( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
45 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:09:22.23 ID:Pq8gNNQw0
  

この羽が何をもたらすのか、もうよく分かっている。
これは全てを光に変えるもの。そして、全てをあの翼と同化させてしまうもの。

世界は全て光になる。

だが、不思議と恐怖はない。
何故だろう。走馬灯も恐怖も起こらない。何かしらの安心感だけが胸の内に広がっている。

全てが終わったという、諦めの境地にでも達したのだろうか?

ふっ、と笑いつつ、狐はポケットをまさぐり、タバコを1本取り出して口にくわえた。

都合よく横からライターの火が差し出されて、ぃょぅに笑いかけた。

狐「これ、どう思う?」

狐は舞い落ちる白い羽を指差し、尋ねてみた。

(=゚ω゚)ノ「……わからないょぅ。けど」

狐「けど?」

(=゚ω゚)ノ「……怖くはないょぅ」

狐「そうか」

狐は煙を一息に吸い、大きくそれを吐いた。



  
46 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:10:25.39 ID:Pq8gNNQw0
  

もう禁煙は大失敗だ。肺癌の可能性を縮めたかったのに、おしいことをした。

だが、まだ次があるかもしれない。諦めてはならない。
生きている限りは、どんなことだってできるのだ。

たった一息吸っただけでタバコを放り捨てた狐。
先ほどからアメリカ軍のプギャー大佐から連絡が来ていないことにいまさらになって気付き、「君」と通信兵に声をかけた。

狐「アメリカ軍から連絡は?」

通信士「あ、はい……連絡はまったくありません。こちらから呼びかけても応答はなくて……」

狐「そうか……もう呼びかけなくてもいい。君は……今君のやりたいことをやればいい」

通信士「え、は、はぁ……」

戸惑いの表情を浮かべる通信士に、狐は(こんなことを言うのは、かえって酷かな?)と思った。
兵士たちは、今まで命令しか聞いてこなかった。いまさら自由になれと言われても、何ができるわけではないのだろう。

軍隊や兵士といった、上意下達の世界とはそういうものなのだ。



  
47 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:11:45.08 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、ブーンはそれを否定した。
そして、否定した上で、新しい世界へと導こうとしている。

それがどうなるのか……もうわからない。


狐はテントの中に入り、医務用のベッドへと足を運んだ。

そこには、しぃがいる。
彼女は、つーが黒い光を出すのを見て気を失い、今では姉の死を本能的に悟ったのか、涙を流し続けている。

(*;−;)「ひっく……ひっくぅ」

狐「……さあ、行こう」

しぃの手を取り、立たせてやる。

何の抵抗もせず、ゆっくりと歩き出す。



  
48 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:13:02.60 ID:Pq8gNNQw0
  

外は、もう白い光に満ち溢れていた。

周りを見渡せば、兵士やスタッフの姿が消えている。ぃょぅの姿も見当たらない。

今ここに立っているのは、自分としぃだけになっていた。

狐「みんな先に行ったのか……」

(*;―;)「……ひっくっ」

通信機に応答を呼びかけてもやはり誰も答えない。
狐は通信機を放り投げ、近くにあった椅子にしぃを座らせた。

そして、両手を肩に置き、語りかけるように言葉を紡ぐ。

狐「綺麗だね……」

(*;―;)「……ひくっ」

狐「泣かなくていい……きっとお姉さんも向こうにいるよ」

(*;―;)「ひっく……はい……」



  
50 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:14:16.53 ID:Pq8gNNQw0
  

遠くに見えるブーンの翼。
空から舞い落ちる白い羽。

自分の身体が、徐々にそれに覆われていくのに気付き、ああ、もう時間か、と狐は思った。

自分はやるべきことをやってきた。間違っていたとは思わない。

だけれども、それがこの結果なら……もしかしたらどこかが間違っていたのかもしれない。

その間違いによってもたらされる物語の結末は、世界の変革か、それとも……別の可能性か。

どちらかは……

狐「分からない……かな」

狐の言葉がそれ以上続くことはなかった。


後に残された人間はいない。

『VIP』のテント付近には羽が無尽蔵に落ちてくる。





  
51 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:16:53.65 ID:Pq8gNNQw0
  


空を覆っていた白い光は、羽となって地上に舞い降りてくる。

街に、田舎に、ビル街に、海に、森に、全ての土地にそれらの白い羽は降りてくる。

『影』とテロリストの恐怖にさらされていた人々は、それを見ては立ち止まる。
また、破壊の限りと尽くしていたテロリスト達も、同様に空を見た。

人々は、皆一様に白い羽がに当たり、
その幻想的な風景に目を奪われた瞬間、
身体が白い光へと変化する。

まるで砂になるかのように。

異変に気付き、途端に逃げようとする人々だが、しかしやはり白い羽に目を奪われ、光になる。

テロリストも、市民も、兵士も、政治家も、全て関係なく、平等に白い光に変わっていく。

一方、『影』は違った。羽に当たると、『影』は途端に消え去っていった。
世界で猛威を振るっていた『影』は、それにて全滅するに至ったのだ。

人も、『影』も、そして生物すらもいなくなった街並み。
そんな中でも白い羽は振り続ける。


全てを光に変えていくために。





  
52 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:18:22.57 ID:Pq8gNNQw0
  



車のエンジン音が全身を突き抜ける。

ジェットコースターの苦手な自分が、
今や人気のない道路を猛スピードで駆けていく車に乗っても悲鳴ひとつあげないのは、
きっと心が強くなったからなのだろう。

('A`)「なあ、ショボン。お前、運転免許なんて持ってたっけ?」

(´・ω・`)「いや? けどなんとかなるものだよ」

('A`)「危ねえなあ」

こんな時でも笑顔は出る。
こうやって馬鹿みたいな話をしていれば、いつだって笑顔は湧き出てくる。
友達って、そういうものだから。

車は道路を走り続けていた。



  
53 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:19:20.04 ID:Pq8gNNQw0
  

('A`)「人、いねえな」

窓から外を見てみても、人ひとりいない。

まるで全てが消えてしまったかのようで、空から落ちてくる白い光と合わせて考えれば、暗い予想が浮かびそうになるが、
そこは気合で抑えておく。

今考えるべきことは、「あそこ」のことだけ。
それ以外はなるべく考えない方がいい。

どういうわけか、白い光が自分たちの車を避けるようにして落ちてくることだって、ただの偶然だと思っておけばいい。

考えるのは、「あそこ」に着いてからだ。

車はどんどんとスピードを上げていく。



  
54 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:20:43.16 ID:Pq8gNNQw0
  

ドクオは後ろの席に座るツンの様子を見た。

彼女は、1度涙をこぼして以来、再び喋らなくなってしまった。
脳の損傷が激しいのだから、喋りだしたこと自体が奇跡みたいなものだ。

ξ 凵@)ξ「……」

彼女は今のブーンを見て何を思うだろう?
自分たちと同じことだろうか?

きっとそうだ。そうに違いない。
だって、それぐらいに自分達は付き合いが長いのだから。

あの日、ツンの紹介で自分とショボンはブーンと出会った。
彼をいじめていた馬鹿達を撃退し、フィギアやらエロゲーやらを与えてブーンをオタに育てたのも自分達だ。
あれから色々あった。色々ありすぎて忘れるぐらいに。

覚えていたいと思う。今こうやって走っていることを。ブーンのことを考えているということを。

それが思い出というもの。



  
55 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:21:50.98 ID:Pq8gNNQw0
  

車はずんずんと走っていき、ついには工業開発地の一歩手前までたどりつく。

だが、そこで車は止まり、ショボンが目の前の金網を見ながら呟いた。

(´・ω・`)「ここからは車では行けないね……歩きだ」

この土地は全て金網で囲われているらしく、適当な入り口も見つからないので車を降りることにした。
車椅子は置いてきてしまったので、ツンは背負って連れて行くしかない。

で、背負うのはどういうわけか自分の役目になってしまっていた。

('A`)「女を背負うってのはなんかこう……緊張するもんだな」

(´・ω・`)「後でブーンとツンに謝らないとね。君はそれだけひどいことをしたよね」

('A`)「なんでだよwww」

やっぱり笑顔が出る。どうしよう。今、けっこう楽しい。

ショボンがサブマシンガンを持って先頭を歩き、その後を自分とツンが付いていく。
まだ『影』がいるかもしれないから、というのが武器を持ってきた理由なのだが、この様子では必要なかったようだ。

『影』どころか、人すらいないのだから。



  
57 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:24:00.02 ID:Pq8gNNQw0
  

金網に穴が空いているのを見つけ、そこから工業用地に入り、淡々と歩いていく自分達。

徐々に『彼』が近くなってくるのを見て、ドクオはでかいな、と思った。

巨大な翼は、近付けば近付くほどその大きさがありありと分かる。

まるで天まで届きそうな勢いだ。

そんな翼の中心にいるのが、ブーン、その人。
彼はまだ目を瞑り、腕をだらんと下げて宙に浮かんでいる。

('A`)「け、けっこう遠いな」

(´・ω・`)「ほら、ちゃんと歩く。ツンがずり落ちそうになってるよ」

('A`)「へいへい」

地面を踏みしめ、一歩一歩確実に歩みを進める。
白い光がそこら中に降り注いでいる中も、まだ自分たちの上には降ってこない。



  
58 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:25:04.18 ID:Pq8gNNQw0
  

ようやく近くまでやってきて、その高さに驚いた。
ブーンの所に来ると決めたはいいものの、あんな高い所にいてはブーンに近付くこともできない。
さてどうしようと考えたドクオだったが、先に体力が尽きてしまい、ゆっくりと腰を下ろした。

('A`)「はぁ、はぁ……」

(´・ω・`)「ドクオってやっぱり体力ないよね。あの訓練はなんだったのか」

('A`)「うるせぇ……文句言うならお前が担げ」

(´・ω・`)「さて、思ったより高いね。どうしようかな」

('A`)「話を逸らすな」

ドクオは地面に寝転がり、息を整える。
その間、ショボンは空を見上げて思案顔で腕を組む。

一方、ツンは地面にだらんと座り、口をぽかりと開けていた。
明らかに、その目に意思は感じられなかった。



  
59 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:27:21.35 ID:Pq8gNNQw0
  

('A`)「はぁはぁ……俺、もう動けねえ」

(´・ω・`)「情けないね。零細企業のようにキリキリ働きなよ」

('A`)「今の企業はキリキリ働くほどの体力はねえよ」

無駄口を叩いていると、ふらりと誰かが立ち上がる気配を感じた。

ξ 凵@)ξ「……」

ツンだ。

今まで動けなかった彼女が、どういうわけか立ち上がり、歩き出すではないか。

('A`)「つ、ツン!」
(´・ω・`)「ちょっと待って……!」

彼女を止めるより先に、白い光が空から発せられた。

ブーンの翼のひとつから生み出された光球が、ゆっくりと地面に落ちてきたのだ。

しかも落下地点はおそらく……ツンの頭上。



  
61 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:28:17.96 ID:Pq8gNNQw0
  

('A`)「ツン!」

キラリと何かが光った。
それは、ツンが薬指につけている指輪だった。

あんな風に光るものだったか? と思っていると、ツンが立っている場所に光球は落ちてしまった。

小さなドーム状の光が広がり、徐々に収束していく。

最後、白い光がなくなった時には、もうツンの姿はなかった。

('A`)「……」

(´・ω・`)「……行った、のかな」

('A`)「たぶん、な」

ドクオは再び地面に寝転がり、身体を休めるようにして深呼吸する。

彼女が行ったのなら、もう自分達は用なしだ。

やっと休める。



  
62 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:29:29.00 ID:Pq8gNNQw0
  

深呼吸をして、目一杯息を吸い込んだ。

空気が新鮮だ。ずっと保護生活を送ってきたから、こういう空気が本当に旨い。

と、ショボンも自分の横に寝転がり、同じように深呼吸し始めた。
いったい何のまねだ? と思う暇もなく、「結局、ツン任せか」とショボンがため息混じりに言う。

(´・ω・`)「僕達にできることって、何だったのかな」

ショボンの顔には、不安が見え隠れしていた。
こんな表情をするなんて彼らしくない。自分達はやるべきことをやったのだから、それを誇りに思えばいいのに。

ドクオは静かに「さあな」と答えた。

('A`)「もしかしたらこれからやれることもあるかもしれんが……とにかく今は、やるべきことはやったさ」

(´・ω・`)「そうだね」

('A`)「寂しいか?」

(´・ω・`)「ちょっとだけ」

('A`)「ま、仕方ねえさ。ブーンのことを1番良く分かっているのはあいつだ……機会があったら、俺たちも何か手伝えばいい」



  
64 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:30:47.56 ID:Pq8gNNQw0
  

1枚の羽が自分の胸に落ちてくる。
今まで自分たちを避けてきた光の羽が、ようやく舞い降りてきた、ということか。

ならば、やはり自分たちのやるべきことは終わった。

あとは……どうなるか分からない。

('A`)「にしても、最後の最後で一緒にいるのがお前とはな。綺麗なオネーチャンならよかったのに」

(´・ω・`)「そんなの僕だって同じさ。けど、僕は君でも十分だよ。性的な意味で」

('A`)「だが断る……ってか」

笑っていると、疲れがだんだんと取れてきているような気がした。
ドクオは「ハハハ」と声を出して笑い、ショボンもまた珍しく笑い声をあげていた。

こんなときにも笑ってしまうなんて、不謹慎だろうか?
そんなことはない。もう満足だ。



  
65 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:32:50.40 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、唐突にショボンの笑い声が途切れた。

ドクオは顔だけを横に向け、ショボンがいるはずの場所を見てみる。

そこには、誰もいない。

('A`)「ち……早えんだよ、くそみそ野郎」

そう毒づき、手足の感覚がなくなっていくのを感じながら、
ドクオは最後の一瞬まで白い空を見つめ続けていた。

あの白さは、もしかしたらブーンの心そのものなのかもしれないな。

そう思いつつ、目を閉じた。

綺麗な空は、ずっとまぶたの裏側に焼きついていた。




第29話 「心を開く」 完



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