( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
20: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:37:25.23 ID:zD7q22Rl0
  

ギコは再び姿を隠す。

クーはふぅ、とひとつ息をつき、刀に目を移すと、腰につけていた白い箱が視界に入った。

川 ゚ -゚) (これだ)

その白い箱は、ここに来るまえにしぃに渡された最後の『疑似障壁』発生装置。
これを使えばなんとかなる。

クーは痛む頭で精神を集中させ、ギコの気配を全力で探る。

右でもなく、左でもない。真正面。ショベルカーの……後ろ!

川 ゚ -゚) 「そこだ!」

走り出すと同時に『疑似障壁』の装置のボタンを押す。
薄い透明な光の壁が身体の周りを覆うようにして現われた。

( ,,゚Д゚) 「ちっ!」

案の定姿を現したギコが、すばやく2本の黒い矢を放つ。

ギコの矢は『疑似障壁』を貫くぐらいに強力だ。
だが、壁を貫く際に、矢の勢いがほんの少しだが失われる。
そのラグが、こちらにとっては重要だった。



  
21: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:39:44.53 ID:zD7q22Rl0
  

川 ゚ -゚) 「はぁっ!」

剣道の試合でもそうだが、集中している人間同士の戦いは、たったコンマ1秒の差で決まることがある。
時間の流れが遅く感じるのか、はたまた反応がすばやくなっているのか、敵のひとつの無駄な動きがこちらの勝利につながることがあるのだ。

そんな修羅場を潜り抜けた身としては、勢いが失われた黒い矢を叩き落すことは容易だった。
クーは幾分余裕の表情で黒い矢を叩き落し、ギコに間合いをつめていく。

攻撃にひるむことなく猛スピードで近づいているためか、ギコが逃げる暇はない。

川 ゚ -゚) 「終わりだ!」

自分の刀の間合いに入った瞬間、クーは強烈な打ち込みをギコに放った。
この間合い、このタイミングで放たれた一閃を避ける術はない。

勝った。



  
22: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:41:45.92 ID:zD7q22Rl0
  

( ,,゚Д゚) 「ちぃ!」

が、刀は止められてしまった。
黒い弓が刀を受け止めていた。

なぜ?

クーは驚愕の表情でその弓を見やった。
弓を覆っている黒いもやのようなものは、『影』の身体と同じものではないのか?

もしそうなら、『気』を覆ったこの刀で切れるはずなのに。

どれだけ力を入れてもそれ以上切れることのない黒い弓。
鍔迫り合いのような形になり、2人の動きは静止した。

川 ゚ -゚) 「くっ……」

( ,,゚Д゚) 「おしかった、な!!」

力任せに刀を押し上げられ、その隙に距離を離すギコ。

クーは体勢を立て直し、痺れる両手に力を込める。
そろそろ集中力の底が見えてきた。

限界、か?



  
23: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:44:20.58 ID:zD7q22Rl0
  

( ,,゚Д゚) 「……なあ」

今度は身を隠すこともなく、ギコは弓矢を下に向け、棒立ちになっていた。
こちらが手の痺れを取り、集中力を保持する暇を与えていることに、彼が気付いていないはずはない。

川 ゚ -゚) 「……なんだ」

クーは不信感を覚えつつも、しっかりと肺に空気を送り込み、精神統一を行う。

『疑似障壁』の光はまだ失われていなかった。

( ,,゚Д゚) 「お前がやっていることは、本当に正しいことだと思うのか?」

川 ゚ -゚) 「……それはこちらが問いたい。なぜこんなことをやる。本当に正しいと思っているのか?」

( ,,゚Д゚) 「これが必要だと、俺が心の底から思ったからだ。正しい、間違っているは関係ねえ」

川 ゚ -゚) 「恐怖が世界を安定させるなど、それはすでに人の社会ではない」



  
25: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:46:40.36 ID:zD7q22Rl0
  

( ,,゚Д゚) 「だが、必要なことだ。このままだと確実に人は滅びる。己の力によって、な。
      自分の体を支えることもできない共同体は自然淘汰されるだけだぜ」

川 ゚ -゚) 「それを防ぐために私達がいるはずだ」

( ,,゚Д゚) 「お前たちみたいな生ぬるいやり方しかできない奴じゃあ、無理だ。
      守りたいものを守るだけのお前たちじゃな。
      時には犠牲を伴った方法に手を染めなければならない時もある。
      そうしなければ、滅びてしまうもんなんだよ、人ってのはな」

クーは刀を握り締めた。

冷たい怒りが頭の中に渦巻いていた。

川 ゚ -゚) 「そうやって人のことを見下して、勝手に絶望して……いったい何が見えるというんだ!」

( ,,゚Д゚) 「見下すべき人間しかいないことが問題だろう!」

川 ゚ -゚) 「違う! 変える方法などいくらでもあるはずだ! お前達のやっていることはエゴでしかない!」

( ,,゚Д゚) 「ジョルジュが言ったはずだ。この世界は今までの人々の死に報いなければいけねえんだ!」

川 ゚ -゚) 「だからと言って……!」

( ,,゚Д゚) 「お前もそう思ってるんじゃねえのか? 心の底ではな、ゴラァ!」

川 ゚ -゚) 「私は……!」



  
26: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:50:02.44 ID:zD7q22Rl0
  

この世界が滅びる? 確かにその兆候はあちこちに見受けられる。

互いを信じることを忘れた人達。
自己主張のみが先に立ち、『調和』という精神をなくし、力だけを追い求めていくこの世界。

だが、そうやって終末思想ばかりを浮かべてどうする?

論理的には滅びるべき存在になりつつある人間。
だが、論理がどうした? それだけで全てを語れるものではないはずだ。

合理ではない。感情でこの世界を見つめることこそ、本当に必要なことではないのか?

そうだ。過去の自分のように、全てを合理で決めるなんてこと、やってはいけない。

人は感情をもつ生き物だ。それから逃れられることなどできるはずもない。

ならば、感情を受け入れ、それを踏まえて選んだ道を合理という方法で進めばいい。

感情的であろうともこの世界を信じ、その中で合理的な解決法を見つければいい。



  
27: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:50:51.40 ID:zD7q22Rl0
  

ジョルジュ達が行おうとしているのは革新的な方法だと言えるのだろう。
だが、大切なことがひとつ抜けているのだ。

『人が死ぬ』という人間的な、感情的なマイナスの要素。それを無視している。

感情がそれを否定している……だから、それを踏まえ、考えた上で自分もそれを否定する。
人が死ぬことのない方法。それを見つけ出すことが、本当に必要なことなのだ。

そうだろう? クー?

それが、今まで罪を償っていった上で見つけた、本当の自分の気持ち。
自分の選んだ方向。進むべき道。



  
28: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:52:27.72 ID:zD7q22Rl0
  

川 ゚ -゚) 「私は……この世界を信じる!」

息を吐き、『気』に覆われた刀に目を移したクーは、そこに淡く透明な光が重なるのを見た。

これはブーンの光。
『気』とも『影』とも反発しあう、特異な性質を持つ光。

いける。

そう思ったクーは、刀をおもむろに鞘に納めた。
そして、柄を右手で握り、鞘を腰にかけて重心を低くする。

居合いの構え、だった。

( ,,゚Д゚) 「……なら、やってみせろ!」

ギコが弓矢を構えた。

だが、クーはそれには気も止めず、自分の刀に全ての精神を集中させた。

『気』が急激に鞘の中に集まり、それに合わせるようにして『疑似障壁』の光も――ブーンの白い光も集まる。

刀に一魂が込められる。



  
29: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:54:16.82 ID:zD7q22Rl0
  

( ,,゚Д゚) 「終わりだ!」

ギコが黒い矢を放つ。
居合いでは届かない場所からの攻撃。
いくら手を伸ばしても、自分の刃は届かない。

だが、クーに迷いはなかった。

川 ゚ -゚) 「はあああ!」

一気に刀を引き抜くクー。

刀に宿っていた自分の『気』とブーンの光は、混在し、互いを支え合い、新たな存在として確立されていく。

今まで刀を離れて存在することのなかった自分の『気』は、ブーンの光に助けられることでそれを可能にする。

( ,,゚Д゚) 「なっ!?」

白い、光の剣閃がギコへと飛んでいく。

横一文字が、彼の身体を切り裂いた。



  
30: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:56:16.38 ID:zD7q22Rl0
  

( ,,゚Д゚) 「が……はっ」

弓は真っ二つになり、彼の身体からの赤い血が吹き出る。

黒い身体は、白い剣閃によって切り裂さかれた。

ギコは、そんな傷を受けながらも、その場に踏みとどまり、顔をゆっくりと上げた。

にやりと笑う彼の顔は、この世界に絶望した男のものではなかった。
まだ希望に溢れたような、自分の行いに満足したものが浮かべるような、皮肉めいた笑顔を浮かべていた。

( ,,゚Д゚) 「……みんな……全ての人間が、」

ギコの身体がゆっくりと堕ちていく。

だが、彼は笑顔を絶やさない。

( ,,゚Д゚) 「お前みたいに……強く、優しく生きられたら、な……」

そのまま地面に倒れたギコの身体は、途端に黒いもやの身体が消えていき、彼本来の身体を取り戻す。
しかし、それが動くことは2度となかった。



  
31: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:58:22.46 ID:zD7q22Rl0
  

終わった。戦いが。

クーはギコの顔が笑っていることに気がついていた。

彼は何を見てきて、何を考えてきたのか?
わからない。けれども、彼は最後の最後で満足のいく答えを見つけられたのだろうか?

彼の笑顔は何を示しているのだろうか?

川 ゚ -゚) (……行かなくては)

ギコから目を離し、前に目を向けたクー。

これでようやくジョルジュの所へ行ける。

かつての自分の同僚であり、仲間であり、理解者でもあったジョルジュ。
しかし自分の罪のせいでこのような凶行に及んでしまった人物。

行かなくてはならない。彼の所へ。
止めなくてはならない。彼を。



  
32: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/14(日) 00:01:05.52 ID:8z4BGFeD0
  

なのに、

















この、身体に突き刺さっている黒い矢はなんだ?



  
33: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/14(日) 00:01:34.01 ID:8z4BGFeD0
  

川 ゚ -゚) 「……ごほっ!」

激しい咳と共に口から出てきたのはまぎれもなく赤い血だった。
クーはそれを見て目を驚愕の色に染める。

なんだこれは。
今から戦うべき人間が、どうして血を吐いている?

どうして、前に進めない?

そして、腕を上げられないこと、呼吸もままらないことに今になって気付いた。
身体のあちこちを貫いている黒い矢は、力を奪い、前へと進む意思を失わせていく。

だが、クーはその痛みに耐えながらも足を前にさしだした。

一歩、また一歩と、ゆっくりと歩みを進めていく。

川 ゚ -゚) (私が……私がやらなくては)

どれだけ力を失おうとも、クーは刀を手放すことはしなかった。
今から戦いに向かう人間が、武器も持たずに何ができるというのか?
その思いから、絶対に刀を放すことはしなかった。



  
34: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/14(日) 00:02:42.93 ID:8z4BGFeD0
  

自分は行かなくてはならない。
行って、ジョルジュを止めなくてはならない。

なのに、どうして、どうして足が前に進まない?

川 ゚ -゚) 「くっ……」

ついに歩く力すら失った足が崩れ落ち、クーは受け身も取ることもないまま地面に倒れこんだ。

黒い矢がつっかえになって倒れにくい所が笑えてしまう。

川 ゚ -゚) (何をやっているんだ私は……)

今からでも立ち上がり、自らの罪を償わなくてはならない。

かつて自らの迷いによって犯してしまった罪。
それを償うために今まで何でもやってきた。考え続けた。戦いもした。

そうしてようやく見つけ出した自らの道なのだ。

今までやってきたことを無駄にしないためにも、
自分の心を裏切らないためにも、

早く行かなくてはならないのだ。

ジョルジュを、止めに。



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/14(日) 00:04:14.22 ID:8z4BGFeD0
  

川 ゚ -゚) 「くっ……」

だが、無常にも身体はすでに言うことをきかない。
刀を握る力すら失ったこの身体は、このまま朽ち果てるのを待つのみ。

情けない。

どうして進めないんだ?
どうして戦えないんだ?

川 ゚ -゚) 「私は……」

徐々に薄れゆく意識。

クーは自分の目に写るものを受け入れていた。

硬い地面ではない。
ここはかつて自分がいた居場所。『天国』の建物があった所。



  
37: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/14(日) 00:06:19.40 ID:8z4BGFeD0
  

見えるのは仲間。
ジョルジュの憎らしい笑顔。
照美の愛らしい笑み。
しぃの戸惑いの表情。
つーの元気いっぱいの顔。

『VIP』のビル。
狐の大人びた顔。
ぃょぅのおちゃらけた顔。
今は敵となったモナーの困り顔。

ドクオの、ショボンの、ツンの笑み。

そして……

「クー……さん」

はっきりと見えたその顔は、まぎれもなく『彼』のものだった。

いつも微笑みを忘れず、人に安心感を与えるその表情。
たった一ヶ月程度の付き合いだったけれども、彼のことはもう深くまで分かっているし、あちらも自分のことを理解してくれている。

自分の過去と、今の思い、それら全てを分かってくれている。



  
38: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/14(日) 00:07:41.35 ID:8z4BGFeD0
  

ふっ、とクーは笑うことのできない顔で笑った。

かすかに残る意識の中にあった、絶望と悲しみが振り払われた。

川 ゚ -゚) (私は……報われた)

もうクーに悔しさや悲しみはなかった。
ただ、満足した気持ちだけが心の中にあった。

自分の思いは無駄ではなかった、と。
ここに引き継いでくれる人がいるのだから、と。

きっとギコもこんな思いを抱いていたのだろう。

川 ゚ -゚) (よかった……)

最後に見えた白い光は、自分を癒してくれた。何も不安はなかった。
深い闇の中にいても、その光はずっと自分を照らしてくれるはずだから。


クーは静かに目を閉じた。


第26話 「心の戰い 後編」 完



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