( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
4 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:29:05.52 ID:Bto8pEe+0
  
第24話

その白い翼は、揚力や翼面加重といった空を飛ぶための物理法則を完全に無視するかのように、
ただ羽ばたくだけで身体を空へと押し上げてくれる。
スピードを上げようと思えば加速してくれるし、少し上に行こうと思えば高度を上げるし、降下しようと思えばしてくれる。
いわば、脳と直接つながったコントローラーで操作している飛行機ゲームのような感覚か。

( ^ω^)「だいたい分かってきたお……」

ブーンは10分ほど空を飛び続けてようやくコツを見出し、しばらく飛んだ後、近くのビルと同じ高さで静止した。
白い光の翼は羽ばたき続け、空中に止まることを許してくれる。

羽ばたくたびに淡く光る羽が舞い落ちていくのを見て、これが自分の出している翼なのかと驚きつつも、決して疑問には思わなかった。
白い光はいつもこちらの心に応えてくれる。これもその結果のひとつに過ぎないのだ。

自分の意志で自由に動く翼。
空を飛ぶという望み。

それは叶えられた。



  
7 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:30:20.36 ID:Bto8pEe+0
  

( ^ω^)「……どこだお」

ブーンは空中で静止しながら、精神を集中させた。
目を瞑り、この近辺、果ては日本全国まで神経を張り巡らせていく。

ジョルジュ達の戦うために、まずやらなくてはいけないのは彼らを見つけることだ。

だが、『影』と同化したジョルジュ達を見つけるのは至難の技だ。
『影』はいまや世界中に散らばっており、数万のそれらの中からジョルジュ達だけを見つ出さなければならない。
まるで針の山から、1本の金の針を見つけるかのような、気の遠くなるような作業。

( ―ω―)「……」

ピクリ、とブーンの頬が動く。
ひとつ、いや、ふたつ以上の違和感ある気配を感じ取れた。

それは、ただの『影』の気配ではなかった。
黒くて濁ったものの中に、確固とした意志が存在している。
黒い殻の中に白い液体が入っているかのような、そんな感じ。

人間の気配でもなければ、『影』の気配でもない。
その2つが合わさった、異質なるものの気配……



  
9 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:32:38.13 ID:Bto8pEe+0
  

( ゜ω ゜)「……そこかお!」

ブーンは勢いをつけて、翼を動かした。
白い羽が舞い散る中、その身体は急加速をとる。

ビルの谷間を猛スピードで抜け、山の頂上の遥か上を飛ぶブーン。

普通ならばブラックアウト現象(加速のGによって血が下半身に集中し、貧血状態になること)が起きるほどの加速度でも、
彼の身体は平然と飛び続けていた。

その体の表面には白い光が膜のように張られている。
自身でも気がつかない間に、身を守るための事前策を取っていたのだ。

ブーンがそれに気がついたのは、山の上を飛んでもそれほど寒くないことに気がついた時。
そして、自分の身体に薄く白い光が張られているのを見て、無意識にこんなことをしていたんだな、と納得する。

( ^ω^)「いけるお……!」

そう呟き、さらにスピードをあげるブーン。

景色はめまぐるしく変わる。山から田舎へ。田舎から街へ。
20分も飛び続けていると、もう眼下の景色は都会の様相を呈していた。



  
10 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:34:39.33 ID:Bto8pEe+0
  

その街はすでに『影』に侵略された後なのか、建物は打ち壊され、電柱は折られ、道路も所々でひび割れている。
避難が済んでいるためか人影もなく、電線も切断されている。光らないイルミネーションが街路樹に飾られているのがもの悲しい。

クリスマスの今日、きっとカップルや親子連れでいっぱいになっていたであろうその街は、
今や『影』だけが徘徊するゴーストタウンと化していた。

が、当たり前だが、その景色を眺めている時間なんてない。
一刻も早くジョルジュ達を止めなくてはいけない状況で、観光なんてしている暇はないのだ。

( ^ω^)「……」

しかし、ブーンはその街の上空で翼を止め、じっと街を見下ろしていた。
『影』が今も建物を破壊し続け、人っ子ひとりいないという、今や地獄にも等しい光景。

その街へと、ブーンは急降下していく。

タン、という音と共に彼は道路の上へと舞い降りた。



  
11 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:36:52.23 ID:Bto8pEe+0
  

( ^ω^)「……ひどいお」

ブーンは道路の上を淡々と歩いていく。
上空からだけでは見えなかった、建物の細かい傷や爆発跡、天井がぺしゃんこになった車、逃げ送れた人の死体……

白い翼をたなびかせながら、ブーンはそれら全てを頭の中に刻み込んでいった。

忘れてはならない、この惨劇を。
避難所で見た不安げな人たちの顔と共に、覚えていなくてはならない。

ジョルジュ達を倒すためには、並大抵の決意じゃダメだ。
もっと、確固とした意志を持たなくては、きっと勝てない。

思えば、自分はずっとあやふやな思いで戦ってきた。今だってそうだ。

ただ、身近な人を守りたいという軽い動機ではじめた戦い。
それが今や、全世界を巻き込む大惨事となり、それを止めるために自分は戦わなくてはならない現実。

守るなら、心の底から守りたいと思わなければならない。
あやふやなままではだめだ。もっと、信ある心で望もう。



  
12 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:38:41.20 ID:Bto8pEe+0
  

ブーンは立ち止まり、自分の胸に手を当てる。
心臓の鼓動が確かに伝わる。

これが全世界の人々の胸の中にもある。
それぞれ、ちゃんと生きている。ちゃんと存在している。

それを否定していいものは、ひとつだってない。

不意に後ろに『影』の気配がして、ブーンは振り向きもせずに掌だけを後ろに向け、『光弾』を放った。

光の弾は確かに飛んでいき、確かに『影』を消滅させる。
見えないけど、それを感じた。

( ^ω^)「……行くお」

翼を動かすと、ふわりと身体が浮き始める。
淡い白の羽が舞い散る。

だが、完全に宙に浮く前に、ブーンは上空に気配を感じて、空を見上げた。

( ゜ω ゜)「……」

空にぽっかりと空いた黒い穴。
否、『影』の大群。

自分と同じように空を飛んでいる十数体の『影』が、黒い星を形作っていた。



  
13 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:40:25.97 ID:Bto8pEe+0
  

( ^ω^)「空を飛ぶ『影』……」

今までこんなものは1体も出現しなかった。
ということは、これもジョルジュ達が差し向けたことなのか?

自分を近づけさせないために?
それとも、こいつらの相手でもしてるのがお似合いだ、とでも言いたいのか?

( `ω´)「……舐めるなお!」

これぐらいの『影』、障害でもなんでもない。
全部倒して……乗り込んでやる!

ブーンは翼を羽ばたかせ、空へ舞い上がる。

手には『剣状光』、背中には『飛槍光』を携え、まずは『光弾』を空中に向かって放つ。

その白い弾は猛スピードで空気を切り裂き、1体の『影』に命中。消滅させる。

( `ω´)「まずは1体目! 次!」



  
16 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:42:40.98 ID:Bto8pEe+0
  

翼がたなびくたびにブーンの身体は加速度を増していく。
『剣状光』を握りながら、ブーンは先頭の『影』に狙いを定めて『光弾』を発射。

だが、もちろんそんな2度目の見え見えの攻撃が当たるはずもなく、『影』達は円状に散らばり、『光弾』を避ける。

それはもちろん、フェイクの攻撃。
ブーンは右に避けた2体の『影』の方へと急接近する。

そして、すれ違いざまに『剣状光』を振る。
『影』の反応が鈍い。いや、こっちの速さが増している?

そう思いながら、『影』の身体を切り裂くと、2体共消滅した。

( `ω´)「2、3! まだまだぁ!」

さらにブーンは『飛槍光』のイメージを頭の中で進めていく。

今回は平地という2次元ではなく、空という3次元でのイメージだ。
これは今までよりも格段に難しい。
空での戦闘の難しさは、テレビゲームでよくわかっている。

縦と横に、高さという概念が加わっただけで、今までとはまったく違う戦い方を強いられることになる。
『飛槍光』も同じで、これまで一直線に敵にぶつけるだけだったイメージに、高さを加えるとなると、かなりの労力が必要だ。



  
18 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:44:40.98 ID:Bto8pEe+0
  

影「グワワガwギャヤヤア!」

『影』が意味不明な叫び声をあげながら、高速で近づいてくる。
ブーンは避けようとしてみるが、間に合わない。

こんな時に使うのは……!

( `ω´)「はぁ!」

ブーンが掌をかざすと、目の前に白い光の壁が現れる。

ちょうど『影』の拳がこちらに向かっていた時に現れた『光障壁』は、ものの見事に攻撃を防いでくれる。

( `ω´)「甘いお! 4体目!」

その『影』は『剣状光』の刃で一刀両断しつつ、ブーンは『飛槍光』のイメージを進めていく。
『影』はあの手この手でこちらへと近づいてくるが、それらは全てかわすブーン。

後ろから襲ってくる気配を察知して、左へと旋回。
両側から挟み撃ちにされても、上空へと高く上がり、包囲網を抜け出す。

明らかに、ブーンの翼は旋回性能でも速度でも『影』に勝っていた。



  
19 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:46:52.55 ID:Bto8pEe+0
  

そして、数分後、『飛槍光』のイメージは完了。

( `ω´)「数えるのも面倒だお……これで一気にラスト! いけ!」

その言葉と共に、白い槍はブーンの背中から射出されていく。

それらは地上ではなしえなかった、複雑な軌道を描いていく。
縦、横、斜め……『影』の周りを目にも留まらぬ速さで駆け抜けていく白い槍は、『影』の気付かない方向から突撃し、その身体に突き刺さる。

残り数十体いた『影』は、全て『飛槍光』によって貫かれ、消滅した。

( ^ω^)「……よし」

周りに『影』がいなくなったことを確認し、ブーンは空中で静止しつつ、一方向を仰ぎ見た。

それは、精神集中で感じられた異質な気配がある方向。
ここよりもさらにビルが密集し、都会然とした街……この国の首都がある方向。

そこにジョルジュ達はいる。そこに、自分が戦うべき人間がいる。



  
20 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:49:24.61 ID:Bto8pEe+0
  

Purururu

そうしていると、いきなり腰の無線機が鳴り出し、ブーンはビクリと身体を震わせた。

そういえば、自分は狐達に無断で出て来てしまった。
自分は兵士ではないので、命令違反なんてことにはならないだろうが……狐達に怒られることは、まず間違いない。

そんなことを考えながら、びくつく手で無線機のスイッチを押すと、

『ブーン!』

というクーの声が大きく響いた。

川 ゚ -゚) 『ブーン! 今、お前はどこにいる!?』

( ^ω^)「く、クーさん。えっと……たぶん、××町辺りだと思うお」

川 ゚ -゚) 『なに、もうそんな所まで……いったい何に乗って移動しているんだ?』

( ^ω^)「え、あ……飛んでるんだお」

川 ゚ -゚) 『飛ぶ? ヘリにでも乗っているのか?』

( ^ω^)「いや、そうじゃなくて自分で飛んでて……」

川 ゚ -゚) 『ん? よくわからんが、ともかくお前はどこに向かっているんだ?』



  
21 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:51:25.80 ID:Bto8pEe+0
  

どこに向かっているか、と聞かれてブーンは困った。
ジョルジュの気配を感じることはできているものの、その場所の名前なんてわかるわけがない。
感覚で掴んだものを言葉で説明することは難しいのだ。

( ^ω^)「えーと……東の山の向こう側の、少し左側ぐらいかお」

川 ゚ -゚) 『地名で言え、地名で。それではわからん』

( ^ω^)「地名はよくわからないんだお。僕についてきてくれれば、ジョルジュ達の所へたどりつくと思うお」

川 ゚ -゚) 『そうか。わかった。先に着いても無理はするな。こっちはぃょぅと一緒に地上をバイクで移動中だ。
      わかってるな? 合流してから、突入だ』

( ^ω^)「わかったお」

プツンと通信が切れる。
どうやらクー達もジョルジュと対峙しようとしているらしい。
自分ひとりでは無理かもしれない、と心の端で思っていただけに、これはありがたい。
彼女とぃょぅが一緒なら、きっと大丈夫。きっと勝てる。

ブーンは翼を羽ばたかせ、ゆっくりと移動をし始めた。
感覚を頼りに、自分の倒すべき敵がいる方向へと。





  
23 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:53:42.68 ID:Bto8pEe+0
  



工業用地と都会との境目には、全て2メートルほどの金網が立てられている。

元々公的機関の建物があった場所を全て更地に戻し、
一般企業の誘致を行って大型のショッピングセンターを建てる。

それがこの場所で進められていた建設計画だ。

開業は2010年以降という気の長い話だが、
ここが完成すれば地域の活性化が望まれるだけでなく、過去の政府の遺恨を全て消し去ることができる。
そんな一石二鳥の計画。

だが、それをジョルジュは許してはいなかった。

だからこそ、自分達が彼らを迎え撃つ場所をここにしたのだし、世界の命運を決める『鍵』もここに連れてきた。
それは、人々にこの場所で起こったことを忘れさせないため。
ここで若者達の出会いがあり、別れがあったことを永遠に残すため。

『天国』の跡地を使うのは、きっとそういう意味があるのだろう、と金網の前に立つギコは考えていた。



  
24 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:55:50.38 ID:Bto8pEe+0
  

( ,,゚Д゚) (あいつにしては感傷的だが……悪くはねえわな)

人間、全てを合理的な頭で考えることなんてできない。
時には感情で決めたことに従うことも必要なのだ。

と、ふとギコは(自分はそれとは正反対の生き方をしてきたのに?)という疑問が浮かび上がってきたことを感じ、すぐに思考に蓋をかぶせた。

だからなんだというのだ?
今までは今まで。今は今は、だ。

たとえ『赤坂』で生きてきた自分が機械のような生活しかしていなかったとしても、
今の自分は最も人間らしく生きていけていると思える。

そうだろう? ジョルジュや流石兄弟、ハインリッヒも同じ。
全員がこの世で1番「人間らしい」。

感情と合理がごちゃまぜになり、その狭間で悶々と過ごすという、ごく一般的な「人間」として生きていけている。
たとえ、身体は『影』に染まろうとも。

ふっ、と笑みを浮かべたギコは、心の高揚感を惜しみ隠さずに「おしっ!」と気合の一声を入れた。



  
25 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:58:03.67 ID:Bto8pEe+0
  

( ,,゚Д゚) 「おい、弟者。あいつらは近づいてきてるのか?」

(´<_` )「ん〜、そうだな。空から来てる奴が1番近くまで来てる。だいたい3キロ先ぐらいか?」

ロングコートを脱ぎ捨て、Yシャツ1枚という薄着の弟者が、パソコンの画面を覗き込みながら応える。

3キロ先……空から来ている、というのは、おそらく『人の子』――ブーンだ。
それぐらいは気配でわかる。『影』と反発する光を持つ彼の気配だけは、びんびんに感じ取ることができる。

( ,,゚Д゚) 「3キロか……近いな。よし、いっちょ先制攻撃といくか、ゴラァ」

( ´_ゝ`)「届くのか? ここから?」

( ,,゚Д゚) 「やれねえことはねえ。ただ、当たらねえけどな」

( ´∀`)「けど、それじゃあ……」

( ,,゚Д゚) 「大丈夫だ。任せとけ」

ギコは懐から白い弓矢を取り出し、感触を確かめる。
ジョルジュに『気』の素質があると言われて以降、ずっと懐に忍ばせてきたこの弓矢。

四六時中もち続けていたためか、今では長年連れ添った女房のような感覚を覚える時もある。
実際には女房どころか、彼女すらいない生活を送ってきたのでそんな感覚は分かるはずもないが、
まあ恋人は弓矢、というような感じだ。



  
27 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:00:19.55 ID:Bto8pEe+0
  

だからこそなのだろう。今はこれで戦いたい。

最後の最後、無粋な拳銃に頼ることなく、これで生死をかけた戦いに挑む。

1番信頼できるものにいてほしいだろう? 最後ってのは。

誰に投げかけたかわからない疑問を呟きながら、ギコは弓矢を構えた。
そして、いつものように矢の周りに『気』を張ってみるが、今回は少し勝手が違った。

『影』と同化しているからなのだろう。『気』はいつもの白色ではなく、完全な黒に染め上がっていた。
そして、その『気』は弓矢を1.5倍ほど巨大化させ、強度を上げ、身体の筋力を増大させていく。
矢は『黒い矢』と化し、ギコはそれを弦にかけて目一杯引っ張る。

( ,,゚Д゚) (狙うのはあそこだな)

狙うは彼の気配がある所。
これを放った時から戦いが始まる。全ての終わりと始まりが集う戦いが。

( ,,゚Д゚) (さあ、祭囃子を奏でてやろうかい!)

そう心の中で叫んだ瞬間、弦を離し、矢を放った。

それは空気を切り裂き、空へ一直線に向かう。

黒光りした矢は、まるで地上から空へと流れる流れ星のようだった。





  
29 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:02:54.29 ID:Bto8pEe+0
  



自分の感覚を頼りに飛んでいる時、唐突に現れたその異様な気配を、ブーンは確かに感じ取っていた。
こちらに向かって一直線に近づいてくる『何か』。

『気』でも『影』でもない、それら2つを合わせた新しいものが、こちらに向かってくる。

( ^ω^)「くっ!」

ブーンはとっさに翼を動かして急降下した。
すると、つい先ほどまでいた場所に、黒い何かが猛スピードで通り過ぎていった。
何だ、あれは?

一瞬『影』の攻撃かと思ったが、感覚的にそれは違う。
あの異様な気配を持った黒い何かは……ジョルジュ達から感じ取るものと同じだった。

そう考えていると、第2、第3の何かが近づいてくるのを感じ、ブーンは急速に旋回して回避行動を取る。
そして、また黒い『何か』は目の前を通り過ぎていった。

( ^ω^)(あれは……)

こちらに向かって飛んでくる無数の黒い『何か』に目を凝らしてみると、ようやくわかった。

あれは、ギコの『気』をまとった矢だ。



  
30 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:05:19.30 ID:Bto8pEe+0
  

( ^ω^)「まだ距離があるのに……いったいどこから攻撃してきてるんだお」

それらの命中精度はよくないものの、超長距離から放たれているため、反撃は不可能。
まず敵の位置を把握しなくては話にならない。

川 ゚ -゚) 『こちらクー。もうすぐ近くに着くはずだが、どこにいるんだ?』

( ^ω^)「くっ、今はそれどころじゃないお!」

ブーンは目の前に『光障壁』を出し、らせん状に回転しながら翼を羽ばたかせる。
これで当たる確率は減ったはず。だが、狙撃されている以上、まずは位置特定を急がなくてはならない。

クーからの無線にはあまり耳を貸さず、ブーンは矢が飛んできた方向へと神経を集中させる。

( ―ω―)(……)

煤i ^ω^)(そこかお!)

ひとつ、いや2つ以上の気配を察知した。
それらは全て、『気』と『影』が混ざった感じの異様な気配。

ジョルジュの仲間の誰かであることは間違いない。



  
31 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:07:48.86 ID:Bto8pEe+0
  

川 ゚ -゚) 『ブーン、どうした。何があった?』

( ^ω^)「ここから3キロ先に、大きな更地があるお! そこに敵がいるお!」

川 ゚ -゚) 『何!? ジョルジュ達か!』

( ^ω^)「クーさん達もそこに向かってほしいお! 僕は先に……行くお!」

川 ゚ -゚) 『待て! 1人では!』

クーが言い終わらない内に、ブーンは翼を動かして高速で飛び始めた。
前方には『光障壁』を張っておき、黒い矢の攻撃に備えておく。

景色がめまぐるしく変わり、黒い矢が何本も飛んでくる中、ブーンは飛び続けた。
そして、目的の更地が見えた瞬間、『剣状光』を手に出し、自分の敵をその目に焼き付ける。

樹海の半分くらいの広さを持っていると見間違うような更地。
どこまで行っても赤茶けた土やコンクリート地面が見えるだけで、建物も何もないまっさらな地面。
唯一、ショベルカーやプレハブ小屋などが見えるものの、そんなものは何の印象も残さない。

都会の中にこんな場所があったことが驚きであり、しかし感じられる気配によってジョルジュ達がここにいると確信することができた。



  
32 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:09:33.90 ID:Bto8pEe+0
  

そんな更地と更地を隔てるために立てられた、どこまでも続く銀色の金網。
その向こうに放置されていたショベルカーの上に立つ、ギコの姿。
その横に座っている流石兄弟と、地面に立つモナー。

彼らを見据えたブーンは、スピードを緩めずに一直線にギコに向かって飛び続けた。

( ,,゚Д゚) 「ちっ!」

黒い矢が何本も飛んでくるが、『光障壁』はそれをなんとか防いでくれる。
だが、矢が当たるたびに障壁の光が揺らいでいる。これでは長く持たない。さすがは『疑似障壁』を貫いただけのことはある。

だが、ひるんではいけない。退いてはいけない。

戦え。戦うんだ。

( `ω´)「うぅぉおおおお!」

スピードを保ったままのその突撃は、ギコを確かに捉えていた。
黒い矢を補充する隙を狙っての『剣状光』による縦一閃。



  
34 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:12:29.29 ID:Bto8pEe+0
  

( ´_ゝ`)「させんよ!」

だが、目の前に現れたロープによって『剣状光』の斬撃はおろか、飛ぶ勢いすらも止められてしまった。
兄者が棒のように両手にロープを持ち、歯を食いしばってギコの前に立っていたのだ。

( ^ω^)「くっ、それなら!」

ブーンは左手に『剣状光』を発生させ、下方から切り上げる。
だが、兄者は瞬間的にバックステップを取り、ぎりぎりの所でそれをかわす。
光の刃は衣服を切り裂いたものの、実質的なダメージを与えてはいなかった。

ブーンは翼をはためかせて体勢を立て直そうとしたが、その前に背中からものすごい衝撃を受けて、あえなく上方へと吹き飛ばされる。

その謎の衝撃に戸惑いを覚えつつも、すぐに平静を取り戻し、光の翼によって空中で静止。
そして、下方に向かってすぐに『光障壁』を発生。
そのおかげで、モナーがこちらにジャンプしてきて放ったアッパーカットを、すんでの所で止めることができた。

( ゜ω ゜)「こんなことで!」

『剣状光』を消して、両手を左右に広げるブーン。
その掌から『光弾』の大きな球体が放たれる。
それは数秒飛んでいたかと思うとすぐに無数の小さな光の球に分散し、ギコ達へと降り注がれていく。



  
35 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:15:34.75 ID:Bto8pEe+0
  

だが、そこで終わってはいけない。相手はギコや流石兄弟なのだ。こんな小さな攻撃でやっつけられる相手ではない。
ブーンは『光弾』の散弾がまだ降り注いでいる間、『飛槍光』のイメージも進めておいた。
散弾の嵐が終われば、次は白い槍の雷の出番だ。

ギコ達に対して、白い槍が突き刺さるイメージを何度も繰り返すブーン。

(´<_` )「そこだ!」

だが、小さな『光弾』の嵐から、一枚の手裏剣が飛んできた。
イメージに夢中になっていたために『光障壁』の展開が間に合わず、その手裏剣は腕に激痛を伴いながら刺さる。

(メ゚ω゚)「ぐぅ!」

ブーンはとっさに上空に逃げることで続けての手裏剣の攻撃から免れる。
だが、手裏剣は確実に自分の腕を肉の下へと突き刺さり、激しい痛みを与えてくる。

弟者の手裏剣には麻痺毒が塗ってあるはず。
早く処置をしなければ、また気を失ってしまう。そうなった終わりだ。

傷口に口を当てて、そこから血を吸い出してみるが、上手くいかない。
テレビでは毒を吸い出す時にみんなこうやっていたが、実際にやるとなると難しい。

こうしている間にも毒が身体に……!



  
36 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:17:27.89 ID:Bto8pEe+0
  

(´<_` )「安心しろ、今回は麻痺毒は塗っていない」

そんな声が聞こえて、ブーンは血を吸う作業を中断し、ギコ達の方へと眼を向けた。

『光弾』の散弾の雨はすでに止み、土煙が辺りをぼやけさせる中、彼らは確かにその場に立っていた。

( ^ω^)「どういうことだお……」

(´<_` )「どうもこうもない。以前はお前を捕らえるために使ったが、今回は違う。
      あんな姑息な手は使わない。真正面から、お前と戦う」

( ^ω^)「……」

ブーンは宙に静止しつつ、彼らの様子を観察する。
ギコは弓矢を持った手をだらんとおろし、流石兄弟は武器を構えた手をこちらに向けている。そして、モナーはグローブのずれを直していた。

各自、余裕の表情。『光弾』の散弾を食らったダメージなんて微塵も感じさせない。
やはり、1人で彼らに挑むのは無理があったのか?

( ,,゚Д゚) 「……ブーン、ひとつ聞きてえことがある」

神妙な表情のギコが、こちらを指差しながら言った。



  
39 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:19:13.37 ID:Bto8pEe+0
  

( ^ω^)「……なんだお」

( ,,゚Д゚) 「ここに何しにきた?」

何しにきた?

ブーンはその質問を聞き、戸惑った。

いったい、何の意味があってこんなことを尋ねてくる?
当たり前じゃないか、ここに来た理由なんて。

もしかして、からかっているだけなのか?
自分達が余裕であることを見せびらかしたいだけなのか?

だが、彼らの顔にはそんな意図など微塵も感じられない。
口を結び、真摯な目で見据えてくるその表情は、純粋に疑問を投げかけているだけの顔。

……そうか、わかった。



  
40 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:20:41.91 ID:Bto8pEe+0
  

( ^ω^)「……ジョルジュを、あんた達を、」

この質問の意味は……

( ^ω^)「止めにきたお!」

自分達と相手を、

( ,,゚Д゚) 「そうか……ならお前は、」

心の中の明確なラインによって、

( ,,゚Д゚) 「俺達の敵だ、ゴラァ!」

敵と味方に分ける儀式。

( ^ω^)「行くお!」
( ,,゚Д゚) 「来い! 止めてみせろ!」

そうして戦いは始まる。





  
42 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:22:41.04 ID:Bto8pEe+0
  



( ,,゚Д゚) 「おらよ!」

放たれた黒い矢は、猛スピードでこちらに飛んでくる。
無論そのまま当たる気なんてない。ブーンは身を翻してそれを避け、反対に『光弾』を放つ。

2、3個の『光弾』は、しかし兄者のロープによって完全に叩き落とされ、無効化。
やはり彼らに『光弾』のような弱い攻撃は効かない。
『飛槍光』か、『剣状光』の完璧な一撃でなければ、致命的なダメージになりえないだろう。

だが、彼らの動きが早すぎるため、なかなかそのチャンスが訪れない。
しかも流石兄弟を中心としたコンビネーションが完璧で、『光障壁』を一瞬でも消せば、たちまちにやられてしまうこと必至。

( ´∀`)「モナ!」

( ^ω^)「くぅ!」

モナーの左ハイキックを腕でガードし、体勢を立て直すために地面から空へと飛び立つ。
だが、それを待っていたかのように弟者の手裏剣とギコの矢が襲ってくる。
なんとか『光障壁』でガードできたが、長い間飛ぶことは危険だった。



  
46 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:24:59.32 ID:Bto8pEe+0
  

そのため仕方なく地面に降り、ダンプカーやショベルカーなどの障害物を使いながら『飛槍光』の準備を進めたいのだが、
モナーと兄者がそれをさせてくれない。

2人共すさまじいスピードでこちらに近づき、連打を浴びせてくるのだ。イメージを進める暇なんてない。

(;^ω^)(なんだお……この強さ……!)

4人とも、どこかおかしい。人間離れした動きをしてくる。

もしかして、それが『影』との同化を果たした結果なのだろうか?

ちりちりと、頭の奥で何かが叫んでいるのを、ブーンは聞いた。

それは、生存本能から発せられた声。このまま戦えば、おそらく死んでしまうであろうという本能の叫び。
いくら光の力をもってしてでも、この4人を倒すことは不可能という、恐怖。

だが、逃げることは許されない。ここで退けば、友達やみんなを守ることができなくなる。

だから、ブーンはそれらの叫びや恐怖を押さえ込み、戦い続けた。
自分が死ぬ? だからなんだ。自分もみんなも守る方法を見つければいいだけ。そうだろう?

自分の命を捨ててでも、なんてことは考えない。誰だって自分の命は大切だ。
だが、命を賭けることはできる。それならば、賭けに勝てばいいだけの話なのだ。勝てば、自分もみんなも守ることができて、一件落着。

だから、今は必死で戦う。彼らを倒すために、自分もみんなも守るために、戦う。

それが必要なのだ。



  
47 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:27:05.86 ID:Bto8pEe+0
  

( ,,゚Д゚) 「ん? 来たか」

兄者のロープをさばいていると、ギコが奇妙な言葉を発しているのが聞こえた。
『来た』? 誰が?
まさか、敵の増援?

( ,,゚Д゚) 「兄者、弟者。後はお前達に任せた。俺とモナーは今からあいつらの相手だ」

( ´_ゝ`)(´<_` )「わかった。任せろ」

( ,,゚Д゚) 「よし、行くぞ、モナー」

( ´∀`)「……わかったモナ」

ギコとモナーが離れていく。その後ろ姿を見て、攻撃する絶好のチャンスだと思ったが、しかし流石兄弟がそれを許してはくれなかった。

( ´_ゝ`)「『人の子』。お前をここから一歩も先へ進ませはせん」
(´<_` )「俺達のやるべきことの邪魔はさせないさ」

ギコとモナーの驚異的な足の速さを見る暇もなく、兄者のロープを『剣状光』で受け止める。
ロープを弾き飛ばした後は、後ろから手裏剣が飛んでくることを警戒し、2人のどちらにも後ろをとられないために、まずは空へと逃げることにする。
これなら後ろはまだ安全だ。

空中で静止していると手裏剣が何個も飛んでくるが、『光障壁』はそれを防いでくれる。



  
50 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:29:23.45 ID:Bto8pEe+0
  

( ^ω^)「あんた達の成し遂げることを止めるために、僕はいるんだお!」

( ´_ゝ`)「そうだ、だから俺達は戦っている」

兄者のロープが飛んでくるが、急上昇して避ける。
これで滅多なことでは2人の攻撃は届かなくなった。

こう着状態だ。

( ´_ゝ`)「俺達は互いに持つ思想や主張が異なっている。だから戦う。
       そして、勝者と敗者が生まれ、一方の主張がまかり通る。ただそれだけのこと」

戦う手を止めて、流石兄弟はそんな言葉を投げかけてくる。
ブーンもまた攻撃を止めて、その言葉に聞き入る。

(´<_` )「全ての戦いの根源にはそれがある。
       人間の私利私欲、守りたいという気持ち、理性、人間の考える全てが戦う理由になる」

( ´_ゝ`)「どうだ、『人の子』。以前投げかけた質問に答えは出たか?」

兄者から以前投げかけた質問。

『自分の守りたいものを守るためには、他人の守りたいものを踏みにじらなければならない』。



  
53 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:31:43.14 ID:Bto8pEe+0
  

( ^ω^)「……それは仕方のないことなんだお。戦いの中で生まれる悲劇のひとつなんだお」

( ´_ゝ`)「そうだ。その通りだ。他人の守りたいものを破壊してしまうからと言って、俺達が戦うことを止める理由にはならない」

 (´<_` )「パシフィストは口を揃えて戦争反対と叫ぶが、
       そうやって反対と叫び、自分の主張を押し通そうとしていること自体が戦いの芽になると気付いていない」

( ´_ゝ`)「俺達は全て別個の人間。考え方も違えば、行動様式も違う。たとえ世界が100人の村であっても、2人しかいなくても、戦いは起きる」

(´<_` )「ならばどうする? 本当に戦いをなくすためには?
       答えは簡単だ。ジョルジュのなすべきことがなされれば、全ての人間はひとつになる」

( ´_ゝ`)「恐怖は世界をひとつにしてくれる……」

(´<_` )「あと数時間でそれが成される」

( ´_ゝ`)「だから、」

兄者がロープを構える。
弟者もそれに合わせて、手裏剣を構える。

彼らのその表情は、

( ´_ゝ`)(´<_` )「だから俺達はお前と戦う!」

1つのなすべきことを決意し、戦おうとする男のもの。



  
55 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:33:23.67 ID:Bto8pEe+0
  

だが、

( ゜ω ゜)「だからと言って、人の命が犠牲にされていいことはないんだお!」

彼らの考えに賛成していいはずがない。

人の命を軽んじた方法は、どこかが間違っているのだ。
だから、止めなくてはならない。戦わなくてはならない。

もう、敵の守るべきものを気にかけている時では、ない

ブーンは翼を翻し、『剣状光』を手に取った。





  
57 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:35:21.94 ID:Bto8pEe+0
  



バイクで高速を何時間も走り続けていると、身体中の筋肉がおかしくなってくる。
肩や腕、腰の筋肉が張ってきて、どうにも上手く動かせなくなってくるのだ。

だが、それで音をあげていられないのも事実。
車は破壊された道路を走りにくいし、ヘリは狐達の戦力として残したいから使えないため、結局はバイクで移動するしかない。

それに、ブーンからの通信が途切れて数十分。
もう彼からの連絡はなく、きっと戦っているのだろうと考えれば、否応なく前に進まなければならない。否、進みたい。

都会から田舎へと向かう道路が渋滞になっているのを横目に、
都会へと向かうこの道路には車が1台もいないことを確認しつつ、クーは横を走るぃょぅに向かって通信を試みた。

川 ゚ -゚) 「ぃょぅ、あとどれくらいだ」

(=゚ω゚)ノ「あと10分ほどだょぅ。高速を降りたらすぐ目の前にあるょぅ」

川 ゚ -゚) 「そうか」



  
60 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:38:15.54 ID:Bto8pEe+0
  

ブーンが言っていた『更地』。
元々は公共機関の施設があった場所を政府が更地にし、大きなショッピングセンターを建てる予定があると、
調査をしてくれたしぃから聞いたのがついさっき。

今はその場所を目指してバイクを走らせているが、いかんせん心の中に何かもやもやしたものが漂っていることも、クーは自覚していた。

川 ゚ -゚) (あの場所は……確か……)

甦るのは、輝きながらも鬱屈した『思い出』。

5年前までその更地に建てられていたという公共施設とは、クーもよく知り、そして敵も知っている建物……『天国』のビル。
自分が心のよりどころにしていながらも、裏切り、裏切られたもの。

どうしてそこにジョルジュ達が、とは思わなかった。彼なら、こういうこともやりそうだと、心のどこかで思っていた。

きっと彼は、『天国』であったことを忘れないために、忘れさせないためにそこにいるのだ。
そうに違いない。でなければ、あんな隠れづらい場所を選ぶ理由がない。

川 ゚ -゚) (『天国』で決着か……皮肉なものだ)

全ての始まりは『天国』から、全ての終わりも『天国』から。
その『天国』という言葉の表面的な意味も、裏に隠された意味も、全て皮肉めいている。

もやもや感を感じるなという方が無理な話だ。



  
61 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:39:55.89 ID:Bto8pEe+0
  

川 ゚ -゚) (む、出口か)

そうこうしていると、高速の下り場が見えてきた。
その下り場に向かおうとする車は1台もない。それ以前に、この道路を走る車がほとんどない。

逆に、反対車線は車で埋まっている。
恐怖から逃れるために、恐怖から身を守るために、彼らは必死で戦っている。
そして、ブーンも。

狐 『クー君、少しいいかい?』

唐突に耳から狐の声が聞こえ、クーは驚きながら「はい」と答えた。

狐 『少し話しておきたいことがある』

川 ゚ -゚) 「なんでしょう?」

狐 『今から5分後ぐらいかな……たぶん、私と君達との通信はできなくなると思う』

川 ゚ -゚) 「……どうしてですか?」

狐 『未確認のヘリや車がこちらに向かっているとの情報を得た。また、この近辺の哨戒を行っていた自衛官が、銃で撃たれて死亡した。
   たぶん、【VIP】を攻撃してきた兵士達の仕業だろう』

え、とクーは息を詰まらせた。
もう来たのか? 早い。早すぎる。



  
62 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:41:47.70 ID:Bto8pEe+0
  

狐 『彼らとの戦闘が始まれば、君達との通信を行う余裕がなくなりそうなんだ。ジャミングを受ける可能性もあるしね』

川 ゚ -゚) 「そう……ですか」

狐 『君達の様子は偵察衛星でこちらから見ることはできるけど、通信はできない。
   歯がゆいが……応援を送れそうもない。すまない』

川 ゚ -゚) 「いえ……私達を送り出してくれただけで十分です」

狐 『そうか……ありがとう』

その瞬間、通信機越しに何かの爆発音が響く音が聞こえた。
おそらく、敵側の兵士の爆弾。それが近くで爆発した。

狐 『状況把握! 急げ! 避難民はすばやく移動させろ!』

狐の切羽詰った声が聞こえる。
あちらでも戦いが始まる。長く辛い戦いが。

狐 『クー君、じゃあね。また生きて会おう……お互いに』

川 ゚ -゚) 「はい」

(*゚ー゚)『クーさん……』

狐からしぃに通信相手が変わったようだ。
しぃの声は今にも泣きそうな、親と離される子供のような声をしていた。



  
64 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:44:12.58 ID:Bto8pEe+0
  

川 ゚ -゚) 「しゃきんとしろ、しぃ。ここから正念場だ」

(*゚ー゚)『はい……クーさん、お気をつけて』

川 ゚ -゚) 「ああ、わかってるさ」

分かっている。自分が死ねば、ジョルジュをとめることができなくなる。

自分が止めなくてはならない。ジョルジュを、彼の行動を。

通信が切れた。あちらでは今から戦闘配置につくのだろう。もう彼らの応援を期待することはできない。
ここからは……全て自分の力で!


高速を降りてしばらく走っていると、すぐにその更地は見えてきた。
どこまでも広がる平坦な土地と、白い地面。全てが始まり、終わる場所。

川 ゚ -゚) 「あれは……」

その空に、一筋の光が舞っているのが見えた。
目を凝らし、よく見てみるとそれはブーンだった。



  
65 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:46:44.78 ID:Bto8pEe+0
  

背中に光の翼を携えている姿は異様だった。
あれが「空を飛んでいる」という言葉の真相なのだろう。
何度も旋回、急降下、急上昇を繰り返して、何かと戦っている。

バイクを走らせながらも見えるその白い光は、確かに彼に違いなかった。

川 ゚ -゚) 「もう戦っていたのか……!」

(=゚ω゚)ノ「早く行くょぅ!」

バイクを更地へと向け、更に加速させる。
早くブーンの元へ……!

そんな思いが心で弾ける中、しかし急にバイクに強烈な衝撃が加わった。

川 ゚ -゚) 「くぅ!」

ハンドルが右に持っていかれ、バランスを崩した車体はあえなく横転する。
地面へとぶつかる直前にバイクから飛び降り、コンクリートの地面で前回り受け身を取るしかなかった。

それで幾分か衝撃を和らげることができたものの、身体のあちこちが悲鳴をあげ始める。



  
67 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:48:37.75 ID:Bto8pEe+0
  

(=゚ω゚)ノ「クーさん!」

川 ゚ -゚) 「いい! 行け!」

ぃょぅがバイクを止めてこちらに助け舟を出そうとするが、クーはそれを断る。
自分のことより、まずブーンの所へ。
そう言外で諭したことが功を奏したのか、ぃょぅはすぐにバイクを発進させる。

「自分よりまずブーン、か。いい心を持ってるじゃねえか」

自分のバイクの前輪が、黒い矢のようなもので貫かれていることを確認しながら、クーは回りを見渡してその声の出所を探る。

この声は何度も聞いたことがある。
1度目は公園で共闘した時、2度目は暗闇で狙撃された時。

そして今が3度目。

もう誰なのかはわかる。

川 ゚ -゚) 「出て来い、ギコ!」

( ,,゚Д゚) 「ちっ、もうわかるのかよ」

後ろに気配がし、クーは腰からブローニングを抜いて、迷わず引き金をひいた。
一直線に進むその弾丸は、ショベルカーの陰から出てきたギコに命中した……はずだった。

銃弾は彼の身体をすり抜けてしまった。



  
69 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:51:39.23 ID:Bto8pEe+0
  
( ,,゚Д゚) 「へ、銃はきかねえよ。忘れたのか」

川 ゚ -゚) 「忘れたわけではない。確認だ」

ギコがそこにいるのか? 『影』と同化したのかどうか? それらの確認。

確認はもう済んだ。あとは彼を倒すだけ。

川 ゚ -゚) 「ブーンはどうした」

更地の地面を踏みしめながら、ギコに向かって言った。
彼はショベルカーにもたれかかりながら、笑みを浮かべて応えた。

( ,,゚Д゚) 「流石兄弟とやりやってるはずだ。ちなみに、あのぃょぅとかいうのも、因縁の相手と戦ってる最中だろうな」

川 ゚ -゚) 「……モナーか」

( ,,゚Д゚) 「お前の相手は俺だ。何度目の戦いになるかわかんねえが、これが俺達のラストバトルだ、ゴラァ」

川 ゚ -゚) 「私にとってはラストではない」

クーは腰の刀を引き抜き、彼に向ける。

真剣の刃に『気』が灯る。

川 ゚ -゚) 「お前を倒して……ジョルジュを止める!」

刀が一閃のきらめきを放つ。





  
71 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:53:45.08 ID:Bto8pEe+0
  



ぃょぅはバイクで更地の上を猛スピードで走っていた。
周りには建物のひとつもなく、全てが更地。真っ白な土地だった。
この真っ白な土地で、敵が成そうとしていること……世界を恐怖でひとつにするということ。

正直言って、ぃょぅはその考えを完全に理解したわけではなかった。
だが、それが危険な考えだということだけはわかる。長年培ってきた諜報員としての勘が、それを告げているのだ。

人々を犠牲にし、この国を窮地に陥れる存在。
彼はそんな存在とずっと戦ってきた。直接刃を交えることはなくても、スパイや諜報の分野で彼は戦ってきた。
全てはこの国を守るため。

『VIP』の一員として、国民として、自分はこの国を守らなくてはならない。

そう誓いを立ててやってきたのだ。

だから、ジョルジュ達を止める。倒す。



  
74 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:55:29.18 ID:Bto8pEe+0
  

(=゚ω゚)ノ「くっ……けっこう遠いょぅ」

ブーンが戦っている空を見上げながら、ぃょぅは呟いた。

彼は背中に翼を生やし、誰かと刃を交えている。

彼――『人の子』ならば、この状況をなんとか打開してくれる。
そんな泡のような希望を持ち、ぃょぅはバイクを走らせていた。
自分に全てを託したクーのためにも、彼は走らなければならなかった。

(=゚ω゚)ノ「ょぅ!」

と、いきなり目の前に誰かが飛び出してくるのに気付き、ぃょぅはとっさにブレーキをかけてハンドルを左に切った。
だが、更地の砂にはタイヤのグリップは弱く、車輪は滑りながらその人影へと衝突しようとする。

が、次の瞬間、バイクはその人影によって止められた。

人影は手を前に差し出すと、勢いよく滑ってきたバイクを受け止めて、完全に勢いを殺してしまったのだ。

ぃょぅは唖然となりながらも、その人影が誰であるかに気付いてバイクから飛び降り、距離をとった。



  
76 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:57:24.15 ID:Bto8pEe+0
  

(=゚ω゚)ノ「……モナー!」

( ´∀`)「ぃょぅ……」

モナー。
かつての自分の同僚。そして腐れ縁の友達。

彼は専用のグローブと靴という戦闘具を身につけ、少し悲しそうな顔をしながら目の前に立っていた。
その服は真っ黒……いや、違う。服なんて身につけていない。それは彼の身体そのものだった。

彼の身体は真っ黒に染まり、顔だけが不自然に肌の色を保っていた。
これはかつて見たジョルジュと同じであり、ということは彼もまた『影』と同化しているという証拠。

(=゚ω゚)ノ「モナー……どうしてこんなことになったんだょぅ!」

( ´∀`)「……これが僕の選んだ道なんだモナ」

モナーは苦し紛れにそう言葉を搾り出すが、彼の顔は苦渋に満ちている。
まるで、仕方なく裏切ったとでも言うような。



  
78 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:59:14.99 ID:Bto8pEe+0
  

(=゚ω゚)ノ「まさか、ジョルジュ達に脅されているとかじゃないのかょぅ!?」

( ´∀`)「それは違うモナ!」

モナーの顔色が変わった。
それは敵意丸出しの、憎むべき相手に向ける視線だった。

どうして、そんな目をこっちに向ける?
自分達は同僚で、悪友だったはずじゃないか。

( ´∀`)「僕は僕が進む道を見つけたんだモナ。もう、ぃょぅでも止められないモナ」

(=゚ω゚)ノ「だから……だから4つの『H.L』に細工をしたのかょぅ!」

( ´∀`)「……気付いてたのかモナ」

(=゚ω゚)ノ「気付かないはずがないょぅ。『H.L』は作戦前日までは異常はなかった。
     当日まで保管していた部屋の鍵を持っていたのは、モナーとしぃさんと所長だけ。
     なら、裏切ったお前が『H.L』に細工したことなんて、明白だょぅ!」

本当は信じたくはなかった。

最近になってどうも元気がなく、色々と話しかけても2つ返事しか返さなかった彼がスパイだなんて信じられなかった。
だが、調査しても不審な点は見えず、しかも数年来の悪友だということもあり、疑いをかける期間は少なかった。



  
81 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/20(水) 00:01:10.18 ID:S4nr4FqZ0
  

だが、結局はその妄信が作戦の失敗を呼び込み、この状況を作り出してしまった。
それに対しての責任感は、もちろんある。
だが、それ以上にどうしてモナーが裏切ったのか理解できなかったし、信じられなかった。

一緒に『VIP』に入局した時から、この国を守ろうと誓い合った。
カップラーメンの争奪戦以降、競い合うようにして仕事を続けてきたのも、全てはこの国を守るため、身近な人を守るため。

だが、モナーはそれを捨てて敵側についた。何故なのか。

(=゚ω゚)ノ「どうして……どうして裏切ったんだょぅ!」

ぃょぅはそう叫びつつ、腰の小太刀を抜いた。
モナーが『影』と同化してしまったのならば、銃は効かない。
『気』を張った武器で――彼と何度も訓練し、技術を高めあってきたこの小太刀で戦わなくてはならない。

( ´∀`)「……もう、この国に守るべき価値はないんだモナ。この世界も」

(=゚ω゚)ノ「それをジョルジュに吹き込まれたのかょぅ!」

小太刀で縦方向に切りかかるが、モナーはそれを避け、グローブで腹を攻撃してこようとする。
だが、ぃょぅは身体をねじってそれを避け、左手でくないを投げつける。

もちろん無理な体勢が投げたそれは外れるが、その間にモナーとの距離をとることはできた。



  
83 : ◆ILuHYVG0rg [>79 ギコが忘れてたぜw] 投稿日: 2006/12/20(水) 00:02:53.07 ID:S4nr4FqZ0
  

( ´∀`)「これは僕が考えて、僕が決めたことだモナ」

(=゚ω゚)ノ「……どうしてそんな」

( ´∀`)「『VIP』で働いてて、よくわかったんだモナ。この国にはもう、自分と自分達を守ろうとする人達しかいないと。
      たとえ間違っていると分かっていても、認めず、逃げて、言葉遊びに興じる政治家。
      汚いものには蓋。見てみぬフリが1番、というのが信条の国民。
      他にも色々……色々と見てきて、決めた結論がこれなんだモナ」

(=゚ω゚)ノ「……」

( ´∀`)「ぃょぅとは戦いたくはないモナ。けど、もし僕達の邪魔をするのなら……
      武器を取ることもいとわないモナ」

自らの武器――拳を前に掲げ、鋭い目を向けてくるかつての友人。
彼は本気だ。きっと自分の志のためならば、誰であろうが戦おうとしてくるだろう。

それぐらいに真面目なのだ、彼は。

そう、そんなことはわかっている。
わかっているからこそ……



  
84 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/20(水) 00:04:49.49 ID:S4nr4FqZ0
  

(=゚ω゚)ノ「最後にひとつだけ、言っておくょぅ」

( ´∀`)「……なんだモナ」

ぃょぅは小太刀を握りなおし、構えた。

それは青眼の構え。

今まで、本気になった時にしか使わなかったし、
ましてや人間に対しては絶対に使用しなかった。

(=゚ω゚)ノ「……お前の悩みを、少しでも僕に話してほしかったょぅ」

( ´∀`)「……すまないモナ」

だが、今はそれを使う。
使わなければ勝てない。やらなければやられる。

ぃょぅが動いた時、モナーも動いた。

彼らの刀と拳は交じり合い、戦いが始まった。



第24話 『心の戰い 前編』 完



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