( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
6: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:31:28 ID:
  
第28話

見慣れない場所で目が覚める、なんてことはもう何度も経験したことだ。
けど、ベッドではなく地面の上で目覚めるなんてことは、初めての経験だった。

硬い地面と土の匂いと共に、ブーンは自分がうつぶせに倒れていることに気がついた。

そして、身体がまったく動かせないこと、言葉も発せられないこと、目だけは動くこと、
それだけを確認し、ああこれはあれだな、と思った。

「さて、お前はあいつを殺すのか?」

唐突に横から聞こえてきた声に、ブーンは目だけを動かしてその声の主の姿を求めた。

長い髪と、強い意志を秘めた瞳。

クーの顔がそこにはあった。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:32:44 ID:
  

( ^ω^)「クーさん……」

川 ゚ -゚) 「何度も言っているが、これはお前の心の中にいる人間の姿に過ぎない。もう分かっているはずだろう?」

( ´ω`)「『従者』さんかお……」

夢か現実かわからないこの世界に現れては、意味不明な問答を繰り返す『従者』。
まさか今現れるとは思わず、しかもクーの姿をとるなんてことも予想がつかず、
ブーンは一瞬でも彼女が生き返ったのかと勘違いした自分を恥じた。

彼女は死んだ。
もう生き返ることなんてありえない。1度失った命は、永遠に戻ることはないのだから。

わかってはいても、希望を抱いてしまう自分が悲しい。

川 ゚ -゚) 「で、だ。もう一度聞く。お前はあいつを殺すのか?」

『従者』は、まさしくクーの顔と言葉で質問してくる。
本当に彼女がそこにいるかのように錯覚してしまったブーンは、悲しくなる胸のうちを抑え、「当たり前だお」と答えた。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:32:44 ID:
  

( ^ω^)「クーさん……」

川 ゚ -゚) 「何度も言っているが、これはお前の心の中にいる人間の姿に過ぎない。もう分かっているはずだろう?」

( ´ω`)「『従者』さんかお……」

夢か現実かわからないこの世界に現れては、意味不明な問答を繰り返す『従者』。
まさか今現れるとは思わず、しかもクーの姿をとるなんてことも予想がつかず、
ブーンは一瞬でも彼女が生き返ったのかと勘違いした自分を恥じた。

彼女は死んだ。
もう生き返ることなんてありえない。1度失った命は、永遠に戻ることはないのだから。

わかってはいても、希望を抱いてしまう自分が悲しい。

川 ゚ -゚) 「で、だ。もう一度聞く。お前はあいつを殺すのか?」

『従者』は、まさしくクーの顔と言葉で質問してくる。
本当に彼女がそこにいるかのように錯覚してしまったブーンは、悲しくなる胸のうちを抑え、「当たり前だお」と答えた。



  
8: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:34:46 ID:
  

( `ω´)「あいつを倒さないと、世界はもっと混乱するお。人もいっぱい死ぬお」

川 ゚ -゚) 「そうか? だから戦う、と?」

( `ω´)「クーさんを殺したあいつらを許せない……僕はあいつを止めるお! たとえ殺してでも!」

川 ゚ -゚) 「守りたいものを守るために?」

( `ω´)「そうだお!」

川 ゚ -゚) 「それがお前の心なら、私は何も言わない」

横で背筋をぴんと伸ばして立っている『従者』。

なんだろう。『従者』がいつになく緊張感に溢れている。
クーの姿だからなのだろうか? 周りに神経を張り詰めているその姿は、ショボンやドクオの姿の時とは大違いだ。

川 ゚ -゚) 「行かなくてはならないな。戦うために」

( ^ω^)「……そうだお」

『従者』は一方向を見つめながら、呟く。



  
9: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:36:32 ID:
  

川 ゚ -゚) 「ならば気をつけろ。外の光が来るぞ」

( ^ω^)「外の……光?」

どこかで聞いたことのある言葉だった。けど、思い出せない。

記憶の底をほじくり返していると、『従者』がおもむろにこちらの身体に手を置き、
うつぶせから仰向けへとひっくり返してくる。

( ^ω^)「な、なにを」

『従者』は何も言わず、掌をこちらの額に乗せてくる。

いつものあれだ。額に掌を乗せてきて、こちらの意識を失わせる、あれ。
『従者』は顔をじっと見つめてくる。

そして、静かに言った。

川 ゚ -゚) 「お前が……扉を開くことを願う」

え?

そう思った瞬間、ブーンの意識は飛んだ。





  
10: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:37:48 ID:
  



通信兵「周辺の『影』は全て消滅。小競り合いが続いていますが、ほとんどの地区での戦闘は終了しています」

狐「わかった。引き続き警戒を怠ることのないように伝えてくれ」

兵士「所長、連合軍の指揮官から通信が来ています。敵の情報がほしいとのことです」

狐「少し待たせてくれ。ちょっとやることがあるんだ」

兵士「了解です。その怪我……衛生兵を呼びましょうか?」

狐「いや、かまわない。任務に戻れ」

兵士「はっ!」

『VIP』の指令部を司るテントに戻ってくるやいなや、
狐は色々な人から報告を受け、指示を飛ばし、軍全体の指揮官としての職務を全うしていた。

すでに各地での戦闘は終わり、『VIP』の中でもようやく息のつける時間が戻ってきていた。



  
11: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:38:59 ID:
  

『影』は作戦により殲滅完了。
敵兵士も『VIP』と外国の連合軍に追い詰められ、壊滅状態なのだという。

狐に連れられて指揮官用テントに戻ってきたドクオは、中にツンがいることを確認して、ほっと息をついた。

ようやく帰ってこれた。あの地獄のような戦場から、この場所に。

あそこは普通の人間がいる場所じゃない。
戦っている時は無我夢中で気がつかなかったが、帰ってくるまでの間に見た戦場跡は悲惨そのものだった。

肉のこげた、目の奥を焼くような異臭。
血と土の匂いが混じりあい、見渡せばそこかしこに死体が転がっている。

手を伸ばせば触れる距離にある、かつて人間であった「モノ」は、
変な方向に足が曲がっていたり、身体のどこかの部分がなくなっていたりしていた。

敵味方は関係ない。平等に「死」を受け入れた物体、それが死体だ。

あそこに30分もいれば、きっと自分は気が狂っていた



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:40:02 ID:
  

ドクオはぐらぐらと揺れる頭を抱えながら、ツンの傍に立ち、彼女の様子を見てみた。
ツンは相変わらずの無表情でみじろぎもしない。車椅子は出て行った時と同じ場所にあったままだ。

やっぱり彼女はもう……

(*゚ー゚)「所長! その傷は……!」

狐「やあ、ちょっとドジってね。時間もないから止血しかしてないんだけど……」

(*゚ー゚)「じっとしていてください。今から治しますから」

通信機で様々な部署と連絡を取り合っていたしぃが、狐の腕の怪我に気付いてその手を取った。
1発の銃弾によるその怪我は、止血こそしたもののちゃんとした治療は受けていない。
さっきは衛生兵を呼ぶのも断っていた狐だったが、今度は素直にしぃの言うことを聞いていた。
おそらく最初から彼女の治療を受けるつもりだったのだろう。

しぃが怪我の部分に手を当てると、みるみるうちにその傷が塞がっていく。
『気』を扱えない自分にはわからないけど、おそらくそこに『気』が照射されているのだろう。
しぃの治療を初めて見たドクオは、その効果の大きさに驚いていた。

本当に、自分とは全然違う。こういう力を自分も持てたらいいのに。



  
13: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:41:23 ID:
  

(*゚ー゚)「……終わりました。けど、後で病院にも行ってくださいね。これでも完全に治すのは不可能なんですから」

心配そうに言うしぃに、狐は少し笑みを浮かべながら「わかってる」と答えた。

狐「よし……今の状況は?」

(*゚ー゚)「ほとんどのエリアで戦闘は終わっています。
    後は残存兵との小競り合いが少し残っていますが、こちらの勝利と確定してもいいと思います」

すぐに仕事の顔に戻ったしぃから、現在の状況が話された。

この場所の戦闘は『VIP』の勝利で決せられたが、ブーン達の方はまだ不明。
連合軍の指揮官が、ジョルジュ達がいる場所に向かおうとするのを、なんとか止めている状況なのだという。

狐「通常の武器しか持たない連合軍じゃあ、行っても無駄だね。連合軍の総指揮を取っているのは誰だい?」

(*゚ー゚)「アメリカ陸軍のプギャー大佐です」

狐「彼か……血気盛んな彼のことだ。止めても聞く耳を持たないだろうなあ」

(*゚ー゚)「とりあえず『影』についての情報と、現在『VIP』の隊員がそこで戦っていることは伝えておきました」



  
14: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:42:19 ID:
  

狐「まあ、それぐらいでいいだろうね。で……衛星画像はまた止まってしまったのかい?」

(*゚ー゚)「エラーが発生してしまいまして……現在復旧中です」

ドクオは傍にあったモニターに目を移した。
ブーン達の状況を映し出すその画面は、今はブラックアウトしてしまっている。

彼が無事なのかどうかを確かめたかったのに……歯がゆいこと、この上ない。

(*゚ー゚)「連合軍は原子力潜水艦や戦闘機まで持ち込んできたようで、市民が混乱しています」

狐「困るな……けど、非常事態だから仕方ない、か」

しぃと狐がまだ何かを話しているのをぼーっと聞きながら、ドクオは横に立つショボンの様子をうかがってみた。

(´・ω・`)「……」

彼はこのテントに入ってから一度も言葉を発してない。
機関銃を抱えながら、ずっと顔を俯けている。

何かを考えているのか、それとも何も考えてないのか。よくわからない。



  
15: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:43:32 ID:
  

悩みを抱えていても口には出さない彼のことだから、尋ねても無駄だろうけど、ドクオはあえて「どうした?」と声をかけてみた。

('A`)「さっきから黙りこくって……腹でも痛いのか?」

(´・ω・`)「それならすぐにトイレに行ってるよ。まあ……ちょっと考え事をね」

('A`)「ふーん」

興味なさそうに振舞うものの、ドクオは彼の意外な表情に少し驚いていた。

ショボンの無理をした笑顔なんて、初めて見た。

いったい何を考えているのだろうか……?

『あー、あー、こちらぃょぅだょぅ。応答願うょぅ』

いきなり無線機からそんな声が聞こえて、ドクオ達は一斉に顔を上げた。
マイクを急いで装着したしぃが、「こちら本部、どうぞ」と答える。



  
16: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:44:46 ID:
  

(=゚ω゚)ノ『現在、ジョルジュ達の5人を確認。4人は排除完了したょぅ』

(*゚ー゚)「4人? こちらでも彼の仲間1人を確認しました。じゃあ残りは……」

(=゚ω゚)ノ『ジョルジュただ1人、だょぅ。けど、僕は肩を負傷して戦闘不能。クーさんは……その……』

狐「……まさか」

(=゚ω゚)ノ『……』

ぃょぅが黙ってしまい、テントの中は静寂に包まれた。
まさか、という狐の言葉はドクオの頭の中にも浮かび、最悪の事態を想像してしまいそうになるのを、頭を振って否定する。

(*゚ー゚)「ぃょぅさん、まさか……!」

(=゚ω゚)ノ『……クーさんの遺体を発見したょぅ。全身を矢で貫かれてて……蘇生は不可能。死亡を確認しましたょぅ』

一瞬にしてその場の空気が凍りついた。

クーが……あのクーが死んだ?
最初に自分たちを助けれてくれて、いつでも自分たちに優しくしてくれた、あの人が死んだ?

信じられない、と思ったドクオだったが、狐としぃの絶望的な表情を見てそれが真実であると確信した。

これも戦争だというのか? 大事な人が次々と死んでいくこの状況が、戦争?

なら、戦争なんて……



  
17: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:45:53 ID:
  

(=゚ω゚)ノ『現在はブーン君1人がジョルジュに立ち向かってる状況だょぅ。
    今からそちらに戻るつもりなので、救援を頼むょぅ』

狐「了解した。ヘリをそちらに向かわせるから、その場で待機してくれ」

ドクオは再び頭をトンカチで殴られたかのような衝撃を受け、愕然とした。

ブーンがジョルジュと戦っている? 1人で?

そんな……そんなことがあっていいのか?
ブーンはただの学生でしかない。なのにこんな悲しい戦いに巻き込まれて……それでいいのか?

彼は、大丈夫なのだろうか?

そう思っていると、ドクオはひとつの異変に気がついた。

ショボンと自分が持っている機関銃――AKが、何やら光を帯び始めたのだ。

ブーンの力によって『影』を倒す能力を得たこの銃だが、
今はその光が内側から出たがっているかのように、次々に光度を増してくる。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:47:09 ID:
  

('A`)「な、なんだあ?」

(´・ω・`)「いったい何が……」

狐「どうしたんだい?」

異変に気付いた狐が、怪訝な顔で尋ねてくる。

('A`)「いや、いきなり銃が光り出して……」

狐「それはブーン君に光を注いでもらったらしいけど……心当たりは?」

('A`)「いや、全然……」

そう答え、狐の後ろにいたしぃの様子もおかしいことに気付いた。

('A`)「しぃさん?」

だが、彼女は目を見開き、口を半開きにしているだけで、何も答えてはくれなかった。

(*゚o゚)「あ……あぁ……」



  
19: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:48:22 ID:
  

狐「しぃ君? どうしたんだい?」

(=゚ω゚)ノ『な、なんだょぅ、これは……頭が……頭が痛いょぅ!』

狐「ぃょぅ君? 君も、何が……?」

通信機から聞こえるぃょぅの切迫した声。
それに合わせるかのように、しぃがドサリと倒れこみ、頭を抱えてのた打ち回り始めた。

(*゚―゚)「あ、あぁ……みんな、みんなが黒くなる……だめ……そんなのダメェ!」

悲鳴に近い叫び声を上げ、震える体を地面に押し付けるしぃ。
狐は彼女の肩に手を置き、落ち着かせるように背中をさするが、しぃはますます顔を歪ませて叫び続けた。

(*゚―゚)「お姉ちゃん? けど、そんな……そんなのじゃ、そんなのおかしいよ!」

しぃの絶叫と共に、隣にあったモニターが突如画像を映し出した。

ドクオはその画面に見入り、わが目を疑った。



  
20: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:48:50 ID:
  

狐「これは……!」

(*゚―゚)「心が……広がる……扉が……開く……」

翼を持ち、大空を舞っている画面上の人物。




それは、つーだった。





  
21: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:50:58 ID:
  



ブーンがその場所にたどりついた時、いったい何が起こっているのかまるで分からなかった。

ジョルジュの気配が消えたと思った瞬間、プレハブ小屋の屋上に黒いもやが現れた。

急いでその地点に飛ぶと、黒いもやはプレハブ小屋の付近全体を包み込んでいた。
それは、まるでそこだけを夜にしているかのようだった。

いや、もやというよりも、黒い光(ありえないけど)のようにも見えたと言っていい。

ブーンにとってその黒い光は、心の奥底に共感を覚えるような身近なもののように思えた。
だが、安心感などない。むしろ恐怖を覚え、身体の芯が震える。

近いようで遠い存在。それでいて、知っているようで知らない存在。

( ^ω^)「なんだお……」

黒い光はやがて晴れていく。
夜になっていたその場所は、徐々に夕方のオレンジ色に照らされ、
その場所に立っている「者」を明らかにしていった。



  
22: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:51:59 ID:
  

( ゚ω゚)「あれは……!」

ブーンはわが目を疑うしかなかった。

ジョルジュがいると思っていた場所には、もうすでに彼はいなかった。
跡形もなく。どこかに逃げた気配もない。まるでこの世界からいなくなったかのよう。

そして、その代わりに立っていたのが……

(*゚―゚)「……」

( ゚ω゚)「つー……さん?」

それは、確かに彼女だった。
狐達が『VIP』のビルを脱出する時から行方不明となり、今まで消息なんてつかめなかった、しぃの姉。
自分にとってはかけがえのない友達でもあり、知り合いでもあり……守りたいと誓った人。

だが、今のつーはいつもの彼女ではなかった。
無表情に顔を俯かせ、だらりと腕を下げている。

その背中では、あの黒い光が翼の形を成していた。
白い光の翼と瓜二つのそれは、突然動いたかと思うと、つーの体を宙に浮かせ、だんだんと高度を上げていく。



  
23: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:53:07 ID:
  

つーはちょうどブーンの目の前に静止し、静かに目を合わせてきた。

(*゚―゚)「……」

( ^ω^)「……つーさん、これは」

(*゚―゚)「始まりが訪れるのはこの場所」

つーは無表情のまま、口を動かす。
そこからは何も心が感じられない。
いや、違う。心はある。見える。だが、理解ができない。彼女の心が大きすぎて。

(*゚―゚)「あなたは私の外の光」

( ^ω^)「外の……?」

(*゚―゚)「私とあなた、どちらかがここに残る」

( ^ω^)「何を……?」

(*゚―゚)「決めよう、この戦いで。世界の混乱の中心、定められ、約束されたこの場所で。
    どちらが世を心の光で満たすかを、どちらが世界を扉に導くかを」

言っていることがまるで理解できない。
これはまるで、あの夢の中で話す『従者』のような言葉だった。



  
24: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:54:19 ID:
  

だが、分かることはある。

今、つーは自分に殺意を向けている、ということ。

(*゚―゚)「それが、私達の……存在意義」

つーが掌を前にかざすと、そこから黒い光が吹き出てきた。
丸いボールのような形を成し、勢いよく放たれたそれは、まごうことなき『光弾』。

ブーンは反射的にそれを避け、「な、何するんだお!」とつーに怒気を孕んだ声を浴びせる。

(;^ω^)「こ、これじゃあまるで……まるでつーさんが敵みたいじゃないかお!」

(*゚―゚)「敵も味方もない。私達は戦う運命。ただそれだけ」

黒い『光弾』を何個も放ってくるつー。
距離をとり、上下左右になんとか回避するものの、彼女の『光弾』は速かった。

いくつかが当たりそうになるのを、なんとか『光障壁』でガードするブーン。
黒い光と白い光が交わった瞬間、見たこともない閃光がはじけるのを見て、ブーンの頭にひとつの確定概念が浮かんだ。

戦うしかない、と。
自分に危害を加えるのなら、つーも敵なのだ、と。

それは理性ではない、心の奥底に潜む、自分であり自分ではない何かが言った言葉だった。



  
25: ◆ILuHYVG0rg :代理さん、大丈夫?2007/02/03(土) 21:55:09 ID:
  

ブーンは慌ててそれを否定する。

( ^ω^)(つーさんは敵じゃないお! あの人は……違うお!)

違う? 本当に?
自分は今まで、危害を与えてくるものから、他人を、自らを守るために戦ってきた。

そして、今つーは自分に攻撃してくる。自分を傷つけてくる。

だから、つーも敵? そうなのか?
守りたいと思っていた人が、一瞬後には敵になる。そんなことがありえるともで言うのか?

つーは敵? 味方?
守りたいもの? 倒すべきもの?

(*゚―゚)「……」

つーが手を前にかざす。
現れたのは黒い『剣状光』。

それを右手に持ち、猛スピードで飛んでくる彼女に対し、ブーンもまた白い『剣状光』を出した。



  
26: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:56:34 ID:
  

( ^ω^)「くぅ!」

つーの打ち込みは強烈で、刃を受け止めた腕が痺れる。
続いてやってくる黒い『光弾』を避けるために、ブーンは翼を動かす。

急激に進行のベクトルが後ろへと変わり、一気につーと距離を取るが、黒い『光弾』はこちらを追跡するように追いかけてきた。

ホーミング機能でもついているとでも言うのだろうか。
ブーンは高度を上げてそれを避けようとするが、振り切ることができない。

( ^ω^)「くそ!」

反転して、手から本家の『光弾』を放つ。
追いかけてくる黒い光の球に当たり、なんとか事なきを得た。

だが、余分に発射した『光弾』がつーに向かって飛んでいくのに気付き、ブーンは「あっ」と呆けない声を出した。

まずい。あのままじゃつーに当たってしまう。
彼女を攻撃するつもりなんてひとかけらもなかったのに。



  
28: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 21:58:06 ID:
  

(*゚―゚)「……」

つーはまばたきもせずに、白い『光弾』を見つめていた。
そして、不意に右手を上げる。

瞬間、つーの目の前に黒い光の粒子が現れ、結合し、ひとつの形を成していく。
そうして現れた薄い光の壁。それに衝突した『光弾』は、瞬く間に消滅する。

黒い『光障壁』。
明らかに自分と同じものを使っているつーに対し、ブーンは呆然とその場に静止した。

どうして彼女がこれを? しかも黒い光?
いったいどうなっているのか。まったく見当がつかない。

(*゚―゚)「あなたが扉を開かないなら……」

つーは静かに口を開き、右手の黒い『剣状光』を両手に持った。

(*゚―゚)「私は私の扉を開く」

尋常ではない黒い光が彼女の身体が溢れ出てきた。
身体全体から噴き出すその黒い光は、空へと飛び上がり、薄暗い灰色を黒へと変えていく。

まるで砂に水が染み渡るかのように、空は黒に染め上げられていく。



  
29: ◆ILuHYVG0rg :>>27 気にするな。無理せずやってくれ2007/02/03(土) 21:59:12 ID:
  

そして、彼女の翼にも変化が表れた。

(*゚―゚)「……全ての人に」

背中の翼は、黒い光が空を覆うごとに巨大化し、枝分かれしていく。

(*゚―゚)「私の心を届けるために」

空は黒い光に覆われ、彼女の翼はこの空間を包み込もうとしているかのよう。

(*゚―゚)「私は全てを決めた」

ついに、光が爆発したかのように一気に膨張し始めた。
ブーンは目に手をやって、その黒い光を遮る。
だが、次に目を開けた時には愕然とした。

空は完全に黒い光に覆われ、何一つ自然の色は見えない。

まだ夜には早い時間帯にも関わらず、辺りは街頭と建物の光のみがあるだけで、
それすらも黒い光によって遮られて、暗くぼんやりと光っていた。

そう、全ては黒い光に包まれたのだ。



  
30: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:00:41 ID:
  

( ゚ω゚)「これは……!」

完全に夜になったような周りの光景を目にし、ブーンはつーへと視線を向けた。

彼女が立っていた場所は、いまだ黒い光に包まれている。
いったいこれは何なのか? これから何が起こるのか?

それは、自分の光とは全然違う。
破壊的で、全てを根本的に変えてしまう、恐るべき光。

それを見たブーンは、自分の心に黒い塊が現れるのを感じた。

今まで何度も感じてきたこの黒いもの。

自分の守るべきものが失われるかもしれない、という不安。
今までにないほどの、強烈な恐怖感。

( ゚ω゚)「あ、ああ……」

ブーンは辺りに視線を這わせ、全てを変わってしまうことを悟った。
そして、それを行おうとしている者が誰であるかも、もうわかった。

つー。

彼女が、全てを変えようとしている。自分の大切な者を失わせてしまう。



  
31: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:02:05 ID:
  

つーの身体を隠していた黒い光が徐々に晴れていく

(*゚―゚)「……」

彼女の背中の翼はその形状を変化させ、4対、8枚の大きなものへと化していた。
5メートルはあるそれらは、世界を包み込もうとする黒い光で構成されている。

静かに翼をひるがえすつー。
手には黒い『剣状光』。
その目は、明らかに自分を見ている。

( ゚ω゚)「あ……あ」

ぽたりと汗を落としたブーンは、白い『剣状光』を強く握り、全てを見通す目で彼女を見つめ、叫んだ。

( ゚ω゚)「あああああっ!!」

交じり合う『剣状光』。
白と黒の『光障壁』。
飛び交う『光弾』。

その戦いは始まり、永遠に続くかのよう。





  
32: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:03:27 ID:
  


兵士『報告します! 各部隊にて、急に倒れこみ、苦しがる隊員が続出しています!』

兵士B『こちらもです! 指示を!』

狐「とにかく横にして、鎮静剤を打ってやれ! その後は安静にするんだ!」

兵士『了解!』

次々に入ってくる切羽詰った通信に、狐は的確な指示で答えていた。
兵士たちが次々に倒れる、という奇妙な現象に対し、取られた処置は「安静にすること」だけ。

だが、それで十分なのだろう、徐々に報告は減っていった。

ドクオは、狐の忙しそうな様子を目の端に入れながら、隣のベッドで横たわっているしぃへと視線を移した。

(*゚―゚)「ダメ……それじゃあダメ」

ぶつぶつと何事かを呟いているしぃは、さっきよりは安静になっているようだった。

通信衛星の映像を見た時はどうなるかと思った。
黒い翼を持ったつーの姿を見た瞬間、彼女は発狂したかのように泣き叫び、倒れこんだのだ。

今は狐の判断によって鎮静剤を打たれ、少しは落ち着いている。
だが、まだ何かしら精神に異常をきたしているようだった。



  
33: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:04:54 ID:
  

(=゚ω゚)ノ「……い、今戻ったょぅ」

そうこうしていると、あれから通信のなかったぃょぅがようやくテントに戻ってきた。
彼は中に入ってくると、とたんに地面に座り込み、「はぁ、はぁ」と何やら激しく呼吸をしていた。

狐「ぃょぅ君! どうしたんだい、いったい……怪我がひどいのか?」

(=゚ω゚)ノ「怪我はもう大丈夫だょぅ。ただ……空の黒いのを見ましたかょぅ?」

狐「ああ。どうやらつー君が行ったようだが……」

空の黒いの、とは先ほどから空を覆っている黒い光のことだ。

通信衛星の映像を見た限り、つーがあれを出したのは間違いない。
まだ太陽は沈みきっていないはずなのに、辺りを夜にしてしまった黒い光。

混乱する兵士たちをまとめるために、狐は苦労していたものだった。

(=゚ω゚)ノ「あれはやばいょぅ。きっとみんなに入り込んで、全てを変えてしまうょぅ」

狐「いったいどうなってるんだい? まったく理解ができないんだが……あれは世界を滅ぼすとでも?」

(=゚ω゚)ノ「違うょぅ。世界を『変える』んだょぅ。あれは純粋な恐怖だょぅ。やばいょぅ」

狐「『変える』……?」



  
34: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:06:11 ID:
  

突然、通信機が激しく音を鳴らし始めた。
狐は「またか」という表情を隠さずに通信機のボタンを押し、「こちら『VIP』本部。どうした?」とマイクに吹き込んだ。

『どうした、とはまたフランクな言葉だな』

狐「その声は……プギャー大佐?」

( ^Д^)『ああ。久しぶりだな、狐』

プギャー大佐、という名前を聞いて、ドクオは先ほどのしぃの話を思い出す。
確か、この国にやってきた連合軍の総指揮を取っている、アメリカ陸軍の大佐だっただろうか?

『VIP』と連携行動を取りつつも、独自に軍隊を展開しているらしいアメリカ軍は、いまや日本中にその戦力を散らばせている。
たったの半日でよくもまあ、そこまでできるものだ、と感心してしまう。

( ^Д^)『この状況を説明してもらおう。この空……例のジョルジュとかいう男が行ったことなのか?』

狐「それは分かりません。こちらでも把握に努めていますが、まだ何も確かなことは……」

にしても、アメリカ陸軍にいるくせに、どうして日本語を喋れるのだろう?



  
35: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:07:04 ID:
  

( ^Д^)『今は見えないものの、さきほど監視衛星で見たかぎりは、この黒い光の発生源と見られる場所にはジョルジュはいない。
     いるのは女性1人と少年1人のみ。
     これはいったいどういうことだ?』

狐「……戦っているんです。私達の仲間が、この世界を守るために」

( ^Д^)『ふん、1人でか。それはまた無茶なことをやっているものだな』

狐「……」

狐は唇を噛み締め、何かに耐えるかのように握りこぶしを作った。
おそらく罵詈雑言を浴びせたい気分になっているのだろう。
そうしたいと思えるほど、プギャーの言葉は不謹慎だった。

( ^Д^)『こちらとしては、その場所に一個大隊を送るつもりだ。アパッチも送る』

狐「それは待ってください。普通の軍隊では敵を倒すのは無理です」

アパッチ、とは攻撃ヘリの名前だ。
なんでも陸上では最強の要塞ヘリらしいが、実物を見たことはない。

だが、そんなものが送られれば、ブーンも無事ですまないかもしれない。
最悪、攻撃に巻き込まれる可能性も……



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:07:56 ID:
  

通信機から聞こえるプギャーの声はどこかしらいらついていた。

( ^Д^)『だが、手をこまねいて見ているわけにもいくまい。
     それに、あの場所にいる女は、お前たちが提出したレポートにあった、【影】と同化した人間ではないようだが?
     それなら通常の戦力でも大丈夫なはずだ』

狐「しかし……彼が戦っています。今はまだ待ってください」

( ^Д^)『……』

プギャーの声が途切れる。
少し話を聞いていただけで、プギャーが血気盛んで、待つということが嫌いな性格だということはよく分かった。
おそらく、普通の戦争なら真っ先に先頭に立ち、敵を殲滅しようとするのだろう。

だが、プギャーはそれからしばらくして『分かった』と答えた。

この調子なら狐と対立するんだろうな、と思っていたドクオは、少なからず驚いた。

( ^Д^)『こんな事態だ。より敵について知っている者の意見を聞くべきなのは当たり前……ここは待機させてもらおう』

狐「は、はい、ありがとうございます」



  
37: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:08:34 ID:
  

( ^Д^)『お礼を言う必要はない。日本人とはよくよくお礼を言うのが好きなものだな。
      それより、ひとつ聞きたいことがある。あの黒い光の影響か知らないが、私の部隊でも発狂者が続出している。
      どうやら世界的にも、数は少ないがそういう人間が多いようなのだが、何が起こっているのか知らないか?』

狐「それはまだ分かりません。とりあえず鎮静剤を打って安静にすることぐらいしか……」

狐とプギャーが何やら話しているのを聞きながら、ドクオは衛星の映像に目を移した。

先ほどまでブーンとつーの姿を写していたが、今は黒い光に遮られているからなのか、何も見えなくなっている。
つーが黒い光を出した所までは把握しているが、それからいったいどうなっているのか。

ブーンは戦っているのだろうか?
つーと? それとも別の敵と?

彼は無事なのだろうか?

ξ 凵@)ξ「……」

ピクリ、とツンの身体が動いたような気がして、ドクオは車椅子に乗る彼女を見つめた。

だが、それ以上はまったく動かない。
彼女は無表情なまま、何も写らないテレビ画面を見つめていた。

いったい、彼女には何が見えているのだ



  
38: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:10:19 ID:
  

狐「ふぅ、終わったよ……」

(=゚ω゚)ノ「お疲れ様だょぅ」

狐「ぃょぅ君、もう大丈夫なのかい?」

通信を終えた狐と、ようやく立ち上がったぃょぅが話を始めるのを聞き、ドクオは再び視線を狐の方に戻した。
2人共、深刻な顔をして話し合いをしている。

(=゚ω゚)ノ「まだ頭が痛いけど、さっきよりマシだょぅ」

狐「何が起こっているのか、わかるかい?」

(=゚ω゚)ノ「何も。けど、今がやばい状況なのは分かるょぅ」

狐「ああ……日本全国でも、次々に叫び声をあげたり、卒倒してしまう人が続出しているらしい。
  みんな身体を震わせ、何かにおびえるように……まったく、いったい何が起こってるんだ」

(=゚ω゚)ノ「けど、進展はあったょぅ。アメリカ軍や他の軍勢も、『VIP』に味方してくれてるょぅ」

狐「ああ。ブーン君の無事が確認されたら、即彼を回収して、テロリストを掃討することに決まったよ。
  だが、『影』はまだ破壊活動を続けている。
  あとは、『影』を操るジョルジュ達――おそらく今はつー君だろう。彼女をブーン君がなんとかしてくれればいいんだが……」



  
39: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:11:05 ID:
  

(=゚ω゚)ノ「本当に彼女が敵になってしまったのかょぅ……」

狐「詳しいことはわからない。だが、もしそうならば……彼女を止めるのが、私達のやるべきことだ」

敵と味方、か。
世界中の軍勢がこちら側についてくれた今、おそらくテロリストなんて一ひねりなのだろう。
あとは『影』をどうにかすれば、全ては解決する。

だが、つーが敵になったということに、みんなもっと衝撃を受けないのだろうか?
全ての国の軍隊が味方についたということに、異様な感覚を覚えないのだろうか?

緊急事態だから? それとも、そうなってしまったから?

何かが違うような気がする。このままでは、何かが違う。

(´・ω・`)「ねえ、ドクオ」

('A`)「ん?」

いきなりショボンに声をかけられて、ドクオは彼の方へ顔を向けた。



  
40: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:12:35 ID:
  

ショボンは、何やら神妙な顔つきでこちらを見つめ、静かに言った。

(´・ω・`)「人ってさ……共通の敵があれば、こんなに簡単にひとつになれるものなんだね」

('A`)「……」

(´・ω・`)「恐怖を感じた時、人は団結して、ひとつになる。まるでジョルジュが言っていたことみたいだよね」

('A`)「ああ……」

そう答えるしかできなかった。
ショボンの言うとおりだったから。

ジョルジュ達という恐怖に対して、確かに自分達はひとつになっている。団結している。

(´・ω・`)「けど、さ」

ショボンは続けて、言った。
何も写さない、黒い画面のテレビを見ながら。

(´・ω・`)「この戦いの先に、何があるんだろう」



  
41: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:13:38 ID:
  

彼の目は、画面に移らない「何か」を見ているかのようだった。
ブーンを、つーを、あるいはその場所で起こっている『戦い』を。

(´・ω・`)「団結して、戦って、そうして勝って……その後に何があるんだろう」

ショボンの問いに、ドクオは何も答えられなかった。

今の今まで黙っていたショボンは、ずっとこのことを考えていたのだろうか?
それとも、ただ不意に浮かんだ疑問?

どちらにしても、ショボンの問いは、自分の胸の中をもやもやを照らし出してくれた気がした。

(´・ω・`)「……ごめん。今はそんなこと言ってる場合じゃないよね」

('A`)「いや……いいさ」

ドクオもまた、同じように黒いテレビ画面を見つめながら、思った。

この戦いの先に、何があるんだ? ブーン?

その問いに答えるものはおらず、ドクオは目を細めて、淡々と『彼』を想うことしかできなかった。





  
42: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:15:47 ID:
  



( ゚ω゚)「ああああぁ!!」

白い『剣状光』がつーの目先を空振ると、すぐに反撃の『光弾』を浴びせられる。
ブーンの身体はくの字に折れ曲がり、「ぐふっ」という声が漏れ出た。

だが、ブーンの手は止まらなかった。すでに何かを考えるための思考能力は欠如しており、今目の前に見えているのはつーの姿だけ。
取るべき行動は「戦うこと」、それだけ。

もう、つーを殺してしまうことへの迷いはなかった。あらゆる意味で。

( ゚ω゚)「うおおおお!」

翼を動かしてつーの下方へと位置取り、そこから巨大な『光弾』を放出してつーへの牽制とする。
彼女はそれを黒い『光障壁』で防ぎ、距離を取ろうとしてくるが、
ブーンは逃がさず彼女の目と鼻の先にもぐりこんだ。

(*゚―゚)「……!」

( ゚ω゚)「お前なんか!!」

『剣状光』の刃が、あと少しの所でつーに突き刺さるはずだった。
力を込めて前へと突き出したそれは、しかし8枚の黒い翼の内の1枚によって防がれてしまう。



  
43: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:17:04 ID:
  

( ゚ω゚)「くっ!」

(*゚―゚)「……」

なんとか距離をとって反撃に備えるブーン。

つーは無言で腕を上げ、黒い光を収縮、結合させて巨大な1本の黒い剣を作り上げた。
今までの『剣状光』とは違う。それよりももっと大きく、もっと破壊的で、恐ろしい。

まるで巨大な剣のオブジェがそこに出来上がったかのような、全長4メートル近い刃を、つーは一気に振り下ろした。

避ける暇もなかった。そのスピードは常軌を逸している。

『光障壁』でなんとか受け止めようとするものの、完全に衝撃を殺すことはできなかった。
揚力を失い、地球の重力に逆らうこともできず、ブーンは猛烈な勢いで地表へと叩きつけられた。

( ゚ω゚)「くふっ!」

地面に当たる直前に翼を少し動かしたおかげで、即死はまぬがれた。
だが、それでも受けたダメージは深刻だった。
連戦を経てきた身体のあちこちが悲鳴を上げ始め、今の衝撃で肋骨が折れたのか、やけに胸の辺りが痛い。吐き気もする。



  
44: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:18:15 ID:
  

自分が落とされたのが砂地だったことにようやく気付きつつ、ブーンは砂を踏みしめ、かろうじて立ち上がった。

(*゚―゚)「……」

つーは8枚の翼を携えたまま、動こうとはしなかった。
黒く染まった空を見上げ、何事か考える仕草を取る。

ブーンは飛び立とうとする。
白い翼が消えていることに気がつき、呆然と自分の背中を見た。

おかしい。白い翼が出せない。
今までずっと自分の意志通りに出てきてくれた白い光が、今は出せない。

ブーンは試しに『剣状光』を出そうとしてみるが、やはり白い剣は出てこなかった。

自分が傷ついているからなのだろうか。
光は露ほども出てこなかった。

(メ´ω`)「なんで……だお」

倒さなければ負ける。戦わなければ死ぬ。
分かりきっていること。今ここで白い光が出せなくなれば、自分は終わりだ。

死にたくはない。負けたくはない。

守りたい。守らなくちゃならない。



  
45: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:19:41 ID:
  

(*゚―゚)「……」

空に浮かぶ8枚の翼は、大きくその羽を広げるとさらに黒い光を放出し始めた。

空の黒い光と連動するかのように、辺りを夜にするかのように。

しばらくすると、空から黒い球体がちらほらと落ちてきた。

まるで黒い雪のようなそれは、建物や地面に落ちていく。

そして、接触した部分が跡形もなく、消えた。

消えたのだ。
まるでその存在が最初からなかったかのように、丸いくぼみが地面に出来たのだ。

次々と落ちてくるその黒い雪は、建物を穴だらけにしていき、その存在を否定していく。

自分に当たっても何も影響はないが、これがもし人間にも作用するのなら……

ぞくり、と背筋が震えるのを感じた。



  
46: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:20:28 ID:
  

(*゚―゚)「終わりの始まり。全てが始まるこの場所」

つーの声がダイレクトに聞こえる。心に直接語りかけられているような錯覚を覚える。

(*゚―゚)「終わらせましょう……これで」

つーが手をあげると同時に、8枚の黒い翼からひとつずつ、巨大な『光弾』が生成されていった。
それは自分が出す『光弾』よりも数倍大きく、凶暴だった。

( ゚ω゚)「ああっ……」

死ぬ。

どれだけ未来を見つめようとしても、何も見えない。
そうだ。未来が「ない」から、見えないんだ。

ここで自分は死ぬ。死んでしまう。

なぜ? 戦っていたから?

死にたくない。死にたくはない。



  
47: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:21:30 ID:
  

(*゚―゚)「……」

つーが手を下に下げると、8つの『光弾』はひとつとなり、さらに巨大な球体へと変容する。
それがゆっくりと落ちてくるのを見たブーンは、まるで空が落ちてくるようだと思い、さらに黒い衝動が胸の中をかけていくのを感じた。

死にたくない。死ねない。死にはしない。

( ゚ω゚)「うぅ……わああっ!!」

生きたい。生きたい。

たとえ、



つーを殺してでも。



瞬間、自分の身体から白い光があふれ出るのを、ブーンは見た。





  
48: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:23:35 ID:
  



それは、まさに『爆発』と呼ぶにふさわしいものだった。

空から落ちてくる巨大な球体に対し、地面から発せられたその白い光は、瞬く間にドーム上に広がっていった。

かつてラウンジ教の施設を吹き飛ばした光の爆発。

ブーンを中心に広がっていた白い光は、最初は黒い光とせめぎ合っていた。
黒い球体が落ちてくるのを防ぐように。

黒とも白ともつかない光がせめぎあい、互いに静止した。

だが、徐々に黒い球は勢いを失っていった。白い光に押し負けたのだ。

さらに広がっていく白い光は、黒い球体を消し去る。
空中に浮かんでいたつーをも巻き込み、それまでにない規模で拡大していく。

かつての『天国』の土地を全て覆い、それでも足りないとばかり広がる白い光。

街をまるごと覆い隠し、空の黒い光をも吹き飛ばし、白いドームを形成していく。



  
49: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:25:05 ID:
  

ついには雲の高さまで届いた所で、白い光は突然霧散した。

きらきらと空中を漂う白い光。

空中からひとつの影が落ち、地面に転がるのを見たのは、おそらく『彼』だけだっただろう。

ひとつの影は、ふたつに分かれる。
地面に倒れていたのは、2人の男女。

ジョルジュと呼ばれた男と、つーと呼ばれた女。
  _
( ゚∀゚)「つー……」

(*゚―゚)「ジョル……ジュ」

2人はそう呟いたところで、動かなくなり、絶命した。

最後の最後で彼らが求めていたのは、互いの手。

2人はしっかりと手を握り締め合いながら、目を瞑った。



  
50: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:26:13 ID:
  

黒い光は晴れ、本来の空が戻ってくる。

すでに時間は夜に差し掛かっていたため、空は灰色に近かった。

その空は、黒い光のような不気味さを伝えることなく、戦いが終わったことを眼下の人間に示していた。

全てが終わったのだ。





  
51: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:27:25 ID:
  



兵士「やった……!」

通信兵「やった、勝ったぞ!」

わぁ、という歓声が一斉にテントの周りで発せられていった。
急に黒い光が晴れたかと思うと、衛星からの映像が復活し、ブーンがいる場所が映し出されたがついさっき。

そこで倒れてうごかないジョルジュとつーの姿が確認され、それが兵士やスタッフの間に伝わると一斉に歓喜の雄たけびがあがり始めたのだ。

「終わった……! これで終わりだ!」

「やっとこれで……帰れる!」

「っしゃあ!!」

兵士らしくない喜びの声をあげる周りのみんな。
ドクオはそれを聞きながら、確かに空の黒い光がなくなっていることを、外を見て確認した。



  
52: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:28:24 ID:
  

確かに終わった。

おそらくブーンが倒したのだろう。
ジョルジュとつーは動かない。あの様子では生きている可能性はゼロに近い。

敵を殺せば、全てが終わるのだ。

これで『影』の活動は鈍り、本来の夜にしか現れない、犯罪者しか殺さない存在に戻るだろう。
全世界的に広がっていった恐怖の種は取り除かれた。
これから国の軍隊が出動し、テロリストを一掃してしまえば、完全に今回の出来事は収束に向かうことだろう。

だが、それ以上に気になっていたことがドクオにはあった。

それは、ショボンや狐も同じだった。隣の部屋のベッドで、ぼんやりと座っているしぃも同じに違いない。

衛星からの映像は未だ写されており、ドクオ、ショボン、狐、しぃは、喜びもそっちのけでそのモニターを見つめていた。

そこに映し出されているのはブーンの姿。
豆粒みたいな人影しか見えないが、クレーターのようなくぼみの中心に立つ彼。
戦いが終わったというのに、その場から一歩も動かない。

喜びも悲しみも、怒りもそこからは感じられない。

ただ呆然と立ち尽くすだけなのだ。



  
53: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:29:07 ID:
  

('A`)(どうしたんだ? ブーン……)

ドクオは眉をひそめて、彼の姿を注視し続けた。

今までにないブーンの様子に、ドクオは何かしらの胸騒ぎがしていた。





  
54: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:30:00 ID:
  



どうしてこんなに心が重いのだろう――罪悪感?
どうしてこんなに、色々な人の声が聞こえるのだろう――みんなの心の声?

『やっと終わった!』『ママー、変な光がなくなったよう?』
『なんだ? ニュースで言ってた黒い怪物ってのはいなくなったのか?』
『隊長! 敵は浮き足だってます!』『敵はいないぞ! こっちの勝ちだ!』
『助かった……!』『おい、黒いやつがいなくなったみたいだぞ』
『爆発がなくなった?』『敵は殺されたのか……よかった』

徐々に多くなっていく歓喜の声。
黒い光による恐怖がなくなり、本能的に『敵』がいなくなったことを悟ったのだろうか。

みんなが喜びと安堵の心をあらわにしていく。

みんな、敵が殺されて喜んでいる。
敵の守るものをつぶして、喜んでる。



  
55: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:30:55 ID:
  

けど、『敵』とはなんだ?
あそこで2人して倒れているジョルジュとつーのことか?

――そうなのだろう。だって、今自分は彼らを敵と判断し、戦い、そして勝った。

つーを殺して。

殺して。

ころして。




コロシテ。



  
56: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:32:08 ID:
  

( ゚ω゚)「うぅ……あぁ」

それを行ったであろう自分の手が、急に怖くなった。
まるで黒いぬめぬめしたものに覆われているかのように思えて、何度も手を振るけど、それは取れない。

これはなんだ?
血? それとも、つーの意思?


どうしてつーを殺した?――敵だったから。
何故つーは敵になった?――考え方や行動が自分と違っていたから。こちらの利益を損なうから。

流石兄弟もジョルジュも自分が殺した。
それと違うとでも言うのか?

違う。
つーは守るべきものだった。そのはずだった。最初から互いを敵と認識して戦ってきたジョルジュ達とは違うはず。

だが、ちょっとした考え方の相違で、守りたいものは敵になってしまった。



  
57: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:33:24 ID:
  

人は『自分の守りたいと思ったもののためだけに戦う』。

ジョルジュが言っていた通りだ。彼の心を感じられた今、もう彼の考え方は全て理解できていた。

全ての戦いは、人の生存本能と防衛本能によりもたらされるのだ。

しかも、自分の守りたいものなんて簡単に変わり、だから敵も味方も流動的となる。
ついさっき味方だったものが敵になる。

他人と完全に同じ考えになることなんて絶対にない。

ということは、全ての「他人」は、敵にになる可能性があるのだ。

ならば、世界が自分1人だけになって、初めて戦いはなくなるのではないか?

そうだろう?

自分は何のために戦ってきた? 守りたいものを守るため?

そうだ、その通りだ。戦わなければ守れなかった。人も、ものも、世界も。



  
58: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:34:25 ID:
  

だが、その戦いの先に何がある? ジョルジュ達を殺して、「今の」敵はいなくなった。
けど、それで終わりか? 人はこの戦いの後も戦い続ける。傷つけあい、守りたいものを守るために戦う。

「統合本能を持たない人間」

「自分の守りたいものを守るためだけに戦う人間」

全ての人間が敵になる可能性があるのなら、人は争いをやめるはずがない。

たとえ敵を滅ぼしても、今度は味方だったものが敵となる。

たとえ平和になっても、今度はその平和を守るために戦いが起きる。

戦いは終わらない。終わることはない。



  
59: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:35:18 ID:
  

どうすればいい?

みんなが本当に傷つかなくなるには。
敵の守りたいものも守るためには。
戦いが本当になくなるためには。
「彼ら」を守るためには。









そうか。





  
60: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:37:18 ID:
  



モニターが急に真っ白になったと思った瞬間、外からも強烈な光が舞い込んできた。

ドクオは何事か、と外へと飛び出し、空を見上げる。

('A`)「こりゃあ……」

そこにあったのは、夜の空ではなかった。

ブーンがいる方向から発せられるまばゆい白い光。

それが空を照らし、夜を昼に変えていたのだ。

(=゚ω゚)ノ「……これは、なんだょぅ?」

隣にいたぃょぅが呟き、テントから続々と人が出てくる。

狐「な、なんだい、これは?」

狐が空を見上げ、驚きの声をあげている。



  
61: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:38:34 ID:
  

狐「ぃょぅ君、これは……?」

(=゚ω゚)ノ「わからないょぅ……」

狐「い、一応指示を出さないと!」

戸惑いつつも無線機を取り出し、次々と部隊に指示を送っていく狐。

周りの兵士たちも慌てたように無線で仲間と連絡を取り合っている。



  
62: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:39:06 ID:
  

ドクオはその様子を眺めていると、テントから、ツンの車椅子を押すショボンが出てくる。

(´・ω・`)「これは何事?」

('A`)「さあ……だが」

ドクオはブーンがいるであろう方向を見つめ、言った。

('A`)「あいつに何かあったってのは、確かだな」

(´・ω・`)「……」

ξ 凵@)ξ「……」

空は更に明るさを増していく。

その明るさは、むしろ残酷なもののように、ドクオは思った。



第28話 「内の光/外の光 白の光/黒の光」 完



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