( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
3 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:25:06.82 ID:Pq8gNNQw0
  

第29話



目を開けたら、そこは真っ白な空間だった。

空も地面もない。自分の身体すら見えない。
上下左右の感覚もなく、まるで浮いているような感じ。

身体はぴくりとも動かない。声も出せない。
音も聞こえなければ、匂いもしない。あらゆる意味で真っ白な空間だった。

そんな中、ふと隣に誰かが立ったような気がして、けれども目を動かすこともできず、
しかも気のせいだったかもと思いながらも、聞こえてきた声にブーンは耳を傾けた。



  
4 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:25:57.74 ID:Pq8gNNQw0
  
(*゚ー゚)「時は満ちました」

ξ゚听)ξ「選択の扉が現れるわ」

('A`)「お前が決めるんだ」

(´・ω・`)「世界をどの扉に導くか、だよ」

川 ゚ -゚) 「その時、心は開く」

もう分かる。それらは『従者』の声。
自分に決断を促す言葉。

それ対し、ブーンは静かな心で答えた。


もう、心は決まっていたから。






  
5 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:26:49.41 ID:Pq8gNNQw0
  

(*゚ー゚)「時は満ちました」

ξ゚听)ξ「選択の扉が現れるわ」

('A`)「お前が決めるんだ」

(´・ω・`)「世界をどの扉に導くか、だよ」

川 ゚ -゚) 「その時、心は開く」

もう分かる。それらは『従者』の声。
自分に決断を促す言葉。

それに対し、ブーンは静かな心で答えた。


もう、心は決まっていたから。






  
7 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:28:03.02 ID:Pq8gNNQw0
  



黒い光が晴れた世界。夜の空気が戻ってきた世界。

空の一点にぽつんと白い光が現れる。

それは太陽のように強烈に光り出し、辺りを照らし始める。
夜は昼へと代わり、空は白い光に覆われていく。

雲と地面の間に広がっているようで、白い光は星や太陽、月などの天体を隠し、白い膜のようにこの星を包んでいった。

地上にいた人間は、突然夜から昼になった空を見上げ、驚く。
「なんだ、あれは」。それが口を揃えて言った第一声。

そして、彼らはその白色光の出所をさぐり、空をぐるりと見回す。
すると、ある一方向から強烈な光が噴き出していることに気付き、目を細めてそれを凝視するのだ。

太陽のように光るその発光体は、じょじょにその光量を弱め、その正体をあらわにしていった。



  
8 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:29:52.74 ID:Pq8gNNQw0
  

「あれは……」
「人……?」

屋上から、地上から、車の中から、飛行機の中から、様々な場所からその発光体の正体を見た人間達。
彼らはただ呆然とするしかなかった。

それは、人間のように見えた。
だが人間ではなかった。

その人間は宙を浮き、目を瞑っていた。
腕を下げ、足を揃えて空を飛ぶその人間の背中からは、白い光が未だに噴き出している。

いや、違う。それは翼だった。
1枚は上に向かって、1枚は真横に、1枚は下に向かって、それぞれ別方向に向かって伸びるその白い翼の枚数は、合計8枚。
4対8枚の、数十メートルはあろうかという巨大な翼を携えた人間が、空に浮かんでいたのだ。

人々は唖然とそれを見ることしかできなかった。

黒い光のような恐怖は感じない。
だが、その翼を持った人間は、何かをもたらすに違いない。
そんな直感のようなものが目撃者たちの間に共有されていた。



  
10 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:30:47.22 ID:Pq8gNNQw0
  

そして、その直感はまさしく当たった。

( ゚ω゚)「……」

少年が動いた。
口を広げ、胸を押し上げるその姿は、声を出そうとしているようにも見えた。

だが、何の声も聞こえない、「聞こえない声」だった。

代わりにその体から発せられたのは、白い光。

直径50メートルあろうかという巨大な光球が彼の頭上に発生し、近くの街へと勢いよく飛んでいく。

地面に当たった瞬間、爆発したかのように光が広がり、街をすっぽりとドーム状に覆ってしまった。
爆発音も衝撃もない。ただ「光がそこに広がった」だけなのだ。

光は徐々に勢いを失くし、収束し始める。
だが、そこにあったはずのものは、もう存在していなかった。
ビルも民家も、道も、電柱も、人も、木も、全て。
全てが跡形もなく消え去り、残されたのは土をえぐられ、隕石が落ちたかのようなクレーターができた土地だけだった。

街どころか、地面すらも消滅してしまったのだ。



  
11 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:31:45.21 ID:Pq8gNNQw0
  

近くにいた人々はその一部始終を見ていた。
テレビ局もその映像を写していた。
衛星からモニターしていた各国の軍隊、政府もそれを見ていた。
そして、もちろん『VIP』もそれを目撃していた。

彼らの間に流れ込んできた感情はただひとつ。

「混乱」。

恐怖でも歓喜でもない。ただ「混乱」だけが彼らの心にもたらされる。

人々は顔を見合わせ、何が起こったかを理解しようと努める。
テレビ局のアナウンサーも「ただいま状況を把握している最中です。お待ちください」と流すだけ。
政府や軍隊も情報を交換し合って、混乱する頭を整理しようとし、
『VIP』は見知った少年が行った行為に、頭が真っ白となる。

混乱する人々に対し、翼を持った少年は静かに空に浮かぶ。

世界の行く末を、じっと見つめるかのごとく。





  
12 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:33:18.46 ID:Pq8gNNQw0
  



通信士『××町の一角が消滅! 死者、被害ともに計り知れません!』

兵士『少年――ブーン君は徐々に移動を開始! 北方面に向かって進行中!』

通信士『近隣の住人がパニックを起こしています! 現在、避難所は人で溢れかえっていて、危険です!』

狐「くっ……これはどういうことだ……!」

狐の切羽詰った声に対し、様々な方面から様々な通信が入ってくる。
それらは全て、ブーンについての情報だ。

突如、大量の白い光をその身体から溢れさせ、背中に8枚の翼を作り、空を光で覆ってしまったブーン。
近くの街をまるごと消してしまい、今もゆっくりと移動しているらしいブーン。

何が起こったのかまったくわからない。
どうしてつーやジョルジュを倒したのに、今度は彼がこんなことをやるのか?
彼はどうして……人を消してしまったのか。

様々な疑問を胸に抱えながら、ドクオは、もはや画面が真っ白になってしまったモニターから視線を外し、
慌てた様子の狐とぃょうの様子をうかがう。



  
13 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:34:10.54 ID:Pq8gNNQw0
  

通信士『アメリカ軍からの通信が入りました。つなぎます』

( ^Д^)『これはどういうことだ! あの少年はお前たちの仲間ではなかったのか!?』

狐「ええ、しかし何があったのかはわかりません。現在調査中でして……」

( ^Д^)『あれを見なかったのか! 街をひとつ消したんだぞ! 明らかに危険だ! 敵に寝返ったのではないのか!』

アメリカ陸軍大佐、プギャーがそうがなるのに対し、狐は何も言い返せずに口をつぐんだ。
ブーンがあんなことをやってしまった今、何も言うことはできない。確かに街を消してしまったのだ。

今や、ブーンは世界を混乱に陥れている原因となってしまった。特にアメリカ側にとっては。

( ^Д^)『これから戦闘機を差し向ける。あれは【影】ではないのだろう? ならば通常兵器でも殲滅が可能だな』

('A`)「なっ!?」
(´・ω・`)「そんな!」

いくら街を消してしまったからと言って、あれがブーンであることに変わりはない。
もしかしたら敵に操られているだけかもしれないし、元に戻る可能性も十分ある。

なのに、いきなり「殲滅」? 早計すぎる。



  
15 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:35:47.50 ID:Pq8gNNQw0
  

狐「待ってください! それは……!」

( ^Д^)『今あいつを止めなければ、さらに被害は拡大する。
     たとえかつての仲間であろうとも、今となっては世界に混乱もたらす元凶だ。
     感情にとらわれていては、助けるべき人間も助けられなくなるぞ』

狐「しかし、彼は……」

( ^Д^)『お前も国を守るものとして考えれば分かるはずだ。
     大きなものを守るためには、小さな犠牲も必要だということが』

狐「……」

( ^Д^)『【空軍から借りたF−22とB−2を発進させろ。クラスター爆弾と核の使用も許可する】』

プギャーが近くにいた兵士に命じたのだろう。
英語だったけれども、明らかに攻撃の指示だと分かり、ドクオは慌てて機関銃を放り出して、「狐さん!」と怒鳴った。

('A`)「このままじゃブーンが!」

狐「……けど、実際ブーン君は街ひとつを消してしまった。
  これ以上の被害が出ることは防がないといけない」



  
16 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:37:22.91 ID:Pq8gNNQw0
  

(#‘A`)「けど、あれはブーンなんすよ!」


ドクオは叫び、狐の胸倉をつかむ。
だが、狐は目を閉じ、握りこぶしを作ってそれに耐えるだけで、何の抵抗も見せようとはしなかった。

狐「時には……守るための犠牲も必要なんだ」

('A`)「……っ! くそっ!」


ドクオは走り出し、テントから外に出た。
外は夜とは思えないほど明るく、空は真っ白に染まっている。


目をこらすと、ブーンの8つの翼がぽつんと見える。
ここから彼がいる場所まではかなりの距離があるのに、それでも見えるとは……

つまり、それほど翼が巨大だということなのだろう。



  
17 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:38:10.99 ID:Pq8gNNQw0
  

近くにいた兵士から双眼鏡を借り受け、ドクオはレンズ越しに戦闘機がブーンに向かって飛んでいくのを見た。

あれが、今からブーンを攻撃する。

('A`)「馬鹿やろう……やめろってんだよ!」

ドクオはそう叫ぶものの、戦闘機が止まることはない。

白い翼に向かって、黒い点のような戦闘機が猛スピードで近付いていくのを、ドクオは見ていることしかできなかった。






  
20 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:39:37.55 ID:Pq8gNNQw0
  



アメリカ軍が差し向けたF−22は最新型の戦闘機だ。

レーダーに映りにくくするステルス性能を持ち、
アフターバーナー(高推力を得るための装置。だが、燃費が悪い)を使わずに超音速巡航を可能にした次世代型。
最強の戦闘機と言われているF−15にも勝る性能と、対空対地ともに十分な装備を持っている。

冷戦の終結に伴い、これほどの高性能機は必要ないとの方針により、生産台数は削減されたものの、
現在のアメリカ空軍の第一線をささえているのはこの機体だ。

そんな高性能戦闘機が、日本の空の上を駆ける。
3機編成、3角形状に広がるそれらは、たったの1人の敵に対しての戦力としては過剰とも言えるだろう。

その後ろに続くのが1機のB−2爆撃機。
これもまたステルス性能を持ち、水平尾翼と垂直尾翼がない特徴的な形をしている。
元々は、レーダーをかいくぐって隠密的に核攻撃を仕掛けるために開発されたものだ。
もちろん、こちらも少数ながら第一線で活躍する爆撃機。
しかもB-2は核ミサイルを搭載していた


つまり、アメリカ軍は、敵と認識した少年を、完全に討ち滅ぼそうとしていたのだ。



  
21 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:41:16.83 ID:Pq8gNNQw0
  

まず、F−22が亜音速で飛んでいく。

パイロットは、正面の巨大な白い翼を見据えながら、機関銃の照準を中心の少年に合わせ、何のためらいもなくボタンを押す。

機体下部に備え付けられている20mm機関銃が火を噴き、寸分の互いもなく少年の身体へと浴びせられていく。
パイロットは確かに、弾丸が当たった手ごたえを感じていた。

パイロットA『軽いな、これぐらい』

先頭を切って攻撃したパイロットがそう呟き、何もたかが人間1人に戦闘機3機はやりすぎだろうと、ほくそ笑みながら思った。
いくら巨大な力を持っていようとも、肝心の身体に弾丸を受ければ、相手は死ぬ。


簡単なことだ。全ては先制攻撃が大事。



  
22 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:43:32.64 ID:Pq8gNNQw0
  

パイロットB『いや……待ってください。目標に変化がありません』

パイロットA『何!?』

パイロットAは旋回しつつ、目標の少年を目視で確認する。
確かに、機関銃の銃撃を受けても傷ひとつついていない。
これはどうしたことか?

と、目標の白い翼がかすかに動いた。

右側の1番上の1枚が、大きく羽ばたくように動き、その後を白い光が追いかけるように発せられていったのだ。

そして、光は1番後ろを飛んでいたF−22を飲み込む。

パイロットA『γ(ガンマ)! 応答しろ!』

パイロットはすかさず通信でよびかけるが、飲み込まれたパイロットからは何の反応もなかった。
目視で状況を確認しようと首をひねると、γの機体が白い砂のように解け始めているのが見えた。



  
23 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:45:42.20 ID:Pq8gNNQw0
  

パイロットA『応答しろ!』

続けて呼びかけるが、最後まで相手からの返事はなかった。
ついにγの機体は、サラサラと白い砂――いや、白い光の粒子へと変化し、
そのまま少年の白い翼に引き込まれるようにして同化してしまった。

ただの人間に、1機の戦闘機がやられた……?

ぞくり、と背筋が凍るのを感じる。

パイロットA『くっ……β(ベータ)! 援護しろ! 俺がしとめる!』

パイロットB『了解』

βが機関銃で援護してくれる気配を感じつつ、戦闘機は複雑な螺旋軌道を取って目標へと近付いていく。
そして、息巻いてミサイルのスイッチを押そうと指を動かしたパイロット。

が、指がスイッチを押すことはなかった。

その指が、砂のように分解してしまっていたから。

パイロットA『なっ……なっ!』

パイロットが何かを言い切る前に、その身体は完全に白い光の粒子と化し、意識もまた飛んでいった。
同様に、βの機体も光を浴びせられ、消滅。

そうしてF−22の編隊はものの数分で全滅した。



  
24 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:46:58.10 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、まだ終わっては居なかった。
F−22の全滅を目の当たりにしたB−2のパイロットは、目標と距離を取って攻撃することを選択した。

利口な選択であることは間違いなく、B−2は白い光を浴びることなく、遠くからミサイルを発射することができた。

そのミサイルはクラスター爆弾と呼ばれるものだ。
大きな爆弾の中に、小さな爆弾が数百個入っており、さらにその中には600個の鉄球が詰め込まれている。
これが空中で爆発することで広範囲に敵を殲滅することができ、
また、逃げるスペースを少なくすることもできる。

対地対人兵器としては一流の爆弾だ。

空中で爆発したクラスター爆弾は、目標の少年に向かって数万個の鉄球を降り注いでいく。



  
26 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:48:30.86 ID:Pq8gNNQw0
  

( ゚ω゚)「……」

だが、それすらも無駄だった。
突如少年の頭上に現れた光の壁が、鉄球を全て防いでしまったのだ。
光の翼には、防ぐどころかすり抜けてしまい、まったくのノーダメージ。

B−2のパイロットは、もちろん、それを見て驚愕し、恐怖した。
もしかしすると、これに対してはどんな兵器も効かないのではないか?

そう思っていると、目標の少年が動いた。
B−2ではない。近くの街に向かってその目が動き、翼からまたしても巨大な光球が発生し始めたのだ。

再び発せられた『聞こえない声』。
巨大な光球は、街に直撃し、恐怖の再来を告げた。

街が完全に消滅してしまっていたのだ。

恐怖におののくパイロット達。
クラスター爆弾は効かない上、戦闘機や街を一瞬にして消してしまう力。
こんな化け物に、どうやって対処しろと?



  
27 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:49:58.10 ID:Pq8gNNQw0
  

と、そこにひとつの緊急コードがB−2に対して発信された。

それは、特Aクラスのコード。
通常の戦争でもまず使われることのない、緊急かつ有事を示すコード。

つまり、核ミサイルを使用せよ、というコードだ。


パイロットはぶるりと背中が震えるのを感じ、自分の指先を見つめた。
指先は、核ミサイルのボタンに触れている。

かつて、実際に核爆弾が使用された例は2つしかない。
H島とN崎。その2つだけ。

そして今、3つ目の核爆弾が、再びこの国に落とされようとしているのだ。

アメリカ人であるパイロットでも、これが何をもたらすのかはわかっている。
核の不拡散を謳い続けてきた国連。そして、startなどの核不拡散条約によって、核軍縮が進んできたこの時代。
そんな中再び核が使用されれば、どうなるのか? それは誰にも予想がつかない。



  
29 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:52:13.29 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、ここでこれを使わなければ、確実に被害は広がってしまう。
この国は残らず消滅させられてしまうかもしれないし、それが自分の国に広がる可能性も否定できない。

自分の国と、国の家族を守るため……B−2のパイロットは、震える指を抑えながら核ミサイルのスイッチを押す。

B−2の底部から放たれたミサイルは、1次ブースターを切り離し、目標に向かって一直線に飛んでいった。
その弾頭に搭載されたウラン型の核爆弾は、1度起爆すれば辺り一帯に黒い雨と死の灰を降らせる。
かつてのH島・N崎で使われた核爆弾と比べて、2、3倍の威力を持つその爆弾なのだから。


だが、B−2のパイロットがその爆発を見ることはなかった。

まず、パイロットの身体は、ミサイルを撃った直後に光へと転じてしまっていたからだ。

意識する暇もない。翼から放たれた光の球がB−2に直撃し、その機体と中の人間を全て光に変えてしまう。



  
31 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:53:22.56 ID:Pq8gNNQw0
  

続けて、ミサイルにも変化が訪れていた。

少年に近付いていくにつれて、ミサイルの周りに白い光が現れ始めた。

それは少年から発せられたものではない。
空から、雪のように舞い落ちてきた光が、核ミサイルを覆っていたのだ。

直進するごとに、その鉄の塊は白い光に変化する。
砂のように分解され、少年の翼の一翼に吸い込まれていく。

最後には完全に核爆弾は無力化された。

そう。
人類最強の兵器でさえ、少年を殺すことはできなかったのだ。



  
33 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:54:12.68 ID:Pq8gNNQw0
  

自分に近付くもの全てを白い光に変えてしまった少年は、
そのまま空中でとどまり、『聞こえない声』を出し続けている。

空から降ってくる白い光は、徐々にその量と範囲を広げていく。
雪のように、羽のように舞い落ちるその光は、空の白さと相まって幻想的な風景を作り出していく。

避難所にいた人々はそれを呆然と見つめる。
ヘリコプターから見たテレビカメラもそれを写す。
『VIP』とアメリカ軍もそれを見ては、口をぼんやりと空けてその場を動かない。


世界はその結末を決せられた。

それを止める力を持つ者は、もはや誰もいないということを、F−22とB−2の全滅が示していた。





  
34 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:56:00.68 ID:Pq8gNNQw0
  


通信士「……F−22とB−2の編隊が全滅。核ミサイルも……白い光に変えられてしまいました」

( ^Д^)『【なんということだ……これは……悪夢か?】』

戦闘機の全滅を双眼鏡で目撃し、急いでテントに戻ってきたドクオが最初に聞いたのは、通信士とプギャーの悲痛な声だった。

特にプギャーは、自信満々で送り出した編隊がいとも簡単にやられたことに、驚き以上に恐れを抱いているのだろう。

『いったいどうしろと言うのだ……』という諦めの色を含んだぼやきから以降、彼は一向に話しだそうとはしなかった。

打つ手なし、といったところか。



  
35 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:57:13.55 ID:Pq8gNNQw0
  

ドクオは、テントの中にいる人達が、全員ひとつのモニターに釘付けになっていることに気付き、そちらに目を移した。

そこには、8枚の翼を携え、悠然と宙に浮かんでいるブーンの姿があった。
おそらく『VIP』かアメリカ軍の偵察機が撮っているのだろう。

周りに建物もなく、白い空と同化するように広げられている白い翼は、今も光を発し続けていた。
ブーン自身も口を広げ、何か声を出しているような姿をとっている。

ドクオはそれを見て、顔をしかめる。

彼が、アメリカ軍の戦闘機を全滅させた。中にいる人間は、おそらく死んだのだろう。

彼がこんなことをやる人間か? 本当に?

ドクオはブーンの顔を見つめ続けた。
ショボンも、そして意思を持たないツンもそうしていることに気付き、さらに顔をしかめた。



  
36 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:58:48.91 ID:Pq8gNNQw0
  

狐「……そうか、そういうことか」

モニターを見つめていた狐が、独り言のように呟いた。

狐「それが君の導く世界なんだね、ブーン君……」

へたり込むように椅子に座り、ふっと笑みを浮かべた狐。
その顔には諦めの色が伺えて、きっと何かを悟ったのだろうということが分かる。

狐「これで世界は終わり……いや、新たな方向に導かれる、か……」

(=゚ω゚)ノ「所長……」

狐「私が馬鹿だったのかもね。いや、もう正否すら意味がない。全ては『人の子』の意思、か……」

その呟きを最後に、狐は片手で顔を隠し、背中を丸めた。
自らの無力感に打ちひしがれているその背中。

アメリカ軍にも、『VIP』にも打つ手がない今、ブーンを止めることのできるものはいないのだろう。
彼が街を消滅させていく中、見える結末はおそらく『世界の終末』だ。

ブーンの白い光によって、全ては消滅させられてしまう。
いや、白い光に変えられる、と言った方が正しいか?

どちらにしろ、この世界に終わりがきたということに間違いは無い。



  
37 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:00:13.64 ID:Pq8gNNQw0
  

黙りこみ、顔を覆っている狐。
通信機の先で、何も言葉を発しようとしないプギャー。

ドクオは何も言えなかった。

こんな結末になると、誰が予想した?

それともブーン、お前がこの結末を描いているのか?


だが、それにしてはお前の顔は……

ξ 凵@)ξ「う……うぅ」

突然、ツンが呻き声をあげた。
ドクオとショボンは驚き、彼女を見る。

ξ 凵@)ξ「うぅ……あぁ……」

そこには、



  
38 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:00:43.37 ID:Pq8gNNQw0
  



ξ;凵G)ξ「ぶ……ブー……ン……! ブーン……! うぅ……」



必至になって彼の名前を呼び続けるツンの、一筋の涙が流れていた。



  
39 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:01:58.46 ID:Pq8gNNQw0
  

('A`)「……ツン」
(´・ω・`)「……」

ξ 凵@)ξ「うあぁ……」

再び無表情に戻り、黙りこくるツン。
だが、その頬には確かに涙の跡が残っている。

ツンの気持ち。一粒の涙が、確かに感じられた。

('A`)「そっか、分かるんだな」

ドクオはさっきから感じていた感情をそのまま口に出した。

それに答えるようにショボンも口を開く。

(´・ω・`)「ブーンが……寂しがってるって」

ドクオはショボンの顔を見た。
ショボンもこちらを見つめてきた。

自分たちだけには分かる。
彼の表情の奥底に隠れている感情が。

友達として長年付き合い、助け合い、一緒に馬鹿をやってきた中で積み上げられてきた感覚が、それを察することを可能にしていた。



  
40 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:02:42.29 ID:Pq8gNNQw0
  

ドクオはショボンと頷き合い、自分達がやるべきことを確認した。

行くか?
うん。

無言の会話で確かめ合い、放り投げていたサブマシンガンを拾い上げるドクオ。

まだ弾は入ってる。
自分の身を守るためならこれで十分だ。

まずショボンが走り出し、テントの外へと出た。
行動の早い彼ならではだ。

ドクオは感心しつつ、ツンの車椅子を押して、彼の後に続こうとする。

(=゚ω゚)ノ「ちょ、ちょっと待つょぅ! どこに行くんだょぅ!」

振り返ると、ぃょぅが心配そうな顔で腕を掴んできた。
車椅子から手を離し、ドクオはゆっくりと人差し指を一方向に向けた。

('A`)「行かなくちゃいけない……!」

(=゚ω゚)ノ「……!」

示された指の先には、ブーンの白い翼があった。



  
41 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:03:45.07 ID:Pq8gNNQw0
  

ここからあそこまでは、けっこうな距離があるのだろう。

だが、見えるぐらいなら絶対に行ける。
この世界が終わりを迎えようがなんであろうが……自分達は行かなくてはならないのだ。

それが、今やるべきこと。

(´・ω・`)「乗って!」

車の排気音と共に、どこからか持ってきた軽ワゴン車のハンドルを握っているショボンが、助手席のドアを開けて呼びかけてくる。

ドクオはぃょぅの手を振り払う。
急いで車に近付くと、ツンを車椅子から降ろして、まず彼女を後部座席に座らせた。
シートベルトをちゃんと締めて、怪我しないように注意する。

それが終わり、続いて助手席に乗ろうとした所で、ぃょうに肩を掴まれた。

(=゚ω゚)ノ「待つょぅ! あそこは今危険だょぅ! 行けばきっと……」

('A`)「けど、行かなくちゃいけないんすよ、俺たちは」

(=゚ω゚)ノ「だけど……!」

狐「どうしてだい?」



  
42 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:05:25.89 ID:Pq8gNNQw0
  

突然、狐が割り込むようにして言った。

狐「どうして、危険をおかしてまで行くんだい?」

ドクオはその顔を見て、彼の問いが真剣であり、それでいて何かの答えを求めているかのようでもあった。

('A`)「それは……」

車に乗り、ショボンと目を合わせる。

考えることは同じだ、ショボンも、そしてツンも。

ドクオとショボンは、声を揃えて言った。



('∀`)(´・ω・`)「友達だから!」

ξ 凵@)ξ「……」


車は走り出す。
ブーンの所に向かって。





  
43 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:06:13.52 ID:Pq8gNNQw0
  

突然、狐が割り込むようにして言った。

狐「どうして、危険をおかしてまで行くんだい?」

ドクオはその顔を見て、彼の問いが真剣であり、それでいて何かの答えを求めているかのようだとも思った。

('A`)「それは……」

車に乗り、ショボンと目を合わせる。

考えることは同じだ、ショボンも、そしてツンも。

ドクオとショボンは、声を揃えて言った。



('∀`)(´・ω・`)「友達だから!」

ξ 凵@)ξ「……」


車は走り出す。
ブーンの所に向かって。





  
44 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:08:08.05 ID:Pq8gNNQw0
  



車が走り去るのを見ても、もう誰も何も言おうとはしなかった。
ただ呆然と車を見つめるのみで、止めようともしない。
本来は、止めなくちゃいけない

だが、そんな場合ではないのだろう。

狐は空を見上げ、徐々に白い光が落ちてくるのを見た。

それは、まるで天使の羽のようだった。

兵士「いいんですか?」

状況を把握していないのか、兵士が横から無頓着にも尋ねてきた。
狐はひとつため息をつき、「何がだい?」と答えた。

兵士「あのまま行けばきっと彼らは……それに、命令違反につながる可能性も……」

狐「こんな時に何を言ってるんだい……それよりも見てみろ。
  こんな光景人生で1度だって見ることはできないよ」

狐はそう言いつつ、落ちてくる白い羽を見つめた。



  
45 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:09:22.23 ID:Pq8gNNQw0
  

この羽が何をもたらすのか、もうよく分かっている。
これは全てを光に変えるもの。そして、全てをあの翼と同化させてしまうもの。

世界は全て光になる。

だが、不思議と恐怖はない。
何故だろう。走馬灯も恐怖も起こらない。何かしらの安心感だけが胸の内に広がっている。

全てが終わったという、諦めの境地にでも達したのだろうか?

ふっ、と笑いつつ、狐はポケットをまさぐり、タバコを1本取り出して口にくわえた。

都合よく横からライターの火が差し出されて、ぃょぅに笑いかけた。

狐「これ、どう思う?」

狐は舞い落ちる白い羽を指差し、尋ねてみた。

(=゚ω゚)ノ「……わからないょぅ。けど」

狐「けど?」

(=゚ω゚)ノ「……怖くはないょぅ」

狐「そうか」

狐は煙を一息に吸い、大きくそれを吐いた。



  
46 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:10:25.39 ID:Pq8gNNQw0
  

もう禁煙は大失敗だ。肺癌の可能性を縮めたかったのに、おしいことをした。

だが、まだ次があるかもしれない。諦めてはならない。
生きている限りは、どんなことだってできるのだ。

たった一息吸っただけでタバコを放り捨てた狐。
先ほどからアメリカ軍のプギャー大佐から連絡が来ていないことにいまさらになって気付き、「君」と通信兵に声をかけた。

狐「アメリカ軍から連絡は?」

通信士「あ、はい……連絡はまったくありません。こちらから呼びかけても応答はなくて……」

狐「そうか……もう呼びかけなくてもいい。君は……今君のやりたいことをやればいい」

通信士「え、は、はぁ……」

戸惑いの表情を浮かべる通信士に、狐は(こんなことを言うのは、かえって酷かな?)と思った。
兵士たちは、今まで命令しか聞いてこなかった。いまさら自由になれと言われても、何ができるわけではないのだろう。

軍隊や兵士といった、上意下達の世界とはそういうものなのだ。



  
47 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:11:45.08 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、ブーンはそれを否定した。
そして、否定した上で、新しい世界へと導こうとしている。

それがどうなるのか……もうわからない。


狐はテントの中に入り、医務用のベッドへと足を運んだ。

そこには、しぃがいる。
彼女は、つーが黒い光を出すのを見て気を失い、今では姉の死を本能的に悟ったのか、涙を流し続けている。

(*;−;)「ひっく……ひっくぅ」

狐「……さあ、行こう」

しぃの手を取り、立たせてやる。

何の抵抗もせず、ゆっくりと歩き出す。



  
48 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:13:02.60 ID:Pq8gNNQw0
  

外は、もう白い光に満ち溢れていた。

周りを見渡せば、兵士やスタッフの姿が消えている。ぃょぅの姿も見当たらない。

今ここに立っているのは、自分としぃだけになっていた。

狐「みんな先に行ったのか……」

(*;―;)「……ひっくっ」

通信機に応答を呼びかけてもやはり誰も答えない。
狐は通信機を放り投げ、近くにあった椅子にしぃを座らせた。

そして、両手を肩に置き、語りかけるように言葉を紡ぐ。

狐「綺麗だね……」

(*;―;)「……ひくっ」

狐「泣かなくていい……きっとお姉さんも向こうにいるよ」

(*;―;)「ひっく……はい……」



  
50 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:14:16.53 ID:Pq8gNNQw0
  

遠くに見えるブーンの翼。
空から舞い落ちる白い羽。

自分の身体が、徐々にそれに覆われていくのに気付き、ああ、もう時間か、と狐は思った。

自分はやるべきことをやってきた。間違っていたとは思わない。

だけれども、それがこの結果なら……もしかしたらどこかが間違っていたのかもしれない。

その間違いによってもたらされる物語の結末は、世界の変革か、それとも……別の可能性か。

どちらかは……

狐「分からない……かな」

狐の言葉がそれ以上続くことはなかった。


後に残された人間はいない。

『VIP』のテント付近には羽が無尽蔵に落ちてくる。





  
51 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:16:53.65 ID:Pq8gNNQw0
  


空を覆っていた白い光は、羽となって地上に舞い降りてくる。

街に、田舎に、ビル街に、海に、森に、全ての土地にそれらの白い羽は降りてくる。

『影』とテロリストの恐怖にさらされていた人々は、それを見ては立ち止まる。
また、破壊の限りと尽くしていたテロリスト達も、同様に空を見た。

人々は、皆一様に白い羽がに当たり、
その幻想的な風景に目を奪われた瞬間、
身体が白い光へと変化する。

まるで砂になるかのように。

異変に気付き、途端に逃げようとする人々だが、しかしやはり白い羽に目を奪われ、光になる。

テロリストも、市民も、兵士も、政治家も、全て関係なく、平等に白い光に変わっていく。

一方、『影』は違った。羽に当たると、『影』は途端に消え去っていった。
世界で猛威を振るっていた『影』は、それにて全滅するに至ったのだ。

人も、『影』も、そして生物すらもいなくなった街並み。
そんな中でも白い羽は振り続ける。


全てを光に変えていくために。





  
52 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:18:22.57 ID:Pq8gNNQw0
  



車のエンジン音が全身を突き抜ける。

ジェットコースターの苦手な自分が、
今や人気のない道路を猛スピードで駆けていく車に乗っても悲鳴ひとつあげないのは、
きっと心が強くなったからなのだろう。

('A`)「なあ、ショボン。お前、運転免許なんて持ってたっけ?」

(´・ω・`)「いや? けどなんとかなるものだよ」

('A`)「危ねえなあ」

こんな時でも笑顔は出る。
こうやって馬鹿みたいな話をしていれば、いつだって笑顔は湧き出てくる。
友達って、そういうものだから。

車は道路を走り続けていた。



  
53 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:19:20.04 ID:Pq8gNNQw0
  

('A`)「人、いねえな」

窓から外を見てみても、人ひとりいない。

まるで全てが消えてしまったかのようで、空から落ちてくる白い光と合わせて考えれば、暗い予想が浮かびそうになるが、
そこは気合で抑えておく。

今考えるべきことは、「あそこ」のことだけ。
それ以外はなるべく考えない方がいい。

どういうわけか、白い光が自分たちの車を避けるようにして落ちてくることだって、ただの偶然だと思っておけばいい。

考えるのは、「あそこ」に着いてからだ。

車はどんどんとスピードを上げていく。



  
54 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:20:43.16 ID:Pq8gNNQw0
  

ドクオは後ろの席に座るツンの様子を見た。

彼女は、1度涙をこぼして以来、再び喋らなくなってしまった。
脳の損傷が激しいのだから、喋りだしたこと自体が奇跡みたいなものだ。

ξ 凵@)ξ「……」

彼女は今のブーンを見て何を思うだろう?
自分たちと同じことだろうか?

きっとそうだ。そうに違いない。
だって、それぐらいに自分達は付き合いが長いのだから。

あの日、ツンの紹介で自分とショボンはブーンと出会った。
彼をいじめていた馬鹿達を撃退し、フィギアやらエロゲーやらを与えてブーンをオタに育てたのも自分達だ。
あれから色々あった。色々ありすぎて忘れるぐらいに。

覚えていたいと思う。今こうやって走っていることを。ブーンのことを考えているということを。

それが思い出というもの。



  
55 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:21:50.98 ID:Pq8gNNQw0
  

車はずんずんと走っていき、ついには工業開発地の一歩手前までたどりつく。

だが、そこで車は止まり、ショボンが目の前の金網を見ながら呟いた。

(´・ω・`)「ここからは車では行けないね……歩きだ」

この土地は全て金網で囲われているらしく、適当な入り口も見つからないので車を降りることにした。
車椅子は置いてきてしまったので、ツンは背負って連れて行くしかない。

で、背負うのはどういうわけか自分の役目になってしまっていた。

('A`)「女を背負うってのはなんかこう……緊張するもんだな」

(´・ω・`)「後でブーンとツンに謝らないとね。君はそれだけひどいことをしたよね」

('A`)「なんでだよwww」

やっぱり笑顔が出る。どうしよう。今、けっこう楽しい。

ショボンがサブマシンガンを持って先頭を歩き、その後を自分とツンが付いていく。
まだ『影』がいるかもしれないから、というのが武器を持ってきた理由なのだが、この様子では必要なかったようだ。

『影』どころか、人すらいないのだから。



  
57 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:24:00.02 ID:Pq8gNNQw0
  

金網に穴が空いているのを見つけ、そこから工業用地に入り、淡々と歩いていく自分達。

徐々に『彼』が近くなってくるのを見て、ドクオはでかいな、と思った。

巨大な翼は、近付けば近付くほどその大きさがありありと分かる。

まるで天まで届きそうな勢いだ。

そんな翼の中心にいるのが、ブーン、その人。
彼はまだ目を瞑り、腕をだらんと下げて宙に浮かんでいる。

('A`)「け、けっこう遠いな」

(´・ω・`)「ほら、ちゃんと歩く。ツンがずり落ちそうになってるよ」

('A`)「へいへい」

地面を踏みしめ、一歩一歩確実に歩みを進める。
白い光がそこら中に降り注いでいる中も、まだ自分たちの上には降ってこない。



  
58 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:25:04.18 ID:Pq8gNNQw0
  

ようやく近くまでやってきて、その高さに驚いた。
ブーンの所に来ると決めたはいいものの、あんな高い所にいてはブーンに近付くこともできない。
さてどうしようと考えたドクオだったが、先に体力が尽きてしまい、ゆっくりと腰を下ろした。

('A`)「はぁ、はぁ……」

(´・ω・`)「ドクオってやっぱり体力ないよね。あの訓練はなんだったのか」

('A`)「うるせぇ……文句言うならお前が担げ」

(´・ω・`)「さて、思ったより高いね。どうしようかな」

('A`)「話を逸らすな」

ドクオは地面に寝転がり、息を整える。
その間、ショボンは空を見上げて思案顔で腕を組む。

一方、ツンは地面にだらんと座り、口をぽかりと開けていた。
明らかに、その目に意思は感じられなかった。



  
59 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:27:21.35 ID:Pq8gNNQw0
  

('A`)「はぁはぁ……俺、もう動けねえ」

(´・ω・`)「情けないね。零細企業のようにキリキリ働きなよ」

('A`)「今の企業はキリキリ働くほどの体力はねえよ」

無駄口を叩いていると、ふらりと誰かが立ち上がる気配を感じた。

ξ 凵@)ξ「……」

ツンだ。

今まで動けなかった彼女が、どういうわけか立ち上がり、歩き出すではないか。

('A`)「つ、ツン!」
(´・ω・`)「ちょっと待って……!」

彼女を止めるより先に、白い光が空から発せられた。

ブーンの翼のひとつから生み出された光球が、ゆっくりと地面に落ちてきたのだ。

しかも落下地点はおそらく……ツンの頭上。



  
61 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:28:17.96 ID:Pq8gNNQw0
  

('A`)「ツン!」

キラリと何かが光った。
それは、ツンが薬指につけている指輪だった。

あんな風に光るものだったか? と思っていると、ツンが立っている場所に光球は落ちてしまった。

小さなドーム状の光が広がり、徐々に収束していく。

最後、白い光がなくなった時には、もうツンの姿はなかった。

('A`)「……」

(´・ω・`)「……行った、のかな」

('A`)「たぶん、な」

ドクオは再び地面に寝転がり、身体を休めるようにして深呼吸する。

彼女が行ったのなら、もう自分達は用なしだ。

やっと休める。



  
62 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:29:29.00 ID:Pq8gNNQw0
  

深呼吸をして、目一杯息を吸い込んだ。

空気が新鮮だ。ずっと保護生活を送ってきたから、こういう空気が本当に旨い。

と、ショボンも自分の横に寝転がり、同じように深呼吸し始めた。
いったい何のまねだ? と思う暇もなく、「結局、ツン任せか」とショボンがため息混じりに言う。

(´・ω・`)「僕達にできることって、何だったのかな」

ショボンの顔には、不安が見え隠れしていた。
こんな表情をするなんて彼らしくない。自分達はやるべきことをやったのだから、それを誇りに思えばいいのに。

ドクオは静かに「さあな」と答えた。

('A`)「もしかしたらこれからやれることもあるかもしれんが……とにかく今は、やるべきことはやったさ」

(´・ω・`)「そうだね」

('A`)「寂しいか?」

(´・ω・`)「ちょっとだけ」

('A`)「ま、仕方ねえさ。ブーンのことを1番良く分かっているのはあいつだ……機会があったら、俺たちも何か手伝えばいい」



  
64 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:30:47.56 ID:Pq8gNNQw0
  

1枚の羽が自分の胸に落ちてくる。
今まで自分たちを避けてきた光の羽が、ようやく舞い降りてきた、ということか。

ならば、やはり自分たちのやるべきことは終わった。

あとは……どうなるか分からない。

('A`)「にしても、最後の最後で一緒にいるのがお前とはな。綺麗なオネーチャンならよかったのに」

(´・ω・`)「そんなの僕だって同じさ。けど、僕は君でも十分だよ。性的な意味で」

('A`)「だが断る……ってか」

笑っていると、疲れがだんだんと取れてきているような気がした。
ドクオは「ハハハ」と声を出して笑い、ショボンもまた珍しく笑い声をあげていた。

こんなときにも笑ってしまうなんて、不謹慎だろうか?
そんなことはない。もう満足だ。



  
65 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:32:50.40 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、唐突にショボンの笑い声が途切れた。

ドクオは顔だけを横に向け、ショボンがいるはずの場所を見てみる。

そこには、誰もいない。

('A`)「ち……早えんだよ、くそみそ野郎」

そう毒づき、手足の感覚がなくなっていくのを感じながら、
ドクオは最後の一瞬まで白い空を見つめ続けていた。

あの白さは、もしかしたらブーンの心そのものなのかもしれないな。

そう思いつつ、目を閉じた。

綺麗な空は、ずっとまぶたの裏側に焼きついていた。




第29話 「心を開く」 完



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