。
- 230 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:23:55.10 ID:t0QnZp7a0
ブーンはそれに戸惑い、頭を抱えた。
また守りたいものを傷つけてしまうのか?
そんなの……絶対に嫌だ!
(=゚ω゚)ノ「ヘリだょぅ……!」
ブーンは上を向いて、ヘリがこちらに梯子を下ろすのを見た。
ちゃんと地面に降りたそれを、ブーンは真っ先に走り寄って掴んだ。
( ω )「させないお……」
川 ゚ -゚) 「ブーン?」
(=゚ω゚)ノ「ょぅ?」
( ゜ω ゜)「絶対に、誰も傷つけさせないお!」
ブーンは急いで梯子を上り始めた。
その叫びは、自分の信念と現実をつなぐ1本のロープ。
必ず守るという誓いをつなぎとめるための生命線。
その線は非常にもろいもののようにも感じたが、しかしそれでも信じて進むしかないというのがブーンの心が決めた結論だった。
※
- 231 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:26:03.52 ID:t0QnZp7a0
※
混乱の種は、すでに世界中にばらまかれていた。
ある国のビル街。
様々な人種の人々が行き交い、有名な女神像が島の上に立てられ、様々なショップが立ち並び、
巨大なテレビや電光掲示板が商品のCMやテレビ放送を流している、その街。
クリスマスだったその日、その時間帯の街は、人でごった返していた。
ショッピングを楽しむ人、友達とのおしゃべりをする人、恋人と甘い時間を共有する人、様々な人が様々な時間を過ごしていた。
みんなが楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうな顔をしていた。
だが、そこにひとつの異分子が入り込む。
その異分子は最初、誰にも気付かれることはなかった。
建物と建物の間の路地や、ゴミ箱の中、ダンボールや茂みの中など、人の目に着きにくいところに潜んでいた。
その黒い身体のおかげで潜むのはたやすかった。
そして、ひとつの合図と共にそれらは外へと身を表す。
- 234 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:28:27.11 ID:t0QnZp7a0
「きゃあああ!」
「わ、ワッツザット!」
黒い身体を持ち、コンクリートでも易々と打ち壊す腕力を振るって、その異分子は次々と街を壊していく。
ショーウインドウのガラスは散乱し、コンクリートの壁は破砕され、街路樹は根から折られる。
カフェテリアでコーヒーを飲んでいたお客達はその姿を見て逃げ出す。
手をつないで歩いていたカップルは別々の方向へと逃げていく。
破壊、破壊、破壊。
破壊だけがその街を支配する。
『影』。
彼らは建物を壊しまわっていた。
時にはビルの中に入り込み、壁を打ち壊し、エレベーターを破壊し、オフィスフロアの机をぶん投げていく。
時には抵抗する人間もいたが、しかし普通の人間が彼らに敵うわけもなく、なすすべもなく骨を折られるか、首を両断されていく。
そういった犠牲者が出るたびに、その場所からは悲鳴が響き渡る。
警官が出動することもあったが、彼らの拳銃すら『影』には効かない。
邪魔をする人間には容赦なく死を与え、辺りの建物を破壊しまわっていく彼ら。
それは、爆弾が爆発する以上の根源的な恐怖を人々に与えていく。
その恐怖を受けた人々は、走り、転び、逃げまどう。
活気のあったその街はいつもの空気を失っていた。
混乱と破壊だけが辺りを支配していた。
- 236 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:30:48.87 ID:t0QnZp7a0
他の国の都心部でも同じだった。
大抵の大都市では『影』が現れ、建物を破壊して回り、邪魔する人々を殺していく。
たとえ警官や軍隊が現れようとも、彼らを倒すことなどできない。
そして、その『影』の進行に合わせるかのように、様々な国で革命軍が爆破テロを起こしていた。
ある国では、大統領の屋敷の支柱に仕掛けられていた爆弾が爆発。
屋敷は根元から完全に破壊され、中に居た大統領夫妻は即死。
また、ちょうど家を訪問していた軍隊の総司令官もそれに巻き込まれて死亡した。
またある国では、『影』を倒そうと躍起になっている警官隊に向けて、ゲリラ戦をしかけるテロリストもいた。
革命軍は、街中で銃を連発し、民間人が何人死のうとも構わず、混乱だけを目的とした戦いを繰り広げる。
悲鳴と怒号。発砲音と爆発音。
平和な日常はすでに打ち壊され、混乱だけが広がっていく街中。
『影』と革命軍。テロリスト。
混乱をばら撒いていく『種』は、じわじわと恐怖を人の心に染み込ませていく。
※
- 237 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:32:43.07 ID:t0QnZp7a0
※
そして、この国でもその恐怖は広がっていた。
『今入ってきたニュースです。R本木、G座など、都心部で謎の爆発現象が起こりました。
死者、けが人などは不明ですが、現場は惨状と化しているようです。
え? あ、はい……』
ニュースキャスターは困惑顔で、今出来上がったばかりの原稿を読み上げていく。
『今また新しい情報が入ってきました。他府県のO府、H道、H県など、大都市でも同じような爆発現象が起こっているようです。
また、正体不明の黒い物体が建物を壊しまわっているという未確認情報も入ってきました』
テレビ画面上に、白いテロップの文字が流れていく。
それは、謎の爆発現象が怒ったり、黒い物体が現れた都市を50音順に示していた。
『今テロップで流れている都市にお住まいの皆様。これらは全て避難勧告が出されている場所です。
これらにお住まいの方々は、警察や自衛隊、地元自治体の誘導に従い、速やかに避難を行ってください。
繰り返します。テロップで流れている都市にお住まいの皆様、避難勧告が出されています。
警察や自衛隊、地元自治体の誘導に従い、速やかに避難してください』
- 242 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:35:03.59 ID:t0QnZp7a0
そのテロップは尋常でなく長かった。
ニュースキャスターが何度も避難勧告について喋っていても、まだ終わりが見えない。
100、いや200以上の都市で勧告が出されているようだった。
『今から、地図で避難勧告が出されている都市、都道府県を示します。これらにお住まいの方は、すみやかに避難してください』
画面上に全国地図が出される。
避難勧告が出されている地域は赤く塗られている、と画面端には書かれている。
しかし、そんな説明は必要なかった。
地方などの例外を除いて、その国の地図上のほとんどが赤く染められていたからだ。
『ただいま政府、官房長官の記者会見が行われており、中継でつなぎます』
画面が変わった。
今年の秋に新しく官房長官に就任した1人の男を正面に据え、記者がその周りを囲っている様子が映し出される。
- 244 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:37:01.54 ID:t0QnZp7a0
『かかる都市部での爆破テロ、正体不明の生物の襲撃をかんがみ、国家安全の危険ありと政府は判断しました。
よって、国民保護法に基づき、これを緊急対処事態と認定し、避難命令を全国に発令します。
国民のみなさん、自衛隊や警察の誘導に従い、速やかに最寄の緊急避難場所に移動してください。
また、車での避難はやめてください。自衛隊の輸送車が来るまで、一時避難場所で待機してください』
「国民保護法」。
正式名称を「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」という。
これは一昨年頃に制定された、武力攻撃やテロなどの悪意による災害から、国民を保護する役割を果たす法律だ。
「緊急対処事態」とは、テロや災害が起こった状況を指している。
制定されてから今まで、これが適用されたことは1度もなかった。
大きな戦争の後60年、さしあたってテロや戦争に巻き込まれることのなかったこの国。
世界でも有数の軍事力を持ちながらも平和ボケしていると言われ続けていたこの国。
- 246 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:38:24.63 ID:t0QnZp7a0
だから、今回の出来事はこの国にも、国民にも、頭に強烈なパンチを喰らったかのうような衝撃を与えていた。
最初は事態を把握していなかった人々も、テレビで悲壮感を漂わせ続けるキャスターの顔と、黒い物体が暴れている映像を見て、恐れおののいた。
家でじっとしていた人たちは、まず家族と連絡を取り、合流した後、車で逃げたり電車に乗って遠くに行こうとする。
そのせいで交通機関は完全に麻痺。そこらじゅうの道路が渋滞していた。
そして、緊急避難場所である小学校や公民館などでは人がごった返し、自衛隊の輸送車が来るや、我先にと乗り込もうとする。
子供も女も関係ない。みんなが、生き残ろうと必死になっていた。
恐怖は、入り混じり、溶け込んでいく。じわじわと人を苦しめていく。
『影』は街を破壊して回る。
革命軍はテロを繰り返す。
12月25日、クリスマス。
世界は恐怖によって発狂した。
第22話 「祭りの始まり」 完
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